二次創作小説(紙ほか)
- 烏ヶ森編 28話「暴龍事変」 ( No.346 )
- 日時: 2016/03/27 01:11
- 名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: Ak1jHfcH)
ミシェルと、一騎を取り込んだ暴龍のデュエル。
序盤はマナを伸ばしつつ墓地を肥やしていくミシェルに対し、ガイグレンはチャージャー呪文を撃つのみ。
「……あたしのターン。《白骨の守護者ホネンビー》を召喚だ。山札から三枚を墓地へ送り、墓地から《暴走龍 5000GT》を回収。ターン終了だ」
『グウゥ……ガァ……』
低い唸り声を発しながら、《ネクスト・チャージャー》で手札を入れ替えるガイグレン。
チャージャー呪文を連打しているのでまだマナはあるのだが、それ以上のことはせず、ターンを終えた。
「不気味なプレイング……一騎らしくねぇな……」
そもそも目の前の暴龍は既に一騎ではない。そんなことは分かっている。
しかしこの暴龍が一騎を取り込んでいる。つまり、この中に一騎が存在している。
ゆえに、自分がするべきことは、暴龍の中からどうにかして一騎を救い出すこと。
「確かにこいつは一騎らしくない……が、こいつの中にまだ一騎がいると考えなければ、そもそも救うなんて土台無理な話……」
つまり、言ってしまえば思い込むしかないのだ。
暴龍の中で一騎が生きていると。
そして、この戦いで一騎を暴龍の中から助け出すことができると。
方法なんて分からない。しかしそれでもやるしかないのだ。
残念なことに、自分は誰かを助けたようなことはないし、そんな方法なんて分からない。殴る以外の術を知らない。
だから、自分の知る範囲で、自分にできる範囲で、自分にできることだけを全うする。
「あたしのターン……これなら」
引いたカードを見て、ミシェルは勝利へと辿る道筋を見出す。
「このターンで決まるか……? 《爆砕面 ジョニーウォーカー》を召喚し、即破壊。マナを一枚追加し、続けて呪文《カラフル・ダンス》! 山札の上から五枚をマナゾーンへ送り、マナゾーンからカードを五枚墓地へ!」
《カラフル・ダンス》の効果で、マナゾーンのカードが一気に墓地へと落とされる。同時に、運よく単色カードばかりがマナに落ちたため、実質的に5マナ回復したことになる。
墓地を肥やし、マナが復活する。理想的な結果だった。
「よし、いい感じだ。《ホネンビー》を進化、《夢幻騎士 ダースレイン》! 効果で山札から三枚を墓地へ送り、墓地から《百万超邪 クロスファイア》を回収だ! さらに、あたしの墓地にクリーチャーは六体以上、回収した《クロスファイア》をG・ゼロで召喚!」
《ダースレイン》《クロスファイア》とクリーチャーを並べ、打点を揃えていくミシェル。
そして最後に、彼女の最大の切り札が、現れる。
「まだまだ! あたしの墓地にクリーチャーは十一体! コストを11軽減し、マナコスト1でこいつを召喚だ!」
数多の屍を乗り越え、死した友の無念を背負い、無法の龍は暴走する。
「暴走せし無法の龍よ、すべての弱者を焼き尽くせ——《暴走龍 5000GT》!」
これでミシェルの場には、Wブレイカーの《ダースレイン》と《クロスファイア》、Tブレイカーの《5000GT》と、五枚のシールドを割りきってとどめを刺すだけのアタッカーが揃った。
「こいつで一騎が戻って来ればいいが……いや、ごちゃごちゃ考えるのは後か。とりあえずは——」
ミシェルは、グッと拳を握る。
目の前の暴龍を、その奥に眠っているはずの彼を見据えて。
「——ぶん殴る! 《5000GT》でTブレイク!」
《5000GT》の一撃が、ガイグレンの盾を三枚、吹き飛ばす。
「《ダースレイン》でWブレイク!」
『ガアァァァァァァァァァッ!』
続けて《ダースレイン》の右腕が、残る二枚のシールドを食い破る。
これでシールドはゼロ。あとは、《クロスファイア》がとどめを刺すだけだが、
『——……ト、リガー……《天守閣 龍王武陣》……ッ!』
「!」
声が聞こえた。
酷く掠れているが、どこか聞き覚えのあるような声だ。
「この声……一騎、なのか……?」
しかしその声は、すぐさま法螺貝の音にかき消される。
《天守閣 龍王武陣》によって捲られた五枚は、《勝負だ!チャージャー》《メテオ・チャージャー》《ネクスト・チャージャー》《天守閣 龍王武陣》そして——
『グ、ガ、アァァァァァァィッ!』
——《暴龍事変 ガイグレン》。
次の瞬間、《クロスファイア》の身体が爆散する。
「くそっ……!」
《龍王武陣》から射出された《ガイグレン》が、《クロスファイア》を断ち切った。
その一撃で、ミシェルの攻め手は止められてしまう。これで攻撃は終わり、ターン終了を宣言するしかない。
しかも、悪いことはそれだけではない。
悪かったのは、出て来たS・トリガーが《天守閣 龍王武陣》だったことだ。
『ガアァァァァァァァッ!』
返しのターン、暴龍は咆える。
己の存在を、顕示するために。
「出やがったか……!」
《天守閣 龍王武陣》によって、遂に、暴龍が戦場に現れる。
恋とのデュエルは見ていた。どういうカラクリか、このクリーチャーは無限に攻撃を仕掛けてくる。
つまり、一度出されたら、ブロッカーなどで返り討ちにするか、S・トリガーやニンジャ・ストライクで倒すしかない。
ミシェルの場にブロッカーはいない。この巨大なドラゴンを倒せるようなシノビも握っていない。
となれば、縋ることのできる要素はただ一つ。S・トリガーのみだ。
「こっからは賭けだな……」
そう呟いた、直後。
ミシェルのシールドが吹き飛んだ。
「ぐ……!」
『ガアァァァァァァァァィッ!』
続けて、二の太刀。
三枚目、四枚目と、シールドが消し飛んでいく。
一撃一撃が凄まじく重い。あまりの衝撃に、立っているだけでもやっとだ。
三度目の太刀が、ミシェルの最後のシールドを切り裂く。
とどめの四撃目が繰り出されれば、その時点でミシェルの負け。恋と同じ結果を辿ることになる。
だが、しかし、
「つけあがるなよ、一騎。あたしだってな……やられてばっかじゃねぇぞ!」
バラバラに散った五枚目のシールドが、光の束となり、収束する。
「S・トリガー! 《インフェルノ・サイン》! 《凶殺皇 デス・ハンズ》を復活させ、《ガイグレン》を破壊だ!」
《デス・ハンズ》は皇の玉座に座す。
座したまま、彼は悪魔に命ずるのだ。己の身に危険を及ぼす障害を、殺せ、と。
彼の命令を受け、悪魔の手が伸びる。その手はみるみるうちに《ガイグレン》を覆いつくし、そして——殺した。
その命を、奪ったのだ。
「一騎……」
ふと、嫌な考えがよぎる。
この空間の中で、クリーチャーは死んでも、本質的に、根本から消えるわけではない。死ぬことはあっても、それは永遠の消滅を意味することではない。
ゆえにクリーチャーが破壊されても、クリーチャーそのものに大きな影響はないと思っていた。
だが、もしも特例があったとしたら。
もしも、暴龍の死が、その内面にまで及ぶとしたら。
クリーチャーは死んでも生き返るかもしれない。しかし、人間はそうはいかない。
クリーチャーの生命力は高いが、人間はそうではない。
暴龍は死んでも、この空間がなくなれば、また甦っているかもしれないが、その中にいる魂はどうなるのか。
人間の魂は——いや、一緒に取り込まれた肉体も一緒に死ねば、どうなるのか。
クリーチャーと同じように、この空間から出た時に、元通りになっているのだろうか。必ずしもそうとは言い切れない。
もしかしたら自分は、取り返しのつかないことをしてしまったのではないか。
そんな不安が、ミシェルの中で、一瞬だけよぎる。
——なぜ、一瞬だったのか。
それは、次の瞬間に明らかになる。
「っ、な、なんだ……!?」
突如、地面を振動する。
地面だけではない。空気までもがビリビリと震撼しており、まるで空間そのものが震えているかのようだった。
見れば、悪魔の手によって命を失った《ガイグレン》は、その身を巨大な光の渦へと変えていた。
いや、あれはただの渦ではない。実際の規模とは比べ物にならないほど小型だが、あれは銀河だ。
燃え盛る炎を内包した銀河が、ミシェルへと迫る。
刹那。
ミシェルのクリーチャーが、すべて吹き飛んだ。
「な、なにが……!?」
《5000GT》も《ダースレイン》も《デス・ハンズ》も、ミシェルが展開したクリーチャーはすべて、銀河に飲み込まれ、消し飛ばされた。
S・トリガーで出た《デス・ハンズ》、進化クリーチャーの《ダースレイン》、超重量級で巨大な《5000GT》。如何なクリーチャーも平等に、その銀河の大きさの前では有象無象の塵芥同前に、すべて消滅した。
ミシェルもなにが起こっているのかよく分からないが、それでも自分のクリーチャーがすべて破壊されたということだけは分かった。
お互いにシールドはゼロ。ならば、あとは先んじたもの勝ちだ。
しかし、
「ここでスピードアタッカーさえ引ければ……クソッ! 《ジョニーウォーカー》を三体召喚! ターン終了だ!」
引いたカードは《ジョニーウォーカー》。ブレイクされたカードの中にも、即座に打点となれるクリーチャーはいない。《ホネンビー》などの墓地回収カードでも来れば、墓地の《クロスファイア》を回収できたのだが、それすらもない。
仕方なく、手札であまりに余ったありったけの《ジョニーウォーカー》を並べ、ターンを終えるミシェル。
返すターン。
無慈悲で粗暴な暴龍に変化が見られた。
『……お……れ、の……ター……ン』
「! 一騎!」
今度は、はっきりと聞こえた。
この声は、確かに一騎のものだ。
『い……け……《ガイグレン》……ッ! こう……げき……!』
再召喚された暴龍が、大剣を振りかざして迫る。
この一撃を喰らえば負け。しかし、そんなことよりもミシェルは、別のことを考えていた。
(あの声が本当に一騎のものなら、一騎はまだ生きてる……!)
今までは一騎がまだ助かる見込みがあるという前提を思い込んでいたが、それが確信に近いレベルまで達した。
戦況としては勝機は皆無だが、ミシェルの目的は一騎を暴龍から救うことであり、対戦結果など二の次だ。
ここで、希望の光が見えた。
(とはいえ、根本的にはなにも解決してないが……とにもかくにも、やってみるしかないか)
迫り来る暴龍。
ミシェルは深く腰を落とした。
暴龍が肉薄し、銀河の大剣を振りかざす。
「……やるか」
まだ少し遠い。だからミシェルは——跳んだ。
脚をばねのようにして、一息で暴龍に飛び掛かる。
無論、生身のミシェルがクリーチャー、それも強大な力を持つドラグハートを取り込んだ暴龍相手に殴りかかっても、効果はないだろう。
しかし伸ばすのは拳ではなく、手だ。
ミシェルは、暴龍に渦巻く銀河へと、手を伸ばす。
「届け……!」
暴龍の身体に、腕が潜り込む。言語化が難しい、妙な感覚が手を伝った。
直後、焼けるような熱が、腕を襲う。
「っ……!」
火炙りにされる感覚を味わった。丸焼きにされる豚のような気分だ。
すぐにでも腕が燃え尽きてしまうのではないか、と思えるほど熱い。感覚が麻痺して、本当に炎で焼き焦がされているのかどうかすら分からない。
腕を襲う熱量は全身に回り、脳まで達する。今度は頭痛だ。頭が沸騰しそうだった。
(くっ……意識が……)
痛みと熱さで、意識が留まることを拒否し始めた。
最後の力を振り絞って、精一杯、ミシェルは腕を伸ばす。
「どこだ、一騎——!」
空ではなく炎を掴むばかり。このまま顔も突っ込んで見つけようかと、薄れゆく意識の中で考えた。その時。
暴龍の中で燃え続けた手が、なにかに触れた。
それと同時に、ミシェルの意識も、消えていった——