二次創作小説(紙ほか)

75話 「ラストダンジョン」 ( No.260 )
日時: 2015/10/05 04:43
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: arA4JUne)

「——あの妙な男、なにをしたか知らんが、どうやら邪魔をされたようだな……まあいい。俺が直接手をかけて味わうのも、悪くない。むしろ最高にそそる」
「どうでもいいわ。うちの可愛い後輩たちに変なことしたら、許さないわよ」
「許さない? なにを言うかと思えば、笑わせる。今に貴様が、俺に許しを請うことになる。そうなるまで、たっぷりと弄んでやろう」
 卑しい視線を向けながら、アスモシスは舌なめずりする。非常に不愉快な声と仕草だ。
「……ところで、あの子たちにはなにをしたの?」
「なに、少し眠って貰っただけだ。命の根源にあるものは魂。その魂を鎮めただけよ」
 肉体を失った悪霊を鎮めて悪行を封じるように、生きた肉体であっても、魂を鎮めることで力を抑え込むことができる。
 つまるところは、皆は昏睡状態にあるというだけだ。恐らく、命に別状はない。
「まあ、貴様と遊んだ後、順番に一人ずつやっていくだけだがな。男の方は、どうでもいいが。だが今回の女は上等だ。今までに見たどのクリーチャーとも違う質感……脆そうだが、新たに感じられる感覚、想像するだけでそそる……そそり立つぞ……! 特に、あの小さな娘、小柄でありながらも、肉がよくついて——」
「黙って。あなたの下品な声で、後輩を語られるのは虫唾が走るわ」
 そう吐き捨てる沙弓と、アスモシスのデュエル。
 沙弓の場には、まだなにもない。対するアスモシスは《オタカラ・アッタカラ》を出し、沙弓以上に墓地を溜めている。
「でも、こっちもそろそろ動かないとね。呪文《超次元リバイヴ・ホール》! 墓地から《ドライゼ》を回収。そして、超次元ゾーンから《時空の斬将オルゼキア》をバトルゾーンへ!」



時空の斬将オルゼキア 闇文明 (7)
サイキック・クリーチャー:デーモン・コマンド 6000
W・ブレイカー
覚醒—ターン中、自分のデーモン・コマンドが破壊されていれば、そのターンの終わりにこのクリーチャーをコストの大きいほうに裏返す。



 超次元の門が開かれ、時空を越えた力を手に入れた《オルゼキア》が現れる。
(とはいえ、覚醒はしばらくお預けね)
 覚醒しなければ、この《オルゼキア》は少し打点が高いだけのただの準バニラ。
 相手もあまり動いていないので、この段階で出したいサイキック・クリーチャーがいなかったので、とりあえず出しただけだ。すぐに破壊できるようなデーモン・コマンドは、今の沙弓の手にはない。
 だが、返しのアスモシスのターン。
「《オタカラ・アッタカラ》を進化! 《悪魔龍王 ロックダウン!》」
 宝物を隠す悪夢のぬいぐるみは、悪魔龍王へと進化する。
「《ロックダウン》の能力発動だ! 《オルゼキア》を破壊!」
 《オルゼキア》は《ロックダウン》の能力により、パワーをゼロにされ、破壊される。
「でも、私のコスト4以上の闇のクリーチャーが破壊されたから、《月影の語り手 ドライゼ》をバトルゾーンに出すわ! 手札を一枚墓地へ!」
「だからどうした! そのまま《ロックダウン》で攻撃! Wブレイクだ!」
「っ……!」
 荒々しく《ロックダウン》の攻撃が、沙弓のシールドを破壊する。
 砕かれたシールドの破片は、沙弓の身を刻む凶器となる。特殊な繊維で縫製され、シールドの破片程度では切れないはずの衣服すらも切り裂き、彼女の肌を、肉を、抉り取る。
「う、く……っ!」
「沙弓! 大丈夫か!?」
「問題ないわ、このくらいなら、まだ……」
 服は多少破れた程度。身体も、至る所から血が流れているが、どれも傷は浅い。
 だが、その姿を見るアスモシスの顔は、下劣で、下品で、淫らに歪んでいた。
「いいぞ、その姿……そそるぞ。線は細いが、なかなか女らしい身体をしているではないか……!」
「てめぇ、俺の女を変な眼で見てんじゃねぇぞ……!」
「あなたの女になったつもりはないけども、確かにちょっと嫌な眼ね」
 沙弓は自分の体——衣服を見つつ、アスモシスに視線を移す。
 その懐疑的な眼差しになにかを察したのか、アスモシスは口の端をつり上げた。
「そうだ。俺の欲望が、俺の情欲が、俺の渇望が、俺に力を与える! 俺がお前を“犯そう”と思い続ける限り、劣情を抱き続ける限り、その渇望が勝る限り、お前がどのような鎧に身を包もうとも、俺の前では意味をなさない!」
 呼気荒く、下劣な情を隠そうともしないほどに興奮したように、アスモシスは叫ぶ。
 その姿は欲情を渇望した獣。邪淫を司る悪魔そのものだ。
「……要するに、ウルカの作ったこの服も、あの発情龍相手じゃただの布きれってことね」
 その邪淫の対象にされている沙弓はというと、思いの外冷めていた。まともに取り合っても仕方ない。それに、感情的になって冷静さを欠いたら、それはプレイングに影響を及ぼす。
 ゆえに沙弓はつとめて冷静に振る舞う。確実な勝利を得るためには、それが最も有効な手なのだから。
 後輩を、大切な部員たちを助けるには、必ず勝たなくてはいけない。そのためには、下手に熱くなってはいけないと、自分を律する。
 ——だが、
「ふざけんなよてめぇ……!」
 沙弓の場に存在する唯一のクリーチャー、《ドライゼ》は、既に銃を抜き、怒りを露わにしていた。
「ふざけてなどいない。俺は俺の渇望のまま、その衝動に従っているだけだ……それが俺の存在理由であり、生きる意味、目的——大罪の龍である証明だ」
 確かに、アスモシスはふざけているようには見えない。
 ただただ、己の欲望——渇望に身を委ねているようだ。
「おまえ程度の雑魚に、俺の渇望を止められるものか! お前の女とやらは、俺の渇望のままに犯され、壊され、そして死ぬだけだ」
「……言ってろ。俺はもう、“あの時の過ち”は繰り返さねぇ」
 ドライゼは銃のトリガーに手をかけたまま、語る。
 語り手として、語り出す。
「俺は主を絶対に守らなきゃいけねぇんだよ。この命に代えてもな……!」
 彼は、いつかリュウセイとの戦いで見せたような——いや、それ以上に厳しく、険しく、そして脅迫的なまでの強い決意を持った眼で、なにかを見ている。
 それは、アスモシスではない。
 沙弓でもない。
 遠く遠く、もうこの世界にはいない、最愛の人のように、遠くを見つめている。
 その人のためならば、自らの命など惜しくはないとでも言うように。
 それが、彼の贖罪であるかのように。
 ドライゼは、アスモシスから沙弓を守るべく、立ちふさがる。
「ドライゼ……」
 ふと。
 沙弓の脳裏に、焼き付いた声が蘇る。
 かつてのイメージが、フラッシュバックする。
 いつかの、短く長い、狭くも広い、闇の世界の記憶が——



 ——生きろ——

 ——もうダメだよ——

 ——私たちの分も、生きて——

 ——みんな……死んじゃうんだ——



「俺は、主を——沙弓を守るためなら、喜んで死のう」
 それが俺の望みだ、と。
 ドライゼは己の決意を締めくくった。
 それは強固な意志。
 彼が思い続けた彼の使命。
 かつては成し遂げられなかった忠義。
「あぁ……そう」
 主のためには命すらも捨てる覚悟のドライゼ。
「だったら——」
 その、彼の覚悟は——



「——勝手に死んでなさい」



 ——拒絶された。

 そして、刹那。

 《ドライゼ》の身が——爆ぜた。