二次創作小説(紙ほか)

66話 「浬vsヘルメス」 ( No.239 )
日時: 2015/09/28 12:17
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: arA4JUne)

賢愚神話 シュライン・ヘルメス 水文明 (7)
進化クリーチャー:メソロギィ/サイバーロード/リキッド・ピープル 14000
進化MV—自分のサイバーロード1体と、水のクリーチャー2体を重ねた上に置く。
コンセンテス・ディー(このクリーチャーの下にある、このクリーチャーと同じ文明のすべてのクリーチャーのコストの合計を数える。その後、その数字以下の次のCD能力を得る)
CD4:このクリーチャーをバトルゾーンに出した時、バトルゾーンにあるクリーチャーを1体選び、持ち主の手札、または山札の一番上か一番下に戻してもよい。
CD9:自分のターンに相手がクリーチャーをバトルゾーンに出した時、または呪文を唱えた時、それを無効にし持ち主の墓地に置いてもよい。この効果はそれぞれ1回ずつ使うことができる。
CD12:相手のターンに相手がクリーチャーをバトルゾーンに出した時、または呪文を唱えた時、それを無効にし持ち主の墓地に置いてもよい。この効果はそれぞれ1回ずつ使うことができる。
Tブレイカー



 水晶が四散し、現れたのは、ヘルメス本人。
 鎧の如き輝く氷を纏い、その上から飛沫を散らし続ける水の外套を羽織り、凍てつく羽帽子を被っている。
 そして彼は、湾曲した水流の剣と、逆巻く杖を握った。
 彼は二つの武器を構え、浬たちの眼前に立つ。
 その姿こそ《賢愚神話 シュライン・ヘルメス》のあるべき姿であった。
「ご主人様……」
「あぁ……分かってる」
 まずい。
 直感で分かった。こいつはヤバいと。
 あれだけ言葉を並べていただけに、半ばハッタリだと思っていたが、そうではなかった。想像以上、言葉以上だ。
『さあ、僕の力をお見せしようか』
 《ヘルメス》は杖を浬にの方へと向け、言った。
『まずは手始めに……CD4(コンセンテス・ディー・フォー)!』
 刹那、水流が巻き起こり、《ガリレオ・ガリレイ》を包み込み、消し去ってしまった。
『《ガリレオ・ガリレイ》は山札の下に送らせてもらったよ。そして、僕でTブレイクだ!』
「……っ!」
 《ヘルメス》が剣を振るう。湾曲した刃は激しく波打ち、水飛沫を散らしながら浬のシールドを一枚、また一枚と切り裂いていく。
「ぐ……!」
 強烈な一撃だ。身体そのものは強靱そうには見えず、剣といってもただの飾りだと思っていたが、腐っても神話のクリーチャー。能力なしの何の変哲もない打撃であろうと、その破壊力は絶大だ。
 しかし浬は、砕かれた最後のシールドから、一つの光を見出した。
「っ、来た……! S・トリガー発動、《幾何学艦隊——」
「待ってくださいご主人様! それはダメです!」
 浬が割られたシールドを表向きにしようとしたところで、エリアスがそれを強引に止めてしまう。
「なっ……おい! どういうつもりだ!」
「ご、ごめんなさい! でも、ダメなんです。今のヘルメス様には、その呪文は効きません……いや、届きません」
「なんだと……?」
 エリアスの言っていることが分からない。だが、彼女は至極必死だ。とても冗談を言っているような雰囲気ではない。
 そんな二人を見て、《ヘルメス》は、
『……今のはいけないなぁ、エリアスちゃん。対戦の途中で横槍を入れるなんて、御法度だよ。ペナルティ1だ。これが終わったらお仕置きね』
「ひっ……た、確かに、過ぎた真似をしました……」
『まあでも、今のくらいはハンデってことにしておいてあげようかな。無知は罪ではなく、既知に至るための条件だからね。君が僕の力を知らないのも無理はないし、今回だけは特別だよ』
「……どういうことだ」
 いまいち話が読めない浬。とりあえず、エリアスに抑えられた《幾何学艦隊ピタゴラス》は、トリガーさせずに手札に入れる。
 そして、エリアスがおもむろに口を開いた。
「かつてこの世界を統べた神話のクリーチャーには、コンセンテス・ディーと呼ばれる力があります。これは自身が顕現した時に、自らの力とすべく取り込んだクリーチャーの力の大きさに比例して、力を増大させます」
「さっきの山札送りは、CD4といっていたな……察するに、進化元にしたクリーチャーのマナコストでも参照にするのだろう」
 力の大きさとは、つまりマナコストの大きさ。
 浬はコンセンテス・ディーと呼ばれる能力を、進化もとにしたクリーチャーのマナコストの大きさに応じて、能力が解禁されていく、または能力のグレードを上げていく能力だと推理した。
 そして、その推理は的中するが、
「はい……しかし、ヘルメス様の力の神髄はそこにはないのです。ヘルメス様の真の力は、CD9、及びCD12……各ターン一回だけですが、ご主人様が呼び出すクリーチャーの召喚と、呪文の詠唱は、無力化されてしまいます」
「な……っ!」
 その実態は、浬の想像を大きく逸脱していた。
 最初に呼び出すクリーチャーの召喚と、呪文の詠唱が無効にされるということは、支払うマナも、使うカードも、単純に考えて二倍以上かかる。そうでなくても、一度はほぼ確実に除去を無効にされるのだ。それだけ除去に対する耐性が強いということになる。
 自分のターンにカードを使うにも、相手ターンにトリガーするにも、一度は無力化されてしまう。攻めようとしても、強力なエースアタッカーだって召喚できぬまま。
 浬の脳裏に浮かぶ言葉はただ一つ。“狂ってる”。
『ふふふ、その通りだよ。僕の前では、如何なる行いも無為となる。賢者たる知識をもって、愚者たる縛りを君に科そう』
「…………」
 不適な笑みを浮かべる《ヘルメス》。浬は眼鏡の奥で彼を睨むように見つめると、スッとデッキからカードを引く。
「……俺のターン」
 そして手札を眺める。マナゾーンにカードを落とし、今この手で取れる最善の術を考える。
 そして、
「呪文《スパイラル・ゲート》。《ヘルメス》を手札に」
『おっと、忘れた訳じゃあるまいね。僕の能力で、その呪文は無効だよ』
 《ヘルメス》を包囲するようにして発生した渦は、《ヘルメス》が杖を一振りするだけで、瞬く間に凍結し、砕け散ってしまった。
 浬の唱えたカードは凍てつき、墓地へと落ちる。
 しかしそこで浬は、すかさず二枚目のカードを繰り出した。
「シンパシーでコストを下げ、呪文《スパイラル・フォーメーション》。《ヘルメス》を手札へ」
『おおぅ、二連続か。やるね』
 《ヘルメス》は関心したように言った。
 陣形から放たれる水流に包まれた《ヘルメス》は、二度は杖を振るわず、手札へと戻っていった。
 どんなクリーチャーも呪文も封殺してしまう《ヘルメス》だが、その能力には穴がないわけではない。彼は如何なるクリーチャーも呪文も無力化してしまうが、それは一度だけだ。つまり、立て続けに除去能力持ちのクリーチャーを繰り出したり、除去呪文を放てば、彼はその力を殺しきれなくなる。
 だが、浬は《ヘルメス》を手札に戻しただけ。再召喚二も手間がかかるとはいえ、また進化元を揃えられてしまったら、ヘルメスが再び降臨してしまう。
 なので、浬は間髪入れずに三枚目のカードを場に出した。
「《蒼神龍ヴェール・バビロニア》を召喚」



蒼神龍ヴェール・バビロニア 水文明 (5)
クリーチャー:ポセイディア・ドラゴン/オリジン 4000
自分がカードを1枚引く時、1枚のかわりに2枚引いてもよい。そうした場合、自分の手札を1枚捨てる。
このクリーチャーをバトルゾーンに出した時、相手の手札を見て、その中から1枚選ぶ。相手はそれを自身の山札の一番下に戻した後、カードを1枚引く。



「お前の手札から、お前自身——《ヘルメス》をデッキボトムへ」
「……流石に驚いた」
 ヘルメスは冗談でも戯言でもなく、本当に驚いたように、素のまま掛け値なしで、本心から出た言葉を口にする。
「まさかこの僕に対して、こんなにも早く対応してしまうなんて……そんな相手は、過去にはいなかった……いや、未来にだって現れないだろう」
 浬を賞賛するかのように、ヘルメスは言う。
 確かに浬の対応速度は非常に早かった。二連続で呪文を唱えてヘルメスの能力の隙を突き、バウンス。そしてそのまま、《ヴェール・バビロニア》の変則ハンデスで封じてしまったのだから。これでヘルメスは、もう出てくることはまずないだろう。
 とはいえ、これはたまたま浬の手札がそういう状況を作るのに都合よく揃っていただけで、結局は運が良かっただけだ。
(もっとも、《スパイラル・フォーメーション》も《ヴェール・バビロニア》も、奴が割ったシールドから出たんだがな)
 ともあれ、浬のターンはこれで終わりだ。
 ヘルメスのターンへと渡っていく。
「……僕をこんなに早く封じたその対応力の高さ——成程、君は賢愚の力のうち、賢者に相当する人間のようだね」
 ヘルメスは気を取り直したように、浬を再評価する。
「だけど僕は、賢者であり愚者、ゆえの《賢愚神話》だ。先ほどの僕は、“ゲーム”を根底から覆す愚者……そして今は——英知を支配する賢者だ」
 ヘルメスは威圧的に浬とエリアスを見下ろし、手にした杖を掲げる。
「君の戦略を逆利用させてもらおう。《サイバー・G・ホーガン》を召喚! 発動、激流連鎖!」
「くっ、やはりか……!」
 浬の懸念していたことが、やはり起こってしまう。
 《ヘルメス》を確実かつ絶対に除去するために仕方なかったことではあるが、《ヘルメス》をバウンスしたということは、その進化元にされた《ホーガン》は手札に残ったままなのだ。
 しかし《ヘルメス》を二度と場に出すわけにもいかなかったので、そこは割り切るしかなかったのだが。
 《サイバー・G・ホーガン》の力により、激流がヘルメスの山札を流す。
 こうして流されたカードは、結晶化し、クリーチャーの姿となっていく。
 だがそれは、浬のよく知るクリーチャーの姿であった。
「賢愚の知識よ、再生せよ——《龍素記号Sr スペルサイクリカ》」
 さらに、
「賢愚の知識を得し英雄、龍の力をその身に宿し、神話の真理で武装せよ——《理英雄 デカルトQ》」
 結晶の中から現れたのは、二体の龍。
 それも、身体が結晶でできたクリスタル・コマンド・ドラゴン。
 そしてそれは、どちらも浬の切り札たるクリーチャーだった。
「……!」
「なにを驚いているんだい? まさか知らない訳じゃないだろうに。君が従えているクリーチャーのほとんどは、元々僕が作ったものじゃないか。《スペルサイクリカ》も《デカルトQ》も、《サイクロペディア》も《Q.E.D.》も《Q.E.D.+》も、そして——」
 ヘルメスは浬から目線を外し、その横の、小さな彼女へと、彼女だけへと、目を向ける。
「——そこの、エリアスもね」
「っ!」
 ビクンッ、とエリアスの身体が震えた。
 まるで今まで避け続けて来た事実を指摘されたかのように、彼女の身は揺れている。
「……どういうことだ?」
「どういうこともこういうことも、そのまんまの意味さ」
 ヘルメスは悪戯っぽい邪悪な薄ら笑いを浮かべ、訥々と語る。
 自身を語るエリアスの、その出自を。
「彼女も他のクリーチャー同様、僕の作品の一つという意味だよ。とはいえ、彼女は特別だけどね。龍素記号を抽出して、龍程式を解いて、できた結晶体を龍化させるだけの他のクリーチャーとは違う」
 震えるエリアスを見下ろしながら、それを語ることが誇りであるかのように、自慢げにヘルメスは語る。
 しかし彼が語るほどに、彼女の身は縮こまり、冷たく、閉ざされていく。
「エリアスは僕が創造した最初で最後、唯一無二の人造生命体であり、その材料は神話の一柱たる僕自身——そう、いわば彼女はホムンクルスという奴さ。もっと言えば——」
 最後に一言。
 言わなくても、もう十分伝わった。それでも彼は、最後に付け加える。
 それだけは認めたくないと言うような彼女の意志すらも、踏み躙って。
 ヘルメスは、告げる。



「——僕の娘だ」