二次創作小説(紙ほか)
- 82話「九蓮天和」 ( No.275 )
- 日時: 2015/11/06 02:09
- 名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: arA4JUne)
光り輝く水晶の中から、一体の龍が現れる。蛇のようにうねる身体を、結晶という鎧で包んだ、龍が。
《術英雄 チュレンテンホウ》と、彼女は言った。
その名前から理解できる。これは、ただの龍ではない。
「英雄のクリーチャーか……!」
「最近ゲットしたばっかりのクリーチャーだよ。この子、本当にすっごいんだから。九蓮と天和のダブル役満みたいにすごいよ。だから、よーく見ててよねっ!」
英雄。それは、一体一体が強大な存在であり、マナから各文明の力を纏い、武装することで真価を発揮するクリーチャーたち。
まさかドグハートだけでなく、英雄のクリーチャーまで所持しているとは思わなかった。
「……だが、英雄の力は俺にもある! 海里の知識を得し英雄、龍の力をその身に纏い、龍素の真理で武装せよ——《理英雄 デカルトQ》!」
風水に対抗するかのように、浬も自身の英雄、《デカルトQ》を呼び出す。
すると、浬のマナが光を放ち、《デカルトQ》はその力を武装する。
「マナ武装7を発動! カードを五枚ドローし、場に出た時の能力も発動だ。手札を一枚、シールドと入れ替える。そして」
このターン、浬はカードを五枚以上引いた。
それにより、《エビデゴラス》が鳴動する。
「勝利の方程式、龍の理を解き明かし、最後の真理を証明せよ!」
多くの知識を吸収し、龍波動を充填した《エビデゴラス》は、浬の求めた解の通りに、その姿を証明する。
「龍解——《最終龍理 Q.E.D.+》!」
これで浬の場には、三体のクリスタル・コマンド・ドラゴンが並んだ。呪文では選ばれない《メタルアベンジャー》もおり、攻撃手は十分だ。
「ここは攻める……《Q.E.D.+》で攻撃だ!」
駆動音を響かせ、砲にエネルギーを充填する《Q.E.D.+》。
だが、その様子を見て、風水は含みあり気に笑みを浮かべる。
「攻撃かぁ……本当にいいのかな?」
「なに、どういうことだ?」
「ふふふっ、実はねー、その攻撃で《チュレンテンホウ》の能力が発動するんだよねっ!」
術英雄 チュレンテンホウ 水文明 (6)
クリーチャー:クリスタル・コマンド・ドラゴン 7000
相手のクリーチャーが自分を攻撃する時、「S・トリガー」を持つ呪文を1枚、自分の手札からコストを支払わずに唱えてもよい。
マナ武装 7:自分の手札から呪文を唱えた時、自分のマナゾーンに水のカードが7枚以上あれば、その呪文を墓地からコストを支払わずに唱えてもよい。
W・ブレイカー
《Q.E.D.+》の龍波動のエネルギーは最大まで充填され、その力を砲撃として解き放つ。
だが、その時、《チュレンテンホウ》が咆哮した。
「《チュレンテンホウ》の能力で、あたしが攻撃されるとき、手札からS・トリガー呪文をタダで唱えられるっ! 呪文《龍脈術 水霊の計》! 《Q.E.D.+》を山札送りだよっ!」
「な、ぐ……っ! だが、龍回避で《Q.E.D.+》はフォートレス側に裏返る——」
「まーだだよっ! 《チュレンテンホウ》は、二つの役満級の能力がある! その二つ目っ、マナ武装7発動! あたしが手札から呪文を唱えたとき、もう一度その呪文を唱えられるっ!」
風水のマナが水色に輝いた。
すると、《チュレンテンホウ》はその力を纏い、武装する。反射鏡のような水晶を装着した。
風水の唱えた呪文は墓地へと送られるが、その水晶に当たり、反射する。
「もう一度、呪文! 《龍脈術 水霊の計》! 今度は三枚ドローするよっ!」
反射した呪文は、今度は山札へと飛んでいき、風水に新たな知識を与える。
《龍脈術 水霊の計》は、龍脈術の力を多様な形に変化させ、扱うことができる。一度は《Q.E.D.+》を封じ、要塞の姿へと変えさせた。そして二度目は、風水にさらなる知識を与える。
「今のは迂闊だったな……攻め急いだか……!」
《チュレンテンホウ》が存在する限り、風水は手札のS・トリガー呪文で浬の攻撃を止められる。また、浬も風水の手札を警戒し続けなければならない。
加えて、《チュレンテンホウ》のマナ武装でその呪文の効力は二倍になる。
見え透いているとはいえ、常に罠を張られているようなものだ。それを攻略する術は浬には乏しく、風水の牙城を突き崩すことは困難。だが浬は《チュレンテンホウ》を除去しなければ、迂闊に攻めることもできなくなってしまった。
そうしてもたついている間に、風水は攻めてくる。
「さーて、それじゃあ、手役をそろえていきますかっ! 呪文《転生プログラム》! 《デカルトQ》を破壊!」
クリーチャーを転生するプログラムが起動し、その動力として、《デカルトQ》が破壊される。
浬の山札がめくられていき、《デカルトQ》は転生し、《龍素記号X2 アーマ・フランツ》へと成った。
「さらに、《チュレンテンホウ》のマナ武装7で、もう一度《転生プログラム》を唱えるよ! 今度は《アマテ・ラジアル》を破壊!」
「……《アクア忍者 ライヤ》をバトルゾーンへ。そのまま《ライヤ》を手札に戻すぞ」
浬のクリーチャーは連続で破壊され、打点を一気に下げられてしまう。
だが、そのプレイングも、非常に奇特なもの。浬は眉根を寄せずにはいられなかった。
「なにが出るかもわからないというのに、リスキーな……」
《転生プログラム》は、クリーチャーを破壊する代わりに、山札から進化以外のクリーチャーを問答無用で場に出す呪文。
普通に使うなら、自分の小型クリーチャーを巨大クリーチャーに変換させたり、逆に相手の大型クリーチャーを小型クリーチャーに弱化させて攻めを遅らせたりと、そのような使い方をする。
だがそれには、山札を操作することがほぼ前提になっている。確実に切り札を呼ぶためにも、山札にカードを仕込んでおくという下準備が必要で、逆に相手に使う場合にも、さらに大型のクリーチャーを呼んでしまわないような工夫が必要だ。
だが、今の風水は、山札操作なんてしていない。なにが出て来るかも分からないというのに、完全に運任せで浬のクリーチャーを破壊し、変換したのだ。
結果的には戦力は半減以下に落とされてしまい、大成功ではあったが、それにしたって危険な賭けだ。リスキーで、不可解なプレイングである。
浬はその不可解さに疑念を抱くが、風水はそれが当たり前とでも言うかのように笑って見せた。
「ふふっ。今、風はあたしに吹いてるからねっ。まあ、当然の結果かなっ? だから有効牌はぜーんぶあたしのとこに来る。逆に風が吹いてない浬くんのとこには、不要牌ばっかだと思うよ?」
「またわけのわからないことを……!」
風水の言葉の端々に散見される、理解不能な言葉が耳に障る。現状が浬劣勢で、しかも浬の行動のほとんどが後手後手かつ裏目になってしまっているため、なおのこと癇に障る。
だがそんなことまったく気にする風でもなく、風水はターンを進めていくのだった。
「とにかく、まだあたしのターンは終わってないからねっ! 今度は呪文《龍素知新》! 墓地から呪文《龍脈術 落城の計》を唱えるよっ!」
今度は《落城の計》による水流が巻き起こり、《エビデゴラス》を包み込む。
知識を供給し続ける、難攻不落の要塞であったはずの《エビデゴラス》は、その計略によって超次元の彼方へと飛ばされてしまう。文字通り、知識の要塞は陥落し、落城したのだった。
「フォートレスが……!」
本来ならば除去の難しいドラグハート・フォートレスだが、《落城の計》はクリーチャーではなくカードを選択してバウンスする呪文。
ゆえに、ドラグハート・フォートレスでも関係なく引き剥がすことができる。
「そして、まったまた《チュレンテンホウ》のマナ武装7が発動! もう一度、呪文《龍素知新》!」
幸いにして、《チュレンテンホウ》の能力は手札から唱えた場合にしか発動しないので、《落城の計》を連続で唱えられることはない。
だが、さっきは《落城の計》を唱えた《龍素知新》は、再び唱えられる。
「今度は、墓地から呪文《龍素解析》! 手札をすべて山札に戻して、カードを四枚引いて——」
——手札から、クリスタル・コマンド・ドラゴンを呼び出す。
「積んで、鳴いて、揃えて、待って——染め上げるよっ、緑一色(リュウイーソウ)! 《龍素記号Sb リューイーソウ》!」