二次創作小説(紙ほか)
- 61話 「確立途中」 ( No.222 )
- 日時: 2015/08/18 21:56
- 名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: 0qnzCmXU)
「——《Q.E.D.+》でダイレクトアタックだ」
そのカードを横向きに倒す。
次の瞬間、大きな歓声が、場を包み込んだ——
「——ふぅ」
とある大型デパートの一角。カードゲームを始めとして、玩具や工具など様々なものが置いてあるホビーショップ。
そのベンチに座り、霧島浬は一息ついていた。
そんな浬に、一つの影が近寄ってくる。
「浬」
「っ! 形人さん……!?」
浬はその人物を見て、目を見開く。まさか、この人物とこんなところで出会うとは思わなかった。
黒村形人。浬の従兄で、憧れであり、浬にデュエマを教えた師匠のような人物だ。
少し上ずった声で、口を突くように浬は問うた。
「な、なんでこんなところに……!」
「少し用があってな。それより、先の対戦、なかなか良かったぞ。随分と腕を上げたようだな」
「……見てたんですか」
珍しく、少し照れたような表情を見せる浬。恐らく、黒村相手でなければ絶対に見せないだろう表情だ。
「とりあえず、お前の優勝を称賛するとしよう」
「いや、そんな、大したことじゃないですよ……そんな大きな大会じゃないですし、相手は小学生だって多かったんですから」
「それでも、連続で勝利を得るのはそう簡単ではない。相手の実力を観測できるのも、対戦して初めて分かること。妙な謙遜はせず、結果の勝利を喜べばいい」
「はぁ……」
曖昧に頷く浬。しかし、憧れの相手に称賛されて、嬉しくないわけがない。
なんとなく暇だったから近くの大会に出場してみたが、まさか黒村と会えるとは、僥倖だった。
「……お前、今から暇はあるか?」
「え……はい、この後は特になにもありませんが……」
「そうか」
言って黒村は、歩を進める。相変わらず言葉数の少ない後の行動に、浬は面喰ってしまう。
黒村は首だけで浬に向き、そして、開口する。
「ついて来い。お前が磨いてきた、お前だけの技。俺に見せてみろ」
「まさか、黒村さんの方からデュエマに誘ってくるなんて……」
「俺も少しばかり時間を持て余していてな。まあ、多少の気まぐれだ。あまり気にするな」
そう言って互いにデッキを取り出し、シャッフル。シールドを五枚展開し、手札を取った。
場所は先ほどまで浬が大会として対戦していたホビーショップの、フリー対戦ゾーン。
ついさっきまで行われていた大会の優勝者ということもあり、浬に目を向ける者も何人かいたが、対戦中なので、流石に声まではかけて来ない。もしかしたら、黒村と浬、互いに人を寄せ付けないオーラと顔つきをしているから、声をかけたくてもかけられないだけかもしれないが。
そんな中で始まった、浬と黒村のデュエル。
互いにシールドは五枚。浬の場には《アクア少年 ジャバ・キッド》。黒村の場にはまだなにもないが、
「《ダンディ・ナスオ》を召喚」
黒村は、一体目のクリーチャーを召喚する。
彼のデッキを支える、大事な一体目だ。
「能力で山札から《闇戦士ザビ・クロー》をマナゾーンに置き、マナゾーンから《解体人形ジェニー》を墓地へ置く。さらに1マナをタップ、《死神術士デスマーチ》を召喚し、そのままシールドをブレイクだ」
黒村のデッキは闇と自然の進化速攻。1ターン目にアタッカーを呼ばれなかったことは幸運だが、《ダンディ・ナスオ》から奇襲気味に《デスマーチ》で殴られてしまった。
だが、まだ一枚だ。ここからならいくらでも巻き返しを図れる。
「俺のターンです。呪文《ピーピング・チャージャー》。シールドを一枚見ます」
浬が選んだのは、右端のシールドだ。それを、そっと捲る。
(《密林の総督ハックル・キリンソーヤ》か……トリガーではないな)
しかし、序盤に相手の手札にあってほしくないカードでもある。
浬は下手なシールドブレイクはしないべきだと思いながら、そのカードを伏せた。
「もういいのか?」
「あ、はい。ターン終了です」
「なら俺のターン。《青銅の鎧》を召喚。《デスマーチ》でシールドをブレイクだ」
「っ、S・トリガー《アクア・サーファー》を召喚! 《ダンディ・ナスオ》をバウンス!」
追撃を止めるために《ナスオ》を手札に戻す浬。しかしここは《デスマーチ》を戻して、《ナスオ》を殴り返しても良かったかもしれないと、思い直してしまう。
(とはいえ今更思ったところで後の祭り……それよりも《青銅の鎧》か。速攻に入らないわけではないが、速攻よりも若干速度を落としたビートダウンか……?)
先ほど殴ってきた《デスマーチ》の進化元も《解体人形ジェニー》と、速攻に入れるには重いカードだ。この攻めの姿勢から見てビートダウンには間違いないだろうが、速攻というにはやはり遅い。
最初に1コストのクリーチャーを展開しなかったのも、速度を落としたからだと考えれば、納得はいく。
そして速度が遅いなら、なおさら追いつきやすくなるということだ。
「呪文《ブレイン・チャージャー》! カードを一枚引いて……続けて呪文《スパイラル・ゲート》! 《デスマーチ》をバウンス!」
チャージャーでマナを伸ばしつつ、バウンスで妨害し、準備を進めていく浬。
だが、黒村もただ殴るだけではなかった。
「《ダンディ・ナスオ》を召喚、山札から《福腹人形コダマンマ》をマナに置き、マナから《変身人形イルルカ》を墓地へ。そして4マナをタップ、《解体人形ジェニー》を召喚」
「っ……!」
《デスマーチ》を手札に戻したことが仇となった。まさか、このタイミングで《ジェニー》を呼ばれるとは、と浬は歯噛みする。
「手札を見せろ」
「……はい」
浬が公開した手札は《スパイラル・フォーメーション》《龍素力学の特異点》《龍覇 メタルアベンジャー》の三枚。
「龍解を狙っていたか。思い通りにやられるのも癪だな。《メタルアベンジャー》を捨てろ」
「く……っ」
次のターンに龍解を狙っていた浬だが、ピンポイントなタイミングでドラグナーを落とされる。逆転を図るキーカードだったがゆえに、この一撃は手痛い。
苦しい表情でカードを引く浬。しかし、
「! 来たぞ……! 呪文《セイレーン・コンチェルト》!」
「ほぅ」
「マナゾーンから《龍覇 M・A・S》を回収し、手札の《スパイラル・フォーメーション》をマナゾーンへ! そして全てのマナを使い、《M・A・S》を召喚! 《青銅の鎧》をバウンスし、超次元ゾーンから《真理銃 エビデンス》を装備! カードを一枚引きます!」
序盤にマナに置いていた《M・A・S》を回収しつつ、呪文を唱え、クリーチャーを召喚する。
《M・A・S》が装備したのは《エビデンス》。フォートレスの《エビデゴラス》ではない。除去耐性の低い《M・A・S》いウエポンを装備するのはややリスクが高いが、しかし、それならばこのターン内に龍解条件を満たしてしまえばいいのだ。
「さらに、水のドラグナーがいるから、G・ゼロで《龍素力学の特異点》をタダで唱えます!」
浬はカードを二枚引き、手札を一枚山札の下に戻す。
そして、これで、水のカードを三回使用した。
つまり、
「ターン終了時、《デビデンス》の龍解条件達成により、《エビデンス》を龍解!」
浬は《エビデンス》に手を掛け、そして、指を繰る。
その動作によって、《エビデンス》は裏返った。
「龍解——《龍素王 Q.E.D.》!」