二次創作小説(紙ほか)

烏ヶ森新編 27話「■■■■」 ( No.221 )
日時: 2016/03/14 06:54
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: Ak1jHfcH)

「……暑いな」
「暑いっすね」
 ここは烏ヶ森学園の一角にある一室。
 そこでは、部活動と称して、三人の男女が完全に暑さにやられてダウンしていた。
「冷房が壊れて扇風機もない……最悪な状態だと言わざるを得ませんねー……」
「まるで一騎の家だ……せめて夏休みまでに直ってもらわないと困るんだが」
「さっき部長と美琴先輩が出ていったっすから、たぶん問題ないっすよ」
「だといいんだがな……」
 なんにせよ、この暑さは死活問題だ。一刻も早く冷房を取り戻さなくてはならない。
 とミシェルが思っていると部室の扉が開いた。
「ただいま、今戻ったよ」
 やって来たのは、待ち人たる一騎と美琴だった。
 そして美琴の手には、大量に積み重なったプリントの束がある。
「少し遅かったですねー」
「荷物運びでもさせられたか?」
 ミシェルは美琴の持つ大量のプリントを見てそう言う。部の関係上、なにかの運搬や、この部室を一時的な物置に利用されることは少なくない。なので今回もそのパターンかと思っていたが、少し違った。
「いや、これは冷房について聞きに行くついでに、必要な書類を受け取っただけだよ。ただ……」
「そこの廊下で剣埼先輩がよろけて転んでしまったので、プリントを回収するのに手間取っただけです」
「……大丈夫かよ、お前。暑さでやられたんじゃないだろうな?」
 心配そうに一騎を覗き込むミシェル。一騎は、たぶん大丈夫だよ、と笑いながら返すが、彼の大丈夫はあまり信用ならない。
「それより黒月さん、本当にごめん……こんな多いのに、女の子に持たせることになってしまって……」
「それは別に構いませんが、大事なプリントなんですし、もっと大切に扱ってください。恐らくは全部回収できたと思いますが、一応、ちゃんとすべてそろっているか確認しますよ」
 少し刺々しい口振りだったが、しかし一騎は自分に非があるので、と黙ってプリントをチェックする作業に入った。
「もうすぐ忙しくなるな、この部も……なおさら早く冷房をどうにかしてほしいところだ」
「あぁ、冷房だったら、すぐに直るってさ。なんか、既に他の教室で冷房が不調で、長年使ってるからガタが来たんじゃないかって、全部取り替えることになるらしいよ」
「マジっすか。てことは、ここにも新品のエアコンが!」
「……ところで、氷麗さんと恋は?」
「氷麗は知らんが、たぶんあっちの世界でなんかしてんだろ」
 そもそも彼女はそういう役目を担っている存在だ。恋のことが解決しても、まだあの世界ですべきことがあるには違いない。
「前の妹分は……お前がいないってなると、すぐいなくなった。自由すぎるだろ、あいつ……」
「それでも自分から部室に顔を出すようになったんだ。よかったよ」
「まあ、そこだけはある意味、進歩かもしれないが……」
「でも、彼女も正式な部員になったわけですし、ちゃんと部活動には出席してもらわないといけませんよ。先輩からもしっかり言ってください」
「あ、うん……分かったよ」
 いまいち美琴には強気に出られない一騎は、その後は黙々とプリントをチェックする作業に入った。
 一枚一枚に目を通し、必要書類がすべて揃っているか。種別ごとに整理するついでに、確認する。
 部員総出でそんな作業をしていると、ふと、一騎は疼きを感じた。
(ん……?)
 なにか、聞こえたような気がする。
 初めは気のせいかと思ったが、違う。確かに聞こえる。
 ただしそれは、鼓膜を通して聞こえる声ではない。頭の中で、響くような声だ。

——グ……ン……イグ……ン……ガ……ン……

(え、なに——)
 と、次の瞬間。
「う……っ」
 一騎は、手にしたプリントを取り落としてしまった。
「おい、一騎。プリント落ちたぞ……一騎?」
「あ、うん、ごめん……」
「どうしたお前、なんか物凄く顔色悪いが……熱中症か?」
「いや、ちょっと頭痛が……大したことないよ、大丈夫」
「……本当かよ」
 訝しむような視線を浴びせるミシェルだったが、結局、その後に一騎が体調不良らしき症状を見せることはなかった。