二次創作小説(紙ほか)
- 79話 「青洞門」 ( No.268 )
- 日時: 2015/10/31 03:50
- 名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: arA4JUne)
海帝 ダイソン 水文明 (7)
クリーチャー:アースイーター/侵略者 8000
W・ブレイカー
このクリーチャーがバトルゾーンに出た時、カードを5枚引き、その後、相手のシールドの数と同じ枚数、自分の手札を捨てる。
大地を喰らい、海洋に侵食させる存在、アースイーター。
その姿はあまりにも凶悪で、禍々しさに溢れていた。まるで、欲望に憑りつかれたかのような、衝動に駆られた単眼を、ギョロリと開いている。その姿はまるで、あらゆる陸地を喰らい尽くす侵略者のようだった。
海と一体化した液状の身体に、都市を背負ったかのようなかのクリーチャーは、大渦を発生させる。
それは凄まじい吸引力で、山札からカードを引き寄せる。
かと思ったら、今度はその引き寄せたカードを含めた手札から、墓地へと一気にカードが吐き出された。
「なんだ、なにをしている……?」
「カードを五枚ほど引きましたけど、四枚も捨てましたよ?」
五枚引いて四枚捨てる。それによって得られたものは、実質的に一枚ドローしたのと同じという結果。7コストもかかるクリーチャーのすることとしては、些か地味だ。
だがこの時、相手にとって重要なのは、最終的に得られたアドバンテージではない。
この場合、重視すべきは、引いたカードの枚数と、それによって捨てられたクリーチャーの数だ。
「——《百万超邪 クロスファイア》《天災超邪 クロスファイア 2nd》」
「な……っ!」
それは、正に唐突な出現だった。
現れたのは二体の《クロスファイア》。今まで水単色のデッキだと思っていたところに、嵐の如く荒々しく、そして急激に出現した火のスピードアタッカー。
カードを大量に引くことで《クロスファイア 2nd》の、《フェイト・カーペンター》と組み合わせ大量のクリーチャーを墓地に送り込むことで《クロスファイア》の、双方のG・ゼロを一度に満たしてしまった。
そしてこれで、相手の打点はWブレイカーが二体と、《マイパッド》が一体。浬のシールドは四枚。
次の瞬間、暴風雨のように二体の《クロスファイア》が通り過ぎた。
気づけば、四枚あったシールドはすべて割られている。
最後の一撃、《マイパッド》の攻撃が届き、浬はとどめを刺される——
「くっ……S・トリガー《英雄奥義 スパイラル・ハリケーン》! マナ武装7で、お前のクリーチャーをすべてバウンスだ!」
——が、《マイパッド》の攻撃が届く寸前、浬は割られたシールドから《スパイラル・ハリケーン》を発動させた。
水のマナの力を取り込んだ大渦は嵐となり、相手のクリーチャーをすべて飲み込み、手札へと送り返す。
「あ、危なかった、完全に油断していた。まさか、ほぼ水単色で《クロスファイア》を投げて来るとは……いや、《フェイト・カーペンター》の時点で気づくべきか……」
「九死に一生を得られましたね……でも、まだ相手の手札には、《クロスファイア》と《ダイソン》が……」
なんとか攻撃は凌いだものの、水文明の除去は一時凌ぎのバウンス。相手の手札には《クロスファイア》が残ったままだ。
墓地には六体のクリーチャーが溜まっているので、《クロスファイア》のG・ゼロ条件は揃っている。さらに《ダイソン》もいるので、それを再び出してカードを引けば、《クロスファイア 2nd》のG・ゼロ条件も達成できる。
シールドゼロの浬では、その連撃を防ぐこともままならない。ゆえに万事休すだが、しかし。
「まだ、活路は途絶えていない。見せてやる、ここから勝利を手繰り寄せる式をな。《Q.E.D.》の能力で、手札から水のクリーチャー一体目を、コストを支払わずに召喚だ。海里の知識よ、結晶となれ——《龍素記号IQ サイクロペディア》!」
《Q.E.D.》によって解明された龍素。あらゆる煩雑な過程を省き、一瞬にして凝固した“IQ”の龍素から、《サイクロペディア》が生み出される。
“IQ”の龍素の持つ意味。それは、さらなる知識を得ること。その意味に従い《サイクロペディア》は力を行使する。
即ち、浬に新たな知識を授けるのだった。
「……よし。続けて4マナを支払い、《パクリオ》を召喚。お前の手札から、《ダイソン》をシールドへ!」
《サイクロペディア》から得た知識を、浬はクリーチャーに変換する。
今度は通常のマナを払い、《パクリオ》を呼び出す。《パクリオ》は相手の知識を隔離し、鍵をかけるサイバーロード。
相手の手札を覗き見ると、その中から《ダイソン》という知識を選び抜き、盾の中へと閉じ込め、鍵をかける。
「もう一体《パクリオ》を召喚。今度は《クロスファイア 2nd》をシールドへ!」
続けて二体目の《パクリオ》を呼び出し、今度は《クロスファイア 2nd》を閉鎖する。
だがこれでは、《クロスファイア》のG・ゼロ条件が満たされたままだ。火のマナがなくても、タダで場に出されてしまう。
しかし勿論、浬もそのことは分かっている。分かったいるため、次なる手を打つ。
「さらにG・ゼロ! お前の墓地にカードが五枚以上あるため、《龍素記号Xf クローチェ・フオーコ》を召喚!」
龍素記号Xf クローチェ・フオーコ 水文明 (5)
クリーチャー:クリスタル・コマンド・ドラゴン 6000
ブロッカー
G・ゼロ—相手の墓地にカードが5枚以上あれば、このクリーチャーをコストを支払わずに召喚してもよい。
このクリーチャーは攻撃することができない。
このクリーチャーをバトルゾーンに出した時、各プレイヤーは自身の墓地のカードをすべて山札に加えてシャッフルする。
「能力で、俺とお前の墓地のカードはすべて、山札に戻る」
対墓地戦術対策のクリスタル・コマンド・ドラゴン、《クローチェ・フオーコ》。
かつての世界で戦い抜いた無法者の力を宿した龍素記号“Xf”から生み出された結晶龍。その力は、宿した力に対する反作用を起こし、あらゆる死をなかったことにすること。
それにより、お互いの墓地は綺麗にリセットされた。これで、《クロスファイア》も出て来れなくなる。
「ターン終了だ」
「——《フェイト・カーペンター》《一撃奪取 マイパッド》《一撃奪取 マイパッド》」
《ダイソン》と《クロスファイア 2nd》はシールドに埋まり、《クロスファイア》はG・ゼロの条件を達成できないため、小型クリーチャーを並べていく相手ロボット。
しかしそのようにちまちまクリーチャーを並べていては、もはや浬には追いつけない。
「海里の知識よ、累乗せよ——《甲型龍帝式 キリコ3》!」
今度は、さらに強大なクリスタルのドラゴンが現れる。
「《Q.E.D.》の能力で、《キリコ3》召喚、《クローチェ・フォーコ》から進化! 手札をすべて山札に戻し、山札から呪文を三発放つ! 来い! 《龍素遊戯》《スパイラル・ゲート》《幾何学艦隊ピタゴラス》!」
浬の持つありったけの知識を注ぎ込み、《キリコ3》は呪文の砲弾を放つ。
失った知識を回復させ、そして展開した相手のクリーチャーも一掃する。
クリーチャーは消し去った。打点は十分。条件は整った。
あとは、攻めるだけだ。
「《理英雄 デカルトQ》を召喚。そして、《キリコ3》でTブレイク!」
まずは《キリコ3》が、三枚のシールドを撃ち抜く。
「さらに、《サイクロペディア》でWブレイク! 続けて《Q.E.D.》でもWブレイクだ!」
その後、二体の結晶龍が続き、残りのシールドをすべて打ち砕いた。
S・トリガーで《スパイラル・ゲート》を喰らおうと関係ない。魔術を跳ね除ける装甲に包まれた戦士は、呪文による大渦などものともせず、突き進む。
そして、既に龍と成った銃を手放した拳を握り、振りかざす。
「《メタルアベンジャー》で、ダイレクトアタック!」
神話空間が閉じる。
目の前のロボットは、浮遊したまま動く気配がない。フリーズでもしてしまったのだろうか。
「機能停止したか。危なかったな。しかし、なんなんだ、こいつは」
「それは、一度解体するなどして調べてみなければ、なんとも言えませんね……ですが、未知の存在であることは確かです。表面だけでも凄いですよ。こんな合金は、見たことがありません」
やや興奮気味なエリアス。《賢愚の語り手》としての、道へと知的好奇心だろうか。それとも、元々こういうものが好きなのか。
兎にも角にもこのロボットはどうにかしなければならない。
解体するかどうかはさておき、このロボットを調べる必要はあるだろう。どのような存在なのか、誰が造ったのか。如何なる目的で動いているのか。それが、なにかに繋がるはずだ。
なんにせよ、この巨体は浬たちだけの力ではとても運ぶことはできないので、リュンにでも手伝ってもらう他ない。
「ひとまず部長たちに連絡するか。人間は見つからなかったが、代わりに妙なロボットがーー」
と、言いかけたところ。
浬が、ふとそのロボットへ視線を戻したその時。
「————」
ピー、ピー、と機械音を鳴らし、今まで微動だにしなかったロボットは、非常に機敏な動きで船内の奥へと行ってしまう。
「な……! おい! 待て!」
慌てて浬が叫ぶが、待てと言って待ってくれるものでもない。
瞬く間にロボットの姿は見えなくなってしまった。
「くそっ、なんだったんだ、今のは……?」
「分かりません。ですが、なんだか、とても嫌な予感がします。取り逃がしてはいけなかったような……」
そんなことは言っても、逃がしてしまったのは覆らない事実だ。あのロボットは既に、姿を消している。
もはや後の祭り。覆水は盆には返らない。
「ちっ……とりあえず、このことだけでも、部長やリュンに報告するか。それに、もしかしたらあいつらのところに向かったという可能性も——」
と、その時だ。また音が鳴り響く。
だが今度は、バタバタという慌ただしい足音。そして何者かの声が、、浬らの耳へと届く。
「——こっちこっち! 絶対こっちだって! なんか変な風が吹いてたもん! あいつが来た時に感じたのと、同じ風だよっ!」
「はいはい、ちょっと待ちなさいってば。そんなに慌てて走ると転ぶわよ。アタシには知ったこっちゃないけど」
「……なんだ——?」