二次創作小説(紙ほか)
- 64話 「アカシック・∞」 ( No.233 )
- 日時: 2015/09/17 20:25
- 名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: arA4JUne)
「——『死神』? なにそれ?」
「聞いたことありませんか? グリモワールの方ではかなり名の知れたクリーチャーらしいですが」
「ここじゃあんなとこの情報なんて入ってこないよ。で、なんなの、その『死神』ってのは」
「さっき言った通りです。大罪都市グリモワールに現れるクリーチャーらしき存在。その名の通り、死神のような出で立ちで、数々の悪魔龍たちを襲撃しているんだとか」
「ふぅん。なんていうか、すっごいそれっぽいね。ベタっていうかさー。分かりやすいけど」
「ただ、やられているのが領主級の悪魔龍ばかり——つまり、大罪を司るクリーチャーばかりみたいですね」
「ファンキー・ナイトメアの反乱……でもないか。あの連中はみんなマゾだしね。どんだけ虐められても喜ぶだけだし、反乱なんて起こさないか」
「そうなんですよね。それに、単体のファンキー・ナイトメアでそこまで大きな力を持つクリーチャーなんて、聞いたことがありません」
「言っとくけど、あたしはそんなこと知らないからね。他の文明の事なんて、まったくこれっぽっちも耳にしないよ」
「やっぱりそうですか……」
「とゆーかさ、リュンはそれなりに見当ついてるんじゃない? わざわざここ来る意味あった?」
「……仰る通りですよ。ウルカさんに聞いてみたのは、単なるもののついでです。一応、聞いてみたかったんですよ」
「もののついでって……まあいいけど」
「僕の予想が正しければ、『死神』の正体は、ただのファンキー・ナイトメアじゃない。恐らくは、“彼”の……」
「あぁ……それは、ありえるね」
「もしもそうなら、あなただって無関係ではないはずです」
「……関係ないよ。あたしは、連中とは全然まったくこれっぽっちも関係ない。あたしらは統治者にはなれなかったはみ出し者だよ」
「…………」
「ま、あたしのことはどうでもいいっていうか、そーゆーわけであたしはそのことに関しては本当になにも知らないから。ごめんね」
「いえ……いいんです」
「でもさ、その『死神』とやらが想像通りのクリーチャーなら、おかしくない? だって、あいつらは単体じゃ動けないはずじゃ」
「それもそうなんですよね。あなたのような存在でもないですし、なぜ自由に動けているのか、謎は残ります。なので今度、調べに行ってきます」
「調べにって、どこに?」
「……図書館ですよ」
東鷲宮中学校。
その校舎の一角。あまり人目につかない部室で、彼女たちはいつものように、部活動に励んでいた。
「——《ジャックポット・バトライザー》で《ザンジデス》を攻撃!」
「《グレイブモット》でブロックよ」
「なら、《ジャックポット》がバトルに勝ったから、能力発動! 山札の上三枚から、ドラゴンをバトルゾーンに出すよ! 《龍世界 ドラゴ大王》をバトルゾーンに! 《ジャックポット》と《ザンジデス》をバトル!」
「ここで《ドラゴ大王》はきついわね……」
「山札の上三枚から、《熱血龍 メッタギルス》をバトルゾーンに出して、もう一体の《グレイブモット》を破壊だよ! 《バトライオウ》で、シールドをWブレイク!」
「……S・トリガー《インフェルノ・サイン》。墓地から《グレイブモット》を呼び戻すわ」
「ターン終了だよ」
——ただし、それはイコール彼女たちの趣味とも繋がっているが。
テーブルを挟む暁と沙弓。その脇で、柚と浬が二人の様子を眺めている。
「あきらちゃん、調子いいですね」
「あぁ。だが、部長がこれで終わるとも思えないがな」
「カイの言う通りよ。ここから抗ってみせようじゃない。《グレイブモット》を進化、《悪魔龍王 デストロンリー》!」
「うげ……!」
「すべてのクリーチャーを破壊、そして《デストロンリー》でTブレイクよ」
《デストロンリー》の登場で場をリセットされてしまった暁。一気にペースを崩され、苦しくなる。
「う、うーん……まずいなぁ。とりあえず、《コッコ・ルピア》と《ボルシャック・NEX》を召喚! 《ボルシャック・NEX》の能力で、二体目の《コッコ・ルピア》をバトルゾーンに! これで次のターンに攻めきるよ!」
「残念だけど、これでゲームセットよ。《デストロンリー》を進化、《悪魔龍王 ドルバロムD》」
「うっそ! それはまずいよ……!」
「闇以外のクリーチャーとマナをすべて破壊ね」
一瞬にして、暁の場が空になる。掛け値なしで、なにもないのだ。
「《ドルバロムD》でTブレイク。ターン終了よ」
「私のターン、マナチャージして……ターン終了」
クリーチャーも、マナも、シールドも、すべてを失った暁には、なにもできることがない。
たった一枚のマナを置くだけで、ターンを終えるしかなかった。
「じゃ、《ドルバロムD》でとどめね」
「負けたぁ……うー」
「惜しかったですね、あきらちゃん」
とどめを刺され、テーブルに突っ伏す暁。広げたカードを片付けようともしない。
暁は突っ伏したまま、不貞腐れたように言う。
「コーヴァスがいればなぁ、あのターンで勝負ついてたのに」
「確かに、彼の能力は強烈よね」
「……プルさんたちも、コーヴァスさんのように、進化するのでしょうか?」
ふと、柚が言った。
「どうだろ? 私の時は、アポロンっていうクリーチャーが出て来て、力をくれたよ。その力で、コルルはコーヴァスに進化できたんだ」
コルルは暁と恋のデュエルの中で、コーヴァスへと進化した。
それは彼の本来の姿であり、そして彼が受け継いだ神話の力を纏ったもの。《太陽神話》と呼ばれた、アポロンが授けた力によるものだ。
「アポロン……確か、十二神話とかいう、あの世界を治めていたクリーチャーの一体よね」
それがコルルに力を与えたという。
それならばと、沙弓はその例を発展させる。
「私たちの語り手にそれぞれ対応した十二神話が存在していたのなら、暁以外の私たちの語り手にも、そういうことが起こりうる可能性があるってことよね」
「まあ、そういうことだね」
「うわっ、リュン!? いつの間に!?」
「随分とナチュラルに来たな……」
急に声がしたかと思うと、いつの間にか部室に、リュンが訪れていた。
向こうの世界からワープで直接部室に来るので、急なのは毎度のことだが、しかし何分久し振りに会ったものだから、少なからず驚いてしまう。
「色々あったあの時以来ね。しばらく振りだけど、どうしたの?」
「いや、ちょっと調べものをね……今回もその続きなんだけど。図書館で調べることがあるから、一緒に来てもらおうかと思って」
「えー! 図書館で調べものー……?」
露骨に嫌そうな表情をする暁。彼女としては、頭を使うより体を動かす方が性に合っている。いや、それ以前に、頭を使うことが非常に苦手なのである。
「というより、お前の調べものを、俺たちに手伝わせるっていうのか?」
「いやいや、そこまでは言わないよ。僕の調べものは僕がやる。でも」
「でも、なに?」
「今回、行く図書館が、君らとしても無視できないものだと思うんだよね」
もったいぶったように言うリュンは、一呼吸置き、さらに一拍溜めてから、口を開いた。
「これから行くのは、かの賢愚神話がもう一つの自分自身と謳った、あらゆる知識の眠る海底図書館。その名も——アカシック・∞(インフィニティ)」