二次創作小説(紙ほか)

114話「欲望——愛欲」 ( No.336 )
日時: 2016/03/12 12:22
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: Ak1jHfcH)

 内に秘めた邪な欲が蠢動し、《邪帝遺跡 ボアロパゴス》は龍解する。
 原始的なまでの強大な欲望に取り憑かれ、五文明を飲み込む邪悪なる存在。
 すべてを我が物とするために、あらゆる命を地に臥し、己が牙を突き立てる古代龍——《我臥牙 ヴェロキボアロス》へと。
 柚は巨大な《ヴェロキボアロス》を従え、静かにカードを繰る。
 その刹那。
「ドローして、マナチャージ……そして、このクリーチャーを召喚です」
 ぞわり、と悪寒が走る。
 今にも、すべてを飲み込まれてしまいそうなほどの欲望を、肌で感じた。

「支配します、邪龍様——《邪帝類五龍目 ドミティウス》」

 大きな欲望の塊が、また一つ、現れる。
「《ドミティウス》がバトルゾーンにでたとき、山札の上から五枚をみて、コスト7以下のちがう文明のクリーチャーを一体ずつ、バトルゾーンにだせます」
「……つまり、最大五体のクリーチャーを踏み倒せる……でも、そんなに都合よくいくわけが……」
「それはどうでしょう? さぁ、きてください——」
 《ドミティウス》が咆哮する。大いなる資産の大地を掘り返し、そこに眠る英雄たちを、目覚めさせるために。

「——《理英雄 デカルトQ》《凶英雄 ツミトバツ》《撃英雄 ガイゲンスイ》《牙英雄 オトマ=クット》」

 《ドミティウス》の雄叫びが、飲み込んだ文明の力を解き放つ。
 柚が捲った五枚のカードのうち四枚、四体の英雄が、その姿を現した。
「《イメン=ブーゴ》のおかげで、わたしのマナゾーンはすべての文明になっています。なので。すべてのマナ武装が使えるんですよ」
「やっぱり、《イメン=ブーゴ》が……さゆみの、言ったとおり……」
「まずは《デカルトQ》のマナ武装7、カードを五枚ドローします。次に《ツミトバツ》のマナ武装7で、こいちゃんのクリーチャーのパワーは、ぜんぶ−7000です」
「っ……クリーチャーが……」
 《デカルトQ》によって大量の知識を得る。さらに《ツミトバツ》が千本の刃を放ち、恋のクリーチャーを根絶やしにする。
 これだけでも多くのアドバンテージを得た柚だが、彼女の欲望は、まだ止まらない。
「さらに《ガイゲンスイ》のマナ武装7で、わたしのクリーチャーはすべてパワー+7000、そしてシールドを一枚、多くブレイクできます」
「《ガイゲンスイ》……あきらのカード……」
「はい。あきらちゃんの力、つかわせてもらっています」
 淫靡に微笑む柚。大事な人を、大切な恋人を、奪われたような、穢されたような気分だ。
 しかし、この状況は、今に恋にはどうしようもない。なにも、手出しができないほどに、彼女は遠のいてしまっている。
「最後に《オトマ=クット》のマナ武装7発動です。わたしのマナゾーンのカードを七枚アンタップします」
 《オトマ=クット》は原生林を繁茂させ、再びマナに活力を与える。
 これで、《ドミティス》に使ったマナのほとんどを取り戻したことになる。
「《ドミティウス》を召喚したことで、《ヴェロキボアロス》の能力発動です。マナゾーンから《ベニジシ・スパイダー》をバトルゾーンに。マナをふやして、今度は手札から《ベニジシ・スパイダー》を召喚します。《ヴェロキボアロス》の能力で、マナゾーンから《ギガ・ホーン》をバトルゾーンに。能力で山札から《ナム=ダエッド》を手札にくわえます。その《ナム=ダエッド》召喚して、マナゾーンから《ドクゲーター》をバトルゾーンに」
 《デカルトQ》で大量に増やした手札、《オトマ=クット》で起き上がらせたマナ。そこに《ヴェロキボアロス》の能力を加え、柚はクリーチャーを並べる柚。
 その様に、恋は絶句していた。
「…………」
 凄まじい展開力。
 ただ、その一言に尽きる。
 柚の展開力、爆発力は凄まじい。そのことに限れば、遊戯部でも暁と肩を並べられるほどだ。それは恋もその身をもって感じている。
 だが、ここまでの展開力は、かつての柚にはなかった。
(やっぱり、なにかあった……そのなにかの、力……?)
 それがなんなのかは分からない。
 だが、とても邪悪で禍々しいものであることは、感じられる。
「おまたせしました。それじゃあ、いきましょう——こいちゃん」
 柚は宣告する。
 すべてを奪わんとするほど大きく、凶悪で、原始的な“欲”をぶつけることを。
「《ヴェロキボアロス》で攻撃。そのとき、マナゾーンから《ブロンズザウルス》をバトルゾーンにだします……そして、Tブレイク」
 邪悪な気を発しながら、《ヴェロキボアロス》は巨大な戦斧を振り降ろす。
 その一撃は凄まじく、一瞬で恋のシールドを三枚叩き割ってしまう。
「さらに《ガイゲンスイ》の能力で、シールドをもう一枚、追加でブレイクです」
 地に食い込んだ斧を、空間を抉るように無理やり刃の向きを変え、薙ぐように引き戻す。
「……っ」
 粗雑で、粗暴で、荒々しく、豪快に、《ヴェロキボアロス》は四枚のシールドを砕き散らす。
「S・トリガー《ヘブンズ・ゲート》……《音感の精霊龍 エメラルーダ》《天団の精霊龍 エスポワール》をバトルゾーンに……」
 《エメラルーダ》の能力で、先んじてシールドのカードを見る恋。どうせ相手クリーチャーはすべてWブレイカー以上なのだ。残り一枚のシールドを二枚にしたところで、なにも変わりはしない。
 そう思って、残り一枚のシールドを開くと、
「来た……S・トリガー《聖歌の聖堂ゾディアック》……《イメン=ブーゴ》《ナム=ダエッド》《ガイゲンスイ》をフリーズ……《エメラルーダ》の能力で、手札を一枚、シールドへ……」
「《ベニジシ・スパイダー》で、シールドをブレイクです」
 トリガーが出ようと、柚は止まらない。味方の動きが封じられても、お構いなしで攻撃を続ける。
「S・トリガー《ヘブンズ・ゲート》……」
 今度は天国の門が開かれる。
 恋の手札から、二体のブロッカーが舞い降りた。
「《支配の精霊龍 ヴァルハラナイツ》……そして」
 《ゾディアック》に続き、聖なる賛美歌が響き渡る。
 これは前奏だ。その音色と共に、かの英雄が、姿を現すのだ。
 響き渡る楽曲が最高潮に達した刹那、

「私の世界の英雄、龍の力をその身に宿し、聖歌の祈りで武装せよ——《護英雄 シール・ド・レイユ》」

 光のマナの力を一身に受け、白き英雄が姿を現す
「……来ましたね」
 その姿を見るなり、柚は小さく、蠱惑的な微笑みを見せる。
 《シール・ド・レイユ》が戦場に立つと、さらなる讃美の歌を促し、己もそこに透き通るような声を混ぜる。恋のマナから、さらなる力を受け取るのだ。
「《シール・ド・レイユ》のマナ武装7、発動……《ベニジシ・スパイダー》と《ギガ・ホーン》を、シールドへ……」
 沙弓のマナから光が迸ると、それは聖なる盾となる。賛美を示す盾が、《シール・ド・レイユ》の身を守り、武装する。
 そして、盾から放たれた神々しき光は、柚のクリーチャーを照らし、その力を肉体ごと、盾の中へと封じ込める。
 これで柚のクリーチャーが二体減り、残るブロッカーでも辛うじて防げるようになった。
「まだ……《ヴァルハラナイツ》の能力で、もう一体の《ギガ・ホーン》をフリーズ……」
「かたいですね、こいちゃん。でも、わたしも止まりませんよ。《オチャッピィ》と《次元流の豪力》で、ダイレクトアタックです」
「《エスポワール》《エメラルーダ》で、ブロック……」
 攻撃を防ぐも、相手は《ガイゲンスイ》のマナ武装で強化されている。こちらが中〜軽量のブロッカーでは、チャンプブロックにしかならなず、展開したブロッカーも、多くがあえなく破壊されてしまった。
 それでもギリギリ、恋は柚の猛撃を耐えきって見せた。
 もっともそれは、耐えただけであって、反撃の芽は完全に摘み取られてしまっていたが。
「く……っ!」
「おしかったですね、こいちゃん。でも、すごいですよ。わたしの攻撃を、1ターンでもたえきるなんて……さすがです。あきらちゃんもそうでしたけど、二人とも、すごいです」
 うらやましいくらいです、と柚は微笑む。
 羨望なのか。本気で言っているのか、冗談なのかも分からない。
 ただ分かることはひとつだけ。
「《龍覇 セイントローズ》召喚……《天獄の正義 ヘブンズ・ヘブン》をバトルゾーンに……ターン終了時に、《龍覇 エバーローズ》をバトルゾーンに……《不滅槍 パーフェクト》を装備……」
「ドラグハート……ちょっとこわいです。でも、もう、わたしの勝ちですよ」
 この対戦の勝敗は、完全についてしまっている、ということだけだ。 
「《ナム=ダエッド》を召喚、《ヴェロキボアロス》の能力を発動です。《ドクゲーター》をバトルゾーンに出して、《パーフェクト》を超次元ゾーンに戻します」
「《パーフェクト》が……」
「ふふっ、続けて《有毒目 ラグマトックス》を召喚です。《ラグマトックス》の能力で、お互いのクリーチャーをマナに置きますよ。わたしは《ラグマトックス》です」
「《エバーローズ》……」
 《ドクゲーター》が除去するのは、クリーチャーだけではない。コスト4以下のカードであれば、如何なるものでも毒する。
 そのため、コスト4のドラグハート・ウエポンである《パーフェクト》もその毒息で腐食し、《エバーローズ》は除去耐性を失ってしまい、《ラグマトックス》の毒に蝕まれる。
「まだですよ、こいちゃん。《ヴェロキボアロス》の能力で、マナゾーンから《ラグマトックス》をバトルゾーンに。お互いのクリーチャーをマナに送ります。わたしは、《ラグマトックス》です」
「《セイントローズ》……」
「《オチャッピィ》を召喚です。墓地のカードをマナに置いて、マナゾーンから《ラグマトックス》をバトルゾーンに。《ラグマトックス》をマナゾーンへ」
「……《シール・ド・レイユ》」
 《セイントローズ》に続き、《シール・ド・レイユ》までが《ラグマトックス》に毒され、苦しみもがきながら土へと還る。
 残っているのは、《ヴァルハラナイツ》が一体のみ。
 しかしその《ヴァルハラナイツ》の前に立つ《ヴェロキボアロス》が、戦斧を振り上げた。
「それでは、そろそろ終わらせましょう。《ヴェロキボアロス》で攻撃する時にも、能力発動です。《ラグマトックス》をバトルゾーンに出して、そのままマナへ。こいちゃんの場に残った《ヴァルハラナイツ》をマナ送りです」
「…………」
 言葉も出て来ない。
 全滅だった。空には《ヘブンズ・ヘブン》だけが虚しく浮かんでいる。
 すべてのクリーチャーが、毒され、もがき苦しみ、絶えてしまった。
 結局、なにも救うことはできなかった。
 救われても救えない、己の無力さが憎い。
 嘆こうが悲しもうが、もはや意味はない。
 すべての守りを突き崩された。貪り尽くすように、欲望をぶちまけるかのように、暴力的な原始の力が恋のすべてを潰していく。
 あらゆる生命が、欲望が、力が、恋を蹂躙する——

「聖歌の英雄の力……いただきます、こいちゃん——」