二次創作小説(紙ほか)

59話「あらゆる思惑」 ( No.214 )
日時: 2015/08/16 03:57
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: 0qnzCmXU)

 ——プライドエリア。
 自尊心のみによって支配されるこの一画では、今日もまた悲鳴が響き渡る。
 ただしその悲鳴は、罰を与えられたファンキー・ナイトメアの——被支配者の叫びではない——
「ぐあぁ、が、が、あぁぁぁぁぁっ!」
 ——支配者が断罪される、断末魔の叫びだった。
「てめぇ、くそっ……なにを……!」
「……貴方の存在は罪。ゆえに、その罪は裁かれなければなりません」
「ふざけんな! 俺様を誰だと思ってやがる! 俺はこのプライドエリアの支配者! スペルビア様だ! てめぇ、それがわかってんのか! こ、こんな真似をして、タダで済むと、思って——」
「大罪は裁かれるもの。そして、裁きとは罰。貴方には、罰を受けてもらいます」
「なに言って……罰は、俺たちが与えるものだ!」
「……罪には罰を」
 傲慢なる言葉など意にも介さず、黒刃が煌めく。
「貴方の罪を数えましょう」
 まるで歌うように、罪状のように告げて、振り降ろす。
「私の罪と比べましょう」
 断罪の刃を。
「そして——」
 断頭するかの如く。
「——二人一緒に、罰しましょう」

 大罪に、罰を与える。

「……傲慢の罪、断罪しました」
 刃にこびりついた黒い滴を流したまま、もう二度と動くことのない、傲慢さの塊に告げる。
 いや、それは己への役割遂行の確認だったのかもしれない。
 断罪という役目を、遂行したことの、証明だったのかもしれない。
 そのまま、歩を進めようとするが、その前に足を止める。そして、ふっと言葉を漏らす。
「……私のこの贖罪も、もしかしたら、傲慢なのでしょうか……」
 自問する。しかし、答えは出ない。
 罪には罰を——己の罰は、未だ終わらない。
 永遠に、終わることはないだろう。
 そして、終わらない贖罪を続けることを、やめるわけにはいかない。
 それが、己の罪に科された罰なのだから。
「……行きましょう。贖罪と、罰を科すために——」



 ——とある町の、とある家。
 否——“雀荘”にて。
「あ、それロンっ! ダブ南ドラドラで8000!」
「うおっ、マジかよ。ぜってー安牌だと思ったのに……まくられた」
 ジャラジャラと雀牌をかき混ぜながら、卓を挟んだ対面の二人は、それぞれ一喜一憂していた。
「はぁ、東発からトップ目死守してたってのに、オーラスでまくられて2チャとか……面白くねぇ」
「まー、しかないよねっ。オーラスで流れが変わったもん。“風”はあたしの方に吹いたんだからっ」
「あっそ。そら良かったな」
 一着を奪われて投げやりになっているのか、適当な返事をしつつ、雀牌を片づける。
「それじゃ、今日の店番もおにいちゃんに任せるねっ。あたし出かけてくるからっ!」
 その片づけを手伝おうともせず、パタパタと駆け、瞬く間に出て行ってしまった。
 残された者は、その後ろ姿が完全に見えなくなると、言葉を交わす。
「……姉貴、なんか最近、あいつ麻雀強くなってね? というか、いつもどこ行ってるんだ?」
「さて、どこかな。私は知らないが、確かに最近あの子はよく出かけるな。男でもできたのかもしれない」
「ありえない話じゃないのが癪だな……くそっ、ガキの癖に色気づきやがって」
「ならば君も女を見つければいいだろう」
「それができれば苦労しないって。あーあー、今日は空城あたりを誘ってどっか行こうと思ってたのによ……あぁでも、あいつなんか付き合い悪くなってきたし、結局無理だったかもな」
「私はこの後、大学の友人と用がある。店は頼んだ」
「ちぇっ、分かったよ」
 そう言って、卓に着いていた者は、一人を残して全員立ってしまう。
 最後に残された彼は、ふと、何気なく呟いた。
「……“カザミ”の奴、また変なことしてなきゃいいけどな——」



 ——とある世界の、とある一室。
 円卓を囲む、多くの人影。
「ユースティティアがやられたか」
 誰かが言った。
「チャリオットがやられたか」
 誰かが繋いだ。
「——ラヴァーが、裏切ったか」
 そして誰かが、告げた。
「どうするべきか。これはゆゆしき事態だ」
「しかしラヴァーは元は我々とは異なる存在。こうなることは必然とも考えられる」
「ユースティティアは奴自体に干渉していない。最終決定はすべて奴の意志に委ねていた」
「それが失敗だったのか……あるいは、それが必然だったか」
 そして、なんにせよ、と続けた。
「ラヴァーが我々を裏切ったということは、語り手の存在も、我々にはなくなったということ。いずれ訪れる秩序のためにも、語り手の存在は重要だった」
「ユースティティア、チャリオットの二名がやられた以上、計画は変更を余儀なくされる。それは必然」
「しかしこの予想外に事態に、我々の準備が整っていない」
「ラヴァーと手を組んだ人間の実力も、甘くみられるものではない」
「ユースティティア、チャリオット、ラヴァー——いずれも序列こそ低いが、実力は確かなものだ。それを下した連中の力は、それ相応のものとして認識する必要がある」
「そもそも序列など、“世界”“審判”を除き、今更意味を為していない。それはここにいる者すべてが理解するところだろう」
 誰もその言葉に異義を唱えなかった。
「このまま悠長に手をこまねいているわけにもいかない。計画が崩れたことで、早急にその処置を施さなくてはならない」
「しかし、ユースティティアたちを遣わせ、その間、我々がその後の秩序を構築するための準備を進める予定だった……こうも早くユースティティアがやられるとは予想していなかった。まだ準備は整っていない。二割しか進んでいない」
「三割だ」
「ユースティティアの失脚、これによる我々の被害は甚大なもの。さて、どうするべきか」
 一同は黙った。答えは、誰も持ち合わせたいない。
 ゆえに、その答えを求める。
「——いかが致しましょう、“世界”——」
 そして、“世界”は言った。

「——出向こう、彼らの下へ——」



 ——どこかの世界の、どこかにある広い空間。
 そこには、多くの者が集められていた。しかしそれは民衆とはいえない。群衆、それも、皆すべからく、その目にギラギラとしたなにかを抱いている。
 なにかに反旗を翻し、反目し、抵抗するような眼。
 なにかに襲撃を為し、侵攻し、略奪するような眼。
 そんな視線に囲まれる者が、二人いた。
 群衆の視線などとは比べものにならないほどの、燃え上がるような瞳をした、二人だった。
「——我々は立ち上がる時だ!」
 誰かが言った。これが、群衆を焚き上げる始まりだ。
「荒廃したこの世界に革命を起こす時だ!」
「衰退したこの世界で侵略を起こす時だ!」
 最初の言葉で、群衆は火がついた。
 そして、その火は、次第に大火となっていく。
「神話による統治がなくなり、この世界は弱肉強食、強者のみが生き延び、弱者は虐げられる世界となってしまった。諸君らは、これを許しておくべきか!?」
 群衆が騒ぐ。その言葉を否定する。
「虐げられた弱者は、強者に搾取される! すべてを奪われる! 富も、仲間も、故郷も、生きる糧、生きてきた軌跡のすべてを踏みにじられる! これが許されることか!?」
 群衆が轟く。その言葉を否認する。
「我々の未来のためには、革命を達成する他ない! それが、虐げられた我々に残された、唯一の希望だ!」
「我々の未来のためには、侵略を決行する他ない! それが奪われ続けた我々に残された、唯一の活路だ!」
 燃え上がる火に、さらなる薪を放り込む。
 そして最後には、証明する。
「今一度、宣言する!」
 一つ目の、宣言によって。
 それは為すべきこと。
 彼らの存在理由ともいえる。業だ。
「革命の——」
「侵略の——」
 彼らは告げる。
 刻々と進む流れの中で待ったこの瞬間を。

『——時が来た!』

 群衆の熱は、最高潮にまで達していた。
 だが、まだ終わらない。
 大火は業火になろうかというまで、燃え盛り続ける。
「そして、我々は新たな同胞を得た! 今の世界に憂い、志を同じくする同志を! それにより」
 二人が向き合った。
「我ら『鳳』と」
「我ら『フィストブロウ』は」
 そして、互いに手を取り合う。
 それは仲間として認めた証。
 革命軍と侵略者が、一体となった瞬間である。

『今ここに、同盟を組むことを宣言する!』




 ——スプリング・フォレスト奥部。
 鬱蒼と茂る樹海の一角にある、岩盤が剥き出しになった崖。
 そこに、彼は腰掛けていた。
「どーすればええんかね」
 声が聞こえる。己の内から響くような声。
 この声が聞こえるたびに感じる。すべてを支配され、操られてしまったような感覚。
「やっぱ力が足らんわ。このままじゃにっちもさっちも行きそうにない。それに、このままお前に頼り続けるのも具合悪いし」
「…………」
 答えなかった。別に、このまま自分に頼り続けても、自分としては問題はない。
 だが、目的を達するためには、自分の力だけでは不十分であることも、また確かな事実だ。
「……では、どうなさるのですか」
「おぉ? よくぞ聞いてくれたなぁ。お前が期待に応えるなんて、珍しい」
 相槌のつもりで言っただけだったが、妙に好感触な応答が返ってきてしまった。別段それでも問題はないが、次その期待に応えなかったら今回のことを引き合いに出されてしまい、面倒なことになる。と、どうでもいい未来を憂う。
「実はな、もう考えがあるんよ」
 そうだろう。その上でそのことを訊いてしまった自分を嘆くが、そんなことはおくびにも出さない。
「……英雄の力を、利用しようと思ってな」
「英雄……しかし」
「分かってる分かってる、皆まで言うなや。もうほとんどの英雄は、語り手の手元ーー正確には、語り手の相棒の手にある。それを今から奪うんは、ちーっとばかし骨が折れる」
 だがな、と逆接し、
「運のいいことに、英雄のほとんどは、手を組んでいる連中どもが持っている」
「各地に散り散りではない、ということですか」
「そーゆーこっちゃ。そんでも、そいつらと正面切ってドンパチするのも、これまた危なっかしくてやってられん。だがしかし、ここでさらに幸運が重なる」
 ニヤリと、口の端がつり上がる。
 そんなような気がした。
 そして、溜めに溜めて、再び声が響く。
「——いい感じに適合できそうな奴がいるんよなぁ」
「……成程。そこを中継して……」
「おう、おう、その通りよ。察しがいいなー、お前は。流石流石」
 察しがいいのも当然だ。自分と相手との関係としては、当然極まりない。
 それを知らないはずがないし、気づいていないはずもない。ふざけたような物言いからして、わざと言っているのだろう。
 しかしそんなことに逐一反応することもない。適当に流しつつ、立ち上がった。
「そんじゃー、早速いこか——“ガジュマル”」
「……御意に」