二次創作小説(紙ほか)
- 114話「欲望——愛欲」 ( No.333 )
- 日時: 2016/03/09 17:18
- 名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: Ak1jHfcH)
「恋、なんだか今日は積極的?」
「いきなりなに……なんで……?」
柚を捜索中の恋とキュプリス。
寡黙な恋は道中、一切合切口を開かなかったが、キュプリスに呼びかけられ、初めて開口する。
「柚ちゃんだっけ? あの子になにか思うところがあるの? 恋敵じゃなかったの?」
恋の目が、少しだけ細められる。なんでそんなことを言うのか、と言わんばかりの目だ。
確かに、今日の恋はいつも以上に積極的ではある。文句一つ言わずにこうして柚を探しているし、暁と一緒に行動することを希望もしなかった。
それがどうしてか。キュプリスは、わざわざ自分の口からそんなことを言わせたいのか。そう思うと、若干不快になった。
逆に、キュプリスはなぜ自分にそんなことを言わせたいのかを考えてみる。
「……キュプリス……この前のゆずとの対戦……出さなかったの、怒ってる……?」
「え、なんで?」
「質問を質問で返さないで……」
「別に怒ってないよ? 恋がそうしたいって思ったんなら、ボクはそれでいいもん」
「そう……」
ということは、彼女の気まぐれか。
そう思うと不快感もだいぶ薄れる。しかし、同じ場所に居合わせたというのに、そんなことも察せないのか、とやや呆れつつ、面倒そうに口を開いた。
「ゆずは……あきらの大事な人、だから……」
そして、暁の大事な人は、自分にとっても大事な人だ。
「この前まではあんなに突っかかってたのにねぇ。ツンデレさんめ」
「私はクーデレだから……」
「自分で言っちゃうんだ。デレるところは否定しないんだ。というか君がクールなのは表面だけだよね?」
恋の周りをちょこまかと動き回りながら、言葉も散らしてくるキュプリス。正直、少し鬱陶しかった。
キュプリスはたまに、こんな風に絡んでくることがある。それは彼女の気まぐれから引き起こされるものなのだが、恋がそれを邪険に思うのは、彼女がこちらの心中を見透かしたようなことを言うからだ。
今回も、そうだった。
「そんなにあの子と同調したんだ?」
「…………」
「沈黙は肯定と解釈すればいいのかな?」
「……好きにすればいい」
投げやりに答える。
今まで何度もこういうことはあったが、このしつこさには慣れない。
「恋って、同族嫌悪激しそうに見えて、実際は仲間意識強いよね。同じ趣味の人とかと会ったら、際限なく語り合うタイプでしょ」
「うるさい……」
「照れ屋さんだなぁ、恋は。暁ちゃんや柚ちゃんみたいに、ボクにも素直になればいいのに。それともなにかな? ボクのこと、信用してない?」
「……そうかも」
否定は、しなかった。
言われて初めて、自覚した。
自分がどれだけ彼女について無知であるかを。
「……私、キュプリスのこと、あんまり知らないし……」
「え、そう?」
「こっちの世界に来て、偶然見つけて……そのまま、なりゆきでいっしょにいただけだし……」
「そういえばそうだっけ」
それからは【秘団】の一員として動き、ユースティティの手足となっていた。心的にも、キュプリスと向き合う余裕は、かつての自分にはなかった。
だから、彼女が慈愛の語り手であることも、時々忘れそうになっていた。
ものはついでだ。この機に、恋は言及してみる。
「キュプリスって、慈愛の語り手、なんだよね……?」
「そうだよ。今更だね」
「でも、あんまり慈愛って感じ、しない……キャラ薄いし……ボクっ娘なんて、今時はやらない……本当に、慈愛の語り手……?」
「痛いとこ突くなぁ。まあでも、仕方ないよ」
キュプリスは、いつもよりも憂いを帯び、どこか諦念を感じさせる調子で、言った。
「他の語り手がどうかなんて知らないけど、ボクは、なるべくして語り手に選ばれたわけじゃないから」
「……? それ、どういう——」
こと、と続けようとする恋の言葉は、遮られた。
なににか。それは、木陰の奥から歩み寄る人物にだ。
「……っ」
その人物を見て、恋は少しだけ目を見開く。
正確には、その人物ではなく、その人物の出で立ちに、だった。
転んだわけではないだろうが、全身ボロボロだ。足取りもどこか重そうだ。
そのただ事じゃない様子に小さくない吃驚を感じながら、恋は彼女らの名を呼ぶ。
「さゆみ……メガネ……」
「日向さん……ちょうどよかったわ」
その人物——沙弓は、力ない声で言う。その後ろに付いていた浬も、焦燥しきっていた。
「流石にそろそろ、疲れたわ。カイは情けないし、この子も休ませたいし」
そう言って、沙弓は背負っていた誰かを降ろして、丁寧に寝かせた。
そして今度こそ、恋は明らかな吃驚を持って、目を見開く。
「あきら……!」
沙弓が背負っていたのは、一人の少女——暁だった。
彼女も、沙弓や浬同様にボロボロだ。
困惑する恋。何者かにやられたのだろうが、暁ともあろう者が、そう簡単に負けるとも思えなかった。
心中で渦巻くものをなんとか抑えて、恋は声を絞り出す。
「……なにが、あったの……?」