二次創作小説(紙ほか)

75話 「ラストダンジョン」 ( No.262 )
日時: 2015/10/23 03:09
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: arA4JUne)

(…………)
 暗い闇の墓場。
 今まで幾度と訪れた場所であり、クリーチャーなら避けては通れる道。ましてや自分は闇文明のクリーチャー、むしろこの場がフィールドとさえ言える。
 しかし今は、酷く冷たい。
 いつも以上に、その闇は深い。
 暗闇すらも見通せるはずの目は、真っ暗に曇っている。
 その中で、ドライゼはただ一人、佇んでいた。
(俺は……なにをしていたんだろうな)
 なぜ、自分は今、こんなところにいるのか。
 一度はこの穴蔵の外に出て、戦場に立っていたはずだ。
 それなのに、いつの間にかこの場に戻ってきてしまった。
 自分の、せいなのか。
(沙弓を、怒らせたのか……?)
 自分をこの場所へと叩き落した時の彼女。
 盟友を呼び出すために、自分を生贄とした。
 その姿は、憤りを感じさせるものでった、ように思える。
 しかし激情から来るものではない。どころか、悲哀さすら感じられた。
 いや、寂寥というべきだろうか。
 なんにせよ、この場へと落とされた自分は、ただ考えることしかできない。
 確かめることすら、でき得ない。
(……俺は、どうしたらいいんだ……)
 自分の覚悟を、拒絶された。
 あの時、己が犯した過ち。やり切れない罪。
 その贖いのように抱き、己に契った覚悟。
 それは、彼女の前では拒絶された。
 自分の覚悟は間違っていたのか。
 “彼女”を救いきれなかった自分に誓った忠義は、不義なのか。
 分からない。
 なにもかもが。
(どうすれば、俺はあんたに相応しい“影”になれるんだ……なあ、教えてくれよ……アルテミス——)
 力なく、語り手は呟く。
 月光すらも届かない、墓地の底で——



渇望の悪魔龍 アスモシス 闇文明 (8)
クリーチャー:デーモン・コマンド・ドラゴン 9000
このクリーチャーをバトルゾーンに出した時、自分の他のクリーチャーを好きな数、破壊してもよい。こうして破壊したクリーチャー1体につき、相手は自身の手札を1枚選び、捨てる。
このクリーチャーまたは自分の他のクリーチャーが破壊された時、相手は自身のクリーチャーを1体選び、破壊する。
W・ブレイカー



 血染めのように赤い龍の頭蓋、蝙蝠のような黒い翼、下半身は凶悪な悪魔の姿を成す大罪の龍。
 多くの死霊を従え、その龍は——邪淫を渇望する大罪の一角、《渇望の悪魔龍 アスモシス》は顕現する。
 《アスモシス》は場に現れると、口の端を卑しく吊り上げ、下賤な笑みを浮かべる。
『俺の能力で、《ロックダウン》《チョキラビ》、そして《ブラッディ・メアリー》二体を破壊!』
 突如、《アスモシス》は、自らのクリーチャーに手をかけた。
 《ロックダウン》と《チョキラビ》は粗雑に、その魂をただ喰らうだけ。
 だが、二体の《ブラッディ・メアリー》は違った。
『《メアリー》どもはもう何度も犯ってるから少し飽きたが……メインディッシュを喰う前の、前菜程度にはなるか』
 そう言って、《アスモシス》は《ブラッディ・メアリー》たちに近づいていく。
 そして、彼女たちを——犯す。
 鈍く怪しく光る鎖で縛り、締め付け、縊る。肉が骨が、軋む音が響く。
 衣と皮を剥ぎ取り、赤く染まる身体を晒す。その身を、壊れんほどの力で愛撫する。
 か弱い悲鳴が、小さく漏れる。その悲鳴すらも楽しみ、その手で彼女たちの聖域を貫く。
 淫らな赤紫色に変色した、太く、鋭く、巨大な爪で、抉るように彼女たちの中身をかき回す。
 血肉に混じった快楽を溢れさせ、痛みに伴う悦楽を垂れ流し、《アスモシス》は彼女たちを、死の絶頂まで弄ぶ。
 それが当然の行いであるかのように、残酷なまでに淡々と、醜悪なまでに淫乱に、《アスモシス》は少女たちを、己の邪淫の罪で犯す。
「う……んぅ……」
 沙弓は思わず口元を押さえ、目を逸らす。これ以上直視していたら、喉元までこみ上げてきたものがすべて出てきてしまっていた。それほどに、この惨劇は見るに耐えない。
 たかだがクリーチャーといえど、少女のような姿をしているのだ。彼女たちにも意志はある。尊厳もある。
 それを、《アスモシス》はいとも簡単に踏み躙った。
 自らの渇望のために。
 彼女たちの受けた痛み、苦しみ、辱め——種族は違えど同じ女、沙弓はそれを少なからず感じ取った。
「……酷い、わね……」
 ぽつりと、そんな言葉が漏れた。
 《ブラッディ・メアリー》たちは、《アスモシス》の渇望の餌にされている。
 そうして最後に訪れるのは、凄惨なる死。
 身体中が、その外面も内面もが、刻まれ、潰され、荒らされ、犯され、すべてを壊され、死んでいく。
 痛み、苦しみ、死すらも楽しむファンキー・ナイトメア。《ブラッディ・メアリー》は最上の苦痛と愉悦を感じながら、羞恥と絶望の果てに死んでいった。
 そして、渇望を満たした彼は、大罪の力を解き放つ。
『まだ、終わらないぞ……俺が破壊したクリーチャーの数だけ、お前の手札を墓地へ!』
「っ……!」
 次の瞬間、沙弓の手札がすべて、死した魂によって食い荒らされ、墓地へと落とされる。
 さらに、《アスモシス》の渇望は続く。
 未来すらも黒く染め上げるかの如く、明日という時にすらも死をもたらすかのように、その渇望は果てることがなかった。
『俺のもう一つの能力で、俺のクリーチャーが破壊されるたびに、お前は自分のクリーチャーを選んで破壊する!』
 《アスモシス》が破壊したクリーチャーは四体。
 よって沙弓は、《フォーエバー・オカルト》《クラクランプ》、そして《ホネンビー》二体——すべてのクリーチャーの命を差し出さなければいけない。
 次の瞬間、沙弓のクリーチャーがすべて死滅した。
『グ……フフフ、ヒャハハハハハッ! これだ、これが俺の望む渇望だ! いいぞ、俺の渇望は順調に満たされている……次はお前の番だ、小娘』
「……っ」
『お前には、《メアリー》ども以上のモンをくれてやる……だから、奴らよりも俺を悦しませてくれよな……!』
 《アスモシス》は、悦には入ったように、沙弓を見つめ、求めるように語り出す。
『あぁ、待ちきれない、想像するだけでそそる……苦痛と羞恥に歪むその顔、肉と骨と血が彩る身体、激痛と快楽が奏でる悲鳴、そして、お前自身の——感触』
 ぞわり。
 と、《アスモシス》の撫でるような、舐めるような、淫らな眼に、沙弓の身体が思わず震え上がる。
 彼女も、《アスモシス》同様に、想像してしまったのだ。
 自分が目の前の龍に犯される姿を。
『楽しみでしかたねぇ……あぁ、あぁ! さぁ早くしろ、早くその身を俺に捧げろ! 俺の渇望を満たさせろ! さぁ、早く! 早く早く早く早く早くだあぁぁぁぁぁぁぁ!』
「っ、あ、く……」
 その罪は最高潮にまで達していた。あまりにも強すぎる渇望。その邪淫が自分に向けられる恐怖。
 沙弓は、思わず声が出なかった。
 だがそれでも対戦は続く。否応なしに、沙弓はカードを引かなければならない。
「……呪文《パニッシュ・チャージャー》……手札を一枚、捨てて……」
 手札もクリーチャーも失った沙弓ができることはそれだけだった。《アスモシス》は《チョキラビ》の能力で手札が増えており、《パニッシュ・チャージャー》一枚では効果が薄い。
『アァ、アァ。今すぐにでもお前の身体を、魂を悦しみたいが、まだ慌てる時じゃない……少しずつ、少しずつ、犯してやる……!』
 ギラギラとした邪淫の眼光で、《アスモシス》は沙弓を視る。
 そして、彼女の身体を、少しずつ蝕み、壊し、犯しにかかる。
『俺のターン……《壊滅の悪魔龍 カナシミドミノ》《爆弾魔 タイガマイト》を召喚……そして』
 カッ、と《アスモシス》の眼が見開かれる。
 飢え渇く亡者が獲物を見つけたかのように。
『遂に、遂に遂に遂に来たぞ! お前の身体を直で喰らい、味わい、楽しむこの時が……アァ、アァ! その邪魔な盾を今すぐ打ち砕き、衣も皮もすべて剥ぎ取り、血肉を食し、骨まで貪り尽くし、柔肌を抉り、女という貴様を破壊するこの時を、俺は待ち望んでいた!』
 その姿は、もはやただのけだものだった。
 餌を見つけ、本能のままにすべてを喰らい尽くす、下劣な欲望の塊。
 しかしその邪淫の強さは比類ないほどに膨れ上がっている。
 そして今もなお、その強さは増すばかりだ。
『姫はじめはまだか? 男の味は知っているか? 抱かれた経験はないか? それならば、なおのことそそる……痛みを知らぬ生娘を貫く快感は、至上の悦楽だ。さぁ、俺を楽しませろ、小娘!』
 興奮しきった《アスモシス》は、下劣に言葉を並べ立てる。
『もうすぐ、その身体を喰らってやる! 《アスモシス》でシールドをブレイクだ!』
「うぐ……っ!」
 ジャラジャラと不気味な音を響かせながら、《アスモシス》の鎖が最後のシールドを砕く。
 その破片が飛び、いよいよもって沙弓の身はズタズタのボロボロだった。服はボロ雑巾のような布きれ以下のなにかに変り果て、身体のいたるところから噴き出る血によって深紅に染まっている。
 さらに、足元になにか、悍ましい気配を感じた。なにかに纏わりつかれている、気味の悪い感触が伝わってくる。
 見れば沙弓の片足に、鎖が巻き付いている。確認するまでもない、《アスモシス》へと繋がっている、奴の身体の一部だ。
「……っ!」
 反射的に足を引くが、巻き付いたそれは離れない。
『貴様は予約済みだ。俺の相手をするその時を楽しみにしていろ』
「勝手に、私の予定を狂わせないでくれるかしらね……S・トリガー発動よ」
 今にも襲い掛かってきそうな《アスモシス》に怯えながらも、沙弓は気丈に振舞う。砕かれたシールドも、光の束となって収束し、沙弓の前で顕現する。
「《地獄門デス・ゲート》! 《カナシミドミノ》を破壊して、《クラクランプ》をバトルゾーンに!」
 地獄の門扉が開かれ、そこから伸びる魔手が《カナシミドミノ》を引きずり込む。
 そして、その命を糧として、《クラクランプ》が蘇る。
『ここまで犯されても、まだ抗うか……だがそれもいいだろう。痛苦と恥辱に塗れても、誇りを失わずに足掻き続ける女もまた、そそる……気丈に振舞った娘が壊れる瞬間の快楽、それもまた渇望を満たす最高の悦びよ! 生娘の聖域を侵した刹那に見せる、絶望に歪んだ表情! 禁断に踏み込むかの如き、懺悔の嗚咽! 想像するだけで奮い立つ……この身が熱くなる、鼓動が高鳴る、衝動が駆け巡る! 貴様の身を欲すると、俺の身体が疼く! 最後には、貴様は俺の身へ委ねるのだ……その時まで精々足掻け。そして、俺を愉しませろ……!』
 興奮を超えて、半狂乱状態になったかのように、叫び散らす《アスモシス》。
 もはやその眼は、沙弓しか見ていない。それも、己が喰らう、その姿しか。
 全身を駆け回る激痛。向けられ続ける邪淫の視線。そして、この圧倒的に劣悪な状況。
 あらゆる要素が沙弓に襲い掛かり、彼女の精神を摩耗させる。
『貴様だけではない。貴様の身体と魂を愉しみ、そして貴様の仲間も、すべて喰らい尽くしてやる……なに、案ずるな。すぐに殺しはしない。その身を快楽の海に沈め、ゆっくり、ゆっくりと……』
 死へと近づけていくだけだ。
「ひ……っ!」
 小さな悲鳴が漏れる。
 終わりだった。
 完全に、沙弓の心が、邪淫に蝕まれた。
 今、この時、沙弓は感じてしまった。
 この先に訪れる、ゆっくりと迫り来る。

 死を。

「わ、私の、ターン……」
 震える手で、彼女は弱々しくカードを引く。
(《ウラミハデス》……これで、墓地のクリーチャーを釣り上げれば……)
 しかし、同時に別の考えが頭をよぎる。
(でも、なにを出せばいいの……?)
 この状況の最善手はなにか、沙弓は思考を巡らせる。
 だが、全身を駆け巡る痛苦と、淫らな視線を向けられ続ける羞恥、敗北の先に待っているであろう屈辱。そして、少しずつこちらに歩み寄ってくる、静かで暴虐な、『死』。
 それをを考えてしまうと、思考がまとまらない。恐怖が頭の中で混乱を招く。混沌とした世界を生み出す。
 なにが最適で、最善なのか、判断できない。
「どうすれば……」
 皆を助けたい。そのためには、勝たなくてはならない。
 なのに、そのための方法が、分からない。
 なにもかもが、闇と邪淫に飲まれてしまう。
 仲間も、自分自身さえも、すべてが。
 邪淫を渇望する、暗黒世界に——