二次創作小説(紙ほか)
- Another Mythology 8話「月魔館」 ( No.28 )
- 日時: 2014/04/29 14:41
- 名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: hF19FRKd)
「本当にこっちで合ってるのか? エリアス」
「絶対という確証はありませんが、こちらの方から私たちと同じ気配を感じます。なのでこっちで合ってるはずです」
「この館のどこかに眠ってるってだけで、どこにいるかは手がかりがないわけだし、ここはエリアスについていきましょう」
「そうだね。エリアスさんもこれから目覚めさせるクリーチャーも、十二神話の《語り手》であることには違いない。同系列のクリーチャーなら、離れていてもなにか感じ取れるかもしれないしね」
柚を追う暁とは別に、浬、沙弓、リュンの三人はエリアスを先頭にしてこの館に眠るクリーチャーを探していた。
「ここです! この部屋から気配を感じます」
そうして辿り着いたのは、この館の最奥部と思しき書斎だった。奥には椅子と机が置いてあり、壁にはまばらに本棚が設置されている。
「本……クリーチャー世界にも書籍があるのか」
「でも、字は全然読めないわね。なんて書いてあるのかしら、これ」
「表紙には『兄に可愛がられる方法論』って書いてあるね」
「……この館の主は一体なんなんだ?」
疑問を感じずにはいられない浬だったが、今はそれどころではない。
三人は部屋の捜索を始めるが、おかしな本が大量に出て来るだけで、コルルやエリアスが封印されていたような物体は見られない。
「ないわね……そもそもクリーチャーが封印されてたのって、祭壇みたいなところじゃなかったかしら?」
「ここはどう見ても書斎だし、ここに封印されてるわけじゃないのか……?」
「でも、確かにこの辺りから同類の気配が……あ!」
「どうした?」
エリアスがなにか気づいたように、一つの本棚へと向かう。
「やたら分厚い本が並べられてるわね。辞典とかかしら?」
「世界地図とかこの世界の歴史とかクリーチャー目録とか、そういう資料ばかりだ。この本棚だけ」
「確か他のは『理想の妹とは』とか『兄が妹に求めるもの ベスト100』とかだったわね」
「……妙なクリーチャーもいるもんだな」
また話が脱線しかけているが、そのような本が多い中に、この本棚だけが違うというのは妙だ。
「しかも、なんだか音が聞こえます。風が吹くような……」
「カイ、ちょっとその本棚押してみて」
「分かりました」
沙弓に言われ、本棚の横に立つ浬。そして、力いっぱい押すと、
「あ、動きましたよ! ご主人様!」
「ご主人様じゃない。というかこの本棚、結構重い……リュン、手伝ってくれ」
「こういう力仕事は苦手なんだけどなぁ……」
ぶつぶつと文句を言うも、浬と並んで二人で本棚を押す。すると本棚は完全に横へスライドし、それまで本棚があった奥の壁には、ぽっかりと大穴が空いている。
「隠し通路があったってわけね……こんな風に隠されてるなら、この奥にいるはずよね。行きましょう」
隠し通路の奥は螺旋状の下り階段となっていた。意外と長い距離を降りていくと、やがて小部屋に出る。
壁面に幾何学的な模様が走り、中央には台座。そしてその台座の上には、三日月形の黄色いなにかが置かれている。
「あれだな」
「はい、今まで感じていた気配がより一層強く感じられます。間違いありません」
「よし」
まず最初に浬が前に進み出る。そして、その三日月のような物体に手を触れるが、
「……なにも起きないな」
「じゃあ私がやってみるわ」
浬と交代で、沙弓が台座の前に立つ。
「こうしてみると、結構ドキドキするわね。まるでパンドラの箱みたい……鬼が出るか蛇が出るか」
「いや、そんな危なっかしいもんじゃないでしょう」
浬のツッコミを聞き流しつつ、沙弓は手を伸ばす。そして、目の前の三日月にそっと触れた。
刹那、月影の殻が破れる——
「ああ、もうっ! 邪魔だよ! 《バトライオウ》でダイレクトアタック!」
柚を追って館の中を駆け回る暁は、道中で襲ってくるクリーチャーに阻まれていた。
「ゆず! どこ、ゆず!」
「暁、こっち! こっちになにが通った跡がある」
「じゃあこっちにいるんだね。ゆず!」
コルルの示す扉を蹴破るようにして中へと入る暁。その先は通路で、奥には更なる扉。この扉も蹴破る。
「ゆず! ここ!?」
そして入って来たのは、広い空間。特になにかがあるわけではないが、床には黒ずんだボロボロの絨毯が敷かれ、天井には砕け散ったシャンデリアの残骸がぶら下がっている。
見たところ、大広間のようだ。そしてその広間の奥には、
「ゆず!」
「あ、あきらちゃん……」
柚がいた。鎖と手枷で両腕を拘束され、囚人のように壁に繋がれている。
さらにそんな状態の柚の傍には、鈍色に光る巨大な鎌を携えた、四足の悪魔が立っていた。
「クリーチャー……? なんでもいいや、ゆずを返せ!」
「無理だ」
悪魔は冷たく告げる。
「この娘は、悪魔神復活のための生贄になるのだからな」
「うわっ、喋った!」
驚く暁。それにしてもあんまりな驚き方だが。
「そりゃあオレたちだって生きてるんだから喋るよ。リュンやエリアスだって喋ってるだろ」
「いやまあ、そうなんだけどさ……なんていうか、あーゆークリーチャーは喋らないのかと……」
「おいお前ら、聞いているのか」
悪魔が苛立ったように言葉を投げかける。驚かれ方に怒っているのか、無視されて怒っているのか、はたまた両方か。
「この娘は、我々の崇めるべき悪魔神を復活させるための贄だ。返すわけにはいかん」
「そんなの知ったこっちゃないよ! ゆずは返してもらう! コルル!」
「おう!」
コルルがカードと化し、暁の手中に収まる。そして鎌を携えた悪魔を飲み込んで神話空間を展開しようとするが、
「俺は悪魔神復活の儀式で忙しいのだ。お前なんぞの相手をしている暇はない。行け、我が同胞よ!」
直後、悪魔の背後から新しい別の悪魔が飛び出した。
「!」
神話空間の展開は止まらず、その新しく飛び出した悪魔を引きずり込んで、暁の姿は見えなくなった。
「獣の悪魔と遊んでいるがいい。その間に、俺は悪魔神復活の準備を整える……!」