二次創作小説(紙ほか)

105話「柚vs恋」 ( No.318 )
日時: 2016/02/18 13:37
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: 9Mczrpye)

 《天命讃華 ネバーラスト》が、己の正義を誇示するべく、その姿を現す。
「龍解……完了……」
 小さく呟くと、恋はすぐさま次の行動に移った。
「まずは……制圧。呪文……《マスター・スパーク》」
 閃光が迸る。
 同時に、柚のクリーチャーたちの身体が硬直し、動きを封じられ、地に伏してしまう。
「あ……」
「一体ずつ、つぶしていく……《ネバーラスト》で、《ブラキオヤイバ》を攻撃……」
 《ネバーラスト》の槍が《ブラキオヤイバ》に襲い掛かる。《ブラキオヤイバ》は鋭利な鉤爪を振るうが、地上を駆け回る古代龍の刃は、天空を舞う王には届かない。
 勝利をもたらす王は、大きく槍を振りかぶると、《ブラキオヤイバ》の身を一突き。
 心臓から、貫いた。
「おにいさんの《ブラキオヤイバ》が……!」
 《ネバーラスト》に貫かれた《ブラキオヤイバ》が崩れ落ちる。《ハコオシディーディ》の力によって、《ブラキオヤイバ》の身は土に還るが、
「まだ、終わらない……《ティグヌス》で《ハコオシデイーディ》を攻撃……」
「《ハコオシディーディ》……!」
 彼女の制圧は終わらない。
 《ジュランクルーガ》《クアトロドン》《エッグザウラー》——柚の展開したクリーチャーが、次々と屠られていく。
 《ネバーラスト》の天命は絶対だ。勝利という運命を決定づけられた光の軍団は、古代の力など関係なく、その導きのままに彼らをねじ伏せる。
 絶対的な勝利を確約された恋のクリーチャーたちが、柚のクリーチャーを一掃する。
「あ……あぅ……」
 残ったのは、《ケロスケ》一体のみ。しかしそれも、殴り手の数と、殴られ手の数。たまたま後者が一体多かっただけというだけにすぎない。
 そんなことは些末な問題。少なくとも、一体のクリーチャーが残ったくらいでは、恋の牙城を崩すことはできない。
「わ、わたしのターン……《龍覇 ケロスケ》と《王龍ショパン》を召喚……《ケロスケ》に《龍棍棒 トゲトプス》を装備して、ターン終了です……」
「《龍覇 エバーローズ》を召喚。来て……《不滅槍 パーフェクト》」
 返す恋のターン。《エバーローズ》と《パーフェクト》、さらなる王の到来を予感させるクリーチャーが現れ、容赦なく柚へと槍の先を突きつける。
 そして、突きつけられた槍は、彼女を射殺すべく、放たれた。
「《天命讃華 ネバーラスト》でTブレイク」
 一瞬のことだった。
 眩く光る槍が、柚のシールドを三枚、貫いていた。
「ぁ、ぅ……し、S・トリガーですっ! 呪文《古龍遺跡エウル=ブッカ》!」
「無理……《ネバーラスト》が存在する限り、光以外のコスト5以下の呪文は、唱えられない……」
 気づけば粉々になっていたシールドから、柚は一枚のカードを掴み取るが、それは光によって縛られる。《ネバーラスト》のもたらす、封印の光によって。
「《プレミアム・マドンナ》でWブレイク……《セイントローズ》で、とどめ——」
「……まだですっ! S・トリガー《瞬撃の大地 ザンヴァッカ》! クリーチャーなので、《ネバーラスト》でも無効化できませんっ!」



瞬撃の大地 ザンヴァッカ R 自然文明 (8)
クリーチャー:ガイア・コマンド 5000
S・トリガー
ガードマン
このクリーチャーがバトルゾーンに出た時、タップしてもよい。
相手のクリーチャーは、もし攻撃するのであれば、可能ならこのクリーチャーを攻撃する。



 恋が《セイントローズ》に手をかけた刹那、柚の最後のシールドから巨大なクリーチャーが飛び出した。甲虫のような角や外殻、翅を持つ大地の化身。
 《ザンヴァッカ》は大地に降り立つと、その身を伏せる。
「《ザンヴァッカ》は、バトルゾーンにでたときに自分をタップできます。そして相手は《ザンヴァッカ》しか攻撃できませんよっ」
「……それなら破壊すればいいだけ……《オリオティス》で《ザンヴァッカ》を攻撃」
 攻撃を誘導する《ザンヴァッカ》。恋は《セイントローズ》にかけた手を離すと、《オリオティス》に攻撃を命じる。
 小さな翼のクリーチャーだが、光のクリーチャーである限り、《ネバーラスト》の恩恵を受けた精鋭だ。勝利という運命に定められ、《オリオティス》は光線を放つ。
「《ショパン》のガードマンで、《ザンヴァッカ》を守りますっ!」
「なら……《ティグヌス》で攻撃」
「《トゲトプス》を装備した《ケロスケ》もガードマンですっ! 攻撃対象をこちらへ!」
「……ち」
 小さく舌打ちする恋。《ザンヴァッカ》を倒しきる前に、攻撃可能なクリーチャーが切れてしまった。
 残っているのは《セイントローズ》のみ。
「……《セイントローズ》で《ザンヴァッカ》を攻撃」
 これで《ザンヴァッカ》は破壊されたが、結果的に柚は生き長らえることができた。
 しかし、ただそれだけだ。
 生き長らえるからと言って、生き続けられるとは限らない。ましてや、勝利を手にするなど、まったく別の話だ。
 それを教え込むかのように、《エバーローズ》は槍を——《不滅槍 パーフェクト》を掲げた。
「ターン終了時、私のクリーチャーが五体以上……《パーフェクト》の龍解条件成立……」
 《エバーローズ》は手にした槍を、天高く撃ち出す。一筋の光となったそれは、天空で龍の魂を解放し、地上へと舞い降りる。

「世界の王よ、正義を掲げ天より降り立ち、不滅の生と命を授ける。龍解——《天命王 エバーラスト》」

 《パーフェクト》が龍解し、《エバーラスト》の魂が解放される。
 威光を放つその姿は神々しく、そして猛々しい。
 己の正義のために、あらゆる外敵を排除せんとする“光”が、そこにはあった。
「しとめそこなったけど……これで終わり」
 《ネバーラスト》《セイントローズ》《プレミアム・マドンナ》《オリオティス》《ティグヌス》、そして《エバーラスト》。
 恋を守り、柚を射殺す光の精鋭たちが、ここに集った。
 《エバーラスト》が降り立つと同時に、睨むように柚を見据えていた恋は、静かに開口する。
 彼女に突きつけた槍を、さらに押し込むかのように。
「あきらといっしょにいても、この程度の強さ……まだ、ネクラメガネの方がマシだった……さゆみは、ミシェルが認めてたから強いんだろうけど……あなたは弱い」
「……っ」
「そんなに弱いのに、いつまでもあきらにくっついてて、恥ずかしくないの……?」
 それは怒りなのか、それを通り越した呆れなのか。
 恋は続ける。遥か高みから、柚を見下して。
「私はあきらに救われた……あきらが私の暗雲を払ってくれた……あきらのおかげで、私には光がさした……チャリオット、ユースティティア、そしてデウス……【秘団】と決別したのも、あきらが好きで、あきらと一緒にいたいから……そして、あきらと肩を並べて、強くなりたいから……」
 それが、恋がここにいる理由。
 暁に執着し、暁の仲間でありたいと願う、自分自身への理由だった。
 強さ。それが物事を測る指標の一つ。
 少なくとも彼女から見た暁は強い人間だ。デュエリストとしても、人としても。その強さによって、恋は暁に惹かれた。
 だからこそ、恋は強さを求める。暁にある、自分が惹かれたものを。
 そう、だからこそ、だった。
 その強さの逆に位置する存在に、嫌悪感を抱くのは。
「弱くて、めざわり……こんなに弱いんじゃ……話にならない……」
 突き放して、切り捨てて、見下す。
 恋の眼に映る柚は、もはや敵ではない。
 ただの惰弱な生物。目にするという意識もなく、踏みつけたという感覚もない。雑草同然の認識だ。
 恋にとっての柚は、もはやその程度の価値しかなかった。
「う、うぅ……」
 もう、嗚咽を漏らすことしかできない。
 盤面でも、気持ちでも、完全に打ち負かされていた。
 恋から浴びせられる罵詈雑言の数々も、今までの流れと、今の場を見れば、否定材料が見当たらない。
 《天命讃華 エバーラスト》《天命王 エバーラスト》。恋の有する最強レベルの切り札が、ニ体とも揃ってしまったこの状況。
 これで恋は、バトルやマナ送りでクリーチャーを除去できず、実質的に恋のクリーチャーを退かす手段を失った。しかも、呪文を唱えることすらままならない。
 なんとか攻撃を凌ぐも、シールドはゼロ。場に残ったクリーチャーもわずか。
 圧倒的不利。絶望的盤面。こんな状況では、
(……勝てません)
 虚無が心を満たす。
(このままじゃ、勝てません……)
 いわゆる、詰みの状況。恋の防御を突破するだけの攻撃力を柚は持ち合わせていない。破壊も、マナ送りも、その他の呪文も、小細工はすべて封じ込まれてしまう。
 希望に縋っても、いくら考えても、逆境に抗おうとしても、活路が見出せなかった。
(わたしじゃ、ひゅうがさんには勝てない……あきらちゃんだって、ひゅうがさんに勝ったことは、ちょっとしかないのに、わたしが勝てるわけがなかったんです……)
 今まで膨らんでいた気力が、一気にしぼむ。勇気を振り絞って食いかかったが、蓋を開ければ、呆気なく返り討ちだった。
 情けないことこの上ない。譲れないもののために、意地を通しても、無理は無理だった。道理を引っ込ませるほどの力は自分にはなかったのだ。
 虚無感がじわじわと広がってくる。
 なにもかもが、薄らいでいく。
 意識もぼんやりとして、なにがなんだか分からない。
 視界が霞む。その奥に、陽炎のような像が浮かんできた。
「……あきらちゃん」
 幻覚か、幻想か。夢か現か幻か。
 はっきりしない自我の中で、混濁する五感が、在りし日の記憶を掴む。
(わすれません……あのときのあきらちゃんも、わたしにとっての、太陽でした——)
 なぜ今になって……などと考える余裕もなかった。ただ今は、そのままに受け入れていく。
 明るい兆しが見え、希望の光として、春のような、あたたかな太陽が照らした日。
 自分はあの日を決して忘れない。
 あの日があるから、今の自分があるから。
 そして。

 それが自分にとっての、ゆずれないものだから——