二次創作小説(紙ほか)

Another Mythology 9話「月影の語り手」 ( No.29 )
日時: 2014/05/03 22:55
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: hF19FRKd)

 暗い光と瘴気を発しながら、月影の殻が綻び、破れる。そして——
「…………」
 中からクリーチャーが現れた。
 漆黒のタキシードを纏った二頭身の体躯。同色の短いマントがたなびき、左右の腰にはこれまた黒いホルスターが、それぞれ付けられていた。
「……封印が解けたのか」
 そのクリーチャーは、自身の身体が自由であることを確かめるように、軽く体を動かす。そして、特に異常がないと判断すると、目の前に立つ沙弓を見上げた。
「美しいな」
「え?」
「ここまで美しい女を見たのは久し振りだ……お前が俺を目覚めさせたのか?」
「えーっと、まあ、そうね」
「俺の名はドライゼ。《月影の語り手 ドライゼ》だ。これから、よろしくお願いする」
「う、うん。よろしく……」
 ドライゼの唐突な発言とマイペースな運びに戸惑う沙弓。
「珍しくペース乱されてますね」
「うーん……なんかやりづらいわ、このクリーチャー」
 困ったように沙弓は頭を掻く。その様子を見てドライゼは、
「む……少しいきなりすぎたか。混乱させてすまない。思いついた称賛はすぐに口にする性質でな。特に、相手が麗しき女性なら」
「……なんなのかしらね、本当」
 はぁ、と沙弓は息を吐く。
 ドライゼの発言に振り回されてばかりだが、ここでもたもたしてもいられない。彼の封印が解けたのなら、一刻も早く暁と柚の下へ向かわなければならない。
「大事な部員を早く助けに行かないとね。封印を解いてあげたんだから、あなたにも手伝って貰うわよ。えーっと、ドライゼ、だっけ?」
「承知した。俺は女性の頼みは断らない、ハニー」
「誰がハニーよ」
 少しばかり不満を込めて言い返す沙弓だが、ドライゼに堪えた様子はない。
 そんな様子を見て、浬は、 
「鬱陶しそうなのに捕まったな、あの人も」
「確かに……ちょっと、めんどくさそうですね、ご主人様」
「誰がご主人様だ」
 自分も同じような境遇だということを再認識する。
「そうだ。少し待て。この場所は、かつてアルテミス嬢が従えたクリーチャーたちも眠っている。俺の封印と一緒に、どいつかも眠りから覚めているはずだ」
 ドライゼは小部屋の壁面の一ヶ所に手を置く。すると、そこから黒い瘴気のようなものが発され、塊となって沙弓の手に落ちる。するとその瘴気は、一枚のカードとなった。



「《バトライオウ》でWブレイク! 《コルル》でダイレクトアタック!」
 立ち塞がる悪魔を撃退する暁。しかし神話空間が閉じた先には、新たな悪魔が待ち構えていた。
「《猛虎ライガー・ブレード》に《滅城の獣王ベルヘル・デ・ディオス》……!」
「次のあいてはそいつらだ」
 奥にいる悪魔は、鎖で縛られた柚に向かって呪文のようなものを唱えている。悪魔神復活などと言ってたため、そのための呪文だろう。
「はわわわ……あきらちゃん……」
「ゆず……あーもう! こんな奴らの相手してる場合じゃないのに!」
 苛立って叫ぶ暁。しかし、叫んだところで状況は変わらない。
 このまま放っておけば、柚が生贄にされてしまう。その前に止めなければいけないのだが、それを目の前の二体の悪魔が妨害する。
「もうすぐだ……もうすぐ悪魔神が復活する……儀式はもう最終段階だ」
「え?」
「後はこの鎌で、娘の命を捧げるのみ……!」
 鈍く光る鎌を掲げた。その瞬間、暁と柚の表情が青ざめる。
「な……ちょ、ちょっと待って——」
「さあ、その命を捧げよ!」
 暁の制止など聞くわけもなく、鈍色の鎌が柚へと振り下ろされる——

キィンッ!

 ——が、その瞬間。甲高い音と共に、鎌が弾かれた。
「……いたいけな女の子に手を上げるなんて、とんだクズがいたものだな」
「!? 何者だ!」
 入口の方を向くと、そこには二人の人間と、三体のクリーチャーがいた。
「部長、霧島、リュン……!」
「間一髪、間に合ったようね。よくやったわ、ドライゼ」
「そう褒めるな。女に褒められると照れる」
 沙弓の足元に立つクリーチャー——ドライゼは、右手に持った黒い拳銃をホルスターに収める。その銃弾で、鎌を弾いたようだ。
「《ライガー・ブレード》《ベルヘル・デ・ディオス》、奥にいるのは《ブラックルシファー》か……あいつがここのボスか?」
「恐らくは。あのクリーチャーを倒せば、このエリアも解放されるはずです」
 ならば、やることは一つだ。
「部長、霧島。《ライガー・ブレード》と《ベルヘル・デ・ディオス》は任せたよ。私はあいつを……」
「させるか」
 ブラックルシファーへと駆け出そうとする暁を、浬は彼女の首根っこを掴んで引きとめる。
「な……なにすんのさ! 離してよ!」
「お前は俺と雑魚の掃除だ。あの親玉は部長に任せろ」
「なんで!」
「お前みたいに周りを見ずに突っ走るような奴じゃあ、足元すくわれてやられるのがオチだからな……というわけで部長、頼みます」
 浬が沙弓へとサインを送る。それと同時に、沙弓も駆け出した。
「オーケー、任せなさい!」
「女性を縛り付けるなんていい趣味とは言えないからな。それにこの館にたむろっているということも許せん……あのチンピラ悪魔には、少しばかり仕置きが必要だ」
 二体の悪魔の脇をすり抜け、沙弓がブラックルシファーの前に立つ。そして、ドライゼを中心に展開された神話空間へと、飲み込まれていった。
「こっちも始めるぞ。エリアス」
「了解です、ご主人様」
「うぅ……仕方ないか、部長に任せよう。コルル」
「おう!」
 浬と暁も、同様に神話空間へと突入する。



「……ブラックルシファーと言ったか。知っていると思うが、ここは十二神話の一角を担う、アルテミス嬢の館だ。お前のようなチンピラ悪魔がたむろってていい場所ではない。今すぐ立ち去れば、見逃してもいいぜ?」
「なにを言うかと思えば……俺は悪魔神を復活させる。そのためには、闇の濃度が濃いこの場所で儀式を行わなければならないのだ。あの娘だけでは生贄として足りるかどうか心配だったが、貴様も生贄としてやろう!」
「……勝手に話を進めないで欲しいわね。そんなに生贄が欲しいなら、とりあえず私に勝ったらどうかしら?」
 沙弓とブラックルシファーのデュエル。
 互いにシールドは五枚あり、墓地を増やしている。沙弓の場には《邪眼皇ロマノフⅠ世》。ブラックルシファーの場には《暗黒導師ブラックルシファー》。
『俺のターン。呪文《邪魂創生》! 自分のクリーチャー一体を生贄に、カードを三枚ドローする』
 破壊対象は、場に一体しかいない自分自身。しかし、《ブラックルシファー》はそう簡単には破壊されない。
『この時、俺の能力発動! 俺が破壊される時、代わりに墓地の進化デーモン・コマンドを回収すれば、俺は破壊されない! 《ドルバロム》を手札に!』
「厄介なカードが入ったわね……!」
 すぐに出て来るというわけではないが、放っておけば危険だということも確かだ。
「私のターン。《龍神ヘヴィ》を召喚して、即破壊! 同時にあなたも破壊よ」
『だが、墓地の《ヴァーズ・ロマノフ》を回収し、俺は破壊されない』
 《ヘヴィ》は召喚時に互いのクリーチャーを破壊し、自分はカードを引けるドラゴン・ゾンビ。ゴッドではあるが、単体でも十分強力なクリーチャーだ。しかし《ブラックルシファー》も粘り強く場に残る。
「さらに残った3マナで《ボーンおどり・チャージャー》よ」
 墓地に落ちたのは、《黒神龍グールジェネレイド》が二体。
(よし……これで次のターン、《ロマノフ》を自爆させるか、自壊するドラゴンを引ければ、《マイキーのペンチ》を召喚して蘇った《グール》で総攻撃を仕掛けられそうね)
 手札を見ながら、沙弓は次のターンの算段を立てる。さらに、
「《ロマノフ》で攻撃、能力発動!」
 墓地からコスト6以下の闇の呪文を唱えられる。選択肢はいくつかあるが、ここは《ブラックルシファー》の手札を削りたい。
「呪文《ガチンコ・ジョーカー》! 相手の手札を二枚墓地へ!」
『ぬぅ……!』
 これで《ブラックルシファー》の手から《ドルバロム》が叩き落とされる。さらにガチンコ・ジャッジにも勝利し、《ガチンコ・ジョーカー》は手札に戻った。
「《ロマノフ》でWブレイク!」
 そして《ロマノフ》の魔弾が《ブラックルシファー》のシールドを撃ち抜いた。
 しかし、
『S・トリガー発動』
「っ、しまった……?」
『《インフェルノ・サイン》……墓地から《貴星虫ヤタイズナ》をバトルゾーンに』
 墓地から蘇ったのは、原初の蟲《ヤタイズナ》。《ドルバロム》を落としたこのタイミングで出て来るとは、沙弓からしたら最悪としか言いようがない。
『さあ、俺のターンだ。《ヤタイズナ》の能力発動!』


貴星虫ヤタイズナ 闇文明 (6)
クリーチャー:パラサイトワーム/ダークロード/オリジン 5000
自分のターンのはじめに、進化クリーチャーを1体、自分の墓地からバトルゾーンに出してもよい。


 《ヤタイズナ》は墓地から進化クリーチャーを呼び出せる。それはつまり、

『俺を進化元に、冥土の底より蘇れ……《悪魔神ドルバロム》!』