二次創作小説(紙ほか)

55話/烏ヶ森編 22話 「正義」 ( No.208 )
日時: 2015/07/22 21:05
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: 0qnzCmXU)

 暁とチャリオットのデュエル。
 現在、暁の場には《コッコ・ルピア》が一体。一方、チャリオットの場には《正々堂々 ホルモン》、そして彼のデッキのキーとなるクリーチャー、《進軍する巨砲 クロムウェル》。
 もう既に、彼のコンボの準備は整ってしまっている。
「呪文《ネクスト・チャージャー》! 手札を入れ替えて、ターン終了!」
「ふん、それだけか。ならばこの時点で、貴様に勝ちの目はなくなったも同然だ。私のターン」
 もしもこのターンで《ヒラメキ・プログラム》が発動してしまえば、また《桜舞う師匠》とのコンボで大型ガードマンを出され、押し切られてしまう。
 暁としても、ここが分水嶺だろう。
 そんな暁をよそに、チャリオットは手札を切る。
「呪文《フェアリー・シャワー》。山札から二枚を見る」
 チャリオットは《フェアリー・シャワー》を唱え、山札の上から二枚を、自らの目の前へと動かし、見る。
 そして、ふっ、と口元を緩ませた。
「来たぞ……《ルーパス》をマナへ置き、もう一枚を手札へ。そして、手札に加えた《ヒラメキ・プログラム》を発動!」
「!」
 一気に緊張が走る。
 《フェアリー・シャワー》で最後のキーカードを引き当てられてしまい、チャリオットのコンボが完成してしまった。
「破壊するのは当然《クロムウェル》だ。そして山札から現れるのも当然、《桜舞う師匠》だ! 《クロムウェル》はシールド・ゴーでシールドへ! そして能力発動!」
 《クロムウェル》が表向きでシールドにあるとき、自軍はすべてスピードアタッカーになる。
 つまり、《ヒラメキ・プログラム》で現れた《桜舞う師匠》は、すぐさま攻撃できるようになったのだ。
「《桜舞う師匠》で攻撃! その時、能力でマナゾーンからガードマンの《完善武装 ルーパス》をバトルゾーンへ!」



完善武装(フルアーマー) ルーパス 自然文明 (8)
クリーチャー:アウトレイジ 14000
ガードマン
自分の他の「ガードマン」を持つクリーチャーが相手クリーチャーとバトルする時、かわりにこのクリーチャーにバトルさせてもよい。
T・ブレイカー



 マナから《ニドギリ・ラゴン》よりもさらに巨大な、獣人のようなクリーチャーが現れる。
 《ルーパス》はTブレイカー。チャリオットの場にはWブレイカーの《桜舞う師匠》と、《ホルモン》がいる。合計六打点。つまり、暁はS・トリガーを引かなければ、敗北が確定してしまう。
 まずは、《桜舞う師匠》の斬撃が、シールドを二枚、切り裂く。
「う……っ!」
「まだ終わらんぞ! 《ルーパス》でTブレイク!」
 《桜舞う師匠》の一閃に続き、《ルーパス》の全身から光線や砲撃が絶え間なく放たれる。
 一枚、また一枚と、暁のシールドが次々と粉砕されていく。
 そして、彼女のシールドはなくなった。
「さあ、待たせたな……これで終わりだ! 《正々堂々 ホルモン》で、とどめ——」
「待った! S・トリガー発動だよ!」
 シールドは砕かれ、なくなった。
 しかし最後のシールドだけは、ただではなくならない。失われる直前に、光の束となって収束し、一体の龍となる。
「《熱血龍 バトクロス・バトル》を召喚! その能力で、《バトクロス・バトル》と《ホルモン》をバトル!」
 暁にとどめを刺そうと突っ込んでいった《ホルモン》は、《バトクロス・バトル》の拳で殴り倒されてしまい、チャリオットの最後の一撃は届かなかった。
「……ふん、1ターン生きながらえたか。だが所詮はたった1ターンだ。私のシールドは六枚、場には《桜舞う師匠》と《ルーパス》がいる。次のターンで、この二体を排除できるものか!」
「さーて、どうかな?」
 チャリオットがターンを終え、《バトクロス・バトル》は山札に帰っていく。
 それを見届ける前に——いや、チャリオットがターンを終える前、《ホルモン》が《バトクロス・バトル》に殴り飛ばされた直後に、暁は既に動いていた。
 手札から、一体の龍が飛び出す。
「私の火のドラゴンがバトルに勝ったから、手札からこの子をタダで出せる! おいで、《コルル》!」
「おうよ! 任せろ、暁!」
 《バトクロス・バトル》の勝利に反応して、《コルル》が現れた。
 《コルル》一体では大きな力は持たない、とてもチャリオットを倒す存在にはならない。
 だがしかし、チャリオットはこの時、言いようもない危機感を、本能的に察知していた。
 このままでは終わらないということを、知らせている。
「私のターン! 《コッコ・ルピア》がいるから、私が召喚するドラゴンのコストは2下がる! だから、このクリーチャーを6マナで召喚できる!」
 そう言って、暁は自分のマナをすべてタップする。
 そして解き放った。太陽の力を。
 継承された、神話の力を。
 その力を解放し、《コルル》は神翼の太陽へと昇華する。

「《コルル》を進化——《太陽神翼 コーヴァス》!」

 燃え盛る炎に包まれる《コルル》。その炎は《コルル》の本来あるべき姿を取り戻させ、そして未来を託す神話の力を授ける。
 太陽のように炎が球状に炎が収縮し、そして、爆発するように弾け飛ぶ。
 そこに存在しているのは、黒翼の太陽。烏羽色の翼を羽ばたかせ、陽光の如き輝きを放つ。
「な……っ! なんだ、このクリーチャーは……! 語り手のクリーチャーなのか!?」
 チャリオットは、見たこともないクリーチャー——自分自身が知っている語り手とは違う語り手の姿を見せられ、混乱している様子だった。
 だが、暁も《コーヴァス》も、そんなことは意に介さない。
 目の前の相手を、本気で殴るだけだ。
「《コーヴァス》がバトルゾーンに出た時、能力発動!、《コーヴァス》と《ルーパス》をバトル!」
「っ……ふん、馬鹿め。《ルーパス》のパワーは14000! パワー11000のそのクリーチャーで倒せるものか!」
「そう思うなら、しっかり見てなよ」
 漆黒の羽を散らして、《コーヴァス》が飛翔する。そんな《コーヴァス》に対し、《ルーパス》は自慢の装備から、あらゆる火器光線を乱射するが、
『馬鹿はどっちか教えてやるよ。俺はバトル中、パワーが+4000される。だから』
「そのパワーは15000! 《ルーパス》を破壊だよ!」
「な……っ、馬鹿な……!」
 《ルーパス》が放つ大量の砲撃を躱し、《コーヴァス》は肉薄する。
 そして、燃え上がる拳を突き出す。
 真正面から、《ルーパス》の誇る完全にして“完善”な武装を、木端微塵に粉砕した。
 同時に、《ルーパス》の身体も吹き飛ばされる。
「《ルーパス》が……こんなことが……!」
『おい、この程度で驚いてんじゃねえぞ馬鹿野郎。まだ終わっちゃいねえよ』
「そうそう。《コーヴァス》がバトルに勝ったから、山札から三枚を見て……《龍世界 ドラゴ大王》をバトルゾーンに! その能力で、今度は《桜舞う師匠》とバトル!」
 《コーヴァス》の声に応え、《ドラゴ大王》が君臨した。
 《ドラゴ大王》が君臨したことで、圧政が始まる。否が応でも《桜舞う師匠》は戦わなくてはならず、そしてその戦に駆り出されるのは、《コーヴァス》だ。
『行け《コーヴァス》! あのガラクタ紛いを打ち砕け!』
『おうよ! そっちは任せたぜ、《大王》!』
 剣を振るう《桜舞う師匠》。その一撃一撃は非常に鋭い。
 しかし《コーヴァス》の、太陽神話の力の前では、それは無力も同然。《コーヴァス》の拳は《桜舞う師匠》の刃を叩き折り、そのまま殴り倒す。
「また《コーヴァス》がバトルに勝ったから、今度は山札から《勝利天帝 Gメビウス》をバトルゾーンに! そして行くよ! 《Gメビウス》でシールドをTブレイク! 能力でアンタップして、もう一発Tブレイク!」
 《Gメビウス》が突貫し、チャリオットのシールドを三枚吹き飛ばす。そして、そのまま折り返してさらに三枚のシールドを粉砕し、これでチャリオットのシールドはゼロ。S・トリガーでも出なければ彼に勝ち目はないが、
「ぐ……S・トリガー! 《終末の時計 ザ・クロック》で残りのターンを飛ば——」
「無理無理、させないよ! 《ドラゴ大王》!」
『我に指図するなといつも言っているだろう、小娘。我が存在する限り、龍以外の存在は認めん! 無法者は立ち去るがいい!』
 その希望すらも、この太陽たちの前では燃え尽きてしまう。
 《ドラゴ大王》の圧政によって、消し炭にされる《クロック》。チャリオットに、これ以上のトリガーはない。
『さあ、お前をぶん殴る時間だ。歯ぁ食いしばりやがれ!』
 黒翼を羽ばたかせ、《コーヴァス》が飛翔する。黒い旋風が吹き荒び、黒羽が舞い散り、太陽が駆け抜ける。
「まさか、この私が……人間の小娘に、敗れるなど……!」
『てめえは人間を舐めすぎなんだよ。人間は、お前らが思う以上に弱くなんかねえ。確かに、人間は俺たちとは殴り合えない。仲間割れをする。死んでもすぐに生き返るわけじゃない。知能だってクリーチャーには劣る。絶対的な統制が敷かれているわけでもない……だがな』
 最後まで人間を見下していたチャリオット。《コーヴァス》もクリーチャーであり、人間とクリーチャーの違いを見てきた。ゆえに、人間の惰弱さは理解しているつもりだ。
 だが、しかし、
『それでもこいつらは、必死に生きてんだ! 悩み、苦しみ、時に衝突して、そして成長する。そしてそれは、人間だけじゃねえ。俺が今こうして、この姿でいるのは、人間の——暁のお陰だ!』
「《コーヴァス》……」
『俺たちは人間と共にあることで、さらなる高みを目指すことができる。身体が頑丈なだけが強さじゃねえんだよ! 共に歩み、助け合い、協力して、一緒に強くなる。それが人間の強さだ!』
 強さというものは、とても曖昧で、一概に定義できるものではない。
 クリーチャーの基準で強さを定義すれば、確かに人間は薄弱だ。斬り、突き、噛み、殴ればすぐに死ぬ。燃やせば簡単に燃えてしまう。些細なことですぐに恐怖し、知識の量は圧倒的に不足している。協調性も不完全だ。
 だが、それでも人間は、クリーチャーにはない強さを持つ。それは目には見えない、計測することもできないような事象であるが、しかし、確実に感じることができる。
 人間を見下し続けていたチャリオットには、理解できようはずもないことではあるが。
「そんなはずが……!」
『嘘だと思うなら、俺の拳を一発喰らってみやがれ。この拳が、俺が暁と共に歩んだ強さの証だ。てめえがそれを耐えられたら、俺の言葉に偽りがあると認めてやる』
 だが、もしも耐えられなければ——
 《コーヴァス》は最後まで言い切らず、チャリオットの下へと到達する。そして、拳を振り上げた。
「っ……!」
 今やただの一体のクリーチャーでしかない彼に、その拳を——振り下ろす。
「《太陽神翼 コーヴァス》で——ダイレクトアタック!」
『うらあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!』
 その拳は、真正面からチャリオットを捉えた。

 そして戦車の男は——黒翼の太陽によって、打ち砕かれたのだった。