二次創作小説(紙ほか)
- 98話「ボルメテウス・リターンズ」 ( No.306 )
- 日時: 2016/02/02 20:58
- 名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: 9Mczrpye)
強烈な光が戦場を包み込む。
その刹那、世界は終わりを告げた。
一瞬にしてバトルゾーンは灰塵と帰す。
「……! そんな……!」
「クリーチャーを展開したことが仇となったな。クリーチャーが六体以上存在しているため、《アポカリプス・デイ》によってすべてのクリーチャーを破壊だ。ただし、私の《光器パーフェクト・マドンナ》はパワーが0以下になっていないので、場に留まるが」
「で、でも! こっちだって《バトライ武神》の龍回避で、《バトライ閣》に戻るよ!」
消滅した世界の中でも、《バトライ武神》は完全には死なない。その身を天守閣へと変え、再び龍の姿に戻る時まで、身体を休める。
フォートレス状態ならば、通常以上の除去耐性を維持することができる。もう一度、ドラゴンを二体以上場に出すことができれば、追撃をかけ、今度こそ押し切れるはずだ。
もっともそれは、《バトライ閣》が場に残っていれば、の話だが。
「私のターン。《トンギヌスの槍》を発動。《爆熱天守 バトライ閣》を超次元ゾーンへ」
「あ……!」
神をも殺す神槍が飛び、《バトライ閣》を貫く。長大な槍が突き刺さった天守はボロボロと崩れ落ち、一瞬にして《バトライ閣》までもが消えてしまった。
いくら除去耐性がクリーチャー以上にあると言っても、フォートレスを剥がす手段がないわけではない。カードを指定する除去であれば、フォートレスも潰れてしまうのだ。
「くぅ、《コッコ・ルピア》を召喚!」
返しのターン。手札のない暁は、山札から引いたカードをそのまま繰り出すしかない。
場に残っているのは、非力な《コッコ・ルピア》が一体。一撃でも攻撃を通せば勝てるが、デウスの場には《パーフェクト・マドンナ》が鎮座し続けている。そのせいで、クリーチャー一体では突破できない。
だが、それどころの話ではなかった。攻撃を通すとか通さないとか、そんな問題はデウスの前では些末なもの。
手札も場も失った暁ができることなど、たかが知れている。手札を使い切って攻めた結果、盤上を完全にリセットされてしまった。その時点で、勝負はほぼ決していたのだ。
あとはただ、緩やかに死に向かって行くだけだ。
「緩慢に、されど確実に。知識を奪い、命を奪う。最後に残る壁も、罠ごと燃やし、灰と化す。なにかを得るためならば、それが得なければならない重大なものであるのならば、悪魔にだって魂を売り渡そう。勝利のために——出でよ」
八枚のマナをタップし、デウスは伝説を呼ぶ。
しかしそれは、高潔な龍の姿ではない。
大切なものを得るために、己の魂を犠牲にした、醜く悍ましい、穢れた黒き龍。
すべてを燃やし尽くす炎も、大空を翔る翼も、障害を引き裂く爪も、純白の鎧も——肉体も精神も、身も魂もすべてが黒く染まった、伝説だった龍の今が、ここにある。
「かの龍は悪魔と契りを交わす——《ボルメテウス・ブラック・ドラゴン》」
ボルメテウス・ブラック・ドラゴン 闇/火文明 (8)
クリーチャー:アーマード・ドラゴン/デーモン・コマンド 8000
マナゾーンに置く時、このカードはタップして置く。
W・ブレイカー
このクリーチャーがバトルゾーンに出た時、相手のクリーチャーを1体破壊する。
このクリーチャーがシールドをブレイクする時、相手はそのシールドを自身の手札に加えるかわりに墓地に置く。
「黒い……《ボルメテウス》……?」
「そうだ。守るべき者のため、悪魔に魂を売った気高き龍の、成れの果て……その力は、すべてを燃やし尽くす炎だけではない。かの龍の黒き魂は、命を奪う。《ボルメテウス・ブラック・ドラゴン》がバトルゾーンに出た時、相手クリーチャーを一体破壊する。《コッコ・ルピア》を破壊」
《ボルメテウス・ブラック・ドラゴン》は、炎を吐く。真っ黒な炎だ。闇のように深い炎は《コッコ・ルピア》を包み込むと、一瞬で灰と化し、魂ごと燃やし尽くした。
「ターン終了だ」
「な……う……《ガイアール・アクセル》を召喚!」
「私のターン。呪文《勝利と希望の伝説》」
またも引いてきたカードをそのまま飛ばす暁だが、デウスは悠々と、それでいて着々と場を詰めていく。
再び唱えられた《希望と勝利の伝説》によって新たな知識を得たデウスは、引き寄せられるかのようにして呼び込んだ龍を、戦場へと送り出す。
「かの龍は伝説となり蘇る——《ボルメテウス・ホワイト・ドラゴン》」
皆の希望を背負い、勝利を目指し、白き《ボルメテウス》の龍が現れる。
悪魔に魂を売り渡した己と、肩を並べて。
「白い方まで。まずい……」
「さらに呪文《魂と記憶の盾》。《ガイアール・アクセル》をシールドへ」
残ったマナで呪文を放つ。デウスはどんなクリーチャーも見逃さない。自分が圧倒的有利に立っていても、慢心はなく、あらゆる可能性を排除する。
《ガイアール・アクセル》はシールドへと封じられてしまった。これでシールドが増えた、などと喜べるほど、暁も楽観的ではない。
シールドが増えたところで、それは二度と手札には戻って来ないのだから。
「《ボルメテウス・ブラック・ドラゴン》で、シールドをWブレイク」
再び、黒い《ボルメテウス》は炎を放つ。深淵のような漆黒の炎を。
黒炎は暁のシールドを飲み込むと、じりじりと焼き焦がし、そして燃やし尽くし、灰にする。
砕かれる、だなんて生易しいものではない。もはやなにも残らない。さらさらと、シールドだった残骸のようなものだけが、風に吹かれ、暁の脇を過ぎて墓地へと降り積もるように落ちる。
「《ボルメテウス・ホワイト・ドラゴン》同様、《ボルメテウス・ブラック・ドラゴン》がブレイクしたシールドも、手札ではなく墓地へと送られる。ターン終了。君のターンだ」
「…………」
白黒両方の《ボルメテウス》はシールドを燃やす。ブレイクされたシールドは手札に入らないため、トリガーを唱えるどころか、暁の手札が増えることもない。デュエル・マスターズの逆転要素をほぼ完全に封殺し、なおかつ反撃の隙すらも作らない。また、山札の一番上のカードを投げることしかできないのだった。
「……ターン終了」
暁はカードを引いて、少しそれを眺めると、なにもせずにターンを終えた。
使えるカードではなかったのか、使う意義のないカードだったのか。なんにせよ、その不確定要素すらも、デウスは摘み取る。
「手札を温存しても無意味だ。呪文《サイバー・ブック》。三枚ドローし、手札一枚を山札の底へ。《パクリオ》を召喚。その手札をシールドへ」
「……捨てることすら、しないんだね……ひどいや」
暁の手の中にあったのは、《熱血提督 ザーク・タイザー》。手札から捨てられたらバトルゾーンに出るクリーチャーで、登場と同時に山札からクリーチャーを手に入れることができるのだが、能力でバトルゾーンに出すためには、手札から“捨てられ”なければならない。
《パクリオ》のようにシールドに送られては、場には出て来れないのだ。
《ザーク・タイザー》は鍵をかけられ、盾の中へと封じ込められる。
「そして、《ボルメテウス・ホワイト・ドラゴン》、《ボルメテウス・ブラック・ドラゴン》。シールドをWブレイクだ」
二体の《ボルメテウス》が同時に灼熱の炎を放つ。白黒綯い交ぜとなった炎は、暁のシールドを四枚、奪い去っていく。
めらめらと燃え盛り、崩れ落ちていく盾。一発逆転のS・トリガーも灰になる。残るシールドは一枚だが、それにしたって《パクリオ》で埋められた《ザーク・タイザー》だ。なにも期待できない。《ボルメテウス》が存在する時点で、期待するだけ無駄なのだが。
「《爆竜勝利 バトイライオウ》を召喚……!」
手札に握っていても、なんにもならない。悪足掻きだと分かっていても、クリーチャーを召喚する暁。
しかし、既に決着はついている。
「《魔刻の斬将オルゼキア》を召喚。《光器パーフェクト・マドンナ》を破壊。さあ、そちらにもクリーチャーを破壊してもらおう」
「《バトライオウ》……!」
《オルゼキア》の刀が命を奪う。《パーフェクト・マドンナ》は不滅ゆえに生き残るが、一介の戦士に過ぎない《バトライオウ》は、あっけなくその黒い刃に断ち切られてしまった。
なにもできない痛苦の数ターンは過ぎた。ここが、すべての終着点だった。
「安心していい。最初にも言ったが、ここで君たちの命を終わらせるわけではない。君たちはまだ、生かしておく。この戦いが終わったとしても、なにもしない。我々はすぐに撤収しよう」
だが、だからこそ、今だけは無慈悲にすべてを焼き尽くす。
蘇った伝説の龍。白と黒に染まった気高き龍が、最後の牙を剥く。
「《ボルメテウス・ホワイト・ドラゴン》で、最後のシールドをブレイク」
白い炎が、最後のシールドを、焼き尽くす。
黒い炎が、最後の一撃として、暁を燃やす。
白と黒が混ざり合った炎は、荒々しく、猛々しく、神々しくも、禍々しい。
白と黒。二つの炎が、すべてを終わらせる。
「《ボルメテウス・ブラック・ドラゴン》で、ダイレクトアタック——」