二次創作小説(紙ほか)
- 61話 「確立途中」 ( No.224 )
- 日時: 2015/08/19 14:08
- 名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: 0qnzCmXU)
「……参りました」
「少し勝負を焦ったな。コントロールで腰を据えて戦うなら、トリガーの可能性も考慮して、もう1ターン様子を見るべきだ」
「はい……」
黒村の言う通りだ。浬は少し、気が急いてしまった。
相手が黒村ということもあったのだろう、速攻相手に悠長にしていられないという危惧と、憧れの人物を相手にした興奮とが入り混じり、結果、自身を敗北へと導いてしまった。
思い返せば、わざわざ《ジオ・ナスオ》で《ガラムタ》を墓地に送ったり、先んじて《イルルカ》を墓地に落としたりと、黒村は最後のあの展開を予想していたかのように、準備を整えていた。つまり、最後から最後まで、盤面を見通せた黒村が勝利したことは、ある種の必然とも言える。
「……確立途中といったところか」
「? 確率……?」
「数学の確率ではなく、定める方の確立だ。パーセンテージではなく、立つ方だ」
「あぁ、そっちですか」
誤字の多い漢字なので、一回聞いただけではパッと出て来なかった。
「以前、お前は自分のスタイルを見つけたようだと俺は言ったが……そのスタイルは、まだ完全に確立されていないようだと思った」
完全に確立されていない。まだ、確立している最中。
ゆえに、確立途中なのだと、黒村は評する。
「早まって殴ったり、ビートダウンに向いたカードを採用していたり、その兆候は散見されていたな。お前は、自分自身の行き先に、お前の中で迷いがあるんじゃないのか?」
「……分かりません」
しかし、彼がそう言うのなら、そうなのかもしれない。
結局、今は水単色のコントロールのようなデッキにしているが、それでも黒村の言うように、ビートダウン向けのカードもそれなりに採用している。
それはきっと、彼への憧れが強く残っているからなのだろう。いつだって攻め続ける、守りに入っても、攻めに切り替わっている、攻撃的な彼の姿が、浬の脳裏には焼き付いている。
それが自分の中で強く渦巻いている。だから自分は、中途半端なのかもしれない。
憧れだけでは、いや、憧れが強すぎるからこそ、乗り越えられない壁が、そこにはあった。
「……こいつを断ち切るなら、あのデッキを使うべきだったか……」
「? なにか言いましたか?」
「なんでもない……ん」
とそこで、黒村は誰からか連絡でも入ったのか、ポケットに手を突っ込む。
「少し待っていろ」
と言って黒村は、浬から離れる。立ち聞きするのも悪いので、浬も気持ち程度に数歩下がった。
物陰で、黒村が誰かと通話している姿が見える。
「所長……はい。分かりました。予定より大分遅れていますね……まあ、学生ならそういうことも……もう店内にはいるんですね……」
やがて、通話を終えたのだろう、黒村が戻ってきた。
「悪いな、浬。今しがた用ができた」
「そうですか、分かりました。なら、俺はそろそろ帰ります。今日はありがとうございました」
「あぁ」
そう別れを告げて、浬は黒村と別れた。
偶然とはいえ、今日は黒村と出会えてよかった。いつも彼と会う日は、教訓を得たり戒められたりして、なにかしら得るものがある。
今日は、自分自身を見つめ直すきっかけになった気がする。心の隅で、自分の中のどこかで蟠っていたものと、向き合うきっかけに。
「……あの人みたいになることと、そうでないこと、どちらが俺の進むべき道なんだろうな……」
呟いて、浬はそれっきり黙りこむ。
デパートの喧騒に包まれながら。
「待たせたな、空城」
「本当に待ったよ、北上。君から言い出しておいて待たせすぎだ」
「悪い悪い。んじゃ、行くか」
「わかったよ……それにしても、君がデュエマ教えてほしいとか、珍しいこと言うよね。というかそんなこと言われたの初めてだ」
「俺も他人にこんな相談するのは初めてだ。いやなに、知り合いでデュエマやってる男って、お前くらいしかいないからな。お前から徹底的にレクチャーしてもらって、姉貴とカザミの泣きっ面を拝んでやるんだ」
「そういや君は四人兄妹だっけ……家が家なんだし、麻雀でもすればいいのに」
「家が家だからだよ。毎日毎日、店番決め麻雀やってるから、流石に飽きた」
「雀荘の息子の台詞かよ」
「そういやさっき、黒村先生みたいな人を見たぞ」
「あっそ」
「反応薄いな……」
「そら、先生だって買い物くらいしてもおかしくないだろ」
「いやなんか、俺たちと同い年くらいの男と一緒にいたんだが……誰だったんだろうな、あいつ」
「年の離れた兄弟とかかもしれないぞ。ほら、それよりさっさと行こう。君がもっと早く来れば、大会にも間に合ったのに」
「……本当にすまなかったと思っている」