二次創作小説(紙ほか)
- Another Mythology 7話「ピースタウン」 ( No.24 )
- 日時: 2014/04/27 01:18
- 名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: hF19FRKd)
爆竜 バトラッシュ・ナックル 火文明 (6)
クリーチャー:アーマード・ドラゴン/フレイム・コマンド 6000
このクリーチャーをバトルゾーンに出した時、バトルゾーンにある相手のクリーチャーを1体選んでもよい。その選んだクリーチャーとこのクリーチャーをバトルさせる。
W・ブレイカー
「召喚時に相手クリーチャー一体と強制バトル!? 《スピア・ルピア》がやられちゃうじゃん!」
暁の言う通り、《バトラッシュ・ナックル》は《スピア・ルピア》と強制的にバトルし、一方的に殴り倒した。
『グラアァァ!』
「うっ、《ヘーゼル・バーン》の能力か……!」
《ヘーゼル・バーン》は、自分の火のクリーチャーがバトルに勝った時、相手のシールドを一枚ブレイクできる。
「でも、《スピア・ルピア》の能力で、山札から好きなドラゴンを手札に加えられる……」
その直後、《ヘーゼル・バーン》が攻撃し、さらに暁のシールドが割られる。これで残りシールドは二枚。
「やっば……!
相手のアタッカーはWブレイカーの《バトラッシュ・ナックル》と、《ヘーゼル・バーン》。三打点揃っており、少なくとも一体は除去しなければ、とどめを刺されてしまうが、
「……《爆竜トルネードシヴァXX》を召喚」
暁にできることは、これだけだ。それ以上はなにもできず、ターンを終了する。
『グルルル……!』
《バトラッシュ・ナックル》は、ダメ押しのように《フレフレ・ピッピー》と《トット・ピピッチ》を召喚。そして、自分自身で暁のシールドへと突貫する。
大きく腕を振りかぶり、持ち前の鋭利な鉤爪で、残った二枚のシールドを引き裂く——
「——S・トリガー発動!」
だが、引き裂かれたシールドは光の束となって収束する。そしてその光は、巨大な螺旋槍の罠と化すのだった。
「《ドリル・トラップ》! 《ヘーゼル・バーン》を破壊!」
「ふぅ、危なかったな」
「本当だよ」
安堵の溜息をもらす暁とコルル。
そしてここから、二人の反撃が始まる。
「私のターン!」
《バトラッシュ・ナックル》のシールドは三枚。場には《バトラッシュ・ナックル》自身と二体のファイアー・バード。
《トルネードシヴァ》で《バトラッシュ・ナックル》を殴り倒し、能力でファイアー・バードどうしを相打ちにして次のターンを乗り切るという手もあるが、スピードアタッカーが来ればその時点でやられてしまう。
それに暁の性格上、決めることが可能であれば、このターンで勝負をつける。
「《トルネードシヴァ》で攻撃! その時《トルネードシヴァ》の能力発動! 《トルネードシヴァ》と《バトラッシュ・ナックル》でバトル!」
《トルネードシヴァ》の鎖が、《バトラッシュ・ナックル》を拘束する。そしてそのまま引き寄せ、至近距離から炎を浴びせて破壊してしまう。
これで暁の“火のドラゴンがバトルに勝利した”ことになる。つまり——
「暁の先に勝利を刻め——《爆竜勝利 バトライオウ》をバトルゾーンに!」
——《バトライオウ》が出て来る。
「さらに……コルル! 行って」
「おう! 任せろ!」
太陽の語り手 コルル 火文明 (6)
クリーチャー:ファイアー・バード/アーマード・ドラゴン 4000
自分の火のファイアー・バードまたは火のドラゴンがバトルに勝った時、このクリーチャーを手札からバトルゾーンに出してもよい。
スピードアタッカー
ドラゴンの勝利に呼応するのは、なにも《バトライオウ》だけではない。《トルネードシヴァ》の勝利によって《コルル》も手札から飛び出した。
「そっちの《トット・ピッピ》を使わせてもらうよ。《トット・ピピッチ》の能力で《バトライオウ》はスピードアタッカーになる!」
「グウゥゥ……!」
呻くバトラッシュ・ナックル。《トット・ピピッチ》は相手のドラゴンもスピードアタッカーにしてしまうので、それを暁に利用されてしまった。
「《コルル》でシールドブレイク!」
《トルネードシヴァ》のWブレイクと《コルル》のシールドブレイクで、バトラッシュ・ナックルのシールドはゼロ。
最後に《バトライオウ》が剣を構え、駆ける。
「行っけぇ! 《バトライオウ》で、ダイレクトアタック!」
デュエルが終わると、神話空間が閉じ、デッキのカードがすべて暁の元へと戻ってくる。
さらに倒した《バトラッシュ・ナックル》も、カードとなって暁の手元に落ちた。
「ふぅ、なんとか倒せたよ……」
「あきらちゃんっ!」
一息つく暁に、柚が駆け寄ってくる。
「大丈夫ですか?」
「うん、私は大丈夫。ただ、制服がね……」
割られたシールドの破片は、プレイヤーを刻む刃だ。
傷は浅く、すぐに治るようなものだが、衣服の損傷は自然治癒しない。
「どうしようか、これ」
一昨日はなんとか誤魔化し、新しく買い替えることができたが、こう何度もダメになって何度も買い直していてはキリがない。
「これからは普通の服に着替えてから行こうか」
「それだって同じことだろ。対戦中にシールドが割られる限り、服が破れることは避けられない」
身を持って体験している浬が言うのだから、説得力がある。
シールドを一枚も割られずに勝利すれば問題ないが、暁のデッキの性質上それは難しい。仮にブロッカーでガチガチに固めたデッキであっても、一枚も割られずに何度も勝利を収めるのは、この上なく困難だ。
「いっそ破れない服とかがあればいいのにね」
「なにを馬鹿なことを。そんな都合のいいものがあるわけ——」
「あー、それならあるかもよ」
「あるのかよ!」
リュンが思い出すように言う。
「破れない服って言うか、つまりいくら損傷してもいい繊維で縫製された衣服ってことだよね。切断面が自然にくっつく繊維がこの世界にはあるんだよ。だから僕の知り合いの職人に依頼すれば、作ってくれるかもしれない」
「職人って、裁縫とかもするんですか……?」
「大抵は機械を弄ってるけど、たぶんできるじゃないかな。彼女、なんでも作るし」
ただ問題は支払いだよなぁ、と嫌そうに呟くリュン。しかし彼としては、服が破れるなどと言う理由でこちらの世界に来ることを拒まれては困るのだ。
「なんかよく分かんないけど、じゃあその職人さんのところに行こう」
「その人……じゃなくて、クリーチャーかしら? は、どこにいるの?」
「この山を下った町の、小さな工房だよ。実を言うと、今回の件は彼女に頼まれたんだ」
いつかのツケの返済代わりに、と小さな声でリュンは付け足すが、誰にも聞こえていない。
ともあれ一同は山を下り、町へと向かうのだった。
この世界は文明ごとにクリーチャーの棲息区域が大きく分かれているが、その区分に当てはまらないクリーチャーも数多くいる。特に世界を治める者がいなくなったので、最近は特にそうだ。
さらに十二神話がいなくなったと言っても、完全にクリーチャーの管理機能が潰えたわけではない。一部のクリーチャーが集まり、自治区として町を作り、そこに住まうクリーチャーも存在する。
そのようなクリーチャーが集う町の一つがここ、ピースタウンだ。
「なんか凄いレトロな感じだけど……思ったよりも広そうね」
「スラム街……は、言いすぎか。木造建築ではなさそうだが、昭和の街並みっぽいな」
ここは中央にある広場を中心に、各方角へ通路が一直線に伸びている町で、移動するにはほとんど広場を通らなければならないのが不便だが、人の通りはよく、活気のある町だった。
リュンに導かれて歩を進める一同。道中、物珍しそうにクリーチャーがこちらを見つめることもあったが、人型のクリーチャーが皆無というわけでもないので、変な視線はそれほど多くなかった。
「ここだよ」
リュンの案内によって辿り着いたのは、この町の最北端、北通路の奥の奥のさらに奥から少し外れている、辺鄙なところに建てられた小屋だった。壁はトタンのような材質で、真っ先に“工房”という単語が頭の中に浮かんでくる。
「ウルカさーん。入るよー」
そんな風に声をかけ、リュンは金属製の扉を押して中へと入る。四人もその後に続いた。
中は外見通りの工房で、壁にはスパナやペンチ、鋸などの工具がぶら下がっており、他にもよく分からない機械のようなものが置かれていたり、ボルトや鉄くずが散乱している。
そんな中、工房に見える人影が一つ。クリーチャーなのだろうが、少女のような姿をしており、セミロングの金髪と赤いキャスケット帽が目を引く。
その少女は背中を向けていたが、工房に誰かが入ってきたことに気付いたようで、ゆっくりと振り返った。
「おー、来たねリュン……と、後ろの連中は誰?」
「前に話した人間だよ」
「ああ。例の勇者様ご一行か」
少女は納得したように頷くと、暁たちに目を向け、
「あたしはウルカ。この工房で色々直したり作ったり壊したりしてまーす。よろしくー」
「よろしく……ん? 壊したり?」
「なんでもないよ」
忘れて忘れて、と手を振るウルカ。外見と相まって、非常に人間らしい素振りを見せるクリーチャーだった。
「で、今日は何用? じゃなかった、山のあいつぶっ飛ばした?」
「倒したけど、じゃなかったじゃないよ。客に対してなんで自分の依頼を優先させるのさ」
「細かいことは気にしなーい。まあ潰してくれたんならそれでいーや。これでやっと部品の発注がスムーズになるってもんだよ。それでなんの用?」
やっと本題に戻るウルカ。リュンは手短に用件を伝えた。
「ふむふむ、なーるほど。しかし地球ってのは、意外と不便なんだね。その形で服の強度が低いってどーゆーことなのか」
「地球はここと比べて統制がしっかりしてるし、争い事が少ないからね。服を丈夫にする必要がなかったんだよ、きっと」
「ふーん。まあなんでもいーや。で、服を作ればいいんだよね。デザインはどうする?」
「なんか格好良い感じで!」
即座に暁は答えた。
「普通に制服でよくないか?」
「やだよ、面白くない。せっかくだし、なんか格好良い衣装がいいよ」
暁はこの主張を譲らず、浬もどうでもいいとおもったのか、すぐに引き下がった。
「よーし、じゃあこっちで適当にかっこいーの作っとくよ」
「って言うか、クリーチャーが服を作るってどうなんだ……?」
何気なく浬が疑問を口にすると、ウルカが食いついた。
「そりゃあクリーチャーだって服ぐらい作るよ。この世界にも服って概念は存在するからね。概念さえ存在すれば、この世界はなんだって起こせるんだから。特にアウトレイジとかオラクルが勢力を伸ばしてからは、衣服の需要も高まって来てるし、コスプレイ屋のオニマネなんかは、衣装を作るために生きてるような子だなんだから。あたしも人間って概念がこの世界にできて、この姿になってからは服を着る楽しみって言うのを理解してね。いやー、いいよ、服。ただ身に纏うだけなのに興奮が抑えられないし、作ってるだけでもわくわくするし、なにより人に着せようと思って想像してみるともう——」
「分かった、分かった。分かったからもういい」
ウルカが熱く語り始めたところで、浬がストップをかける。
「……まーとにかく、服はこっちで作っとくから、出来上がったら取りに来て」
「了解したよ」
「じゃー今から作るんで、ほら、出た出た。作業の邪魔だよ」
「え、え? ちょ、ちょっと」
ウルカに身体を押され、リュン諸共四人は工房から追い出されてしまった。
「完成したら連絡するから。じゃーねー」
バタン、と言って扉は閉められた。丁寧にガチャッと鍵をかける音まで聞こえる。
「……追い出されてしまいました」
「ウルカさん、基本的に一人で作業したがる人だから」
人じゃないけど、と付け足してから、リュンは携帯を取り出す。
「今日はこの辺にしておこう。衣装の受け取りは僕がしておくから、受け取ったらそっちに渡しに行くよ」
その言葉に異を唱える者はいなかった。
リュンが指定した地球の座標を入力し、それを送信する。
そして四人は、三度地球へと戻っていくのだった。