二次創作小説(紙ほか)
- 94話 「オーラス」 ( No.293 )
- 日時: 2015/12/01 01:02
- 名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: arA4JUne)
「また来たか……!」
再び龍解を成す《ダイスーシドラ》。スピードアタッカーでこそないが、このターンに攻撃可能な、風水のアタッカー。
浬の場にブロッカーはいない。仮にいたとしても、墓地にある除去呪文で消し飛ばされるだけだ。
「《スペルビー》を召喚っ! 墓地から《ガロウズ・ホール》を手札に加えて、そのまま唱えるよっ! 《スペルサイクリカ》を手札に戻して、《ヴォルグ・サンダー》をバトルゾーンに! 浬くんのデッキを墓地へ!」
クリーチャーが二体、浬の山札から落とされる。
しかし、それすらも些末なことである。
今の浬のシールドはゼロ。ブロッカーもいない。
「いっくよーっ! 《ダイスーシドラ》で攻撃するとき、浬くんの墓地から《龍素解析》を唱えるよっ! 手札を山札に戻して、カードを引いて……《龍素記号d2 リャンペーコ》! バトルゾーンにだして、二枚ドロー!」
風水に新たなクリーチャーが呼ばれる。意識しているのかいないのかは分からないが、きっと意識していない。それでも、きっちり《ダイスーシドラ》の力を余すことなく行使し、増援を呼び込む。
シールドとブロッカー、双方ともに失った浬は、この一撃で終わらせられる。《ダイスーシドラ》の攻撃が届いた瞬間、敗北が確定する。
「これでおしまいっ! 《ダイスーシドラ》でとどめ——」
「——ニンジャ・ストライク!」
しかし、その一撃は届かなかった。
「《斬隠オロチ》で、《ダイスーシドラ》を超次元ゾーンへ!」
最後の防御札。浬の手札から《オロチ》が飛び出し、《ダイスーシドラ》を山札の下——には行かないので、超次元ゾーン——へ送り込む。
それにより《ダイスーシドラ》の攻撃は中断され、浬は間一髪、九死に一生を得た。
「シノビかぁ……あーぁ、頭ハネみたいな気分だよ」
なんとか窮地を凌いだ浬。勝利を確信していただけに、風水は不満そうに唇を尖らせている。
「……でも」
その表情は、すぐに綻ぶ。
口元が緩み、不敵な微笑を見せた。
「けっこーいい風、吹いてきたよ?」
現れたのは、英雄の姿。
《術英雄 チュレンテンホウ》だ。
「この子がいれば、ちょっとやそっとの攻撃は通らないよ。どんな打牌も撃ち抜いちゃうんだからっ」
「よりよって、そいつか……」
《チュレンテンホウ》は、攻防共にこなす、水文明の英雄。手札のS・トリガーを放つため、浬がいくら攻撃しようとも、その攻撃は防がれてしまうだろう。
さらに、《チュレンテンホウ》が存在する限り、風水が唱えた呪文の効力は二倍になるので、展開したクリーチャーも、あっという間に除去されてしまうだろう。
攻めてもそれを防ぎ、守ってもそれを崩す。ここ一番で、浬は最悪のクリーチャーを引かせてしまったのかもしれなかった。
「もうすぐオーラスだけど、浬くんはどこまでたえられるかな?」
余裕綽々に言う風水。彼女もシールドゼロで、敗北の条件は同じはずだが、やはり場の状況が違う。
浬の場にはなにもないが、風水の場には、《スペルビー》《ヴォルグ・サンダー》《リャンペーコ》《チュレンテンホウ》と、四体のクリーチャー。アタッカーが三体、ブロッカーが二体と、実質的にこちらの攻撃を封じる《チュレンテンホウ》が一体。攻撃するクリーチャーが三体いて、攻撃を防ぐクリーチャーも三体いる。
この盤面をひっくり返すことは難しい。仮に《スパイラル・ハリケーン》などでまとめて除去しても、バウンスなので時間稼ぎにしかならない。
しかも《ヴォルグ・サンダー》で浬は山札を削られている。対する風水は《リンシャンカイホ》によって山札を回復しているため、長期戦になると山札切れの危険が付きまとう。そうなれば、浬がどんどん不利になる。
早期決着をつけたい場面だが、それも難しい局面である。
「……いや」
だが、浬はそれを否定する。
「このターンで、終わらせる」
そして、宣言した。
そのまますぐにカードを引き、マナチャージ。これでマナゾーンのカードの枚数は、13枚。
「これでマナが溜まった……《龍素記号JJ アヴァルスペーラ》を召喚」
山札の上からカードを五枚捲る浬。呪文を手札に加えることなく、五枚すべてを山札に戻した。
その中に有用なカードがなかったのか。いや、そんなことは関係ない。その中にどんな呪文があろうとも、浬がそれを手札に加える必要性も、意義も、皆無だった。
不要なカードは切り捨てる。そして、必要なカードは、そのまま唱えればいい。
「浬の知識よ、累乗せよ——《甲型龍帝式 キリコ3》!」
このクリーチャーの力を借りて。
召喚したばかりの《アヴァルスペーラ》の上に、《キリコ3》が重ねられる。それを見て、風水は露骨に嫌そうな表情を見せた。
「う、そのカードって……」
どころか呻き声を上げて、《キリコ3》を指さす始末。トラウマにでもなっているのだろうか。
前回の対戦でも、浬の勝利に一役買った、浬のもう一つのエースクリーチャー《キリコ3》。
このクリーチャーが場に出た瞬間、浬は持っている手札をすべて山札に戻す。そしてこの手札を炸薬に、山札から呪文を三発唱えることができる。
さらに、言うまでもないが、《キリコ3》は進化クリーチャーだ。
つまり、
「このターン、即座に攻撃可能なクリーチャーってことだ。さらに、能力で呪文を三枚唱えられるということは」
除去呪文を引き当てることで、風水を守るクリーチャーを排除することができる。
風水のブロッカーは二体。《スペルビー》と《リャンペーコ》だ。さらに、ブロッカーではないが《チュレンテンホウ》も風水への攻撃を防ぐクリーチャーである。
さあ、ここからは運試しだ。
「俺が呪文を三枚引き、その中のカードでお前のクリーチャーを除去しきることができるかどうか。除去しきったら俺の勝ち、できなかったらお前の勝ち。実にシンプルで分かりやすい」
「むぅ……」
あまり満足げではない、どころか風水は不服そうだ。
「風……吹いてないよ」
ボソッと、彼女は呟く。浬はそれを聞き逃さなかった。
風が吹いていない。風向きが悪いとか、いい風じゃないとか、そうではなく、風が吹かない。つまりは無風。
それは運気が流れていない、と見るべきだろう。前提として運気の流れを信じるのならば、そう推測できる。
つまり今の状況は、どちらもフェアな状態というわけだ。以前のように、風水に都合の良い引き運で痛い目を見ることもない。今現在のデッキに残っている呪文の枚数と種類を概算しても、三枚引いて三体のクリーチャーを退かすことのできる確率は、大体50%といったところ。
勝率50%、同時に敗北の確率も50%。
単純明快にして、純粋な天運に任せた勝負だ。
浬は山札を捲る。
「一枚目——」
最初の呪文が、ヒットした。
捲ったカードを、ゆっくりと公開する。
「——《幾何学艦隊ピタゴラス》」
「っ、う……!」
「《スペルビー》と《リャンペーコ》を手札に」
最初に捲った呪文は、除去カードの《ピタゴラス》。マナ武装5もあり、一度に二体のブロッカーを排除する。
ここで《チュレンテンホウ》を戻さなかったのは、風水の手札にS・トリガーの除去呪文がないこと——つまり、風水が《チュレンテンホウ》の能力が使えない手札であることを想定してだ。とはいえ、潤沢な手札と、呪文と密接に関係するクリーチャーを操る風水だ。手札にそういったカードが一枚もないということは考えにくいので、あくまで保険だが。
なにはともあれ、残っている守り手は《チュレンテンホウ》のみ。残り二枚引ける呪文から、一枚でも除去札が来れば、浬の勝ちだ。
「二枚目——」
次のカードを捲る。
《ピタゴラス》に続き、捲られた呪文は、
「——《連唱 ハルカス・ドロー》」
「やた……っ!」
「くっ……!」
風水が小さくガッツポーズを決めるのが見えた。
二枚目の呪文は《ハルカス・ドロー》。浬はカードを引くだけに終わる。
しかも引いたカードが、《英雄奥義 スパイラル・ハリケーン》だ。デッキ内の除去カードがまた一枚減ってしまった。
デッキ内の除去呪文と、そうでない呪文の比率は、大体半々だが、少しだけその比率が、そうでない呪文へと傾く。
泣いても笑っても、次の一枚。最後の呪文で、勝敗が決まる。
そして、浬は再び山札を捲っていった。
「三枚目——」
残り少ない山札のほとんどが捲られ、デッキが残り数枚になった。
そこで、浬は一枚のカードを引き当てる。
呪文のカード。この対戦の勝敗を左右する、たった一枚のカードだ。
浬が引き当てた、最後の呪文。それは——
「——《龍素知新》」
「やっ……うん? え?」
二枚目の呪文と同じように、ガッツポーズを決めそうになる風水だが、すぐに首を捻る。
浬が引いた最後の呪文は、除去カードではない。墓地の呪文を唱え直す呪文、《龍素知新》だ。
そのカード単体では、なんの効力もない。クリーチャーの除去などできるカードではない。
だが、それは《龍素知新》だけを見た場合だ。
「《龍素知新》を発動。墓地からコスト7以下の呪文を唱えるぞ」
つまり、墓地に落とされたり、既に使用した呪文が戻ってくるのだ。
浬には、《ヴォルグ・サンダー》によって墓地に落とされた呪文が何枚もある。さらに、自分でも呪文は唱えていた。
除去カードの一枚や二枚、簡単に呼び戻すことができる。
「墓地から《スパイラル・ゲート》を唱える。《チュレンテンホウ》を手札に!」
「えぇ!? やばいよ……!」
最後の守りを失った風水。ブロッカーはいない。《チュレンテンホウ》もいないので、手札からトリガーを唱えることもできない。
そして浬の場には、このターンに出されたばかりの《キリコ3》がいる。
決着だった。
浬は《キリコ3》に手をかけ、横に倒す。
「《甲型龍帝式 キリコ3》で、ダイレクトアタック!」