二次創作小説(紙ほか)

烏ヶ森新編 27話「暴龍警報」 ( No.338 )
日時: 2016/03/16 22:18
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: Ak1jHfcH)

「しかし、三年が総抜けしてあいつらだけ置いて来たが、まずかったか?」
「確かに少し心配だけど、黒月さんと焔君がいるし、大丈夫じゃないかな」
「……ま、そうだな。来年のことも考えると、あいつらだけにしとくのも、悪くはないか」
 そんな会話をしながら、三人は氷麗に連れられて歩を進める。
 ここは火文明の領土の西部。火文明領は中央に巨大な山脈——太陽山脈が連なり、四方の他文明との境界付近にそれぞれ、焦土神話の建てた要塞がある。
 今はその四つある要塞の一つ、西部要塞サード・フォートレスへと向かっているところだ。
 そしてしばらく歩くと、氷麗が足を止めた。
「ここですね」
「これは……要塞っつーか」
「闘技場、かな?」
 見上げた先には巨大な建造物がそびえ立つ。
 古代ローマ時代のコロッセオのような、円形の建物。外壁には錆びついたり折れたり崩れたりしている砲塔がいくつも見られるため、要塞と言えば要塞のようだが、見た目は闘技場そのものだ。
「確か、テインと初めて会ったところも、ここと同じ部類の場所だったよね」
「僕や他の仲間、武器が眠っていた場所は北部要塞フォース・フォートレス。あそこは、なんていうか、僕たちの最後の拠点というか、最終防衛ラインみたいなところだったんだよね。普段は使わないけど、他の要塞が機能しなくなったりしたら、あそこに移るんだ」
「場所によって要塞の用途が違うのか」
「そうだよ。西部要塞は見ての通りの闘技場。仲間内で競い合ったり、他文明との戦いでも、一騎討ちの場として使われてた場所だね」
「……要塞、なんだよな」
 自分たちの知る要塞の定義が少し揺らいだ。それはもはや、要塞とは名ばかりのただの闘技場ではないのかと思う。
「それで氷麗さん、大きな反応っていうのは?」
「この闘技場の中から、ですね」
 言われて一騎たちは入口を探した。意外と要塞らしいところもあるというか、入口は一つしかないようで、巨大な要塞の周りを歩き続けてようやく見つけ、中へと入る。
 中はかなり単純な造りとなっていた。天井は高く、柱だけが等間隔で並び、なにもない空間が広がっている。
 奥には光が差していた。闘技場へと繋がる入口だろう。
 一騎たちはそこへ向かって、一直線に進む。
 そして——



「ウオォォォォォォッ!」
「うるせっ!?」
 入口を潜ると、そこは予想通り、広い闘技場だ。
 遮蔽物が一切なく、地面は土を踏み固めただけ。壁は高めで垂直なので、よじ登ることはできなさそうだ。非常に見晴らしがよく、ぐるりと囲む客席がはっきりと見える。
 そんな闘技場内に、怒号が轟く。
 声の主は、闘技場の中央に鎮座していた。
「……こいつは」
「《熱血龍 バリキレ・メガマッチョ》」
 氷麗が、目の前のクリーチャーの名を告げる。
「テインさんは、ご存知でしょうか」
「一応ね。まさか、こんなとこにいるとは思わなかったけど」
 テインはどこか懐かしむように、目の前の巨大なクリーチャーを見上げる。
「それに、ドラグハート・クリーチャーが自力で龍解後の姿になって、しかもそれを保ってられるだなんて」
「ドラグハートなの?」
「そうだよ。それも、3D龍解の力を得た、数少ないドラグハートさ」
 3D龍解。一部の特殊なドラグハートのみが行使することのできるシステムだ。
 武器、要塞、そしてクリーチャーと、三段階に分割されたドラグハートは、力としての強大さと安定性を両立させた、画期的な機構。
 東鷲宮の空城暁は、彼女の切り札の一つである《バトライオウ》を、一騎の《グレンモルト》と共に戦場に送り出すことで、3D龍解のドラグハートへと昇華させたのだが、当の一騎は通常のドラグハートしか持ち合わせていない。恋にしてもそうだ。
 それほどに、3D龍解というのは希少な力なのだ。それでいて強力なため、確かに放置すると危険そうだった。
「とにかく、彼を放ってはおけないよ。バリキレは焦土軍の中でも、かなり気性の荒い戦士だったしね」
「そんな奴が野放しになってるって、この世界、結構ヤバいことになってるな」
「自力で龍解するくらいだし、かなりの強敵っぽいね」
「そもそも、自力で龍解なんてできるのか?」
「さぁ……?」
「昔のよしみだ。一騎、バリキレは僕らで彼を鎮めるよ」
「分かった。恋、ミシェル、ここは俺に任せてもらってもいいかな?」
「正直、止めたいところではあるが、ひとまずは見逃してやる。無理そうだったら乱入するからな」
「つきにぃ……がんば」
 二人に送り出され、一騎も、テインと進み出た。それに合わせて、デッキに手をかける。
 今日握るデッキは、いつもよりどこか熱いように感じた。
「よし……行くぞ」
 そして、神話空間が開かれる——