二次創作小説(紙ほか)
- Another Mythology 10話「北部要塞」 ( No.31 )
- 日時: 2014/05/03 22:54
- 名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: hF19FRKd)
「——《ブラックルシファー》を《デストロンリー》に進化。他のクリーチャーをすべて破壊よ」
「うっそ!? 《バトライオウ》も《バトラッシュ・ナックル》も《トルネードシヴァ》も破壊された!?」
「そして私の場には《デストロンリー》しかいないからTブレイクね」
「トリガーないし……うわぁ、どうしよう……」
入部してまだ一週間と経たないものの、暁は完全に遊戯の部室に馴染んでいた。それも毎日毎回、部長である沙弓がデュエマの相手をしているからだろうが、
「墓地進化で《ヴァーズ・ロマノフ》を召喚、Wブレイク」
「S・トリガーは……ないし……」
「じゃあ《デストロンリー》でとどめよ」
「また……負けた……」
暁は一度たりとも勝てなかった。
「部長、強すぎ……流石は部長だよ……」
「まあ、それほどでもあったりなかったり? 部長だから当然よ」
「あんまり関係ないと思いますけどね」
部室の端に設置された、如何にも安物なソファに深く座り込んだ浬が冷たく言う。
「部長が部長なのは、単にこの部を立ち上げたのが部長だからでしょう」
「そう言われちゃうと返す言葉はないわね」
「……あ、そうだ霧島。部長の次に私とデュエ——」
「しない」
「なんでさ!」
言い切る前に断られ、憤慨する暁。このやり取りも、毎回のように行われている。
「なんで毎回毎回私とはデュエマしないの!? 私とゆずが来る前にはいつも部長としてるくせに!」
「それはそれだ。お前とはやらん」
「頑なねぇ……でも、私も毎日空城さんとばっかり対戦してても面白くないし……」
さらりと酷いことを言う沙弓は、チラッと教室の端に目を向ける。そこには、大人しく椅子に座る柚がいた。
「霞さん、相手してくれないかしら」
「ふぇっ? わ、わたしですか?」
まさか自分に振られるとは思わなかったようで、柚は狼狽えている。単に性格上の問題かもしれないが。
「無理にとは言わないけどね。でも、そういえば霞さんもデュエルしてるとこと見たことないなって思ったから。どう?」
「あ、いや、その、わたしは……」
口ごもり、言いたくても言い難いというような柚。そこに、暁が割って入った。
「ダメですよー、部長。柚はデュエマしないですから」
「え!? そうなの?」
驚愕、という言葉でもまだ足りないほどの驚きを見せる沙弓。浬も同様に、目を見開いて吃驚していた。
「え、えぇ、まあ……カードは持ってるんですけど……」
「空城さんがバリバリやってるから、霞さんも結構やるんだと思ってたわ……」
「私も本当は柚とデュエマしたいんだけど、無理にやらせようとするとお兄ちゃんが怒るんですよ」
「空城さんとの付き合いは長いのよね? それなのにまったく影響されてないなんて、なにか理由でもあるのかしら?」
「えっと、その……ちょっと、家の事情というか、意向というか……で……」
目を逸らし、またも言い難そうに口ごもる柚。そこに入って来たのは、今度は海里だった。
「なんだっていいんじゃないですか。本人がやらないと言うのなら、無理にやらせることもないでしょう。身も蓋もないですが、デュエマは言ってしまえば娯楽です。やるもやらないも本人の自由で、強要できるものではないし、やるやらないの理由だって強引に追究するものじゃないですよ」
理由を追及される柚を庇うような言葉だった。
「……それもそうね。じゃあ、もしできるようになったら対戦しましょう」
「もちろん、私ともね!」
「は、はひっ。分かりました」
いつの日になるか分からない約束を交わす暁と沙弓、そして柚。
その時だった。
「失礼するよ」
「うわっ、リュン!? いつもいつも突然出て来るね」
部室にリュンが現れる。瞬間移動かテレポーテーションでもしたかの如く、気付けばそこにいた。
「また新しい《語り手》の眠ってる場所が見つかったんだ」
「! 本当!? だったら今すぐ行かないと!」
暁は新しく部室に設置された、これまた安っぽいクローゼットへと駆け、そこに掛けてある衣服を引っ張り出す。
「っ! 来いリュン!」
「え? って、うわ、なんかデジャヴ——」
同時に、浬もリュンの腕を引っ張り、部室から出て行った。
浬は扉に背をつけて胸を撫で下ろすと、非難がましい目を扉(の向こうにいる暁)へと向ける。
「あいつはまた……なあ、リュン。クリーチャー世界に行くと同時に着替えられたりはしないのか?」
「注文が多いなぁ……どうだろう。そういう概念があればできるけど、そんな機能付けたらまたウルカさんに金をふんだくられそうだしな……」
先日、沙弓の分のクリーチャー世界における衣装も注文して出費したためか、リュンは渋る。そもそもクリーチャーに金銭という概念があるのかが疑問だが。
「毎回毎回こんなことするのは御免だ。なんとかならないのか?」
「うーん……まあ、考えておくよ」
それから数分後、入室許可が出たため二人は部室に戻り、入れ替わりに浬が着替えを終えると、五人はまたクリーチャー世界へと向かうのだった。
そこは、まるで廃墟だった。いや、まるで、ではなく、実際に廃墟だった。
壁は崩れ落ち、床は穴が空き、中は荒れ果てている。
「なに、ここ……」
「かつて《焦土神話》と呼ばれた十二神話の一柱が指揮をとっていた焦土要塞群、その一つである北部要塞だよ」
そう言うと、リュンは十二神話についての説明を始める。
「十二神話は各文明ごとに代表と代表次席の二名が存在していて、その二名がそれぞれ自身の文明の領地を治めていたんだ。でも、その統治の仕方は様々でね。たとえばエリアスさんの主人だった《賢愚神話》を擁する水文明は、海底都市を拠点にしていたんだけど、代表次席である《賢愚神話》が全十二区画存在する都市機能のほぼすべてを管理、維持していた。基本的な都市の管理は《賢愚神話》が行い、クリーチャーへの指揮などは代表である《海洋神話》がしていたんだ」
そして今度は、目の前の廃墟へと目を向けるリュン。
「そしてここ、火文明の領地は、代表の《太陽神話》と代表次席の《焦土神話》の二人がかりで治めていた」
「役割を分担しなかったのか?」
「うん。正確には、《太陽神話》と《焦土神話》とで率いる種族が違うから、それぞれの配下たる種族を統率していたんだけど、火文明という大きな括りでは、その二名は二人で領地を治めていた。それでも、場所による分担はしてたみたいだけどね。中心部は《太陽神話》が、他の文明との堺になる外周は《焦土神話》が、それぞれ守っていたみたいだ」
そしてこの廃墟となった要塞は、その《焦土神話》の管理下にあったらしく、激しい戦闘の末に陥落してしまったらしい。
「ということは、この中にいるのはその《焦土神話》っていうクリーチャーの配下ってことかしら?」
「だろうね」
「《焦土神話》って火文明のクリーチャーなんだよね。なら私が目覚めさせられるのかな?」
「どうだろうな。案外、霞あたりかもしれないぞ」
浬がそう言うと、ビクッと柚が身体を震わせた。
「ふぇっ? いや、そんな、わたしなんて……」
「可能性としてはなくなさそうね。でも、ここでそんなこと言っても仕方ないわ。早く行きましょう」
そう言って、先んじて沙弓が中へと入っていった。柚とリュンも、その後に続く。
残されたのは暁と浬。二人もすぐに続くが、暁がふと口を開く。
「……霧島ってさ」
「ん?」
「私のお兄ちゃんに似てるよね」
「いきなりなんだ……俺はお前の兄に会ったことがないから、なんとも言えないな」
「そっか。そうだよね」
「……?」
とても表現の難しい微妙な表情を見せている暁。その表情に疑問を覚える浬だったが、いくら考えても答えは見つかりそうになかったので、すぐに忘れることにした。