二次創作小説(紙ほか)
- 烏ヶ森新編 27話「■龍警報」 ( No.337 )
- 日時: 2016/03/14 07:00
- 名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: Ak1jHfcH)
「——そういえば、火文明の方で、なにかあったみたいですね」
「なにか、といいますと?」
「うーん、まあ大したことではないと思うんですけどね。でも、暴れていることに違いはないわけですし、ちょっと厄介なクリーチャーかもしれませんよ」
「火文明はこんな世界になっても血気盛んですね……わかりました。では、近々私の方でなんとかします」
「ありがとうございます。それじゃあ僕も、すぐにあそこに向かいますか」
「あ、そのことなんですけど……」
「?」
「私たちの方の、“彼女”が、そちらに同行したいとのことでして——」
いつも通りの烏ヶ森学園、中等部にある部室棟の一角。そこでは、部員たちがせっせとそれぞれの作業をしている。
そして部の長たる一騎は、少々特殊な部員である氷麗と向かい合っていた。
そう表現すると、若干の仰々しさが感じられるが、立ち話で、業務連絡と言ってもいい内容だ。形式的ではあっても、そして一般人に伝わるようなそれではなくとも、それほど堅苦しいものではない。
「——というわけですので、後日、彼女を向こうに転送しますね」
「うん、分かった。俺の方からも連絡を入れられたらいいんだけど、最近ちょっとゴタゴタしてるから、無理かもしれないなぁ……最近は忙しいんだよね、人手も足りてないし」
「まったくだ」
横から声が飛ぶ。槍のような鋭い声で、正に横槍を入れる声だった。
「ミシェル……」
「こんなクソ忙しい時にぶっ倒れる部長様がいるくらいだしな」
「ご、ごめん。今度からは気をつける」
「マジであんなのは勘弁してくれよ。特に、お前は色々と危なっかしいからな」
書面にペンを走らせながら、刺々しい言葉を浴びせるミシェル。しかしその裏に込められた心配の念は、誰もが感じ取っていた。
先日、体育の授業中に一騎が倒れたことは、軽く校内で話題になっている。季節が季節なので単なる熱中症という認識しかされていないが、人ひとりが倒れるとなると、やはりそれなりに噂になるものだ。
「その噂はうちのクラスでも聞きましたけど、部長はもう大丈夫なんですかー?」
「剣埼先輩ですしね。私のクラスでも、結構心配している人の声は多かったですが」
「あ、自分のクラスもっす。部長が倒れたって、その話で持ちきりっすよ」
そこかしこから、そして部員からも、その噂は流れてくる。体育の授業という目立つ時だったがゆえに、当然のことかもしれないが。
「そ、そんなに広まってるんだ……俺は大丈夫だよ。ちょっと疲れてただけだから」
「本当に……? つきにぃ……」
「本当だよ、恋。心配しなくていいから」
「それは無理だろ。ひづき先輩も、卒業するまでずっと言ってたしな」
「……俺、そんなに信用ないかな?」
確かに今まで多少の無茶をやって来た自覚はあるが、それでも節度は守っていたつもりだ。恋について探るためにあちらの世界に向かった時は、その無茶が過ぎることもあったが、それでもそこまで信用を失うようなこともなかったはず。
そう思いつつ部員たちを見回し、疑問を投げかけるも、
「自分の行いを省みろ。自覚してないなら自覚しろ。お前は自分が思っている以上に無茶苦茶やってるからな」
「その通りですね」
「異議なしですー」
「……ごめん」
思っていた以上に辛辣で正直な部員たちだった。言葉が返せない。
自覚はある、だなんて思い上がりだったのかもしれない。実際には自覚などできていなくて、それがより無茶することに繋がっているのかもしれない。ここまで言われるということは、そうなのだろうと思う。
実際に部員からこんな評価を受けている上に、少なくとも一度は倒れて皆に迷惑をかけてしまったので、今後はもっと自覚を持って、無茶しないように考えるべきなのだろうと、深く反省する。というより、これは反省せざるを得ない。部員の目が痛すぎた。
「……こんな話の最中に申し訳ないですが、向こうの世界でちょっと困ったことがあるんです」
「あっちで? なにがあったの?」
「おい、一騎のお人好しスキルが発動したぞ。誰か止めろ」
「とりあえず話くらいは聞きませんかね。部長を止めるか否かは、それを聞いてからでも遅くはないかとー」
「実は、火文明の領土で、大きな反応が発見されました」
空後がミシェルを宥めるように言うのも無視するかのように、氷麗は続ける。
「どのようなクリーチャーなのかは、まだ情報不足ですが……決して弱いクリーチャーではなく、むしろ強大な力を持つクリーチャーだと思われます。このまま放っておくわけにもいきませんし、早急に処理したいのですが……」
「鷲中の連中はどうした? あいつらには頼めないのか?」
「無理とは言いませんが、語り手を多く有しているあちらはあちらで、忙しいようです。重要度的には、語り手が絡まないこちらの方が低いので、私たちで対処してしまいたいところですね」
氷麗や、東鷲宮でナビゲーターをしているリュンにとって、重要なのは語り手のクリーチャーだ。こちらは一騎と恋の二人が所有しているが、向こうは四人が所有している。より大事な案件は、向こうに委ねたいことだろう。
だが、そもそも原点の行動が、自分たちと東鷲宮の面々では違いがある。ナビゲーターの都合で差別をされたような気分になり、ミシェルは舌打ちした。
「ちっ、あたしらは連中の露払いじゃないんだがな」
「結果的にそうなっているだけとはいえ、概ね同意です」
「日向さんがこうしてここにいる時点で、僕らの目的は遂行されたようなもんですし、それ以上付き合うメリットはないという考え方もできますねー」
「ま、まあまあ、東鷲宮の人たちにはお世話になってるし、このくらいは助けてあげようよ」
「すみません。皆さんを軽んじているつもりはないのですが……」
美琴と空護がミシェルに便乗し、一騎がそれを宥める。氷麗も申し訳なさそうな表情を見せていた。
「別にいい。ちょっとばかし愚痴りはしたが、そっちの仕事も忘れたつもりはない。露払いでもなんでやってやる」
自棄になったかのように、椅子を蹴飛ばして、ミシェルは立ち上がる。
「それじゃあ、俺も……」
「お前も行くのかよ?」
「いや、だって、テインのこともあるし、俺も行った方がいいかなって……今までずっとそうやってきたしさ」
「また無茶して倒れたりしないか?」
「だから、もう大丈夫だって。心配しすぎだよ」
「……そうですね。リュンさんの言っていた“継承”にも関わってくることですし、とりあえず一騎先輩には来ていただきたいです」
神話継承。
恋がこうしてここにいるに至るまでにあった大きな出来事。空城暁という少女が、恋に光を与える時に見せた、語り手の進化。
一騎にも《焦土の語り手》があり、同じ語り手である以上は神話継承の可能性がある。なにがきっかけで継承するかは語り手によるため、少しでも多く試しておきたい。
それが、自分たちと一応は協力関係にあるリュンや氷麗の根底にある目的だ。こちらとしても、それを蔑ろにできるわけがなく、ミシェルはまた舌打ちし、渋々ながらも頷いた。
「ちっ、仕方ないか。ただし無茶しそうなら、全力であたしが止めるからな。多少強引な手段も厭わない。覚悟しろよ」
「……私も」
恋が乗り出す。元々部の活動に消極的な彼女だが、向こうの世界に行くことに関しては積極的だった。
「人手がいなくなると大変だろうから、こっちは三人で行く。お前ら、しっかりやれよ。特にハチ公!」
「はいっす! わかってるっすよ」
「行ってらっしゃい。早く帰ってきてくださよー」
「お気をつけて、先輩方」
後輩たちに見送られつつ、一騎たち三人は氷麗に誘導され、別の世界へと飛び立つ。