二次創作小説(紙ほか)
- 63話 「アイドル」 ( No.231 )
- 日時: 2015/09/01 23:05
- 名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: 0qnzCmXU)
柚と亜夢のデュエル。
柚の場にはなにもない。《霞み妖精ジャスミン》でマナを加速しただけだ。
対する亜夢の場には《一撃奪取 ブラッドレイン》が一体。
「うぅ、緊張します……えっと、とりあえず……これ、でしょうか……?」
大観衆の前で、それらの(九割以上亜夢に対する)声援を浴びながら、柚はどう動くべきかを考える。
沙弓から渡されたデッキなので、デッキの中身は分からない。しかし自然単色デッキのようなので、自分の使い慣れた文明だ。
とりあえず、柚は目についたカードを一枚、手に取った。
「それじゃあ……3マナで、《歌姫の面 エリカッチュ》を召喚します」
現れたのは、仮面をつけた少女。それもガスマスクのような無骨な仮面だ。
しかし、ビーストフォーク號にとっては非常に大切なその仮面を、少女は祭りで買ったお面でもつけるように、頭の横側にずらして付けている。
長い髪もあり、素顔こそはっきりとは見えないが、それでも非常に愛嬌のある——というより、愛嬌をふりまいている少女だった。
彼女は戦場に立つと、片手にはスタンドマイクを持ち、もう片方の手で、顔の横で三本指を立ててピースしている。
あくまでこれはホログラムであり、クリーチャーはただのプログラムでしかない。そこにクリーチャーの意志など存在するはずもないのだが、しかし少女は観客にアピールするかのように、その笑顔と声を魅せつける。
その挙動に、若干の困惑混じりながらも、観衆は、少なからず興味を惹かれたようだった。中には吼えるように雄叫びをあげる者もいる。
「……部長、霞になんてカード使わせてるんですか」
「面白いかなーって思ってね。アイドルにアイドルをぶつける、それもホログラムありの迫力、場所はアウェー、大観衆の前。これだけ条件が揃った中で、柚ちゃんが健気に頑張ってアイドルカード使ってるだなんて、凄く萌えるじゃない」
「そんなくだらない理由で妙なデッキ渡さないでくださいよ……」
「ゆずー! ファイトー!」
そんな暁たちの声は、残念ながら大観衆の圧倒的声量の壁に阻まれ、柚には届かないが。
「アイドル対決かぁ、燃えちゃうねっ! 亜夢ちゃんも負けてられないよっ!」
亜夢は本物のアイドルに対してアイドルカードを使うという挑発的な行為に対して、怒りを見せるどころか、むしろ乗り気で対抗心を燃やしてきた。
彼女はいつも以上にテンションを上げ、カードを引き、そして、
「《ブラッドレイン》を進化! 《夢幻騎士 ヴィシャス・デスラー》に!」
トップスピードで、柚を攻めたてる。
「《ヴィシャス・デスラー》で攻撃! その時、《ヴィシャス・デスラー》の能力で、柚ちゃんの手札をフルオープン!」
「ふぇ……?」
開いた柚の手札には、《有毒類 ラグマトックス》と《フェアリー・ライフ》の二枚があった。
「おっとっと、危ないなー。《ラグマトックス》で《ヴィシャス・デスラー》がやられちゃうところだったよ。と、いうわけで、《ラグマトックス》を墓地に捨てちゃうよ!」
「あ……っ、《ラグマトックス》が……」
夢幻騎士 ヴィシャス・デスラー 闇文明 (4)
進化クリーチャー:ダーク・ナイトメア 6000
進化—自分の闇のクリーチャー1体の上に置く。
このクリーチャーが攻撃する時、相手の手札を見て1枚選び、捨てさせる。
W・ブレイカー
相手の手札を見て、その中からカードを捨てさせる。それは《解体人形ジェニー》の例を見れば分かるように、非常に強力な能力だ。
《ヴィシャス・デスラー》は攻撃時に発動する分、攻撃的でビートダウン時の妨害に適している。攻撃しながら相手の手札のキーカードを捨てさせ、シールドブレイクしても相手に与える手札が実質的に一枚減るのだ。
「……しかし、ピーピングハンデスとは、アイドルとかいう割に陰湿なことするな」
「エンターテイメント性はともかくとして、わりとガチなデュエリストであることも、那珂川亜夢が人気な理由の一つなのよ。ほら、歌って踊れて可愛くて、そのうえデュエマが強いだなんて、最強じゃない?」
「んなこと言われましても……」
「ゆず、まだ行けるよ! 頑張れー!」
デュエマも押し出すようなアイドルは他にもいるが、亜夢はその中でも、デュエリストとしての側面が特に強い。
ことデュエマに関しては、魅せるよりも、強さを見せつけることを優先させる。
ファンからしたらその容赦のなさというか、笑顔でハンデスや除去を叩き込む姿がいいらしいが、浬には理解できなかった。
「そしてぇ、Wブレイク!」
「あぅ……っ!」
《ヴィシャス・デスラー》によって砕かれたシールドの破片が、柚に降りかかる——ようなヴィジョンが、ホログラムにより浮かび上がる。
思わず顔を守るように腕を出してしまう柚だが、実際は破片など降りかかることはなく、その動作も無意味なわけだが。
「わ、わたしのターンです……」
そんな勘違いに、一人で赤面しながら、カードを引く柚。
ちょうど、今しがた引いたカードと、シールドブレイクで手に入ったカードで、柚は前に出る。
「《龍覇 マリニャン》を召喚しますっ」
まず現れたのは、桜色の髪と衣装、花弁のような意匠の、仮面をつけた少女。
両手両足の毛皮と爪、そして縞模様の白い尻尾が獣らしさを醸し出しているが、その姿は少女そのもの。
しかしただの少女ではない。《マリニャン》は《エリカッチュ》同様に、古代龍を鎮める巫女であり、そして龍と魂と心を通わせるドラグナーだ。
「《マリニャン》の能力で、コスト3以下のドラグハート——《神秘の集う遺跡 エウル=ブッカ》を、超次元ゾーンからバトルゾーンに出します。そして、わたしのドラグハートが出たので、《エリカッチュ》の能力でマナを追加。さらに、《エウル=ブッカ》の能力で、わたしの自然クリーチャーのコストは1軽減されるので、《エリカッチュ》で増やした1マナをタップして、《愛嬌妖精 サエポヨ》を1マナで召喚しますっ」
歌姫の面(ディーヴァ・スタイル) エリカッチュ 自然文明 (3)
クリーチャー:ビーストフォーク號 2000
自分のドラグハートをバトルゾーンに出した時、自分の山札の上から1枚目をマナゾーンに置いてもよい。
龍覇 マリニャン 自然文明 (5)
クリーチャー:ビーストフォーク號/ドラグナー 5000
このクリーチャーをバトルゾーンに出した時、コスト3以下のドラグハートを1枚、自分の超次元ゾーンからバトルゾーンに出す。
愛嬌妖精サエポヨ 自然文明 (2)
クリーチャー:スノーフェアリー 1000+
自分の他のクリーチャーがバトルゾーンに出た時、そのターン、このクリーチャーのパワーは+3000される。
神秘の集う遺跡 エウル=ブッカ 自然文明 (3)
ドラグハート・フォートレス
自分の自然のクリーチャーの召喚コストを1少なくしてもよい。ただし、コストは1より少なくならない。
龍解:自分のターンのはじめに、バトルゾーンに自分の自然のクリーチャーが2体以上あれば、このドラグハートをクリーチャー側に裏返し、アンタップする。
流れるようにクリーチャーとドラグハートを展開していく柚。本来ならば使いにくいカードを存分に生かした展開だ。
しかも、ビジュアル的に映える《エリカッチュ》《マリニャン》《サエポヨ》というアイドルカードを並べているため、よりいっそうそのプレイングには華がある。
少なからず観衆の注目は、柚にも向いていた。
「いっぱい出たねぇ。でもでも、まだまだ亜夢ちゃんが有利! 私の夢の王子様で、みんなの心と一緒に、つかむよ勝利を! 《暗黒秘宝ザマル》を召喚! 《ヴィシャス・デスラー》で攻撃して、ワンモアチャーンス! もう一回、手札を見せてねっ!」
再び柚の手札が開かれる。とはいえ、そのカードはたった一枚だが。
「《増強類 エバン=ナム=ダエッド》を捨てるよっ! そしてぇ、行っちゃって! Wブレイク!」
飛び出した悪夢の騎士は、無情に柚のシールドを打ち砕く。
対戦が始まって僅か4ターン。たった4ターンで、柚のシールドは残り一枚になってしまった。
しかし、柚の勝ち目までもが、なくなったわけではない。
「……わたしのターンの初め、わたしの自然のクリーチャーが二体以上います」
「ん? それがどぉしたの?」
「この時、《神秘の集う遺跡 エウル=ブッカ》の龍解条件を達成しましたっ!」
突如、《エウル=ブッカ》が揺れ動く。
なにかが目覚めるかのように。
それは、遺跡に眠る、龍の魂。
あらゆる神秘が集まる遺跡の核に封じられた、龍の魂が今、解き放たれる。
「《神秘の集う遺跡 エウル=ブッカ》、龍解——《遺跡類神秘目 レジル=エウル=ブッカ》!」
遺跡類神秘目 レジル=エウル=ブッカ 自然文明 (6)
ドラグハート・クリーチャー:ジュラシック・コマンド・ドラゴン 5000
自分のクリーチャーの召喚コストを最大2少なくしてもよい。ただし、コストは1より少なくならない。
「《レジル=エウル=ブッカ》の能力で、わたしの召喚するクリーチャーのコストは2軽くなります。なので、2マナで《養卵類 エッグザウラー》を召喚ですっ! さらに4マナで、《龍覇 サソリス》を召喚しますっ! 超次元ゾーンから《始原塊 ジュダイナ》をバトルゾーンに出して、《サソリス》に装備! ドラグハートが出たので《エリカッチュ》の能力でマナを増やしますっ! 今度は《ジュダイナ》の能力発動です! 各ターンに一回だけ、わたしはマナゾーンからドラゴンを召喚できますっ! 《レジル=エウル=ブッカ》でコストを下げて、1マナで《地掘類蛇蝎目 ディグルピオン》を召喚!」
「え、ちょ、ちょ、ちょっと待って——」
「《ディグルピオン》の能力で、わたしの他のドラゴンがいるので、山札からマナを追加します! さらに《エッグザウラー》の能力で、カードを一枚ドローします! 続けて2マナで《増強類 エバン=ナム=ダエッド》を召喚ですっ!」
亜夢のことなど待つつもりはさらさらなかった。今の柚は、完全にスイッチが切り替わっている。
今の彼女は、古代龍を鎮める巫女と同じ。数多の龍を操る者だ。
龍たちの力を如何なく発揮し、次々と古代龍たちを場に並べていく。
「これでわたしのターンは終了ですが、ターン終了時にわたしのドラゴンが三体以上いるので、《ジュダイナ》の龍解条件を満たしました」
一度、展開を終える柚。だがそれは、最後の締めを意味する。
これだけドラゴンが展開されているのだ。三体などとみみっちい言葉は必要ない。条件はとっくの昔に満たされている。
あとはただ、裏返るだけだ。
真の姿を現すために。
「《始原塊 ジュダイナ》、龍解——《古代王 ザウルピオ》!」