二次創作小説(紙ほか)

62話 「合同合宿会議」 ( No.228 )
日時: 2015/08/26 00:23
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: 0qnzCmXU)

 《リュウセイ・イン・ザ・ダーク》が戦場に降り立った。それを見たミシェルの額を、一筋の汗が流れる。
「来たか……!」
 前のターン、《グレイブモット》の死によって墓地から回収された《リュウセイ・イン・ザ・ダーク》。その存在はミシェルの頭の隅には確実あった。ゆえに、このターンで殴ることは正解だと思ったわけだが、どうやら誤算が生じてしまったようだ。
「《ザンジデス》で《5000GT》を攻撃……《リュウセイ・イン・ザ・ダーク》の能力で、私の闇のクリーチャーはすべてスレイヤーになってるから、《5000GT》も道連れよ」
 《5000GT》に特攻する《ザンジデス》。一瞬で返り討ちにされるが、しかし《リュウセイ・イン・ザ・ダーク》の力を受けた《ザンジデス》の怨霊が、《5000GT》に憑り付く。
 そして、その怨霊が《5000GT》を呪い殺した。
 これが、ミシェルの誤算だった。
 《リュウセイ・イン・ザ・ダーク》が出ても手遅れになるくらいに攻め込むつもりだったのだが、S・トリガーで《ザンジデス》が出て来ることは考慮していなかった。
 いや、S・トリガー自体は覚悟していたが、どの道出て来るのであれば、こうするしかなかった、と言うべきか。
「チッ……あたしのターン! 二体目の《5000GT》を召喚だ!」
「でも、闇以外のクリーチャーなら、《リュウセイ・イン・ザ・ダーク》の能力でタップされて場に出るわ」
 再び戦場に出る《5000GT》だが、《リュウセイ・イン・ザ・ダーク》の発する瘴気によって、膝をついてしまう。
 闇以外をタップインする能力によって、メインアタッカーが火文明に偏っているミシェルの攻撃力は減衰してしまう。
 さらに、そんなミシェルに追い打ちをかけるように、沙弓はさらなる《リュウセイ》を呼び込む。
「出て来なさい、《永遠の悪魔龍 デッド・リュウセイ》」
「ぐ……!」
「《デッド・リュウセイ》の能力で《5000GT》を破壊よ」
 《リュウセイ・イン・ザ・ダーク》が自爆特攻して道連れを狙って来れば、もう少し時間を稼げるはずだったが、他のカードで直接破壊されては敵わない。
「あたしのターン。とにもかくにも、《リュウセイ・イン・ザ・ダーク》はヤバいな……呪文《スクランブル・タイフーン》!」
「手札がないから、それを撃つしかないっていうのは分かるけど、それも無駄になっちゃうかもね、シェリー」
「誰がシェリーか」
 ともかく、《スクランブル・タイフーン》で一気に山札を掘り進み、手札を手に入れるミシェル。地味ながらも《スクランブル・タイフーン》は手札のカードを増やせるので、手札補充にもなる。
 さらに、ミシェルは捨てるカードすらも利用する。
「《疾封怒闘 キューブリック》を捨て、あたしのマナに水のカードが三枚あるから《リュウセイ・イン・ザ・ダーク》をバウンス! さらにG・ゼロで《クロスファイア》を召喚! 残りのシールドをブレイクだ!」
 《キューブリック》の能力で《リュウセイ・イン・ザ・ダーク》を除去しつつ、その間に生じた隙を狙って、《クロスファイア》で奇襲を仕掛けるミシェル。
 これで、沙弓のシールドはゼロ。
 あと一撃で、決着がつく。

「破滅する死に逆らい、抗え——《悪魔龍王 ドルバロムD》」

 だが、沙弓は抗う。
 無法者による攻撃を受けても、彼女の闇は、絶えることはない。
「《デッド・リュウセイ》を進化元に、《ドルバロムD》を召喚よ。能力でお互いの場とマナゾーンにある、闇以外のカードをすべて墓地へ……私は闇単色だから被害はないけど、シェリーはどうかしら?」
「くそっ、ここでそんなリセットカードを使いやがるか……!」
 ミシェルのマナゾーンに、闇を含むカードは二枚。それ以外のカードはすべて墓地へと落とされてしまった。さらに場に残っていた《クロスファイア》も死に絶える。
「《ドルバロムD》でTブレイクよ」
 そして、直後。
 龍と化した悪魔神の一撃が、ミシェルに襲い掛かる。
 一枚、また一枚とシールドが粉砕されていく。
 このターン中には生き残れても、今のマナの状況では、時間を稼ぐことすらままならない。主要なアタッカーである《5000GT》や《クロスファイア》もほとんど引いてしまっているので、ここで手札に入る見込みは薄い。
 これでは次のターンが来たところで、反撃もできない。あと一撃で決着がつくというのに、だ。
 と、その時。
 《ドルバロムD》がブレイクする最後のシールドが、光の束となり収束する。
 そして、黒い影として、バトルゾーンへと飛び出していった。
「——S・トリガー発動! 《破壊者 シュトルム》を召喚!」
「!」
 最後のシールドから飛び出した《シュトルム》。いくらマナを飛ばそうと、S・トリガーで出たこのクリーチャーは止められない。
 そして沙弓はこれ以上の攻撃ができず、《シュトルム》を除去する術がない。
 突破口は見えた。あとはただ、最後の一撃を叩き込むだけだ。
 ミシェルのターン。
「かなり冷や冷やしたが、これで終わりだ」
 彼女は、そのクリーチャーに手をかける。
 このデュエルを終わらせるクリーチャーに。

「《破壊者 シュトルム》で、ダイレクトアタック——」



「あーあ、負けちゃったわね。あと一歩だったのに」
「マジで危なかったな、今のは……まさか、試しにトリガーとして突っ込んだ《シュトルム》に助けられるとは……」
 対戦が終わり、沙弓とミシェル。
 二人は椅子にもたれながら、先ほどの対戦について述べ合っていた。
「《ディアスΖ》が出た時もヤバかったが、《ドルバロムD》が出た時は終わったかと思ったな」
「うーん、《クロスファイア》や《5000GT》を今引きされるのが怖かったから《ドルバロムD》で決めにかかったけど、勝負を焦っちゃったかしら。残り枚数も多くなさそうだったし」
「いや、あれで正解じゃないか? 《ホネンビー》を引く可能性もあったしな」
 ただ今回は、ミシェルに少しだけ運が傾いた。ただそれだけだ。
 と、その時。ガラリという音と共に、部屋の扉が開かれた。
「ただいまー」
「……もどった」
 開いた戸から顔を出すのは、一騎と恋だった。待ち人来たり、と言ったところか。
「やっと戻ってきたか、一騎」
「うん……あ、卯月さん、もう来てたんだ……ごめん、やっぱり間に合わなかったよ」
「いえいえ、お気になさらず。待ってる間も、楽しかったので。ねえシェリー?」
「だからシェリー言うな」
「……? 俺らがいない間に、仲良くなってる……?」
「さゆみ、みしぇる……仲よかった……?」
 疑問符を浮かべる一騎と恋。
 初対面とは言わずとも、今まではあまり東鷲宮と烏ヶ森の間で交流はなかった。
 この短い間でなにがあったのかと、二人は首を捻る。
「そんなことはどうでもいいから、さっさと打ち合わせするぞ。こんな蒸し暑いとこにいつまでいさせるつもりだ」
「あ、うん。それじゃあ、打ち合わせをしようか」
「はい、お願いします」
 こうして、東鷲宮と烏ヶ森の部長による、合同合宿会議が始まるのだった。