二次創作小説(紙ほか)
- 93話「嶺上開花」 ( No.291 )
- 日時: 2015/11/22 21:28
- 名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: arA4JUne)
風水の手によって折り畳まれたカードが広げられ、フォートレスがドラグハート・クリーチャーへと3D龍解する。
このために改造されたデッキ。その切り札が、遂に現れたのだ。
「……来たか」
ここまで、流れとしてはそれなりに上手く嵌っていた。悪くない動きだ。改造は成功と言えるだろう。
だが、それとこれとは話が別だ。改造に上手くいって満足するだけの浬ではない。対戦において、《ダイスーシドラ》は厄介極まりないクリーチャーだ。
早急に、手を打たなければならない。
「こっから押していくよ! 《アクア呪文師 スペルビー》を二体召喚! 墓地から《スパイラル・ゲート》と《ピーピング・チャージャー》を回収っ!」
押していく、と威勢良く言ったわりには、ブロッカーで守備を固め、堅実に場を整える風水。
そして彼女は、《ダイスーシドラ》に手をかける。
「《ダイスーシドラ》で攻撃するとき、能力発動っ! 自分か相手の墓地から、呪文を唱えられるっ!」
浬はふと、自分と風水の墓地を交互に見遣る。互いの墓地に、カードはそれなりに貯まっている。呪文も少なくない。なので、《ダイスーシドラ》で唱える呪文の選択肢に苦労はしないだろう。
ただ、彼女がどのような呪文を選ぶかは、あまり見当がつかないのが不安だ。自分ならこれ、というカードはあるが、浬にとって風水は、自分の予想の斜め上を先行する。理屈と理詰めで計算した予想など、簡単に覆されてしまう。
「どーしよっかなー……風向きもよくなってきたけど、ここは安牌でいこうっ。浬くんの墓地から《英雄奥義 スパイラル・ハリケーン》を唱えるよっ! マナ武装7で、浬くんのクリーチャーはすべて手札に戻しちゃえ!」
「っ……! 《Q.E.D.+》は、龍回避で《エビデゴラス》に戻る!」
予想外の選択が来ると思ったら、普通に浬の想像していたカードが飛んでくる。これもまた、逆に予想外だ。ペースを乱される。
「シールドをWブレイク!」
場のクリーチャーを一掃し、《ダイスーシドラ》の攻撃が、浬のシールドを打ち砕く。これで残りシールドは一枚。
「押していくとか言っていたが、それにしては随分と安全運転だな」
「まだ、風がこっちにちゃんと向いてないからね。この前は急に風向きが変わっちゃって負けちゃったから、今日はダマで攻めるよっ!」
「……そうかよ」
抜けているように見えるが、学習能力がないわけではないようだ。以前のような大胆さが薄れている。
だが、むしろこちらの方が、浬としてはやりやすい。無難な手、理詰めの手、最善手。計算する上で組み込まれる要素で攻めてくるなら、計算しやすい。それが、浬にとっての戦いやすさにつながる。
「呪文《龍素解析》! 手札からコスト7以下の水のコマンド・ドラゴン……《スペルサイクリカ》をバトルゾーンに! 墓地から《英雄奥義 スパイラル・ハリケーン》を唱える!」
「わわ……っ!」
《スペルサイクリカ》の能力で、墓地から《スパイラル・ハリケーン》を唱え直す。マナ武装によって、風水の場もまとめて吹き飛ばした。
《ダイスーシドラ》は墓地の呪文を唱えるカードにしては珍しく、唱えたカードを山札などに戻さない。そのまま墓地に置いておく。そのため、どんな呪文でも、何度でも唱え続けられるのが強みだが、墓地に残してしまったために、こうして浬がそれを利用できた形となる。
「さらに、《エビデゴラス》を《Q.E.D.+》に龍解だ!」
《龍素解析》によってカードを四枚ドロー、ターン最初のドローと合わせて、浬はこのターン、カードを五枚引いた。
そのため、一度はフォートレスに戻った《エビデゴラス》が、再び《Q.E.D.+》へと龍解する。
「《Q.E.D.+》でWブレイク!」
これで風水のシールドはゼロ。あと一撃でとどめだ。彼女の場にはクリーチャーもおらず、《Q.E.D.+》は龍回避によって、粘り強く場に残る。《エビデゴラス》の龍解も容易い。
だが、それでも風水は諦めなかった。
「ヤバいくらいのピンチだけど、ハコにならなかったらまだ終わりじゃないっ! 麻雀の終わりは、オーラスと点数がなくなったとき! デュエマの終わりは、ダイレクトアタックされたとき! シールドがなくなったときじゃないよっ!」
風水は墓地へと目を向ける。浬の墓地肥やしに力を注いでいた風水だが、自分の墓地にも、それなりにカードが溜まっている。
しかし彼女が見ているのは、単純な墓地の枚数ではない。墓地の中に含まれる、とあるカード——呪文の枚数だ。
「あたしの墓地にある五枚の呪文を山札に戻すよっ! そして、でてきてっ!」
墓地から五枚のカードを山札に戻る。さらに、マナゾーンのカードを七枚タップして、クリーチャーが現れた。
「積んで、鳴いて、染めて、待って——咲き誇れ、嶺上開花(リンシャンカイホー)! 《龍素記号Mj リンシャンカイホ》!」
龍素記号Mj リンシャンカイホ 水文明 (12)
クリーチャー:クリスタル・コマンド・ドラゴン 12000
このクリーチャーを召喚する時、自分の墓地にある呪文を好きな数、山札に加えてシャッフルしてもよい。こうして山札に加えた呪文1枚につき、このクリー チャーの召喚コストを1少なくする。ただし、コストは1より少なくならない。
T・ブレイカー
自分の水の呪文を唱えた時、バトルゾーンにあるカードを1枚選び、持ち主の手札に戻してもよい。
出て来たのは、超大型のクリスタル・コマンド・ドラゴン、《リンシャンカイホ》。
墓地の呪文をすべて山札に戻し、その数だけ召喚コストを減らすことのできるクリーチャーだ。さらに山札の中の呪文の割合を増やすことで、自身の能力を発動させやすくする。
「まずは呪文《ピーピング・チャージャー》! 浬くんのシールドはないから、そのままマナにいくけど、呪文を唱えたから《リンシャンカイホ》の能力が発動だよっ!」
《リンシャンカイホ》は呪文を唱えるたびに、バウンスを発動させるクリーチャーだ。すべての呪文に、バウンス効果が付加されると考えれば分かりやすいか。
「《スペルサイクリカ》を手札に! さらに次は、呪文《スパイラル・ゲート》! 《Q.E.D.+》を戻すよっ!」
「だが、《Q.E.D.+》は龍回避でフォートレス側に——」
「無駄だよっ! 《リンシャンカイホ》の能力は、クリーチャーじゃなくてカードを戻すの。だから、フォートレスの《エビデゴラス》を超次元ゾーンに!」
「ぐ……っ!」
《スパイラル・ゲート》でフォートレス側に戻され、そのまま《リンシャンカイホ》の能力でフォートレスごと除去されてしまう。
フォートレスの強みである除去耐性の高さを貫く《リンシャンカイホ》。これにより、浬は攻め手を一つ失ってしまった。もう《Q.E.D,.+》で強襲することはできない。
「《龍覇 メタルアベンジャー》を召喚! 《エビデゴラス》をバトルゾーンに! さらに《スパイラル・ハリケーン》で、《リンシャンカイホ》をバウンスだ!」
しかし浬は食い下がる。再び《Q.E.D.+》で強襲するべく、《エビデゴラス》を設置した。
さらに《リンシャンカイホ》を除去し、反撃の芽も摘む。《リンシャンカイホ》の素のコストは12と非常に重く、コスト軽減のために溜めておいた墓地の呪文も山札に戻るので、再召喚するためには、非常に重いコストを支払わなければならなくなる。
そのため、二度目の《エビデゴラス》の除去はないと踏んでいたのだが、
「呪文《龍脈術 落城の計》! コスト6以下のカード、《エビデゴラス》を超次元ゾーンに戻すよっ! さらに、あたしも《スパイラル・ハリケーン》で《メタルアベンジャー》を手札に! 《トンプウ》を召喚して、《ファンパイ》を装備! ターン終了するときに、《トンナンシャーペ》に龍解!」
フォートレスに対抗する力を持つ、龍脈術の呪文。《落城の計》によって、再び《エビデゴラス》が消されてしまった。
加えて、流れるように浬のクリーチャーを除去し、《トンプウ》を召喚、《ファンパイ》を装備、そして《トンナンシャーペ》へと流れるように龍解させてしまう。
「呪文《ブレイン・チャージャー》、そして《スペルサイクリカ》を召喚! 墓地から《スパイラル・ハリケーン》を唱え、《トンプウ》をバウンスし、ターン終了……!」
「……決まりだね。トップ目はあたしがもらったよっ!」
風水はクリーチャーを除去され、このターンの初めに、動けるクリーチャーはいない。
いや、いなかった。
要塞となっていた、フォートレスの姿となっていたクリーチャーが、龍解するまでは。
《トンナンシャーペ》に手をかけ、風水は、片手でそのカードを広げる。
「3D龍解っ! 《亜空艦 ダイスーシドラ》!」