二次創作小説(紙ほか)
- 烏ヶ森編 28話「暴龍事変」 ( No.341 )
- 日時: 2016/03/20 00:36
- 名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: Ak1jHfcH)
「——《超過の翼 デネブモンゴ》を召喚……カードを一枚引いて、《聖龍の翼 コッコルア》をバトルゾーンに」
半ば強引に開かれた神話空間内における、恋と一騎——一騎であるはずの、暴走した龍のデュエル。
恋の場には《殉教の翼 アンドロ・セイバ》《超過の翼 デネブモンゴ》《聖龍の翼 コッコルア》と、順調に守りを固めている。
一方、暴龍は、《勝負だ!チャージャー》《メテオ・チャージャー》と、チャージャー呪文を撃つだけで、なにも行動を起こさない。
『グウゥゥ……!』
唸り声をあげながら、今度は《ネクスト・チャージャー》を放つ。ほとんど消費していない手札をすべて山札に戻し、新たにカードを引く。
「……終わり……?」
暴龍は、またチャージャーを撃つだけでターンを終えてしまう。恋も速度が遅いが、それ以上にゆっくりとした動きだ。恋とは違ってクリーチャーすら出ていない。いくら恋が遅いデッキとはいえ、流石に悠長すぎる。
しかし同時に、なにか恐ろしいものが、その奥に眠っているような気もする。荒々しく、暴走したかのような龍の姿に反したこの静けさが、よりいっそう不安を煽る。
それでも恋は、その不安を押し込めて、静かにカードを引く。
「《コッコルア》でコストを軽減……《導きの精霊龍 サリヴァン》を召喚……お互いにカードを二枚引いて……《栄光の翼 バロンアルデ》と《制御の翼 オリオティス》をバトルゾーンへ」
着々と場を揃えていく恋。小型だがブロッカーを大量に並べ、守りは堅い。あとはゆっくりと大型クリーチャーを並べ、場を制圧するだけだ。
と、思ったときだった。
暴れ回るように、暴龍は炎を爆発させる。
その炎が示す感情はただ一つ、怒り、だった
『グ、ウ、ウゥ……ガ、ア、ガイィ……ガアァァァァァァァァッ!』
刹那。
暴龍が戦場に現れた。
「……っ」
「こいつは凄いね。こんなクリーチャー、初めてだ……!」
その猛々しい覇気に、恋は一歩後ずさる。
燃えるように赤い巨大な体躯。
左腕は銀河を飲み込んだ剣となり、右腕は銀河を纏った楯となる。
幾重にも血走った眼は紅の色に染まり、彼の激情のすべてが込められていた。
「これは……」
『グ、グ、ガ……グ、グガ、アァァァァァァァァッ!』
暴龍が咆える。
それとほぼ同時に、恋のシールドが破られた。
それだけならば、なんでもないただの攻撃だ。恋のシールドは二枚ほど粉砕され、S・トリガーも出なかったが、それだけだ。
しかし、
『ガアァァァァァァァァィッ!』
再び、暴龍は刃を振るう。
恋のシールドが、またも二枚破られ、残り一枚に。
「な、なにが……」
なにが起こっているのか、まったくわからない。
この攻撃速度。場に出たと同時に襲い掛かってきたということは、召喚酔いのないスピードアタッカーを持つクリーチャーだろう。相手は火文明、そこまでは予想の範疇だ。
だが暴龍はすぐさま攻撃を仕掛けて来るだけではない。その攻撃が、止まらないのだ。
基本的に、クリーチャーは一度攻撃したらタップされ、そのターンはもう攻撃ができない。
しかし、この暴龍は違う。幾度となく、攻撃を繰り返している。
滅茶苦茶に、無茶苦茶に、一心不乱に、剣を振り回す。
暴龍の刃は、恋を守る盾を、乱暴に、抉るように、斬り、砕く。
シールドがなくなった。その事態に、焦りを覚える恋。
その時、ふと、彼女は気づいた。
(……マナが、吸収されてる……?)
暴龍のマナから、なびくように赤い炎が流れ出て、それが暴龍の身体へと取り込まれている。
まるで無理やりマナを吸い取っているかのようだが、あのマナが、暴龍が暴龍たりえる力の根源なのか。
もう少しでなにかが分かりそうだったが、ハッと顔をあげる。
そこには、大剣を振りかざした暴龍が、憤激の眼で恋を見下ろしていた。
そしてその刃が、恋へと襲い掛かる。
「《オリオティス》でブロック……っ」
間一髪、その攻撃は《オリオティス》が身を挺して守ったが、暴龍は止まらない。
いつまでも、いつまでも、力尽きるまで暴れ続ける。
それは彼の力か、それとも別の力か。
なにかが果てるまで、暴走を続ける。
「《アンドロ・セイバ》のセイバーで《オリオティス》を守って……《アンドロ・セイバ》が破壊されたから、シールドを追加……」
再び振るわれる暴龍の刃が、恋の増やしたシールドを断ち切る。
そのシールドは、光の束となり収束し、天国の門扉を開いた。
「S・トリガー、《ヘブンズ・ゲート》——《蒼華の精霊龍 ラ・ローゼ・ブルエ》と《光器パーフェクト・マドンナ》をバトルゾーンに……っ」
光以外の呪文を受け付けず、攻めながら、守りながら、シールドを増やす《ラ・ローゼ・ブルエ》。パワー低下以外では決して場を離れない《パーフェクト・マドンナ》。
二体の強固なブロッカーを並べる恋だが、その表情は険しい。
『ガアァァァァァァァァッ!』
「《ラ・ローゼ・ブルエ》でブロック……っ、シールドを追加……」
しかし、暴龍は暴走し続ける。力尽きることなく。
いくら攻撃を防いでも、暴龍の攻撃は止まることがない。このまま無限に攻撃され続けるのではないか、という考えが恋の中では既に浮かんでいた。
となれば、どれだけシールドを増やしても、ブロッカーを並べても、暴龍を止めることはできない。
《ラ・ローゼ・ブルエ》で増やしたシールドも、焼き千切られる。S・トリガーはない。
「《パーフェクト・マドンナ》、《デネブモンゴ》、《バロンアルデ》《コッコルア》……っ」
どれだけブロッカーが身体を張っても、暴龍は進み続ける。蹂躙する。
光も、水も、闇も、自然も——己の力たる火さえも。
すべてを奪い、踏み躙る。
そして、最後にその刃は——
「……つきにぃ——」
——恋の身を断ち切った。