二次創作小説(紙ほか)

Another Mythology 10話「北部要塞」 ( No.35 )
日時: 2014/05/05 01:44
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: hF19FRKd)

 要塞の中を進んでいく五人。中は荒れているものの、崩れているところはあまりなく、特に不自由なく進むことができた。
「……あの、ご主人様」
「いい加減ご主人様はやめろ。なんだ」
「なにか、音がしませんか?」
「音?」
 唐突にエリアスがそんなことを言うので耳を澄ますが、なにも聞こえてこない。
「なにも聞こえないが」
「そうですか……なら、私の気のせいかもしれません。気にしないでください」
「そう言われると気になるんだが……分かった」
「なにしてるの、カイ。もうすぐよ」
 沙弓に言われ、正面を向く浬。そこには、明らかに今まで通って来た扉とは違う、重厚そうな鋼鉄の扉が鎮座していた。
「うーわ、なんかゴツい……」
「これ、わたしたちの力で開けられるのでしょうか……?」
 試しに浬が押したり引っ張ったり、スライドさせたりしようとするが、扉はびくともしない。
「開かないな……人間の力じゃどうしようもない」
「ならどうしましょうか。リュン、開けられる?」
「たぶん無理。力には自信がないんだ」
 即答だった。情けない、と苦言を呈そうとするが、その前にリュンは、
「というか、僕なんかに頼らなくても、君らにはクリーチャーがいるじゃないか」
「え?」
 暁が素っ頓狂な声を上げる。暁だけでなく、他の三人も目をぱちくりさせていた。
「どういうこと?」
「もしかして気付いてなかったの? 君らのクリーチャーをここで実体化させれば、この扉くらい突破できるよね、って言ってるんだよ」
「俺たちのクリーチャーは、ここで実体化させられるのか?」
「そこから気付いてなかったんだ」
 だが、言われてみれば当たり前かもしれない。ここはクリーチャー世界、カードの姿よりクリーチャーとしての実態を持つ方が自然なのは当然だ。
「そういうことなら……《爆竜 バトラッシュ・ナックル》召喚!」
 クリーチャーが実体化できると知り、真っ先に暁がカードを取り出す。そのカードを掲げると、目の前に《バトラッシュ・ナックル》が現れた。
「おぉ! 本当に出た! よーし《バトラッシュ・ナックル》、あの扉をぶっ壊しちゃって!」
『グルアァァァ!』
 雄叫びと共に《バトラッシュ・ナックル》の正拳突きが鋼鉄の扉に炸裂。扉は一瞬で吹き飛ばされた。
「凄いパワーね……」
「あきらちゃんらしいと言えば、らしいんですけど……」
「考えなしが……」
 口々にそんなことを言う三人。当の暁にはまったく聞こえていない。
「よしっ、ありがとう《バトラッシュ・ナックル》。戻って……って、どう戻すんだろ。こうかな?」
 再びカードを《バトラッシュ・ナックル》へと掲げると、《バトラッシュ・ナックル》は光に包まれ、カードに吸い込まれるように戻っていった。
「できたできた。よし、行こうか」
 かなり乱暴な方法ではあったが、なにはともあれ扉という障害はなくなった。五人は再び歩を進める。
 扉の奥は普通の通路で、途中、大きくへこんだ鉄板のようなものが落ちていたが、無視した。
 さらに奥には、またも鉄の扉。だが今度は、普通に人の力でも開いた。
 そして、その扉の先には、例の小部屋があった。
「お、あったよ。クリーチャーが封印されてるやつ」
 部屋の中央の祭壇、その台座の上には、コルル、エリアス、ドライゼの三体が封印されていたようなものと、似た空気を醸し出す存在がある。
 焼け焦げた岩塊に一本の剣と無数の槍が突き刺さり、岩塊から銃口があらゆる方向へと向いているという、凄まじい物体だった。
「なんだか、少し怖いです……」
「見た目が既におっかないな」
「というかあれって、中にクリーチャーがいるとしたら剣とか槍とかが刺さっててかなりスプラッタなことになってるんじゃないかしら」
「なんだっていいよ。それより早く封印を解いてあげなきゃ!」
 抑えきれないというように、暁が駆けて台座の前に立つ。
「今度はどんなクリーチャーが出るんだろう……!」
 興奮したように目を爛々と輝かせている暁は、その岩塊へと手を伸ばし——触れる。
 そして、
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「……あれ?」
 なにも起きなかった。
「暁さんが復活させられるクリーチャーじゃなかったってことだね」
「えー……そんなぁ」
 がっくりと項垂れる暁。
「ちぇ、じゃあゆず、やってみてよ」
「は、はひっ」
 今度は柚が出て来て岩塊に触れるが、またしても反応なし。
「霞さんでもダメか……私はどうかしらね」
 柚との入れ代わりで沙弓も出た。しかし、それでも岩塊はなにも起こらない。
「私でもない。カイ」
「分かってますよ」
 最後に、沙弓と入れ替わりで浬が台座の前に立つ。そして、ゆっくりとその岩塊に手を置いた。
「…………」
「…………」
「……なにも起きないな」
「…………」
 浬が岩塊から手を離す。再び沈黙の時間が流れ、やがて暁が口を開いた。
「……ってことは、全員はずれ!?」
「みたいですね……」
 今までになかったパターンだ。どういうことだと暁たちが口々にいう中、リュンは一人思考していた。
(まあ、僕も《語り手》たちのことや、彼らに課せられた封印について詳しく知ってるわけじゃないし、暁さんたちをこの世界に連れてきたのも、たまたま僕が最初に接触した人間だからってだけで、特別なにかを感じ取ったわけじゃない。こういうこともあるだろうとは思っていたさ)
 むしろ、今までが順調すぎたのだ。一回も外さずに三連続で《語り手》の封印を解くことができたという事態が奇跡に等しい。
(彼らは彼らで、なにかしらの力を秘めているようだけど、《焦土神話》が課した封印を解くことはできなかった。ただ、それだけだ)
 悲観するほどのことではない。とリュンは自分に言い聞かせる。
「リュン、これってどういうことなの?」
「僕に言われてもねぇ……まあ、こういうこともあるさ。そのうちなんとかしよう」
「それって、私たちみたいに他の人間をこの世界に連れて来るってこと?」
「……そうなる、かもね……? 分かんないけど」
 曖昧に濁すリュン。実際、彼にもどうすればいいか分からない。
 この世界に連れて来るということが、人間にとってどれだけ重大なことかは、リュン自身も暁たちの反応で理解しているつもりだ。そう安々と連れてくるわけにはいかないが、しかしこの封印されたクリーチャーを放っておくわけにもいかない。
(と言っても、今すぐ答えを出せるものでもないしね……)
 とりあえず今は保留だ。他にもやるべきことはある。その間に、もしかしたらなんとかする方法が見つかるかもしれない、と我ながら甘いことを考える。
「封印が解けないならそれはそれで仕方ないってことにして、とりあえずここを出ようか」
「うー……なんかつまんないよ」
「で、でも、封印が解けないなら、ここにいてもしょうがないですよぅ……」
「そーだけどさー、でもなんか物足りなって言うか——」
 せっかくクリーチャー世界に来たのに、新しい《語り手》の封印を解く機会がやってきたのに、なにもせずに帰ることになってしまったため、暁が文句を垂れ始めた。

 その時、要塞が揺れた。

「っ、な、なに……!?」
「じ、地震、ですか……っ?」
「なんかそんな感じね、凄い揺れてる」
 しばらく揺れると、その振動は少しずつ小さくなっていき、やがて何も感じられなくなる。
「……収まった、か……?」
「なんだったんでしょう、今の……」
「普通に地震じゃないの?」
 クリーチャー世界にも地震というものがあるのだろうか。そう思ってリュンに訊くと、
「あるにはあるけど、自然発生は稀かな。普通はなにかしらの原因がある」
「原因ねぇ……穏やかな感じがしないわ」
 地震の発生に、不安を煽られる。
 そんな折、エリアスが口を開いた。
「あの、ご主人様」
「どうした」
「この要塞の中に、感じるんです」
「なにをだ」
「大きな……龍素を」
「なんだと?」
 怪訝そうに目を細める浬。
 龍素と言うと、ドラゴン・サーガの世界で重要な物質だ。水のクリスタル・コマンド・ドラゴンを生み出すための鍵となる素材。
 エリアスはそれを感じたという。それが真実なら、そこから導き出されることは二つある。
「この要塞のどこかに、クリーチャーがいるってことね」
「しかも龍素を扱ってるってことは、水文明だ。ここは火文明の領地だから、水文明がいるのはおかしい。なにか悪巧みをしてそうだ」
「さっきの地震とも関係しているかもしれないしな。どうする?」
 浬が尋ねるが、答えはすぐに出た。そんな事態が起こって、不完全燃焼な彼女が反応しないはずがない。
「よし、行こう! なにやってるか知らないけど、そのクリーチャーを見つけ出すんだ!」