二次創作小説(紙ほか)
- 78話 「浮沈」 ( No.266 )
- 日時: 2015/10/18 17:01
- 名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: arA4JUne)
「——ダイレクトアタック!」
「……終わった」
「《術英雄 チュレンテンホウ》か……九連と天和なんて、すっごい名前。ダブル役満だねっ」
「でも、それに見合うだけの強さはあったわね。流石英雄、強いわ」
「ほんとにねー。でも、それに勝ったんだし、つまりあたしの方が強いってことだよねっ?」
「自惚れないの。アンタはそういうところが本当に……」
「んー、でも、この辺は大体回ったなぁ。もっと面白いとこないかなっ!?」
「あ、ちょっと、人の話は最後まで聞きなさい!」
「いいじゃんいいじゃん。せっかくこんなところに来てるんだし、楽しまないと!」
「アタシとしては、もっとアンタにはやるべきことをやって欲しいんだけど……」
「でもここ、カッコイイ男の子とかはいないよね」
「アンタの格好良いの基準は、アタシらには絶対通じるとは限らないしね……というか、この世界でそんなの期待しないで。種族が違うんだから」
「でもでも、あたしも彼氏とか欲しいしなー」
「前にクラスの男子がどうこう言ってなかった?」
「あー、あれね。すぐ別れちゃった。結局、どこにも遊びに行かなかったなー。やっぱ合わないよね。同い年の男の子って、子供っぽいからさ」
「アンタがそれを言う?」
「付き合うなら年上がいいなー、カッコイイお兄さん。顔はカッコよくて、背も高くて、ちょっと細くて、あとあと、頭良さそうな」
「アンタにはもったいない男ね。そんなのがそう見つかるとは思えないし、それに、仮に見つかっても人間じゃないわよ」
「んー、でも、探せばいるって! 絶対にねっ!」
「その根拠はいったいどこから……」
「今、すっごくいい“風”が吹いてるからっ! 絶対いいことあるよ!」
「はぁ……あっそ。だったら頑張りなさい」
「うんっ! それじゃあ行くよ、アイナ!」
「はいはい……分かったわよ、カザミ」
不沈没船ナグルファール。
浸水し、水没し、もはや浮上もできず、沈没しつつありながらも、決して沈まない奇跡の船。不沈の沈没船。
なぜこのような現象が起こっているのかは分からない。しかし、科学的要因、物理的要因、海洋学的要因、魔術的要因——様々な要因が複合的かつ複雑に絡み合い、噛み合い、重なり合うことで、この奇跡が起こったとされる。
「おぉ! 海だよ海! すごい青いしきれいだよ!」
「あきらちゃん、あんまり走ると、その……ゆ、ゆれます……」
「海……でも、水着シーンに持っていくには、ちょっときびしい場所……浜辺ならよかったのに……」
「確かに綺麗な海だけど、この船、大丈夫なの……?」
パタパタと暁が走るに合わせて、揺れが強くなっているように感じる。
浮沈船とはいえ、この船は航行不可能なほどに水没している。今はただ、波風の気の向くままに流れているにすぎない。
そこで暴れられたら、決して小さくない恐怖が沸き上がってくる。
「あはは、まあ大丈夫だよ。よほど大きな力を加えない限り、今のバランスは保たれ続けるはずだよ」
「ほ、本当ですか……?」
「うん。それに、それ以前にこれは浮沈の船としてここにあるんだ。そう簡単には沈まないよ。仮に沈むとしても、僕がすぐに送り戻すから、安心していいよ」
軽く笑うリュンだが、微妙に安心しきれない。彼を信用していないわけではないが、不安なのものは不安なのだ。
「それにしても、ここに本当に人間がいるのかしらね……」
ぽつりと、沙弓は呟く。
なぜ今、自分たちはこんなところにいるのか。それは、リュンがいつものように遊戯部の部室に来たところから始まる。
彼は部室に来るなり、一言、言い放った。
「僕らの世界で、君ら以外の人間が確認されたよ」
最初、それは烏ヶ森の面々と間違えたのではないかと思ったが、どうやら違うようだ。
自分たち以外の人間。最初に、ラヴァーと名乗っていた頃の恋と同様に、なんらかの手段を用いて、こちらの世界に来ている人間。
普通はこの世界の存在すら知らない地球人が、こちらの世界にいることはありえない。しかし現に、そのありえないは起っている。
問題があるなら、それを確認する必要があった。
もし恋のように語り手のクリーチャーを連れていれば、自分たちの新たな仲間となるかもしれない。そうでなくても、どこにいるかもわからない語り手の所在が判明するだけでも十分だ。
とにかく今は、その人間が本当なのか、見極める必要がある。
そのため、もはや恒例、いつものように恋もやってきて、遊戯部の面々はこうして、不沈没船を探索しているというわけだ。
「人間……いても……不思議じゃない」
「最近はこの船で目撃されてるって話だけど、噂は噂だしね。氷麗さんが手に入れた情報だから、正確性は高いと思うけど」
「こんな海のまっただ中で、噂もなにもないような気もするが……」
「まあともかく、これだけ広い船だし、全員で固まって動くと効率が悪いわ。だから、手分けして探しましょう」
クリーチャー世界は規模が地球と比べて段違いだ。この船だって、地球に存在する同じ形の、およそ船と呼べるような代物と比べても、何倍も差がある。
以前の図書館のように、クリーチャーが出て来ないという保証はないため、できるだけ固まっていた方が安全ではある。しかし、今回の目的は、人間だ。
自分たちの同胞、仲間とも言える存在。そんな者と邂逅できるかもしれないという、千載一遇の好機を逃すわけにはいかない。
ゆえに、今回は効率重視だ。自分たちの力量も決して低くはない。いざという時にはクリーチャーたちもいる。もはや場慣れもして、野良クリーチャー程度に後れを取ることはないはずだ。
「とりあえず、女の子は二人組になって、男子二人は一人で動きなさい」
「なんか凄い差別的なものを感じるんだけど……まあ、僕は一人でいいけどさ」
「俺も一人か」
「そうよ。カイ、あなたは前回の図書館で、一人で勝手に動いたからね。その罰として、今回はハブられなさい」
「どんな罰だ……それに別に誰かと組みたいわけじゃない。むしろ好都合だ」
「ツンケンしながらぼっち体質なこと言うわね、あなたも。そんなんんだから、友達ができないのよ」
「余計な世話だ、ほっとけ」
なんにせよ、浬とリュンはそれぞれ単独行動となる。そうなれば、
「それじゃあ、残った私たちで組みましょうか」
残る女子四人が、それぞれ二人組に分けるわけだが、
「んー、どしよっかなー……」
「あ、あの、あきらちゃ——」
「あきら……一緒に、行こう」
「おぉ!?」
恋に腕を引かれ、引き摺られるようにして、暁は彼女に連れて行かれた。
一瞬の出来事だった。瞬く間に、二人の姿は見えなくなる。
「あ……」
「行っちゃったか。相変わらず、あの子は暁のことになると、凄い力を発揮するわね」
半ば呆れるように言う沙弓。仲が良いのはいい。今まで他者から避けていた恋が、誰かに対して積極的になるというのは、良い変化ではあると思うのだが、それにしても少し暴走しがちに感じる。
それでもまだ、沙弓は呆れる程度で流していた。
だが柚は、そんな彼女たちを——彼女を、悲しそうな目で見遣る。
もうこの場から去ってしまった、“彼女”を。
「……あきらちゃん……」