二次創作小説(紙ほか)

113話「欲望——戦闘欲」 ( No.331 )
日時: 2016/03/06 01:19
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: Ak1jHfcH)

邪帝遺跡 ボアロパゴス 自然文明 (7)
ドラグハート・フォートレス
クリーチャーを自分の手札から召喚した時、自然のコスト5以下のクリーチャーを1体、自分のマナゾーンからバトルゾーンに出してもよい。
龍解:自分のターンのはじめに、バトルゾーンにある自分のクリーチャーのコストの合計が30以上であれば、このドラグハートをクリーチャー側に裏返し、アンタップしてもよい。



 ゴゴゴゴゴ、と地鳴りが響き渡り、古代の要塞は姿を現す。
 五つの龍の頭を象った、邪悪なる古代遺跡、《ボアロパゴス》。
 それぞれの龍の口からは、光、水、闇、火、自然——各文明のエネルギーが、滝のように流れ出ており、どことなく神秘的で、そして禍々しい。
 自然文明に他の文明が奪われ、支配されているかのような錯覚を覚えさせるほどに、その遺跡は途方もない邪気を発していた。
「わたしの一番大切なお友達であるあきらちゃんには、特別におしえてあげます」
「なにを?」
「《ボアロパゴス》の龍解条件です。《ボアロパゴス》は、わたしのターンの最初に、わたしのクリーチャーのコスト合計が30以上なら、龍解します」
 柚の場のクリーチャーのコスト合計は27。つまり、あと3マナのクリーチャーが出るだけで、龍解されてしまう。
「ってことは、なんとしてでも柚のクリーチャーを破壊しないといけないのか……」
 純粋な場数でも暁は負けているのだ。ここはなんとしてでも、柚のクリーチャーを除去しておきたい。
 もしくは、相手に仕掛けられる前に、ブロッカーがおらず、シールドも残り三枚の柚を一気に攻め落としてしまいたい。
 クリーチャーを減らして龍解を防ぐか、このターンで一気に殴り切ってしまうか。このターンの最善の選択は、この二者択一だろう。
 ともすればそれはただの願望だが、暁にはそれができるクリーチャーがいたのだった。

「暁の先に立つ英雄、龍の力をその身に宿し、熱血の炎で武装せよ——《撃英雄 ガイゲンスイ》!」

 火のマナの力を轟々と燃え上がらせ、紅き英雄が姿を現す。
「……来ましたね」
 柚はその姿を見るなり、ほんの少し、蟲惑的な微笑みを見せた。
 《ガイゲンスイ》は戦場に立つと、己の内に秘めた熱き闘志を燃焼させ、気勢を発するように雄叫びを上げる。暁のマナから、さらなる力を受け取るのだ。
「《ガイゲンスイ》のマナ武装7発動! このターン、私のクリーチャーすべてのパワーは+7000! さらにシールドも一枚多くブレイクできる!」
 暁のマナから光が迸ると、それは闘魂の鎧となる。熱血の証である鎧が、《ガイゲンスイ》の身に装備され、武装する。
 そして《ガイゲンスイ》の解き放つ熱血の力が、暁のクリーチャーの闘志をさらに燃やし、爆発的な力を与えた。
「ごちゃごちゃ考える前に、勝負をつけるよ、柚!」
「…………」
 威勢よく宣言する暁に対し、柚はなにも言わなかった。
 暁が選択した一手は、このターンで殴り切ること。除去してもまたクリーチャーは出て来るのだ。それならば、時間をかけて数で圧倒される前に、勝負をつけた方がいいと、暁は判断した。なによりもそちらの方が、暁の性に合う一手だ。
 暁も柚の返答を待たずして、一気に攻める。
「《バトルネード》で攻撃! 《バトルネード》は攻撃のたびに、相手と自分のクリーチャー二体をバトルさせることができる! 《ガイゲンスイ》と《イメン=ブーゴ》をバトル!」
 熱を帯びた鎖が伸びる。《バトルネード》の鎖が《イメン=ブーゴ》を捕え、無理やり《ガイゲンスイ》へと、放るように引き合わせる。
 本来なら《ガイゲンスイ》も《イメン=ブーゴ》もパワー7000で相打ちだが、今の《ガイゲンスイ》は己のマナ武装によって、パワーが14000まで膨れ上がっている。
 《イメン=ブーゴ》など、敵ではなかった。
『——覚悟!』
 スパッ、と。
 居合抜きのような一閃によって、《イメン=ブーゴ》は真っ二つにされた。
 このターンで殴り切るつもりだからと言っても、暁は除去を諦めたわけではない。《イメン=ブーゴ》が破壊し、これで《ボアロパゴス》の龍解が遠のいた。
 そして柚は、マナ武装で強化された暁のクリーチャーの猛攻を防がなくては、このまま押し切られる。これは暁にとって、非常に優位な状況だ。
 《バトルネード》の鎖は、今度は柚のシールドを砕くべく伸長し、薙ぎ払うようにまとめて三枚のシールドを粉砕した。
「……S・トリガーですよ、あきらちゃん」
 砕かれたシールドの一枚目、それは光の束となり収束する。
「《古龍遺跡エウル=ブッカ》です。《バクアドルガン》をマナゾーンに送ります」
「トリガー……っ、しかも《エウル=ブッカ》ってことは……」
「そのとおりです。マナ武装5を発動させて、もう一体のクリーチャー、《ガイゲンスイ》もマナ送りですよ」
 一気に二体のクリーチャーを除去されてしまい、このターンでとどめを刺すことができなくなってしまった暁。
 しかし柚のクリーチャーは破壊し、龍解は防いだはず。さらにこの攻撃で柚のシールドはなくなるため、形勢が暁の方へと一気に傾くのは必然だ。
 そう思っていた。
 だが、しかし。
 二枚目のシールドが、砕かれた瞬間。
「……あきらちゃんは、とっても攻撃には積極的ですよね」
「え? なに、いきなり? そりゃまあ、そうだけどさ……」
「わたしはあきらちゃんの、そういう前向きで自分から動こうとするところ、大好きですよ。わたしはいつも、受け身になってしまうので」
 でも、と柚は微笑む。
 彼女らしからぬ、妖艶な笑みを浮かべて。
「積極的なことが、絶対にいいことばかりじゃないってことも、わたしは知ってるんです。あきらちゃんのことは、小学校からずっとみてますから」
「なにが言いたいの? 私には柚がなにを言いたいのか、全然わかんない。そんなこと言うのは……ゆずらしく、ないよ」
 確かに柚はおどおどしていて、あまり自分の言いたいことをはっきり言える性格ではない。それは暁だって知っている。
 だが、だからといって、こんな物事を迂遠に言うようなことはしない。
 今の柚はいつもの柚とは違う。最初から分かっていたことだが、今になって、それをさらに強く感じる。
「わたしらしくない、ですか……いいえ、これがわたしです。この、受け身の姿勢は、わたしそのものですよ」
 柚はそう言うと、手札に加わった二枚目のシールドを、墓地に置いた。

「S・バック発動——《天真妖精オチャッピィ》を召喚です」



天真妖精オチャッピィ 自然文明 (3)
クリーチャー:スノーフェアリー 1000
S・バック—自然
このクリーチャーをバトルゾーンに出した時、カードを1枚、自分の墓地からマナゾーンに置いてもよい。



 指定された文明のシールドが手札に加わった時、そのカードを墓地に送ることで手札から使うことのできるカードの能力、S・バック。
 柚はシールドから手札に加わった《鳴動するギガ・ホーン》を捨て、手札から《オチャッピィ》を繰り出す。
「っ、クリーチャーが……!」
「《オチャッピィ》の能力で、今さっき捨てた《ギガ・ホーン》をマナに送ります」
 S・トリガーは警戒していたが、まさかこのような形でクリーチャーを展開されるとは思っておらず、吃驚する暁。
 これでクリーチャーがさらに並べられてまずい、と思ったが、そこでふと暁は思う。
 《イメン=ブーゴ》を破壊したことで、柚は《ボアロパゴス》の龍解まで、コストが10足らない状態なのだ。そこで《オチャッピィ》が出て来たとしても、上乗せされるコストは3。
「ってことは、まだ龍解するコストは足りてな——」
「あきらちゃん」
 しかしそんな暁の言うことなどお見通し、と言わんばかりに柚が声を遮った。
 まだ、これだけでは終わらない、とでも言うかのように。
「忘れちゃいけませんよ、あきらちゃん。S・バックは——“手札から”の“召喚”、なんですよ?」
 刹那。
 《ボアロパゴス》が動き始めた。
「っ、なに!?」
「《オチャッピィ》が召喚されたことで、《ボアロパゴス》の能力が発動したんです」
 《ボアロパゴス》は、手札からクリーチャーを召喚するたびに、《ボアロアックス》と同じくコスト5以下の自然クリーチャーをマナから呼ぶことができる。
 本来この能力は召喚にしか適応されないため、コスト踏み倒しでバトルゾーンにクリーチャーを出しても、《ボアロパゴス》は反応しない。しかし、S・バックによるクリーチャーのコスト踏み倒しは、S・トリガーと扱いが同じ——即ち、出される場所は“手札から”であり、コストを踏み倒していても、“召喚”扱いになるのだ。
 よって、《ボアロパゴス》の機構が起動する。
「《ボアロパゴス》の能力で、マナゾーンから《ギガ・ホーン》をバトルゾーンへ。《ギガ・ホーン》の能力で、山札から二体目の《オチャッピィ》を手札に加えます」
「二枚目……ってことは」
「そうです。《バトルネード》の攻撃は……終わってませんよね?」
 一度繰り出されたシールドブレイクは、もう止められない。
 否応なしに、暁は、《バトルネード》は、柚の三枚目のシールドをブレイクした。
 そして、
「もう一度、S・バック発動です。《ドミティウス》を捨てて《天真妖精オチャッピィ》を召喚します。それにより《ボアロパゴス》の能力も発動。マナゾーンから《ブロンズザウルス》をバトルゾーンに」
 《ギガ・ホーン》でサーチした《オチャッピィ》を再びS・バックで召喚され、《ボアロパゴス》の能力もあわせてクリーチャーが展開されていく。
 これで柚の場は、《ナム=ダエッド》と《オチャッピィ》が二体ずつ、あとは《ベニジシ・スパイダー》《ドクゲーター》《ギガ・ホーン》《ブロンズザウルス》そして《オトマ=クット》となる。
「……それじゃあ、わたしのターンですね」
「う……」
 暁はこれ以上、攻撃できない。なのでもう柚にターンを明け渡すしかないのだ。
 そしてこのターンの初め、柚の場のクリーチャーのコストを数える。
 3+5+7+5+3+5+3+5=36。
 《オチャッピィ》のS・バックと《ボアロパゴス》を組み合わせることで、《イメン=ブーゴ》を破壊されてもクリーチャーを展開した柚。暁のターンだというにも関わらず、14コスト分のクリーチャーを並べている。
 そして、これにより、
「《ボアロパゴス》の龍解条件が満たされました」
 場のクリーチャーの合計コスト30以上。それが、柚の、そして《ボアロパゴス》の求める龍解条件。
「わたしの欲望がうずまいて……わたしの牙にひれ伏して……邪悪なわたしはここにいます……3D龍解」
 その条件を満たした今、《ボアロパゴス》は最後の姿を見せる。
 戦場に立つクリーチャーたちの命を数え、その力のすべてを吸収し、解き放つ。
 原始的なまでの、強大で凶悪な欲望に憑りつかれた、邪悪な古代龍の姿を。
「あなたのすべてを、わたしにください——」
 そして、欲望の化身が——現れた。

「——《我臥牙 ヴェロキボアロス》」