二次創作小説(紙ほか)
- 54話/烏ヶ森編 21話 「けじめ」 ( No.202 )
- 日時: 2015/07/19 00:15
- 名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: 0qnzCmXU)
「——ここが、氷麗さんに教えてもらった座標だね」
暗雲が空を覆う、荒野のど真ん中。
塔のような高い城が、天を突くようにして、ただ一つ、そこにそびえ立っていた。
それは、まるでこの場所が聖域であるとでも言わんばかりの存在感だ。
だが聖域だろうとなんであろうと関係ない。この城が、チャリオット、そしてユースティティアの根城。
ここに、恋を傷つけた、あの二人がいるのだ。
「……でも、案の定というかなんというか、やっぱりいるわよね、クリーチャー」
「あぁ」
塔の周りは、護衛だろうクリーチャーが配置されている。ご丁寧に、空にもジャスティス・ウイングと思われるクリーチャーが徘徊していた。
「入口は多いですけど、中にはいるには、あの護衛の守備範囲のどこかに穴を空けないとですねー」
「これだけデカい建物なら、中にも巡回してるクリーチャーはいるだろうし、できるだけ人数を減らさず中に入りたいな」
最終目標は、チャリオットとユースティティアのいる場所への到達。そこまでに、二人は残しておかなければならない。
そもそもあの二人と接触するのは誰にするのかという話でもあるのだが、
「それは俺にやらせてほしい。さっきは負けたけど、次は同じ徹は踏まないよ」
「私も! このまま負けっぱなしなんて嫌だし、恋を撃ったのはあいつなんだ……絶対にとっちてめてやるんだから」
と、本人たちの強い意志により、すぐさま決まった。遊戯部としても、恋を圧倒した暁が実力的にも適任と判断し、烏ヶ森も部長の一存ということでやや強引に押し切った。
「……恐らく、外観に配置されている護衛より、中の方が護衛としての強さは上よね」
「外部よりも内部の方が重要度は高いはず。それなら、そう考えるのが自然だな」
「だったら、こうしましょう」
門番相手に何人も寄ってたかって叩く必要はないため、この場は遊戯部と烏ヶ森の部員からそれぞれ一名ずつ選んで、残りを先に行かせるということにする。
「剣崎先輩たちをあの二人のところまでつれていくために、要所要所で集団内の人数を削っていくってわけね」
「遊戯部からは私が出るわ。この場を一年生に任せるのは、ちょっと酷だろうし」
「もしもの時には退路の確保も必要になりますし、最初の関門だからって、適当な人選はできませんねー、実力のある人じゃないと」
「なら、烏ヶ森(うち)からはあたしが行こう」
そう言って、名乗りを上げたのはミシェルだった。
「ミシェル……大丈夫なの?」
「その言葉はそっくりそのままお前に投げ返してやりたいが、まあ大丈夫だ。お前は自分の心配をしてろ」
ミシェルは門番へと突っ込む準備をしつつ、一騎に忠告するように言う。
「お前が最年長だ。他校の連中もいるが、下級生どもをしっかり見てろよ」
「う、うん……」
と一騎は曖昧に返すが、それをミシェルに窘められてしまう。
「おい、他の奴らに示しがつかないだろ。しゃっきりしろ、部長」
「さっきは副部長命令とか言ってたのは誰だよ……」
と、愚痴っぽく言いうが、なにはともあれ、これでほぼ準備完了。
もう全員、突入可能だ。
「まず、私と四天寺さんで一番近くの護衛を神話空間に引きずり込むから、その隙にささっと城の中に入っちゃって。そういうわけだから、よろしくお願いしますね、四天寺さん」
「あぁ、こっちこそな」
自分たちの守備範囲以外は眼中にないのか、護衛のクリーチャーたちはこちらの存在には微塵も気づいた様子はない。
攻め込むなら、今しかないようだ。
「それじゃあ……出撃!」
その言葉を皮切りに、一同は走り出した。
「…………」
恋はベッドから降りると、寝衣を脱ぐ。
着替え終わると、デッキケースを掴み取り、腰につり下げた。
「……キュプリス」
「……大丈夫なのかい? まだ動かない方がいいんじゃ……」
「大丈夫、問題ない……それに、もう痛みもない……」
ふと焦げた後ろ髪に触れると、恋は部屋の扉を開く。
その時だった。
「——どこに行くつもりですか?」
「……っ」
開いた、そのすぐそこには氷麗が立っていた。
「つらら……」
「少し目を離したらこれですか……一騎さんや、かつての仲間が気になるのは分かりますが、あなたは怪我人です。動けるようになっただけで、激しい活動——神話空間内での対戦も控えた方がいいような状態なんですよ。寝ててください」
ここから先は通さない、とでも言わんばかりに立ちふさがり、恋を部屋に押し返そうとする氷麗。
しかし、恋は、
「……いや」
「いやって……あの二人のことは、皆さんが対応しているんです。あなたは療養に専念してください」
「いや……」
あくまで恋は先へ進もうとする。氷麗の制止も説得も、まるで聞く耳を持たない。
「……私が、行かないと……」
「あなたが行ってどうなると言うんですか? むしろ、怪我をしている分、あなたが足手まといになるかもしれませんよ」
「それでも、行かないと……」
これは彼らに任せてもよいことではない。
自分が行かなければならないことだ。
その一心で、恋は氷麗に食らいつく。
「……これは、私の問題……私が、解決すべきこと……」
それに、と恋は続ける。
それはどこか願望のような言葉だった。
自分が成すべきこと、それ以上に、自分が成し遂げたいこと。
彼女は思うままに、その言葉を、自分の望みを、すべて吐き出す。
「……私は、けじめをつけたい……ユースティティアたちと、決着をつけて……」
それは、過去の自分の清算。
ラヴァーであった頃の自分と決別し、日向恋として生きる決意。
それは誰でもない、他でもない、恋自身が成すべきこと。
それを否定することが、誰にできようか。
そして、
「……仕方ありませんね」
遂に、氷麗が折れた。
「そこまで言われてしまえば、もう私では止められません。それに……」
仮にも自分の所属するあの部活の部長の姿を思い浮かべる。
彼なら、このまっすぐに前を見つめた少女を、果たして止めるだろうか。
それを思うと、氷麗は引き下がらざるを得なかった。
「それでは、私がリュンさんの座標を目印に転送します。でも気をつけてください。分かっているとは思いますが、あそこには護衛のクリーチャーがいます」
「……ううん、それより、もっといいルートがある……私は、ユースティティアたちの城を知ってる……その、抜け道も……」
それを使えば、恋一人ならば、邪魔な護衛を無視して奥部まで行くことができる。
「つららに、そのルートを教える……だから、私を転送して……」
一抹の不安を感じるも、氷麗はもう彼女は止めない。
彼女に言われるままに、彼女に言われた手順を踏み、氷麗は、恋を転送した。