二次創作小説(紙ほか)
- 85話「海洋神槍」 ( No.278 )
- 日時: 2016/03/15 02:43
- 名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: Ak1jHfcH)
海洋神槍 トリアイナ 水文明 (8)
進化クリーチャー:リヴァイアサン/ポセイディア・ドラゴン 9000
進化—自分の《海洋の語り手 アイナ》1体の上に置く。
メソロギィ・ゼロ—バトルゾーンに自分の《海洋の語り手 アイナ》または《トリアイナ》と名のつくクリーチャーがおらず、自分のリヴァイアサンまたはコマンド・ドラゴンを含む水のカードのコストの合計が12以上なら、進化元なしでこのクリーチャーをバトルゾーンに出してもよい。
このクリーチャーはバトルゾーン以外のゾーンにある時、進化でないクリーチャーとしても扱う
このクリーチャーをバトルゾーンに出した時、または攻撃する時、カードを3枚まで引く。
このクリーチャーをバトルゾーンに出した時、またはバトルゾーンを離れた時、バトルゾーンにあるクリーチャー、またはカードを3枚まで選び、持ち主の手札に戻す。
このクリーチャーをバトルゾーンに出した時、自分または相手のシールドゾーンからカードを合計3枚選び、見てもよい。こうして自分のシールドを見た場合、そのカードを手札に加えてもよい。そうした場合、手札に加えたカード1枚につき、自分の手札から1枚を新しいシールドとしてシールドゾーンに加える。相手のシールドを見た場合、そのカードを相手の手札に加えてもよい。そうした場合、相手の手札を見て、手札に加えた枚数、相手の手札をシールドに置く。(この能力で手札に加えたシールドの「S・トリガー」は使えない)。
W・ブレイカー
激しい渦の中から現れたのは、人魚姫。
アイナの時と、姿はそう変わらない。人間と変わらぬような、ほぼ半裸の上半身。そして、魚の尾びれのようなしなやかさを持つ下半身。その姿は正に、童話に出てくるような、半魚人の姫君だった。
人間的な流線型の肉体美。瑞々しく膨らんだ乳房、流れるようにくびれた腰部。なめらかな肌を伝う水滴が、さらに彼女を扇状的に彩る。
そして、背徳的な非人間さ。尾びれに鱗、水掻きという異種族的な部位は、彼女の美貌と相まってどことなく蠱惑的で、見る者を魅了し、誘われてしまいそうだった。
もっとも、鋭く、そして長大な三叉の槍を携えていなければ、だが。
「《トリアイナ》……」
『あたしが先にこの姿を見せることになるとはね、エリアス……まあでも、あたしもあの方の力を受け継いだ者。私が姿を現したからには——』
《トリアイナ》は、ゆっくりと槍を構える。だがそれは、突くための構えではない。
まるで大海原に呼びかけるように、《トリアイナ》は槍を天高く掲げていた。
彼女はスッと目を細める。
そして、一言。
告げる。
『——一瞬でカタはつくわ』
刹那。
浬のクリーチャーが、消し飛んだ。
「……なに!?」
「《トリアイナ》の能力発動! 《トリアイナ》がバトルゾーンに出たとき、相手クリーチャーを三体、手札に戻すよっ!」
《トリアイナ》が巻き起こした大波が、浬のクリーチャーをすべて飲み込んでしまう。
一瞬のうちに、浬はクリーチャーを失ってしまった。
「さーらーにっ! カードを三枚ドロー! さらにさらにっ! あたしのシールドを三枚見るよっ!」
水面に映される、風水のシールド。浬からは光の反射で、その中身は見えない。
だがその水面が、揺れるように動く様子は見えた。風水はそこに手を入れる。
「そして、手札のカードと、この三枚を入れ替えるねっ!」
「……仕込んだか」
明らかにトリガーをシールドに埋めている。彼女は手札が切れていたが、今は運がいいらしい風水のことだ、事前の3ドローでシールドに埋めたいカードを引いていてもおかしくはない。最初からシールドに埋まっている可能性も加味すれば、罠が仕掛けられたことはほぼ明白である。
登場するだけで、場のクリーチャーを三体バウンス、自分は三枚ドロー、シールドも三枚入れ替え。理不尽すぎるほどのアドバンテージを叩き出すクリーチャーだ。
攻めるための突破口をこじ開け、守るための盾を張り直し、双方を円滑に進めるための知識を蓄える、《海洋神槍 トリアイナ》。
「この完璧主義者っぷり。微に入り細を穿つような、抜け目ない布陣。流石は《海洋神話》の語り手……いえ、《海洋神話》を継承しただけのことはありますね、《トリアイナ》」
『お褒めに預かり光栄の至りです、とでも言っておきましょうか。まあ、あれよ。あたしに託されたのはこの“槍”だけだから、あんまり驚くようなことはできないけど……あの方と同じように、己の義に誓って、使命は果たすわ』
それが、今の場だ。
なんであれ彼女も語り手であり、風水が今の主人。彼女のために尽くし、浬にその三叉の槍を向けることは、自然な理であった。
「さぁさぁさぁ! トビ寸前に役満直撃、きついと思うけどガマンしてねっ! 48000点分の包による責任払い、受けてもらうよっ! 《ダイスーシドラ》でWブレイク!」
《ダイスーシドラ》が、またも咆哮する。だがその雄叫びは、ただ空間を歪ませるものではない。
むしろ、それは結果だ。
咆哮と共に、龍脈術の力が爆発する。その破壊的なエネルギーによって、空間が歪み、軋むように轟音を上げていた。
亜空間を生み出し、既存の空間を崩すほど莫大な破壊的エネルギーが、浬へと押し寄せる。
「っ、ぐ……!」
その一撃は、とにかく凄まじいの一言に尽きる。その破壊力、エネルギー質量の大きさ、あらゆる強大さを、身をもって感じる。眼鏡もどこかに吹き飛んでしまった。
しかし、その大きな一撃は、予測していた。
ウエポンからフォートレスへの龍解を許した時点で、3D龍解を達成される可能性も考えていた。
だからこそ、その対策も当然、浬は打っている。
「……S・トリガー発動!」
一枚目のシールドが吹き飛び、二枚目のシールドに亀裂が入る。
その刹那、盾の割れ目から光が迸った。
「調子に乗るなよ。親の役満がなんだ、お前がいくら連荘しようとも、これで完全にストップだ。お前の親番は、とっくに流れてるんだよ」
そして、そのシールドから、無法者が姿を現した。
「——《終末の時計 ザ・クロック》」
時流を操る無法者。そして、終末の時を刻む者、《クロック》が現れた。
彼の前では、時間すらもルールから外れる。
そして、時が止まった。
同時に、時が加速する。
気づけば風水のターンは過ぎ去り、浬のターンへと移行していた。
「……あ、あれ? あたしの攻撃は……」
「とっくに終わっている。言っただろう、お前の親は流れた、と。ノーテン罰符はきっちり貰ったぞ。ここからは——」
と、浬は風水に対して、意趣返しのように、言い返す。
「——俺の連荘で終わりだ」
「っ……!?」
ここにきて、初めて風水の表情が変わった。
いや、多感で表情豊かな彼女に対してその表現は適切ではない。より正確に言うなら、彼女の纏う、空気が変化した、と言うべきか。
風水自身もそれを感じ取ったのだろう。それに伴い、彼女の顔つきも、初めて見せる、焦燥感に駆られたようなそれへと変わっていく。どれだけ喫驚しても、根底にあった余裕が、完全に消え失せていた。
そして、ぽつりと、声が漏れる。
「風向きが、変わった……!?」
目を見開き、信じられない、と言うように口を開いている風水。驚きのあまり、軽く放心状態だ。
「自分の感覚に踊らされたな」
「え……?」
呆けて立ち止まっている風水に、浬は鋭い言葉を投げかける。
そしてその言葉は、彼の従者が引き継いだ。
「私の見立てでは、《トリアイナ》の能力は三つ。ドロー、クリーチャー除去、シールド入れ替え……このうち、シールド入れ替えは、相手に対しても行える能力です。そうでしょう、《トリアイナ》」
『……えぇ、そうね』
《トリアイナ》は首肯する。
かつての《海洋神話》になぞらえた三つの能力。知識の充足、敵の処理、罠への理解。《トリアイナ》の力がこれらを雛形にしていることは、エリアスには察しがついていた。
そこから推測して、《トリアイナ》の能力も、彼女の発言も踏まえて、ほぼ真実へと辿り着いていたのだった。
完全に相手を見切った浬たちだが、実際のところ、それはただ理解しただけにすぎない。知識を増やしたところで、運命は変わりようがないのだ。むしろ運命の分岐路を決定づけたのは、ルールをぶち破る《クロック》あってのことだろう。
そして同時に、風向きが変わった一番の原因。それは、風水自身にあった。
「自分の感覚に頼りすぎたせいで空回ったな。あそこはどう考えても、俺のシールドからトリガーを排除して、確実に決めるべき場面だ。要するに、お前は詰めが甘いんだよ」
「そ、そんなぁ……」
このターンに勝負をつけるなら、不確定要素を排除する必要がある。不確定要素とは、この場合はS・トリガーやニンジャ・ストライクなどの、相手ターンに発動する防御手段だ。
少し考えればわかることだ。このターンでとどめを刺せる打点があるのだから、それを邪魔されないよう、ダイレクトアタックを阻害するトリガーを取り除く。それは誰もが望むことで、それができるのであれば、誰だってそうする。《デカルトQ》でシールドを入れ替えていたのだから、尚更だ。
そもそもこのターンで勝負を決めるつもりなら、自分のシールドにトリガーを仕込む意味はない。トリガーを仕込むということは、耐えられることを前提としているのだから、倒しきる目的であれば、相手のトリガーを廃することを優先させるべきだ。
これが、感覚ばかりで打っていた、風水の致命的なミスであり、弱点だった。
「俺はわけの分からないオカルトなんかに負けるつもりはない。今度は、こっちが決めにかかるぞ。《アクア忍者 ライヤ》を召喚。能力で、《ライヤ》を手札に戻す」
「またそれ? もうドラグナーを出しても遅いよっ! さっきのターンはダメだったけど、次のターンこそ、あたしの勝ち! 流局前に決めちゃうからっ!」
「言ってろ。もう、お前が和了ることはない。俺の水のクリーチャーが手札に戻ったことで」
《ライヤ》のセルフバウンスを活用する手段は、なにも《エビデンス》の龍解だけではない。
浬の手札から、飛沫と共に、“彼女”が飛び出す。
「手札から、《賢愚の語り手 エリアス》をバトルゾーンに!」
『参ります、ご主人様! 私の能力で、山札の上から四枚を閲覧できます』
そして、その中からカードを一枚手札に加え、残りを好きな順序で山札の上と下に、好きなように配置できる。
たった一枚のカード、たった一つの知識だが、それは浬の組み立てる式に必要な、大事な鍵。
「呪文《龍素知新》。墓地から《龍素解析》を唱える」
その鍵を、浬はすぐさま行使する。
知識は復活する。かつての記録を遡り、イノベーションを果たす。
そうすることで、新たに見えてくる真理が、そこにはあった。
「手札をすべて山札に戻し、四枚ドロー。そして……現れろ! 《龍素記号Og アマテ・ラジアル》!」
《龍素解析》が成され、一つの答えが導き出される。
その解に従い、原初の龍素記号“Og”から《アマテ・ラジアル》が生み出される。
「《アマテ・ラジアル》の能力で、山札から《ヒラメキ・プログラム》を起動! 《アマテ・ラジアル》を破壊し、山札からコスト8のクリーチャーをバトルゾーンに!」
《アマテ・ラジアル》は閃く。次なる力を与えるするために。
語り手を、さらなる存在へと、昇華させるために。
残り少ない浬のデッキ。その中で残っている、コスト8のクリーチャーと言えば、一体しかいない。
「《エリアス》を進化——」
閃く《アマテ・ラジアル》の身が変化する。
賢愚を受け入れた、たった一人の錬金術師へと。
「——《賢愚神智 エリクシール》!」