二次創作小説(紙ほか)
- 64話 「アカシック・∞」 ( No.235 )
- 日時: 2015/09/24 02:24
- 名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: arA4JUne)
「……最後だけ投げた」
「なんか最近のリュンって、あまり私たちに干渉しなくなったわよね。なにかあったのかしら」
自分たちもクリーチャー世界についてはかなり知識を得ていたが、それでもまだそのすべてを知っているわけではない。知らないことも、非常に多い。
なので、リュンに導いてもらう必要性もまだ感じるのだが、リュンからしたらそうではないのだろうか。
「まあでも、とりあえず今回は私たちだけで動きましょうか。というわけで、リュンに代わって私が取り仕切るわ。そもそも遊技部の部長は私だし。日向さんは一時的な仮入部員ゲストってことで」
と、沙弓は部長ぶって、そんなことを言い出した。
「いつもなら二人組で分かれてたところだけど、今回は日向さんもいるし、二人組と三人組に分かれて——って、カイ! どこ行くの?」
とりあえず手分けして動くことを提案する沙弓だったが、すべて言い終わらないうちに、いつの間にか浬が扉の方へと歩いて行く。
沙弓はそんな浬を呼び止めようとするが、浬は扉に手をかけたところで、首だけで振り返り、
「……俺は一人でいい」
それだけ言い残し、扉の向こうへと消えてしまう。
そうして残された四人は、しばし呆けていた。
「……なにあいつ」
「かいりくん、どうしちゃったんでしょう……?」
「なんか今日の浬、ちょっと変だよねぇ。部室にいた時は普通だったのに」
どうにも様子のおかしい浬だったが、本人がすぐさまどこかに行ってしまったので、確かめようもない。
もっとも、問い詰めたところで口を割るかと言えば、そうとも思えないが。
「まったく、しょうがないわね……仕方ないから、カイは放っておいて、私たちで二人組に分かれましょうか」
「オッケーでーす」
嘆息する沙弓。今から追いかけてもいいが、あの様子だとなにを言っても聞かないだろう。仮にもクリーチャー世界で単独行動はあまり褒められたことではないが、この際仕方ないと割り切る。
ともあれ、浬は一人で行動。そして残りの四人で二人組に分かれることとなった。
真っ先に暁は、くるっと柚の方に向く——、
「それじゃーゆず、いっしょに——」
「あきら、いっしょに、いく」
「うぉっ!?」
——が、その直後に恋に腕を引かれ、その場で一回転してから彼女に連れて行かれた。
「あ……あきらちゃん……っ!?」
「あっと言う間に暁をかっさらっていったわね」
もう既にそこに暁と恋の姿はなく、沙弓と柚の二人だけが取り残されていた。
望む望まない関係なく、非常に強引で場当たり的な形になってしまったが、なにはともあれ手分けはなされた。
柚は、暁が消えて行った扉を見つめている。
「あきらちゃん……」
「……まあ、今回は私と行きましょうか、柚ちゃん」
「は、はひ……」
「ご主人様、よかったのですか?」
「なにがだ」
一人で図書館の奥へ奥へと進んでいく浬。ここまで、何度扉を潜っただろうか。いくら扉を潜っても同じような部屋ばかりなので、自分がどこにいるのか分からなくなりそうだ。
だがやがてエリアスに呼び止められるように、声をかけられた。
その呼びかけに応じて、足を止める。
「皆さんから一人はずれて……これでは、ご主人様が仲間外れにされているように——って痛いです痛いです冗談です!」
エリアスの軽口を、彼女の頭を鷲掴みにして制する浬。
そして、あらためてこの図書館を見渡した。
「……ここはまるで、バベルの図書館のようだな」
「それはなんですか?」
「現在、過去、未来において記される書物のすべてを保管している、架空の図書館だ。この場所は、その図書館の構造とよく似ている」
どこまで進んでも、同じ書架が並ぶ空間。
どこか謎めいていて、どこまでも続く、果てしなさが、この世には存在しないはずの図書館と似た雰囲気を感じさせる。
「しかし、当然だが、人はいないな」
「すべて自動的(オートマチック)に稼働していますからね。それにこの図書館は、保管と記録を同時に行う場所です。この世界に次々と流れ込んでくる概念を自動でキャッチし、知識として記録する役目も担うのが、この図書館です。なのでここはただの保管庫ではなく、記録場でもあるんです」
「自動で記録し、書籍の形にするのか……だが、そんなことを繰り返していたら、図書館に収まりきらないだろう」
「いいえ。この図書館は特殊なサイバーウイルスで構成されていて、必要に応じて増設——増殖します。なので、保管場所がなくなるということはありえません」
「……今更な話だが、スケールが違うな」
人間世界では考えられない技術と発想だ。
浬は超獣世界との差異を改めて実感しつつ、適当に本棚から本を抜き取り、ぱらぱらとめくる。
「……ご主人様は、調べたいことなどがあるのですか?」
「…………」
浬は答えなかった。
エリアスの言うように、浬には調べたいことがあった。だが、それがなにかは、彼女の前では言えない。彼女がいる前で調べることもできない。
(……言えるわけないよな。“こいつ自身”のことが知りたいだなんて)
賢愚の語り手、エリアス。浬の有する、賢愚神話の語り手。
浬は、彼女のことが知りたかった。しかしそれは彼女への好意から来るものではない。
むしろ、同情から来た欲求だ。
今まで、エリアスのことも、そして彼女が使えていた神話のことも、幾度と聞いてきた。彼女自身の口からも、少なからず語っている。
賢愚の語り手、エリアスの処遇。
かつて賢愚神話が彼女に為した行い。
それを知ってしまった浬は、彼女と、彼女の語る神話の間になにがあったのか——
——知りたい。