二次創作小説(紙ほか)
- 96話「暗号」 ( No.300 )
- 日時: 2016/01/28 00:00
- 名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: 9Mczrpye)
「うーん……なんなのさ、これ……」
「もう少しで解けそうなんだが……あと一歩、なにかが足りないな……」
「うぅ、わかりません……」
机を挟んで、遊戯部の部員三名は、頭を悩ませていた。
三人の視線の先は、机上にある、一枚の紙に向けられている。
それは手紙だった。ただし、単なる手紙ではない、異世界からの手紙とでもいうべきもの。
言語の壁、とも違う。理解の差、が近いか。
隠匿された未知を解き明かす。
そのために、彼ら彼女らは、頭を悩ませていた。
分かるけれども分からない、読めるけれども読めない、矛盾した不可解な文字の羅列に——
Ⅹ-ⅩⅢ Ⅸ Ⅰ-Ⅸ ⅩⅦ-Ⅶ ⅩⅦ-Ⅶ ⅩⅡ-ⅩⅢ
Ⅹ-Ⅲ ⅩⅦ-ⅩⅧ Ⅰ-Ⅲ ⅩⅦ-ⅩⅧ ⅩⅡ-ⅩⅢ ⅩⅦ-Ⅸ
ⅩⅡ-Ⅸ ⅩⅦ-Ⅲ ⅩⅠ-0 ⅩⅦ-ⅩⅧ
「君たちに頼みがある」
いつものように遊戯部の部室に、唐突に出現したリュンは、これまた唐突にそう切り出した。
リュンになにかを頼まれるだなんてもはや今更で、そもそも超獣世界に行くことだってリュンの頼みであるため、わざわざそんな風に頼み込んでくることに、なんとなく深刻さを感じるものの、遊戯部の面々は少々面食らっていた。
「頼み? なにかしら」
だが、部長である沙弓だけは、あっけらかんと言葉を返す。今更であることを今更だと流せるだけの度量がある証だった。
沙弓に促されるリュンだが、自分から言い出したわりに、少し言いあぐねるように、言葉を詰まらせる。しかしそれは、言いたくないというより、説明が難しい、というかのような詰まり方だった。
「どこから言ったものかな……とりあえず、僕はちょくちょく氷麗さんと会って、情報交換をしてるんだけどね」
「つらら? 誰?」
「烏ヶ森の、あの小さい子。そういえば、彼女もクリーチャーだったわね」
「その氷麗さんが、これを持ってきたんだ」
言って、リュンは一枚の紙を取り出す。どこか古ぼけているようで、しかし真新しさも同時に感じる、矛盾した印象を与える紙だ。ただのコピー紙ではないようだが、しかしどんな紙なのかまでは分からない。
「まあ紙については大きな問題じゃない。これは本文を適当な紙に写しただけだからね」
そう言って、リュンは紙を沙弓に手渡す。すると、途端、沙弓は顔をしかめ、首を傾げた。
「これは……」
「文字については、君らにも読めるようにしておいたけど、君らが“読めない”ところは、僕らにも読めない。いや、読めるのかもしれないけど、“理解ができない”」
その通りね、と沙弓は言って、紙を隣にいた浬に手渡す。渡された浬も、沙弓と同じ挙動を見せた。
「なんだこれは。暗号か?」
「でしょうね」
「なに? なになに? 私にも見せてよー」
暁が浬の制服の裾を引っ張るので、浬は鬱陶しそうに紙を机の上に置いた。
暁は柚と二人で、机の上の紙を覗き込むが、その様子は先の二人と同じだ。
「んー? なにこれ?」
「よくわかりません……」
首を傾げる二人を見つめ、沙弓は紙に目を戻す。
そこに書かれている内容は、沙弓らにも分かるようになっていた。しかし、言語が理解できても、言葉が理解できない。そんな内容だ。
Ⅹ-ⅩⅢ Ⅸ Ⅰ-Ⅸ ⅩⅦ-Ⅶ ⅩⅦ-Ⅶ ⅩⅡ-ⅩⅢ
Ⅹ-Ⅲ ⅩⅦ-ⅩⅧ Ⅰ-Ⅲ ⅩⅦ-ⅩⅧ ⅩⅡ-ⅩⅢ ⅩⅦ-Ⅸ
ⅩⅡ-Ⅸ ⅩⅦ-Ⅲ ⅩⅠ-0 ⅩⅦ-ⅩⅧ
これが、その内容だった。
書き出しには『裏切者の恋人へ——』とあり、『——世界より』と締め括られていた。その二つの間に挟まれている文字列が、上記の理解不能な数字の羅列だ。
また、紙には縁をなぞるようにいくつもの円が並んでおり、そこにもローマ数字が21まで書かれている。ただし、算用数字である0も含まれており、どこかちぐはぐだった。
「これ、ローマ数字みたいだけど、これも、リュンが私たちに分かるように直したの?」
「いいや。僕が直したのは、君らの言葉で——日本語? ひらがなっていうんだっけ? ——だけだよ」
その棒みたいなのは原文のまま、とリュンは答える。
「裏切者の恋人へ、世界より……か。これは手紙か?」
「氷麗さんの有する情報網に引っかかってたって言ってたけど、それ以上は分からないな。だけど」
少し、目を鋭く細めて、リュンは続ける。
「それは無視できないなにかを感じる。今の僕ら、今後の僕らに、決して小さくない影響を与えるだけのなにかを感じるよ」
「……解かないわけにはいかない、ってことね」
暗号解読、だった。
これからするべきことは。
「燃えてくるわねー、暗号解読。久々に遊戯部らしいことができるわ」
「そんなことしてたの?」
「去年はね。こういうことが好きな先輩がいてね。その人の影響もあって、私こういうのは得意なの。だから全部、私に任せな——」
ザー……ガガ……
ノイズ音が聞こえてくる。
耳に障る、不快な雑音はやがて、明瞭な音声となり、教室に備え付けられたスピーカーを通して、遊戯部員たちの耳に届く。
『これより、各部代表会議を行います。部代表の生徒は、会議室に集まってください。繰り返します。これより——』
「——あなたたちに任せたわ」
「おい待て部長、さっきまでの意気込みはどうした」
「仕方ないじゃない、会議なんだから。まったく、夏休みにまで呼び出して会議なんてやるこの学校の生徒会は頭がどうかしてるわ」
憤慨する沙弓。こんなところでそんなクレームをだしてもどうにもならないが、しかし彼女の言い分も分からなくもない。タイミングも悪いが、長期休暇にも関わらず召集をかけるというのは、生徒からすればあまりいい顔はしないものだ。
「どうせ秋の行事についての報告だけだと思うから、ちゃっちゃと終わらせて帰ってくるわ。その間よろしくね」
解けたら解いちゃってもいいから、と言うと、沙弓は引き戸を引いて、遊戯部の部室から去っていく。
そして、教室に残された四人が、暗号を解くことになったのだった。