二次創作小説(紙ほか)

79話 「青洞門」 ( No.267 )
日時: 2015/10/26 03:02
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: arA4JUne)

「ご主人様は、誰かと一緒にいるのがお嫌いなのですか?」
「なんだ、藪から棒に」
「いえ……その、ふとそう思ったので……」
 不沈没船内を散策する浬。そしてエリアス。
 しばらくはカードの中で黙っていた彼女だが、しばらくして、周囲に誰もいないことを確認して、おもむろにそう尋ねた。
「ご主人様、いつも一歩引いているというか、あまり迎合する姿勢を見せないので……」
「……まあ、確かに大人数でなにかをするのは、苦手だな。付き合いも悪いと自覚はしている」
 身長のことなどを抜きにしても、クラスでも若干浮いているのだ。普段の部活動でも、和気藹々としている中にはあまり入らない。無粋で野暮な皮肉を言うこともしばしばだ。
 とはいえそれは彼の性格——もしくは気質に由来するものであり、また彼がこれまでの人生で構築したキャラクターだ。それはそう簡単には覆せない。
「それに、あんな女っぽいところにいるのは、居心地が悪い」
「あぁ……ご主人様も、そういうところは普通の男の子なんですね」
「どういう意味だ?」
「え、あ、いえっ。別に、深い意味はないですよ……?」
 露骨に焦った様子を見せるエリアス。いくら浬が歳不相応な面があっても、そんなに捻くれていると思っていたのだろうか。もしそう思われていたのであれば、流石に心外だった。
 浬が一般的な男子中学生の枠から多少ははみ出しているだろうことは、本人も自覚しているところだ。だが、だからといって、奇人変人扱いはされたくない。
 ただ、少し人付き合いが苦手で、無愛想なだけだ。だから人も寄り付かず、そういう扱いを受けるのだろうけれども。
 そう考えると、そんな浬とここまで一緒にいる暁や柚も、案外、一般の括りから外れているのかもしれない。
 そして、ここにいるエリアスも。
「——ご主人様!」
「っ、なんだ? どうした?」
 ふとそんなことを考えていると、突然、エリアスが慌てたように声を張り上げた。
 あまりに突然だったので、声が少し上ずってしまったが、彼女はそんなことなど気にする風もなく、そもそも気にしている場合でもないというように、焦っていた。
 先ほどまでの焦りではない。もっと、危機を察知したかのような、せわしさだ。
「なにか、感じます……クリーチャー……?」
 眉根を寄せて、首を傾げながら進むエリアス。
 なにかを感じる。そして、それはクリーチャーであるかどうか、判断がつかない。
 だが、それでも思い当たる節はあった。
(まさか、リュンの奴が言っていた人間が、本当にいるのか……?)
 彼の言葉を疑っていたわけではないが、本当に出会えるとは思わなかった。それも、こんなにすぐに。
 まだそれが人間だと決まったわけではないが、その可能性の高さを考えると、自然と心臓の鼓動が早くなる。
「気配は……向こう、でしょうか……?」
「こっちか?」
 朽ちかけた階段を下る。その先にあるのは、不沈没船の浸水部。
 足元まで水に浸かる。靴が濡れて若干不快感があるが、そんなことはどうでもよかった。
 そこにある、“なにか”を見てしまった以上は。
「なんだ……あれは?」
 それがなんなのかは、浬には分からなかった。
 それでもあえてその物体を、既存の名称で呼称するのであれば、ロボット、と言うのが正しいのだろう。
 流れるような線を描くフォルム。しかしその表面はメタリックな光沢があり、ボディから伸びる手足のようなコード、アンテナ、アームが、その物体が機械的なものであることを証明している。
「エリアス、あいつは一体……」
「分かりません。私も、あんなものは初めて見ました……クリーチャー、なのでしょうか……?」
 あらゆる知識を有する《賢愚神話》の語り手たる彼女のデータバンクにも存在しないなにか。
 クリーチャーかどうかすらも分からない。
 正体不明の存在だ。
「————」
「おい、こっちを向いたぞ」
「私たちを認識したのでしょうか……あれがどういうものかが分からないので、対処法が分かりません……」
 謎のロボットはこちらを向いたまま——もっともどの面が前なのかすらも分からないので、もしかしたら後ろを向いているのかもしれないが——ジッとして動かない。
 だがやがて、ピピピ、と機械的な電子音を鳴らす。
「————」
「動いたぞ……!」
「こっちに来ます! に、逃げた方がいいのでは……!?」
「そうだな。とりあえず、部長たちと合流を——」
 と、思ったその時だ。

 世界が歪んだ——



「——神話空間?」
 浬はそう呟く。
 目の前には五枚の盾。手元には五枚のカード。真横には自分のデッキ。
 そして、正面には先ほどのロボットが、自分と同様の状態で、スタンバイしていた。
「これは、敵と認識されてしまったのでしょうか……? どうします、ご主人様?」
「どうするもこうするも、こうなってしまった以上、やるしかないだろ。」
 状況はふざけているとしか言えないが、しかしだからといってそう言っているだけでは、思考停止も甚だしい。
 何事も対応しなければならない。己の持ちうる知識と経験をすべて生かして。
 それが賢愚を語る者、その主としての役目でもあるのだから。
 ゆえに浬は、手札を取る。
 デュエルの、始まりだ。



 浬と、正体不明の謎のロボットとのデュエル。
 シールドは、浬が四枚。相手が五枚。
 浬の場には何もなく、相手の場には《一撃奪取 マイパッド》が一体。先ほどまでは《フェイト・カーペンター》がいたが、S・トリガーで踏んだ《スパイラル。ゲート》によって手札に戻されている。
「俺のターン。《龍覇 メタルアベンジャー》を召喚し、《真理銃 エビデンス》を装備だ!」
 超次元の彼方から真理を追究する銃、《エビデンス》が現れ、《メタルアベンジャー》の手元へと渡る。そして、《エビンデス》カードを引きつつ、浬はさらなる弾を放った。
「呪文《セイレーン・コンチェルト》。マナゾーンの《龍素力学の特異点》を手札に戻し、手札の《スペルサイケデリカ》をマナゾーンへ。そして、G・ゼロで呪文《龍素力学の特異点》を発動。カードを二枚引き、手札を一枚、山札の下へ」
 《メタルアベンジャー》の召喚。そして、《セイレーン・コンチェルト》と《龍素力学の特異点》の詠唱。
 これでこのターン、浬は水のカードを三回使った。
「それにより、《エビデンス》の龍解条件成立!」
 水の力を充填し、《メタルアベンジャー》は《エビデンス》を銃身ごと発射する。
「勝利の方程式、龍の素なる解を求め、王の真理を証明せよ。龍解——」
 放たれた《エビデンス》は、中空でその身を変形させる。計算によって揃えられたパーツから、勝利を導く方程式を組み立てるかの如く、真理を求め、龍の魂が解き放たれた。

「——《龍素王 Q.E.D.》!」

 そして、これにて証明が完了した。
「————」
 だが相手のロボットは、なんの反応も見せない。そもそも表情が窺えるようなものでもないので、反応を求めるだけ無駄というものだろうが。
 しかしそれでも、相手は明確に動きを見せてくる。
 ピコピコと様々な色に発光し、溜めこんだエネルギーを放つかのように、それは動き出した。

「——《海帝 ダイソン》」