二次創作小説(紙ほか)
- 65話 「浬vsヘルメス」 ( No.240 )
- 日時: 2015/09/27 16:49
- 名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: arA4JUne)
「ぁ……ぅ……」
隣でエリアスの呻き声が聞こえる。
信じたくないことを信じ込まされるような嗚咽が漏れる。
「娘だと……?」
「そうだよ。まあその辺は考え方にもよるけどね。でも、エリアスは紛れもなく僕自身を糧に創られている。この僕の血肉、精の源泉、賢愚の知識、魔素……それらを錬成して、創造されたのが彼女さ。それは、彼女自身が証明してくれるはずだよ」
ただ事実を述べているだけだ、と言うようにヘルメスは言う。
確かにそれは、結果としてはただの事実確認でしかないのかもしれない。しかし彼の言葉はひとつひとつが冷たい刃となって、彼女を刻む。
「ねぇ、そうだよね、エリアスちゃん?」
「……その通りです」
ヘルメスに促され、エリアスはゆっくりと首肯した。
その動作さえも、とても重苦しく、痛みを伴っているかのように、辛さを噛みしめて頭を垂れる。
「私は……ヘルメス様の手で創られたクリーチャーです……私の身体はヘルメス様の身と同じ。私の血も、肉も、知識も、すべてがあの方のものを使って創られているのです……」
「まあ、そんな話は今となってはどうでもいいことだけどね。それより、ゲームを再開しようじゃないか」
ヘルメスは、嫌らしく笑みを浮かべる。
沈んだ表情のエリアスのことなど、もはやどうでもいいと言うかのように、対戦を再開した。
「まずは《スペルサイクリカ》の能力を発動。墓地の呪文《幾何学艦隊ピタゴラス》を唱えるよ。《ロココ》と《ジャバ・キッド》をバウンスだ」
ヘルメスは隙を見せない。再びバウンスからの《ヴェール・バビロニア》のハンデスを食らわないよう、手札に戻すクリーチャーは選んでいる。
「……俺のターン。《ロココ》を召喚。そして」
浬としては、言及したいこともあった。しかし、それを知るための一歩を踏み出さない。
対戦も始まってしまった。気を散らしていると、あっという間に飲まれると思い込ませ、手札のカードを繰る。
《ロココ》によってコストを下げつつ、浬は新たな結晶龍を呼び出した。
「浬の知識よ、扉を開け——《龍素記号Mm スペルサイケデリカ》!」
龍素記号Mm スペルサイケデリカ 水文明 (7)
クリーチャー:クリスタル・コマンド・ドラゴン 7000
このクリーチャーまたは自分の他のコマンド・ドラゴンを召喚してバトルゾーンに出した時、自分の山札の上から4枚をすべてのプレイヤーに見せる。その中から呪文を1枚相手に選ばせ、残りを自分が好きな順序で山札の一番下に置く。その後、その呪文をコストを支払わずに唱える。
W・ブレイカー
《スペルサイクリカ》の体内で発見されたもう一つの龍素記号、それが結晶化し、龍化したもう一つの姿。それが《スペルサイケデリカ》。
失われた知識を再び取り戻す力を持った《スペルサイクリカ》とは逆に、《スペルサイケデリカ》は、新たな知識の扉を開くことができる。
「《スペルサイケデリカ》を召喚したことで、俺の山札から四枚を表向きにする。さあ、この中から呪文を選べ」
捲られた四枚は《幾何学艦隊ピタゴラス》《龍素解析》《英雄奥義 スパイラル・ハリケーン》《甲型龍程式 キリコ3》。
「うーん、これは悩むねぇ……変なクリーチャー出されたくはないし、なら、《スパイラル・ハリケーン》にしようかな」
「……《スパイラル・ハリケーン》の能力で、《デカルトQ》をバウンス。さらにマナ武装7発動、残りの二体もバウンスだ」
ヘルメスのクリーチャーが一挙に手札に戻される。
《ピタゴラス》なら二体のバウンスで済むところを、ヘルメスはわざわざ《スパイラル・ハリケーン》を選択し、すべてのクリーチャーをバウンスさせた。
一見すると彼のミスプレイだと思われるかもしれないが、浬はそれでラッキーだと思うことはない。
むしろ、こちらの考えが読まれていることに対する、焦りが浮かんでくる。
(奴が《ピタゴラス》を選んだならば、俺は《スペルサイクリカ》と《デカルトQ》をバウンスするつもりだった……だが、こいつ、なんとしてでも《ホーガン》を使い回す気だ……!)
浬からしたら《ホーガン》の能力を何度も使われたくはない。だがそんな浬の思い通りに動く相手でもなかった。
ヘルメスは浬の思惑すらも利用して、浬の想定する流れを逆流する。
「さて、それじゃあ僕のターンかな。まずは呪文《ブレイン・ストーム》。カードを三枚引いて、手札を二枚、山札の上に戻すよ」
「っ、ということは……!」
「その通り。《サイバー・G・ホーガン》を召喚! 激流連鎖! 出てきなよ《スペルサイクリカ》《デカルトQ》!」
クリーチャーを除去した返しに、すぐさま同じクリーチャーを展開し返された。前のターンの除去が、ほぼ完全に意味をなしていない。
「《スペルサイクリカ》の能力で《幾何学艦隊ピタゴラス》を唱えるよ。《ロココ》と《スペルサイケデリカ》をバウンスだ。さらに《デカルトQ》のマナ武装でカードを引き、手札とシールドを入れ替えるよ」
再び呼び出される《スペルサイクリカ》が呪文を再発させ、浬のクリーチャーが手札に戻される。
だが、手札に戻されたのなら、浬にも取れる手段はあった。
「《ロココ》と《スペルサイケデリカ》を再び召喚! 山札の上から四枚を捲る!」
手札に戻されたなら、もう一度召喚できる。つまり、《スペルサイケデリカ》の能力をまた使うことができるのだ。
しかしこうして捲られたのは《スパイラル・フォーメーション》《幾何学艦隊ピタゴラス》《龍覇 メタルアベンジャー》《理英雄 デカルトQ》の四枚。
「流石に、不確定な呪文詠唱じゃ長くは持たないよ。《スパイラル・フォーメーション》を選択」
《スペルサイケデリカ》の呪文詠唱は、山札の上四枚の中から、しかも相手が選択するため、不確定で相手依存となり、非常に不安定な能力だ。
たとえ除去カードが捲れても、他に場に影響を及ぼさないような呪文があるなら、相手はそちらを選択する。そういったことが普通に起こり得てしまうため、扱いづらく、自分の思い通りにもならず、劣勢を切り抜けるには難しいクリーチャーだ。
「く……っ! 《デカルトQ》をバウンスだ……!」
それでも必死に食らいつく浬を見つめるヘルメス。
彼は、浬を見ながら、口を開く。
「……飽きた」