二次創作小説(紙ほか)

Another Mythology 8話「月魔館」 ( No.27 )
日時: 2014/04/27 23:03
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: hF19FRKd)

「じゃ、これでとどめね」
「うぅー……負けたかぁ」
 遊戯部部室にて、沙弓と対戦して負けた暁は、がっくりと項垂れる。
「部長にはなかなか勝てないなぁ……霧島、対戦しよ——」
「しない」
 暁が言い切る前に、浬はすっぱりと拒絶した。
「なんでさ!」
「なんでもだ」
 憤慨する暁を、浬は冷たくあしらう。そんな彼の態度が、さらに暁の神経を逆なでする。
「そーやって私とのデュエルからはいつも逃げるよね。部長とはやるのにさ」
「部長とお前は違う」
「私に負けるのがそんなに怖いの?」
「そう思うのなら、そういうことにしておけばいい」
「むー……なんなのさ、もう!」
「あ、あきらちゃん、もうその辺にしておいた方が……」
 ヒートアップする暁をなだめる柚。
 暁は遊戯部に入部してから、たびたび浬に対戦を申し込んでいるのだが、浬は頑なに暁との対戦を拒んでいる。
「カイー、せっかくだし少しくらいやってみたら?」
「部長……」
「私ほどじゃないけど、空城さんは強いわよ」
 さり気なく自信過剰とも取れる発言をする沙弓。とその時、思い出したように暁の方を向いた。
「そう言えばずっと聞きたかったんだけど、空城さん」
「なんですか?」
「あなたってもしかして、空城夕陽先輩の妹さんかしら?」
 空城夕陽。その名前に反応したのは、暁と柚の二人だった。浬は誰の事だかわかっていない様子だ。
「あー……お兄ちゃんのこと、知ってるんですか?」
「知ってるもなにも、有名人よ。この中学校の二年生以上なら知らない生徒はいないわ。なにせ、春永先輩と一緒にこの学校にデュエマブームを巻き起こした張本人だし。そうでなくても春永先輩の方がかなり目立つ容姿で、学校中を暴れまわってたから、いつも隣にいた空城先輩の方も目立ってたわ」
「はぁ」
 夕陽はあまり学校で起こった出来事を話したがらないので、暁は兄の中学校生活がどのようなものだったのかはあまり知らない。有名人だというのは知っていたが、まさかここまでとは、と少々驚いている。
「確かに私はお兄ちゃんの妹ですけど、それがどうかしましたか?」
「いや別に、やっぱりそうなんだって思っただけ。苗字が同じで、顔つきとかもなんだか似てたから、念のため確認してみた。それだけよ」
「そうですか」
「ゆーひさんて、そんなに有名人だったんですねぇ」
 暁と同じことを思ったようで、柚はほんわかとした表情で言う。
「……まあ、お兄ちゃんのことはいいや。それよりも私は——」
「お邪魔するよ」
 いつの間にか。
 気付けば、浬を挟んだ暁の目の前に、リュンが立っていた。
「っ!? リュン!? いつの間に!」
「今さっきの間に。今日はいいニュースが二つあるよ」
 二本指を立てて、上機嫌にリュンは口を開く。
「二つ?」
「そう。一つは……はいこれ、暁さんに」
 リュンは手に持っていた布らしきものを暁に手渡す。疑問符を浮かべながらもそれを受け取った暁は、軽く広げてみて、それが衣服であることを認識した。
「ウルカさんに作ってもらった衣装だよ」
「ああ。っていうかもうできたの? 早いね」
「仕事の速さと質には定評があるからね。その代わり、代価が大きいんだけど……」
 どこか遠くを見つめるリュン。
「まあそれはさておき、二つ目って言うのが——」
「よーし、じゃあ早速着替えようか」
 リュンの言葉を遮る暁。彼女は一旦衣装を脇に置くと、自分の制服に手をかけた。
「っ! こっち来い!」
「え? うわっと!?」
 なにかを察した浬は、リュンの腕を引っ張って素早く部室を出た。その後、扉の向こうから女子部員たちの声が聞こえてくる。
「空城さんって、意外……でもないけど、結構大胆なのね。カイもいたのに」
「そ、そうですよ! いきなり脱がないでくださいっ!」
「なんで? 別に見られて困るものは着てないよ。下はTシャツだし」
「それでも、色々と困る子がいるから、これからは自重してほしいかしら」
「…………」
 扉越しにホッと胸を撫で下ろす浬。リュンは相変わらず横で疑問符を浮かべていた。
「そういえば、君の分もあるんだよ、浬くん」
「別に俺は……まあいいか」
 周りに人がいないことを確認してから、浬は手渡された服に素早く着替えるのだった。



「……案外、普通の服だな」
「そう? 私はいいと思うけど」
 白いブラウスの上に赤を基調としたジャケットと、チェックのプリーツスカート。全体的に明るい赤色が基調となっていて、学校の制服のようにも見える。
「結構いいセンスしてるわね、あの子」
「かっこよくてかわいいですっ、あきらちゃん」
「でしょでしょ? 霧島のも意外といけてるじゃん」
「……ほっとけ」
 廊下で手早く着替えを済ませた浬の服装は、暁とは逆に暗い青色を基調とした衣装だった。黒いシャツとズボンの上に暗青色のロングコートという出で立ち。
「カイの根暗な感じがよく出てるわね」
「ちょっと怖いけどかっこいいです」
「…………」
 暁と比べて散々に言われようだった。
「そろそろいいかな? 本題に入りたいんだけど」
 リュンが割って入ってくる。暁が着替えを始めたので中断されたが、リュンはいい情報を二つ持って来ている。
 その二つ目というのが、
「また新しく、十二神話の配下のクリーチャーが封じられているであろう場所を発見したんだ」
「本当に? ってことは、またコルルみたいな新しいクリーチャーが出て来るの?」
「この中に適正者がいればね」
 まだ四人がクリーチャー世界に行けるようになってから一週間と経たないが、もう三体目を発見したとなると、案外簡単に十二体を目覚めさせることができるのではないか、と暁は思った。
「ただし勘違いして欲しくないのが、いるかもしれないっていうだけで、絶対にいる、とまでは断言できないよ。外れの可能性もある」
「えー……」
 途端に暁のテンションが下がる。躁鬱が激しい。
「それでも封印されている可能性は高いし、行ってみる価値はあるよ。そこも他のクリーチャーが勝手に居座っちゃってるから、ついでに退治してもいいしね」
「まーそれならいいかな。とにかく、早く行こう!」
 ウルカに仕立ててもらった衣装でハイになっているのか、暁はリュンを急かす。
 そうして四人は、またしてもクリーチャー世界へと飛んで行くのだった。



「ここって……」
「如何にもって感じの場所ね」
「……不気味だ」
「はうぅ……」
 リュンを含めた五人が立つのは、洋館の正面だった。森の奥にある洋館、というだけでも怪しいが、暗雲が空を覆い、遠雷が響き渡り、稲光が怪しく照らす館は、非常に不気味だった。その上、外観も古びているのだからなおさらだ。
「ここにいるの? 配下のクリーチャーっていうのは」
「そのはずだよ。さ、行こうか」
 と言って、リュンはスタスタと歩き出す。
「え、あ? ちょ、ちょっと待ってよ!」
「あきらちゃんっ、お、置いて行かないでください〜っ」
 リュンを追う暁の背を、柚もまた追いかけていく。
「なんかこういう廃墟染みたところって、わくわくするわよね」
「そうですか……?」
 ある意味この中で一番高揚しているかもしれない沙弓と、そんな彼女に呆れ気味な浬も続く。
 こうして五人による洋館の——月魔館の散策が始まった。



「中も結構、暗いなぁ」
「それに、所々傷んでいる。随分長いこと使われていなかったのか……?」
「でも、荒されたような痕跡はないわね。埃は被ってないみたいだから、なにかがいることは確かだろうけど」
 キョロキョロと暗闇を見回す暁に、家の中の様子を冷静に分析する浬と沙弓。リュンはいつも通り先頭に立って四人をエスコートしている。
 なにが出るかもわからない廃屋の中で、特になんとも思わず進んでいく四人だったが、一人だけこの状況に対して強い抵抗を示す者がいた。
「み、みなさん……なんでそんなに、落ち着いていられるんですかぁ……」
 柚だ。
 彼女は暁の服の裾を引っ張りながら、涙目で着いて行っている。
「霞さんって、こういうホラー的なテイストは苦手?」
「はぃ……」
「ゆずはホラーとかスプラッタとか、本当にダメだよね。まあ大丈夫だよ。なにかあったら私が——」
 と、その時だ。

 黒い煙が、周囲に立ち込める。

「っ! なに!?」
「気をつけて! たぶんクリーチャーだ!」
 リュンが叫ぶ。同時に、全員が身構えたが、ゆらゆらと揺れ動く煙の軌道を読み切ることはできなかった。
 そのため、
「きゃっ」
「ゆず!」
 煙が急激に速度を上げ、柚を取り巻く。そして、一瞬で柚を連れ去って行ってしまった。
「っ、この……待て!」
「待つのはお前だ……おい!」
 浬が制止しようとするがその手は届かず、暁は煙を追って、瞬く間に消えてしまう。
「あいつ、考えなしに突っ込みやがって……!」
「あの子たちのことも心配だけど、ここで私たちがさらに後を追いかけても同じね。だったら」
「先にクリーチャーの方を目覚めさせようか。もしかしたら、戦力となってくれるかもしれないしね」
「……そうだな」
 満場一致で可決され、浬と沙弓、そしてリュンの三人は、柚のことは暁に任せ、先に封印されたクリーチャーを探すことにした。