二次創作小説(紙ほか)

56話/烏ヶ森編 23話 「慈愛神姫」 ( No.210 )
日時: 2016/03/15 03:58
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: Ak1jHfcH)

慈愛神姫 キュテレイア 光文明 (7)
進化クリーチャー:メカ・デル・ソル/アポロニア・ドラゴン 10500
進化—自分の《慈愛の語り手 キュプリス》1体の上に置く。
メソロギィ・ゼロ—バトルゾーンに自分の《慈愛の語り手 キュプリス》または《キュテレイア》と名のつくクリーチャーがおらず、自分のメカ・デル・ソルまたはコマンド・ドラゴンを含む光のカードのコストの合計が12以上なら、進化元なしでこのクリーチャーをバトルゾーンに出してもよい。
このクリーチャーはバトルゾーン以外のゾーンにある時、進化でないクリーチャーとしても扱う。
相手のクリーチャーが攻撃する時、各ターン1回、このクリーチャーをタップして、その攻撃を阻止してもよい。その後、その相手クリーチャーとこのクリーチャーをバトルさせる。
このクリーチャーがタップした時、相手クリーチャーを1体選びタップする。そのクリーチャーは次の相手のターンの初めにアンタップされない。
自分のターンの終わりに、バトルゾーンにある自分の光クリーチャーをすべてアンタップする。
W・ブレイカー



 光の龍門から舞い降りたのは、聖母の如き女神。
 非常に女性的で肉感的な肢体をしているものの、その姿には高潔さが迸っている。
 そしてその身体には、光る鎖が巻き付いていた。
 まるで、彼女を守るかのように。
 無秩序な正義を、束縛するかのように。
「キュプリス……これは……」
『恋、これが本当の僕であり、新しい僕だ。かつて、ヴィーナス様と共にあり、そして、今は恋たちと共に戦う者』
 キュプリスは——否、《キュテレイア》は語る。
 これこそが本来の彼女であり、そして、神話の力を受けた継承者としての姿。
 《慈愛神姫 キュテレイア》だった。
「……成程。それが、語り手と称されるクリーチャーの“本質”か」
 《キュテレイア》の姿を見て、ユースティティアは、興味深そうに呟く。 
「我も不思議に思っていた。かつての神話の右腕であったはずの者が、神話の力を受け継ぐ者が、なぜあれほどまでに矮小な存在なのか……だが、あれは本来の姿ではなかった。それが、本来あるべき姿、かつての真の姿であったということか」
『それは違うよ』
 ユースティティアの見解に対し、《キュテレイア》はそれを否定する。
 彼女はただ単純に、本来の姿に戻ったのではない。
『この姿は僕と、恋の決意と決別の証だ。かつての僕にはなかった慈愛の心をヴィーナス様は与えてくださった……今の僕は、神話の力がある』
 彼女は神話の力を受け継ぐことで、真の継承者となったのだ。
 《キュテレイア》だけではない、ヴィーナスの神話の力をも継承した、《慈愛神姫》としての《キュテレイア》という、継承者に。
「……まあいい。それならば見せてもらおう。神話の力とやらを!」
 バッ、と。
 ユースティティアは手を掲げる。
 正義という裁きを執行する、命を下すかのように。
「《天命讃歌 ネバーラスト》で、Tブレイク!」
 そして、《ネバーラスト》が長大な槍を構え、突貫した。
 その強大な一撃で、恋の残りシールド三枚は、すべて砕け散る。
 降り注ぐ破片を浴びながらも、恋は、微動だにしない。
 静かに、ひたすら静かに、ユースティティアを見つめている。
「裁きの時間だ……《セイントローズ》!」
 そして最後に、シールドを失った恋へ、《セイントローズ》の槍が襲い掛かる——
「……《キュテレイア》」
 ——が、しかし。
 キィン、と。
 その一突きは、光の鎖によって、弾かれた。
「《キュテレイア》でブロック……」
「《ドラゴンズ・サイン》か……だが、所詮一撃防いだ程度だ。攻め手はまだ存在する。《メタフィクション》でとどめ——」
「……させない」
 刹那、鎖が伸長する。
 鎖は一瞬のうちに《メタフィクション》を取り囲むと、その身を縛り付けてしまう。
 束縛し、呪縛する。
 光の鎖によって。
「これは……」
『これが僕の能力だ。僕は攻撃でもブロックでも、タップするたびに相手クリーチャーを縛り、動きを封じる。そのクリーチャーには、大人しくしてしまうよ』
 鎖に縛られ、タップされた《メタフィクション》。
 次のターンにはアンタップもできず、完全に動きを封じられてしまった。
「……だが、貴様は既に“死んでいる”。《ネバーラスト》の能力により、我が光のクリーチャーはすべてのバトルに勝利する。《セイントローズ》との戦いで、貴様の“命はなくなった”」
「……それも、させない……《アンドロ・セイバ》」
 気づけば、恋の場のクリーチャーが減っている。
 二体いたはずの《アンドロ・セイバ》は、一体に減っていた。
「《アンドロ・セイバ》のセイバー能力……光クリーチャーを、破壊から守る……さらに、《アンドロ・セイバ》が破壊されれば、山札からシールドを追加する……」
 恋のシールドが一枚、復活した。
 《キュテレイア》をセイバーで守りつつ、シールドを復活させ、恋は、徐々に彼女の守りを構築していく。
 これこそが恋だ。
 ラヴァーではない、日向恋の、あるべき姿。
「このターンでの決着は無理か……ならば、その継承者を先に屠るまで。《BAGOOON・パンツァー》で攻撃だ!」
 ユースティティアのクリーチャーは、《ネバーラスト》の能力ですべてのバトルに勝つ。
 なので、パワー6000の《BAGOOON・パンツァー》であっても、パワー10500の《キュテレイア》を一方的に倒すことができる。
 が、しかし、
「もう一体の《アンドロ・セイバ》を破壊……セイバーで、《キュテレイア》を守る……」
 《キュテレイア》は《アンドロ・セイバ》に守られる。セイバーにより、破壊から免れた。
 加えて《アンドロ・セイバ》が破壊されたことで、マナ武装3が発動。再びシールドが増え、これで二枚だ。
 しかし、《キュテレイア》を守る者は、もういなくなってしまった。
「守りは失せた。これで終わりだ! 《オリオティス》で攻撃!」
 《BAGOON・パンツァー》と同じように、《オリオティス》も《ネバーラスト》の能力で無敵の力を得ている。《キュテレイア》を屠るのは、造作もないことだ。
 《ネバーラスト》による天命を受け、《オリオティス》は、《キュテレイア》へと向かって行く——
「ニンジャ・ストライク……《光牙忍ハヤブサマル》」
 ——が、その攻撃は、《キュテレイア》には届かない。
「《ハヤブサマル》で、ブロック……」
 《オリオティス》と《キュテレイア》の間に、《ハヤブサマル》が割って入る。
 その身を犠牲にして、《ハヤブサマル》は、《キュテレイア》を守ったのだった。
「くっ、小賢しい……!」
 ターン中に決めるどころか、《キュテレイア》を破壊することもできずに終わったユースティティア。
 恋のターンが来る。そして、彼女の反撃が始まるのだった。
「《キュテレイア》……」
『分かってるよ、恋。今度こそ、君を守り抜いてみせる……君を、勝利に導くよ』
「……うん、お願い」
 負ける気はしなかった。
 一騎や暁が待っている。そして《キュテレイア》が傍にいる。
 これほど頼もしい仲間は、他にいない。
 ユースティティアやチャリオットと共にいた時とは違う。あの時にはなかった、安心感。
 そして慈愛の心が、恋の中に満ち満ちていた。
「私が世界を支配する……《支配の精霊龍 ヴァルハラナイツ》を召喚」
 その安堵感を抱き、恋は次なるクリーチャーを呼び出す。
 封殺によって支配する精霊龍、《ヴァルハラナイツ》。
 思えばこのクリーチャーも、キュプリスと同じように、自分を支えてきたクリーチャーだった。
 いや、《ヴァルハラナイツ》だけではない。《ラ・ローゼ・ブルエ》《エバーローズ》《エバーラスト》……皆、自分と共に歩んできたクリーチャーだ。
 今まではラヴァーとしての自分に力を貸してくれた。だが、今は日向恋として、共に戦う仲間。
「……みんな、お願い……」
 とても、とても静かな声で、彼らは応える。
 恋の願いに。
 そして、彼らは恋に力を与える。
「……《ヴァルハラナイツ》の能力で、《エスポワール》をフリーズ……さらに《冒険の翼 アドベンチュオ》を召喚して、《プレミアム・マドンナ》をフリーズ……」
「ぐ……!」
「《キュテレイア》で攻撃……そして、能力発動。《ネバーラスト》をフリーズ……」
 光の鎖が伸びる。《キュテレイア》の操る縛鎖が、《ネバーラスト》の身体に纏わりつく。
『——動かないで』
 そして、《ネバーラスト》を完全に縛り付ける。
 もはや正義の天命も、称賛の讃歌も、すべてが絶たれた。
「……Wブレイク」
 その鎖はさらに伸長し、ユースティティアのシールドを二枚、貫く。
 さらに続けて、天命の王が飛翔した。
「《エバーラスト》でTブレイク……」
 ユースティティアのシールドが砕け散る。《キュテレイア》に続き《エバーラスト》の攻撃で、ユースティティアのシールドは一瞬で吹き飛んだ。
 盾を失ったユースティティア。このままではとどめを刺されるだけだが、
「っ……まだだ! S・トリガー発動! 《DNA・スパーク》! 貴様のクリーチャーはすべてタップ! そして、我がシールドを追加だ!」
 砕かれた最後のシールドが、光の束となり収束する。
 二重螺旋の閃光が迸り、意趣返しのように恋のクリーチャーを縛り付ける。
 そしてもう一つの光は、ユースティティアの目の前で渦巻き、一つの盾となった。
 これでこれで、恋のクリーチャーは攻撃できなくなった。そればかりか、ユースティティアの守りが固くなってしまう。
 それ以上に、次のユースティティアのターン。恋のシールドをすべて突き破り、とどめを刺して来るのだ。
 だが恋は動じない。
 なぜなら、彼女には心強い仲間がいるから。
「……ターン終了。そして……」
 《キュテレイア》の能力が、発動する。
 恋のクリーチャーたちが光に包まれた。
 慈愛に満ちた、優しい光に。
「私のクリーチャーをすべてアンタップ……」
「なんだと……!」
 光に包まれたクリーチャーは、すべて起き上がる。
 恋の守りを封じ、返しのターンで攻めきるつもりだったユースティティアだが、その考えは《キュテレイア》の前では通用しない。
 《DNA・スパーク》をトリガーしようとも、その防御は一時凌ぎにしかならなかった。恋のブロッカーは、まだ生きている。。
「我がターン……呪文《ヘブンズ・ゲート》! 手札より《提督の精霊龍ボンソワール》《蒼華の精霊龍 ラ・ローゼ・ブルエ》をバトルゾーンへ! そして、《セイントローズ》と《BAGOOON・パンツァー》で攻撃!」
「《バロンアルデ》と《アドベンチュオ》でブロック……」
 ユースティティアの攻撃はすべて受け止められてしまう。
 その攻撃は、もはや恋には届かない。
 ほとんどのクリーチャーをフリーズされてしまったユースティティアは、これ以上の攻撃はできず、ターンを終えるしかなくなってしまった。
 そして、恋のターン。
「《護英雄 シール・ド・レイユ》を召喚……マナ武装7発動……《ボンソワール》と《ラ・ローゼ・ブルエ》をシールドへ……さらに《キグナシオン》を召喚。《ヴァルハラナイツ》の能力で、《エスポワール》をフリーズ……」
「なっ……くっ、おのれ……!」
 英雄の力で守りを崩されるユースティティア。
 反撃の芽も摘まれ、状況は完全に逆転していた。
「《エバーラスト》で……Tブレイク」
 天命の王が、不滅の槍をもって突き抜ける。
 ユースティティアのシールドが、すべて消し飛んだ。
「ラヴァー……貴様は、何故に我に刃向う……!」
「……ユースティティア……」
 今度こそ本当にシールドを失い、守りが完全に崩壊した。
 S・トリガーも、もう出て来ない。
 あとはただ、とどめを待つだけ。
 だがその間にもユースティティアは言葉を紡ぐ。かつての同胞に向けて、自身の正義という言葉を。
「貴様は、なにをもって我の前に立ちふさがる……自らの進むべき道に、そして己の世界に迷う貴様の中には、なにがある……! 答えよ、ラヴァー!」
「……私は……」
 ユースティティアの知るラヴァーは、すべてを拒絶し、しかしそれでいて、あらゆる道に迷う小さな人間の少女。
 彼女の世界は暗黒——昏い光のみが支配する、負の領域だったはずだ。
 だからこそ、その光を受け入れたうえで、彼女に利用価値を見出し、彼女の世界を広げた。
 その広げた世界に彼女を解き放った、それがラヴァーとしての彼女だったはずだ。
 だがユースティティアが広げたその世界には、日向恋という少女は存在しない。同様に、彼女と共に歩む太陽の少女、焦土の少年もそこにはいない。
 今、ユースティティアの目の前にいる彼女は、いつかのラヴァーではない。なにがあり、彼女が今の彼女となったのか、彼女には理解できなかった。
 恋は小さな口を開く。
 己の正義のみを語る者には理解できない、自分の変化を教えるために。
 自分に芽生えた、心を。
「私は……もう、迷わない……私の本当の道を……本当の仲間を……見つけたから……」
 あきらのおかげで……と、恋は語る。
 小さく、静かに。
 しかしそれでいて、しっかりと、力強い意志で。
 暁が昏い光の世界に、明るい太陽の光を差し込んだ。
 そして、確かなあたたかみを持って、自分を受け入れてくれた。
 それは一騎も同じ。彼も、自分を迎え入れてくれた。
 自分は、それに応えなければいけない。
 そして、彼女たちと共にありたい。
 それが自分の本心、自分に訪れた変化、そして心。
 だが、本当はそれだけではなかった。
 恋は、少しだけ悲しそうに、目を伏せる。
「本当は……あなたとも、戦いたくなかった……あなたは、私を利用していても、私を助けてくれた……それは、変わらない……」
 この世界で惑う自分の世界を広げ、規定した。
 道を指し示すのとは違う、だがそれでも、ユースティティアがいたからこそ、恋はこの世界で生きていた。
 ラヴァーとしての今までを、送ることができた。
 その時の行動の善し悪しは、決して良いとは言えないかもしれないが、ユースティティアのお陰でラヴァーとしての自分があったのも確かなこと。
 彼女に恩があり、感謝しているのは、まぎれもない事実であり、恋の本心だった。
 だから、本当ならこの戦いを、恋は望まない。いくら裏切っても、その制裁を受けても、こうして対立はしたくなかった。
「でも……私は、けじめをつけなくちゃいけない……」
 決別しなくてはならないのだ。
 過去の自分を。
 ラヴァーとしての自分を。
 清算しなければならない。
 それが、ラヴァーであった自分が、日向恋として、新たな道を歩むための、始めの一歩。
 それを成さなくては、恋は先へと進めないから。
「……これで、終わりにするよ……ユースティティア」
 恋は《キュテレイア》のカードに手をかける。
 決別の一撃を放つために。
 すべてを清算するために。
「《慈愛神姫 キュテレイア》で——」
 一瞬、恋の手が止まった。
 目の前の、正義を司る者を見据える。
(……ユースティティア……)
 とどめを刺すことを、躊躇う。
 まがいなりにも、彼女は恩人だ。
 この世界で迷っていた自分を導いてくれた。
 自分の世界に、光を差してくれた。
 自分を——助けてくれた。
 その事実は変わらない。その恩義も、忘れはしない。
 しかし、
(……ごめん……ユースティティア……)
 恋は、止まった手を、動かす。
 ラヴァーとしての自分と決別し、その過去を清算するためには、彼女は乗り越えなければいけない関門だ。
 ユースティティアを越えなければ、決別も、清算も、でるわけがない。
 自分は決めたのだ。
 一騎と——そして暁と。
 共に、歩むと。
 指を、動かす。
 カードを、横に倒す。
 そして、《キュテレイア》の鎖が、伸びる。
 ユースティティアへと。正義を司る者へと。
 まっすぐ、まっすぐに。



「……ダイレクトアタック——」