二次創作小説(紙ほか)

113話「欲望——戦闘欲」 ( No.332 )
日時: 2016/03/06 01:17
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: Ak1jHfcH)

我臥牙(ガガガ) ヴェロキボアロス 自然文明 (10)
ドラグハート・クリーチャー:ジュラシック・コマンド・ドラゴン 15000
自分の手札からクリーチャーを召喚した時またはこのクリーチャーが攻撃する時、自然のクリーチャーを1体、自分のマナゾーンからバトルゾーンに出してもよい。
T・ブレイカー



「な、なにこれ……!?」
「《我臥牙 ヴェロキボアロス》……これが、今の“わたし”です」
 緑色の屈強な肉体。湾曲した鋭利な角。身体を覆う頑強で凶悪な装飾。すべてが刺々しく、毒々しく、禍々しい。
 そして、両手に握るのは、白、青、黒、赤、緑——五つの文明を飲み込んだかのように、虹色に光る戦斧。
 これが、こんなものが、今の“柚自身”なのか。
 目の前のこの存在にも、そして彼女の言葉にも、暁は戦慄を覚えざるを得ない。
 しかし、彼女は、暁を待ってくれない。欲望に突き動かされるかのように、攻める手を止めない。
 すべてを、貪り尽くすまで。
「《ナム=ダエッド》を召喚。そして、《ヴェロキボアロス》の能力発動です」
 柚が《ナム=ダエッド》を呼ぶ。すると、《ヴェロキボアロス》が天地を揺るがすほどの声で、咆哮した。
「《ヴェロキボアロス》は、手札からクリーチャーを召喚すれば、マナゾーンから自然のクリーチャーを一体だけ呼んできてくれるんです。コストのしばりもありません……それではお願いします、《ヴェロキボアロス》」
 その咆哮は、天空を貫き、大地を割る。
 その割れた大地から、《ヴェロキボアロス》は邪悪な古代龍を引きずり出す。

「支配します、邪龍様——《邪帝類五龍目 ドミティウス》」

 蜘蛛のように、邪悪な古代の龍が這い出てくる。
 腕なのか脚なのか判別もつかないが、肉が盛り上がり、暗緑色に染められた身体。二重になった下顎には、巨大な牙が剥き出しになっている。さらに鋭利な爪と頭部には、五つの文明を示す、五つの色の宝玉が埋め込まれていた。
 不慮の事故によって生み出されてしまった、五つの文明すべてを飲み込む力を持つ、邪帝類のジュラシック・コマンド・ドラゴン。
 それが《邪帝類五龍目 ドミティウス》だ。
「《ドミティウス》の能力で、山札の上から五枚をみます……そして、その中から各文明のコスト7以下のクリーチャーを、バトルゾーンへ」
 今度は《ドミティウス》が咆える。耳を覆いたくなるほどに邪なその雄叫びは、さらなる力を求め、山札を掘り進む。
 まるでその声に聞き惚れてしまったかのように、うっとりと蕩けた表情を見せる柚は、五枚のカードを捲り、その中から三枚を抜き出した。
「ふふっ、でてきてください。《理英雄 デカルトQ》《凶英雄 ツミトバツ》《龍覇 イメン=ブーゴ》」
「っ、浬と部長のカード! それに、また《イメン=ブーゴ》が……!」
「そうですよ、あきらちゃん。《イメン=ブーゴ》がいれば、わたしのマナはすべての文明をもちます。なので、《デカルトQ》のマナ武装7、発動です」
 《イメン=ブーゴ》の力によって、虹色に輝く柚のマナゾーン。その中の青色が、一際強く光った。
「《デカルトQ》のマナ武装で、カードを五枚ひきますね。続けて《ツミトバツ》のマナ武装7も発動です。あきらちゃんのクリーチャーのパワーは、ぜんぶ−7000です」
「う……っ!」
 《イメン=ブーゴ》がマナを虹色に染め上げ、すべての色に染まったマナの力で、《デカルトQ》と《ツミトバツ》は武装する。
 本来の色ではな仮初のマナで、偽りの武装を為す。
 《デカルトQ》の生み出す知識は柚の手に渡り、《ツミトバツ》が放つ凶器が暁のクリーチャーを惨殺する。
 《ナム=ダエッド》の召喚だけで、連鎖的に四体のクリーチャーが現れた挙句、柚の手札は大量に増え、暁は場を壊滅させられた。
「ぜ、全滅……! 流石、部長の英雄……強烈だよ……! 手札も増やされたし、マナは多いし……」
「そうです、終わりじゃないですよ、あきらちゃん。5マナで《次元流の豪力》を召喚です。能力で、超次元ゾーンから《光器セイント・アヴェ・マリア》をバトルゾーンに。手札からクリーチャーを召喚したので、《ヴェロキボアロス》の能力発動です。マナゾーンから《ベニジシ・スパイダー》をバトルゾーンに」
 一体のクリーチャーが現れるたびに、二体目、三体目のクリーチャーが、次々と現れる。
 最初から展開を続けてきた柚の展開力は加速する。もはや、その数の暴力をすべて防ぐ術は、暁にはない。
 そして、その絶望を確かなものにするかのように、柚は進み出る。
 欲望を、突きつけるかの如く。
「さぁ、いってください。《ヴェロキボアロス》で攻撃です。そして、このときにも《ヴェロキボアロス》の能力発動ですよ」
「え……っ!? 攻撃する時も!?」
「そうですよ、あきらちゃん。でてきてください」
 《ヴェロキボアロス》の咆哮が、再び大地を割り砕く。
「絶対です、界王様……《界王類絶対目 ワルド・ブラッキオ》」
「今度は《ワルド・ブラッキオ》……!」
 それは柚のカード。暁にも見覚えのある彼女のカードに、多少の安堵を覚えるがそのような感覚はすぐさま霧散してしまう。
「《ヴェロキボアロス》で、シールドをTブレイクです」
 直後、《ヴェロキボアロス》の戦斧の一撃が、暁のシールドを砕く。
 あまりの衝撃に、身体が吹き飛ばされそうだ。その破壊力は、あまりに暴力的すぎる。とても、柚の従えるクリーチャーとは思えない。
「くぅ……! S・トリガー《ミラクルバースト・ショット》! パワー3000以下のクリーチャーをすべて破壊!」
 だが、そんなことを考えている暇はなかった。暁は割られたシールドから、即座にS・トリガーで切り返す。
 引いたトリガーは《ミラクル》バースト・ショット。放たれる無数の弾丸が、《ナム=ダエッド》《オチャッピィ》《ギガ・ホーン》を始めとする、多くの柚のクリーチャーを撃ち抜き、吹き飛ばした。
 だがそれでも、柚の場には《オトマ=クット》《ベニジシ・スパイダー》《ドクゲーター》《ブロンズザウルス》といったアタッカーが、まだ何体も立ち並ぶ。下級クリーチャーを一掃した程度では、なにも解決しない。
 さらに、《ヴェロキボアロス》が残るシールドも薙ぎ払う。
「二枚目……S・トリガー! 《天守閣 龍王武陣》!」
 法螺貝の音が鳴り響き、暁の山札が五枚捲られる。
 次々と視界に飛び込んでくるカードを見送りながら、その中のカードを一枚、掴み取る。
「これ! 選ぶのは《爆竜勝利 バトライオウ》! パワー8000以下の《オトマ=クット》を破壊だよ!」
「でも、まだ足りないですよ、あきらちゃん。わたしの攻撃できるクリーチャーは、まだあと三体います。あきらちゃんのシールドは、残り二枚ですよね」
「…………」
 このターン攻撃可能なクリーチャーを半分ほど破壊したが、それでもまだ足りない。
 暁のシールドは二枚、柚のアタッカーは三体。
 もう一枚S・トリガーを引いて、一体でもアタッカーを除去しなければ、このターンで暁の敗北は確定してしまう。
「《ベニジシ・スパイダー》で、シールドをブレイクです」
「トリガーは……《バトクロス・バトル》、でもこれじゃダメだ……」
 《ワルド・ブラッキオ》が存在する限り、バトルゾーンに出た時にトリガーする能力は発動しない。《バトクロス・バトル》を出してもバトルが起らず、ターン終了時に山札に戻ってしまうのでは、出す意味がない。
「次ですよ、《ドクゲーター》でシールドをブレイクです。これで、あきらちゃんのシールドはなくなりましたよ」
 《ドクゲーター》がシールドを割り、暁のシールドはこれでゼロ。
 最後の一撃、とどめの攻撃が、柚のクリーチャーから放たれようとするが、
「まだ……まだ終わらないよ、ゆず!」
 五枚目に割られた最後のシールドが、光の束となって収束し、それは一つの刃となる。
「S・トリガー発動! 《めった切り・スクラッパー》! 《ブロンズサウルス》を破壊!」
 鋸のような刃は《ブロンズザウルス》の身体を真っ二つに断裁し、破壊する。
 これで、このターンの攻撃は凌ぎ切った。本当に、ギリギリの攻防だ。
「さすがです、あきらちゃん。わたしの攻撃をたえきるなんて、やっぱりあきらちゃんはすごいです……ですが」
 ぱちぱち、と手を叩く柚。
 だが、たった一瞬の淡い夢は、残酷すぎる現実に塗り潰されるだけである。
 柚はにっこりと笑いかけた。
「ここから、どうやって逆転しますか?」
「それは……」

 無理だ。

 脳裏によぎる言葉は、それしかなかった。
 シールドはお互いにゼロだが、場のクリーチャーの数が違いすぎる。暁はゼロ、柚は無数。戦力差は圧倒的だ。
 加えて柚の場には《デカルトQ》と《セイント・アヴェ・マリア》、二体のブロッカーがいる。スピードアタッカーを召喚するだけでは、突破できない。
 さらに言えば《ワルド・ブラッキオ》がいるため、暁はクリーチャーの召喚に大きな制限をかけられる。登場時に発動する能力は無力だ。かといって、アタックトリガーでどうにかなるとも思えない。ブロッカーを破壊するスピードアタッカーの《GENJI・XX》がいたとしても、突破不能な布陣である。
「……《爆竜勝利 バトライオウ》を召喚……ターン、終了だよ……」
「では、このターンで終わりですね。わたしのターン」
 カードを引く柚。豊富な手札とマナを使おうともせず、彼女はそのまま《ヴェロキボアロス》へと手をかける。潤沢な手札もマナも、使うまでもないと言うかのように。
 実際、今の暁には、なにかを手を打つほど警戒する要素はない。
 完全に、柚が支配し、すべて貪り尽くしてしまった。
「楽しかったですよ、あきらちゃん。でも——もう、用はないんです」
 そう、切り捨てるように言って。
 邪悪なる古代龍が、三度目の咆哮を響かせる。
 戦いに終焉を告げる、咆哮を。
「《我臥牙 ヴェロキボアロス》——ダイレクトアタックです」
 彼女の一言で、《ヴェロキボアロス》は戦斧を振り上げた。
 すべて、終わったのだ。
 あらゆる生命が、欲望が、力が、暁を蹂躙する——

「熱血の英雄の力……いただきます、あきらちゃん——」