二次創作小説(紙ほか)
- 113話「欲望——戦闘欲」 ( No.330 )
- 日時: 2016/03/03 22:33
- 名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: Ak1jHfcH)
「——あ」
ふと、見つけた。
お互いに、それぞれの姿が、視界に入り、声をあげる。
「ゆず……!」
「あきらちゃん……いたんですか。いつからそこに……」
少しだけ、驚いたように目を見開く柚。
だが、すぐに彼女は微笑を見せる。彼女らしからぬ、艶っぽい笑みを。
「いいタイミングですね、あきらちゃん。わたし、あきらちゃんを探してたんですよ」
「……私もだよ、ゆず」
「そうなんですか。きぐうですね」
微笑を絶やさない柚。だが彼女の笑みの裏には、なにかが隠れているようで、非常に不気味だった。胸の内がささくれ立つような不安を煽られる。
そして、同時に察した。
(この感じ……確かに、いつものゆずじゃない……)
一目見ただけで、直感的に分かった。
こうして言葉を交わし、彼女の挙動を見て、自分の直感が正しいことを確認した。
彼女に、異変が起こっていることを。
「ゆず……どうしちゃったの?」
「どうしちゃった、ですか? どういうことですか?」
「今のゆずのことだよ。ゆず、変だよ」
「変? わたしがですか?」
柚は首を傾げる。まったく身に覚えがない、と言うかのように。
「そんなことを言うあきらちゃんのほうが、変ですよ。わたしはどこもおかしくありません」
「おかしいよ! いつものゆずなら、迷子になったら泣いてるし、もっとおどおどしてるし、肌を見せるのが恥ずかしいって言って薄着にならないし、そんなエロい格好もしないし、それに……」
それに、と、暁は言葉を紡ぐ。
「部長や浬に、あんなことはしない……!」
「……ぶちょーさんたちと、あったんですね」
柚の眼が、少しだけ細められた。自然と彼女の微笑も消えていた。
だが、彼女はまた違う笑みを取り戻す。
先ほどよりもさらに小さく、細やかな微笑み。それでいて、先ほどよりも、より不気味で、怖気が走る笑みだった。
柚と向かい合って、こんな気分になるのは初めてだった。
「あきらちゃん、わたし、あきらちゃんにご用事があるんです」
「奇遇だね。私も柚に用事がある」
「わたし、あきらちゃんに伝えたいことが、あるんですよ」
暁の言葉を待たずして、柚は動いた。
これも、暁の知らない柚の動きだった。ゆらゆらと揺れるように、不自然なほど自然に、距離を詰める。
浬や沙弓ほど、暁と柚の身長差はない。それでも下から覗き込むような形になる。
「っ、ゆず……!」
「……あきらちゃん」
柚は手を伸ばす。細い枝のような腕、小さな葉のような手が、暁の顔に触れる。
なめらかで瑞々しい、柔らかな指が、絡みつくように頬を撫でる。
そして——
「あきらちゃん……あなたが、ほしいです」
——神話空間が開かれた。
暁と柚のデュエル。
《メテオ・チャージャー》でマナを伸ばし、《熱血龍 バクアドルガン》を召喚しつつ攻める暁に対し、柚は《青銅の面 ナム=ダエッド》と《ベニジシ・スパイダー》を展開している。
浬や沙弓の時と流れは同じだった。
「《熱血龍 バトルネード》を召喚! そして《バクアドルガン》で攻撃! 能力発動だよ!」
山札の一番上をめくり、ドラゴンならば手札に入る。
《バクアドルガン》の咆哮により、暁の山札が飛ぶ。そして、めくられたのは、
「よっし! 《ガイゲンスイ》をゲット! そして、そのままシールドをブレイク!」
柚の二枚目のシールドが砕かれた。
柚の爆発的な展開力は、それを達成するための準備が必要となる。なので、速度のある火文明などを相手にすると、その準備をしている間に攻められ、展開が追いつかないことも少なくない。
「わたしのターンです。《牙英雄 オトマ=クット》を召喚します。そして、マナ武装7、発動です」
柚のマナが緑色の輝きを放つ。
そして、その輝きが《オトマ=クット》に武装され、原生林を繁茂させる。
「マナを七枚アンタップします……そしてこのマナを使って……」
起きあがったマナを再びすべてタップして、柚は手札を切る。
ここまでの流れは、完全に浬と沙弓から聞いたとおりだ。つまり、あのクリーチャーが出て来る。
「《龍覇 イメン=ブーゴ》を召喚」
のっぺりとした白面を付けた、大地のシャーマンが現れる。
「《イメン=ブーゴ》がバトルゾーンにでたとき、超次元ゾーンからコスト4以下の自然のドラグハートを呼ぶことができます。きてください……《邪帝斧 ボアロアックス》」
龍覇 イメン=ブーゴ 自然文明 (7)
クリーチャー:ビーストフォーク號/ドラグナー 7000
このクリーチャーをバトルゾーンに出した時、コスト4以下の自然のドラグハートを1枚、自分の超次元ゾーンからバトルゾーンに出す。
自分のマナゾーンにあるカードを、すべての文明のカードとして扱う。
W・ブレイカー
邪帝斧(イビルトマホーク) ボアロアックス 自然文明 (4)
ドラグハート・ウエポン
このウエポンをバトルゾーンに出した時またはこれを装備したクリーチャーが攻撃する時、自然のコスト5以下のクリーチャーを1体、自分のマナゾーンからバトルゾーンに出してもよい。
龍解:自分のターンの終わりに、バトルゾーンにある自分のクリーチャーのコストの合計が20以上であれば、このドラグハートをフォートレス側に裏返してもよい。
ザクリ、と超次元の彼方より飛来し、地面に突き刺さった邪悪な斧、《ボアロアックス》。
《イメン=ブーゴ》はそれを引き抜くと、再び地面に向かって、その斧を振り下ろした。
「《ボアロアックス》がバトルゾーンにでたことで、マナゾーンからコスト5以下の自然クリーチャーをバトルゾーンにだしますよ。《有毒類罠顎目 ドクゲーター》をバトルゾーンに」
暁の場にコスト4以下のカードはないため、《ドクゲーター》の能力は発動しない。
しかしそれでも構わないのだ。柚の目的は、場数を増やすこと。
さらに言えば、自分の場のクリーチャーのコストを増やすことなのだから。
「これでわたしのターンは終了ですが……このターンの終わり、私のバトルゾーンにいるクリーチャーのコストの合計が20以上です。《ボアロアックス》の龍解条件を満たしました。なので、《ボアロアックス》は龍解します」
柚の場にいるクリーチャーは、《ナム=ダエッド》《ベニジシスパイダー》《オトマ=クット》《イメン=ブーゴ》《ドクゲーター》の五体。
その合計コストは、3+5+7+7+5=27。龍解に必要なコスト20を大きく上回っている。
「っ、やっぱり、部長が言ってた通りだよ……!」
——暁。柚ちゃんのマナが7マナまで溜まりそうになったら、バトルゾーンに注意しなさい。クリーチャーが残ってたら、《イメン=ブーゴ》から《ボアロアックス》をバトルゾーンに出された時点で、龍解はまず止められないわ。
沙弓の言葉が蘇る。
《ボアロアックス》はバトルゾーンに出ただけで、コスト5以下のクリーチャーを呼べる。《イメン=ブーゴ》のコストは7なので、《ボアロアックス》でコスト5のクリーチャーを呼べば、合計コストは12。
さらにここに、事前に《ナム=ダエッド》や《ベニジシ・スパイダー》などを召喚していれば、二体のコスト合計が8なので、さらに足して合計コストはピッタリ20となる。ちょうど、《ナム=ダエッド》《ベニジシ・スパイダー》がマナ加速する能力持ちで、3→5→7と《イメン=ブーゴ》のマナカーブに沿う形にもなっている。
他にも、マナ武装を達成すればノーコストで召喚できる《オトマ=クット》を絡めれば、さらにコストが7上乗せされる。これによって、さらにコストを稼がれてしまう。
ゆえに《ボアロアックス》の龍解は、よほど除去を連打し続けない限り、止めることができないのだ。沙弓はあの一戦だけで、それを悟ったらしい。
破壊を得意とする沙弓ですら止められなかった龍解だ。暁では、なおさら止めることは難しい。
龍解に必要な力を溜めた《ボアロアックス》は、《イメン=ブーゴ》によって地面に埋められる。
そして、そこから発芽するように、一気にその姿を邪悪な遺跡へと変貌させた。
「2D龍解——《邪帝遺跡 ボアロパゴス》」