二次創作小説(紙ほか)
- 92話「二局目」 ( No.289 )
- 日時: 2015/11/22 07:40
- 名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: arA4JUne)
浬の言う最後の仕上げとは、対戦だ。頭の中でデッキの動きや、他のデッキに対する考察を行っても、それは机上論に過ぎない。デッキとは、それを実際に動かして初めて、その本質が理解できる。
デッキを組みたて後は、実戦でどのように動くのかを見る。いわば試運転だ。そうして、欠点や欠陥、思うようにいかないところ、思った通りにならないところ、そういった問題点をすべて洗い出し、自分の理想へと少しずつすり合わせていく。
そうして始まった、浬と風水のデュエル。
互いにクリーチャーはなし、シールドも五枚。まだ、動きを見せていない段階だ。
「《アクア大尉 ガリレオ・ガリレイ》を召喚」
先にクリーチャーを呼び出したのは、浬の方だ。呪文のコストを下げる《ガリレオ・ガリレイ》から、次に繋げようとするが、
「あたしのターン! 呪文《超次元ガロウズ・ホール》! 《ガリレオ・ガリレイ》を手札に戻すよっ!」
《ガリレオ・ガリレイ》は、即座に手札に戻されてしまった。
「さらに、超次元ゾーンからコスト6以下の水か闇のサイキック・クリーチャーを出せるよっ! 《ヴォルグ・サンダー》をバトルゾーンに!」
「早速来たか……」
《ガロウズ・ホール》は《ガリレオ・ガリレイ》を押し流すと共に、超次元の扉を開く。
現れたのは、闇のサイキック・クリーチャー、《ヴォルグ・サンダー》だ。
「《ヴォルグ・サンダー》の能力で、浬くんのデッキを削るよっ」
《ヴォルグ・サンダー》は登場時、自分か相手、どちらかの山札を、クリーチャーがニ体落ちるまで墓地に送る能力を持つ。
捲られたのは、クリーチャーが二体。浬の山札が二枚削られる。
「まだ三向聴……《ファンパイ》をだしても、龍解するまであと三枚かぁ。なかなかいい風、吹かないね」
唇を尖らせる風水だが、浬からすれば、そんな簡単に条件を満たされても困る。
だが、これこそが浬の発案した、相手の墓地を増やす手段だ。
水単色という基盤をそのままに、つ闇文明のカードで墓地を増やす。そんな矛盾を解決する鍵となるのが、超次元ゾーンだった。これを用いることで、デッキのカードを水文明だけにしながら、闇のサイキック・クリーチャーで相手の墓地のカードを増やすことができる。
そして、相手の墓地を増やすという意味で有用なクリーチャーは、《ヴォルグ・サンダー》。いずれかのプレイヤーの山札を直接削り、墓地を肥やすクリーチャーだ。《ファンパイ》や《トンナンシャーペ》の龍解条件を満たすならば、うってつけのクリーチャーだろう。
幸いにも水文明には《超次元ガロウズ・ホール》という超次元呪文があるので、水単色でもコスト6の闇のサイキック・クリーチャーを呼び出せる。唯一ネックだった、《ヴォルグ・サンダー》がビクトリーなので、複数枚入手しにくいという問題も、風水の豪運で解決した。
今の彼女のデッキは、限りなく完成形に近い。少なくとも、《ダイスーシドラ》という切り札を、かなり生かした構築になっていることだろう。
「俺のターン。《龍素記号JJ アヴァルスペーラ》を召喚。山札の上から五枚を見て、《スペルブック・チャージャー》を手札に加える。ターン終了だ」
「あたしのターンっ! 《龍素記号Sr スペルサイクリカ》召喚! 墓地から《ガロウズ・ホール》をもう一度唱えるよっ!」
浬もよく使用している《スペルサイクリカ》。その能力は、今更説明するまでもない。
風水は、前のターンに唱えたばかりの呪文を、再び唱えた。
「《アヴァルスペーラ》を手札に戻して、二体目の《ヴォルグ・サンダー》をバトルゾーンに! もう一回、浬くんの山札を削っちゃうよーっ!」
今度は呪文、クリーチャー。クリーチャーと、三枚のカードが山札から落ちていく。
これで、浬の墓地のカードは五枚。着々と墓地を増やされてしまっている。
だが、風水はまだドラグハートを呼び出していない。その隙を見て、浬の方から仕掛ける。
「《龍覇 M・A・S》を召喚! 《ヴォルグ・サンダー》を手札に戻し、超次元ゾーンから《龍波動空母 エビデゴラス》をバトルゾーンへ!」
先んじて、浬はドラグハートを呼び出す。
しかし、後手に回ったとしても、風水も決して遅れてはいない。
「《龍覇 トンプウ》を召喚! 《龍芭扇 ファンパイ》を装備して、ターン終了……するときにっ!」
返しのターンで、風水は《トンプウ》からの《ファンパイ》を呼ぶ。
そして、
「浬くんの墓地にカードが五枚あるから、龍解条件成立だよっ。《ファンパイ》を龍解させて、《龍脈空船 トンナンシャーペ》に!」
即座に、ウエポンだった《ファンパイ》を、フォートレスの《トンナンシャーペ》へと龍解させる。
先んじてフォートレスを呼び出したとはいえ、これではほぼ互角だ。
「再び《M・A・S》を召喚! 《ヴォルグ・サンダー》をバウンスし、《龍素戦闘機 エウクレイデス》をバトルゾーンに呼び出す! ターン終了だ」
「浬くん、墓地を増やさないために、呪文を使わないようにしてる……でも、忘れちゃダメだよ」
二つのフォートレスで、龍解を狙う。そんなプレイングを見せる浬だが、風水は浬の本心を見抜いている。
本来なら、もっと呪文を多用して、多角的に攻める浬だが、下手に墓地を増やすと《トンナンシャーペ》に龍解を許してしまう。それだけは、できる限り避けたい。
なので、呪文を使わず、クリーチャーだけで戦っているが、迷彩を施しているつもりでも、風水には浬の手牌はお見通しだ。
しかも、どれだけ浬が回し打つようにクリーチャーだけでプレイしても、風水の龍解を封じたことにはならない。
「いくら呪文を使わなくても、浬くんのデッキは呪文が多いデッキ。そして、あたしの手札にはまだ、この呪文があるんだからっ!」
そう言って、風水は手札からカードを抜き取る。
前のターンに墓地から手に入れた、超次元の扉を開く鍵となるカードを。
「呪文《超次元ガロウズ・ホール》! 《M・A・S》を手札に戻して、《ヴォルグ・サンダー》をバトルゾーンに!」
再び《M・A・S》が、浬の手札に戻される。
さらに《ヴォルグ・サンダー》が三度登場した。山札が捲られる。クリーチャー、呪文、呪文、クリーチャーと、今度は四枚ものカードが浬の山札から墓地に送り込まれた。
これで浬の墓地に、カードは九枚となった。《トンナンシャーペ》が龍解するには、あと一枚、墓地にカードが必要だ。
その一枚をどうやって落とすか。答えは、《トンナンシャーペ》自身が知っている。
「《スペルサイクリカ》で、シールドを攻撃! そしてそのとき、《トンナンシャーペ》の能力も発動だよっ!」
水のクリーチャーが攻撃する時、《トンナンシャーペ》の能力が発動する。そして、相手の山札を削るのだ。
残り一枚必要な墓地を、自ら補填する。
浬の山札の一番上が墓地に置かれる。そのカードは、《理英雄 デカルトQ》。
「んー、だんだんいい風が吹いてきたけど、風向きはまだいまいちだね。でも、これで十分! さぁ、Wブレイクだよっ!」
「っ、S・トリガーだ! 《スパイラル・ゲート》で《トンプウ》をバウンス!」
《トンプウ》が手札に戻され、追撃を防ぐ浬。
それでも《トンナンシャーペ》によって、浬の墓地は十枚に達してしまった。それにより、《トンナンシャーペ》の龍解条件が満たされる。
「だが、流石にそれはもう、止めようがないな。だが……俺のターン。このターンの初めに、俺も龍解させてもらうぞ」
バッ、と浬は手札を広げた。
「俺の手札が五枚以上あるので、《エウクレイデス》を龍解! 《龍素記号Ad ユークリッド》!」
《エウクレイデス》は3D龍解し、《ユークリッド》へと成る。
「さらに《エビデゴラス》の能力で追加ドロー! 《龍覇 メタルアベンジャー》を召喚! 《真理銃 エビデンス》を装備し、一枚ドロー!」
続けてドラグナーを出し、三体目のドラグハート、《エビデンス》を呼ぶ。
「《ユークリッド》で《スペルサイクリカ》を攻撃! その時、《ユークリッド》の能力で一枚ドローだ。続けて《M・A・S》で攻撃し、一枚ドロー。そして、これで《エビデゴラス》の龍解条件成立!」
ターン最初のドローと、その前の《エビデゴラス》による追加ドロー。さらに《エビデンス》でドローし、《ユークリッド》の能力でも二枚ドローしているので、その合計枚数は五枚。
《エビデゴラス》の龍解条件を達成した。
「龍解——《最終龍理 Q.E.D.+》!」
《ユークリッド》に続き、さらにフォートレスが裏返り、今度は《Q.E.D.+》が現れる。
「シールドをブレイク!」
龍解を為しつつ、《M・A・S》がシールドを割り、
「《Q.E.D.+》でも、Wブレイクだ!」
続く《Q.E.D.+》も、風水のシールドをさらに二枚割る。
浬のシールドは三枚。だが、風水のシールドは二枚だ。盤面も、シールド枚数も、浬は風水を凌ぎつつある。
しかし、
「あたしのターン! このターンのはじめに、《トンナンシャーペ》の龍解条件成立っ!」
「く……っ!」
多少の運要素はあったものの、そんなものは誤差の範囲内。相手依存になりすぎず、テンポよく、そして素早く浬の墓地を肥やし、風水は《トンナンシャーペ》を裏返し、広げる。
「3D龍解っ! 《亜空艦 ダイスーシドラ》!」