二次創作小説(紙ほか)
- 烏ヶ森編 28話「暴龍事変」 ( No.353 )
- 日時: 2016/04/04 02:37
- 名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: Ak1jHfcH)
暴龍の激憤が爆ぜた。
怒りの炎が爆炎となり、一騎のクリーチャーをまとめて飲み込んでいく。
「《マッカラン》! 《フィディック》!」
自身が相手によって選ばれた時、《ガイグレン》の怒りは暴発する。
彼の怒りと共に、爆発する銀河。猛烈な熱量を持った爆風が、爆炎を運ぶ。
場のクリーチャーはすべて吹き飛ばされた。一騎も、破壊的すぎる力の暴力に、立っているだけで精一杯だった。
いや、それどころではない。
超高温の熱風を急に浴びせられた一騎の頭は、沸騰しかけている。身体が燃えていないことが不思議だが、それでも全身の細胞が焼かれ、死滅している。
(まず、い……)
意識が遠のいていく。
微かに残った自我も、儚い灯火だ。少し吹いただけで消えてしまうほどに弱い。放っておくだけでも、なくなってしまうほど微かな存在だった。
(勝たなきゃいけないのに……負けるわけには、いかないのに……)
薄れゆく僅かな意識を必死で保とうとする一騎。
しかし心身は言うことを聞かない。身体は意思に反して崩れていき、その意思すらも消えようとする。
(……本当は、こんなこと、したくなかったのにな……)
本当ならば、剣を交えるつもりはなかった。
戦わずして解決できるのであれば、そうしたかった。一騎とて、戦うことを望んでいたわけではなかったのだ。
むしろ戦いたくなかった。
(先輩が言うように、言葉で俺の気持ちを伝えられたらよかったんだ……だから、戦うなんて——)
——嫌だった?
疑念が渦巻いた。
本当に、戦いたくなかったのか?
(……あれ、分からない……でも、なんか……)
妙な昂揚感が身体の奥底に残っているのを感じる。
辛うじて保っている意識。それは単なる一騎の忍耐ではない。心のどこかで感じているのだ。
——楽しいと。
暴龍と剣を交えることが。相手の刃を受け、自分の刃を振るう。剣戟の音が心地よい。
争うなんて、戦うなんて、そんな野蛮で暴力的なことは、本来ならば避けてしかるべきだと思っていた。
だが、本心は違ったのか。
(……戦うことが、楽しいのか? 俺が……?)
そんなことを考えたのは初めてだ。
そんなはずはないと思う。しかし、自分の身体を支配するこの感覚は、紛れもない興奮だ。
戦場に立つことの、楽しさ。
(……戦うことは、嫌だと思ってたけど……)
そうではない。
むしろ、逆だった。
(俺は戦うことを望んでいたのかもしれない。いや、きっとそうなんだ。戦うことで、分かり合えることもあるのかもしれないな……)
だったら。
一騎は崩れ落ちる身体を起こす。しっかりと足で地面を踏み締め、閉じた瞳を開眼し、意識を覚醒させる。
そして、自分自身を鼓舞するように、宣言するように、叫ぶ。
「俺は最後まで……戦い続ける!」
——よくぞ言った
どこからか声が聞こえる。
身体の芯に響くような太い声。その言葉には、湧き上がるような熱と、頼もしさがあった。
「っ、だ、誰……?」
——今、姿を見せる。待っていろ——
刹那、世界が暗転する。
遂に意識が途絶えたのか、先ほど声も幻聴か……そう思ったが、違った。
気づけば、一騎は真っ赤な空間にいた。
前後左右上下、すべてが燃えるように赤い。
そして、ぼぅっと炎がなびくと、その姿が顕現する。
重火器を着ていると言っても過言ではないほどに、様々な兵器を全身に装備した、軍服の男。
身体のほとんどが火器で覆われているが、彼の右手には燃える剣が、左手には燃える槍が、それぞれ握られていた。
その姿を見るや否や、テインが目を見開く。
「隊長……!」
『よーぅ、テイン。元気そうじゃねぇか』
男は笑いながら、気さくに応える。
厳つい武器を背負っている割には、陽気な立ち振る舞いだった。
「あなたは、もしかして、テインの神話……」
『おぅ。焦土神話、マルスだ』
男——マルスは、そう名乗った。
焦土神話。テインが語る、かつての神話。
軍神と呼ばれ、多数の火文明の戦士たちを統率し、己自身も戦場で刃を振るい、数多の敵を薙ぎ払ったと言う。
彼の戦は壮絶たるもので、燃える剣は森を一瞬で火の海に変え、焼ける槍は大地を砂漠と化すという。
しかし実物を見ると、その恐ろしい逸話に似つかわしくないほど、彼は晴れやかだった。
『知ってるだろうが、今の俺はあくまで残響だ。俺の意思の一部を残しているにすぎねぇ。だから、あんまだらだらと話してられないぜ』
「は、はい……了解です」
『はははっ! そんな気ぃ張らなくてもいいぜ、テイン。お前は、俺が認めた、俺の語り手だ。もっと胸を張れよ、新隊長』
また笑った。心の底から、楽しんでいるような笑いだった。
『さて、話を戻すか。俺は勝手に喋ってるから、俺の言葉をよく聞いて、お前らで考えろ。いいな?』
「……はいっ!」
『よし、いい返事だ』
ふっと、マルスは笑う。
『テインは知ってるだろうが、俺は軍神だ。戦争、闘争、そういった争い事こそが、俺の生き甲斐であり、生きる理由と言っていい』
「はぁ……」
なんとなくそうだとは思っていたが、面と向かって言われると、反応に困る。
今までの陽気で楽し気な笑みを見てから、そのようなことを言われても、どうにも腑に落ちない。
『不謹慎なことは百も承知だが、俺は、神話同士の戦いを望んでいた。ずっと続いてた平穏に退屈してたんだ。だからあの時の戦争は、俺にとっては心躍る大戦だった。十二神話同士でピリピリしてた時の空気感は、宣戦布告直前の緊張感に似てスリリングだったし、実際に戦争が起こり、神話同士で刃を交えた時の昂揚感は今でも忘れない。ネプトゥーヌスとトリアイナが織り成す槍術は見事だった。槍の扱いでは俺を超ていたな。アテナの絶対的防御領域も素晴らしかった。この俺の攻撃をすべて真っ向から受け止める防御力には感服したぞ。あいつには、攻撃に勝る防御の強さを教えられたな』
マルスは、またも楽しそうに語る。しかしそれは、今までの笑いとは違っていた。
まるで誰かと共に遊んだ記憶を語るように、友人を誇るように、彼は語っている。
それが、戦争の最中で行われたことであったというのに、だ。
『アポロンの奴とも、ガキの頃にはよく喧嘩したもんだ。どうやってあいつをぶちのめそうか、考えて、策を巡らせて、そして殴り合った』
アポロン。その名も知っている。
空城暁が、彼の残響と邂逅していたはずだ。他でもない、恋との戦いにおいて。
彼も十二神話の一柱。マルスと同じ立場にある者。それも、同じ火文明。
マルスの語ることは、すべて戦いや争いごとだった。幼少期は殴る、蹴る。武器を持てば、斬る、突く。火器を付ければ、放つ、焼く。
彼の思い出は、すべからくそのようなものであった。
『人生なんて、すべて戦いだ。生きていれば、あらゆるところで、あらゆる形で、俺たちは戦い合うんだ。だが、戦は、戦争は悪いことじゃねぇ。俺はそう思ってる』
「悪いことじゃない? 戦うことが?」
『ああそうだ。ヘルメスの野郎の言葉を借りるのは癪だが、あいつの言で唯一俺も賛同しているものがある。それは、戦争は技術の進歩を促すってことだ。それも、急激にだ。当然だわな。自分らの生死が懸かってるんだ、なにがなんでも相手に勝つために、必死こいて強くなろうとする』
負ければ死。勝つことがすべて。
そういった極限状態の中でこそ、強くなれる。マルスは、そう言っているのだ。
『それだけじゃねぇ。戦争ってのは、その中で技術を得て、それを使いこなし、己を知ることとなる。さらに敵を貶めるために、敵も知ることとなる。そして、戦場で刃を交わらせ、互いの意志を交わす』
戦争は凄惨なだけではない。それはあくまでも、戦争におけるリスク。その一側面にすぎない。
いつだって、どの世界でも、どんな歴史においても、戦争はなにかをもたらしている。
それは技術の進歩という文明の発展であったり、勝利による領土や人民の略奪であったり、また、戦士どうしの交流でもある。
『分かるか? 戦争とは、いわばコミュニケーションだ。ダチと仲良くなろうとすることと、なにも変わらない。自分たちの気持ちを、相手に伝えるんだ』
「気持ちを、伝える……」
それは、ひづきの言葉と同じだった。
彼女に言われた時と同じく、マルスの言葉が、一騎の中で染み渡っていく。
『万の言葉を尽くすより、一発の拳で分かり合う。俺の信条だ。俺の仲間たちはそうやって分かり合ってきた。だから』
ザクリ、とマルスは右手の剣を地面に突き刺す。
そして、シュッと拳を突き出した。
『お前が本当にモルトの奴を助けたいと思うなら、思い切りぶん殴れ』
一騎の目の前で寸止めされた拳は、どこか温かい。
拳を突き出したまま、マルスは続ける。
『穏便に、平和的に物事を解決することが、必ずしも最善とは限らないんだぜ。お前はあいつに一回ぶん殴られて、なにかを感じたはず。だから今度は、お前が伝える番だ。どんな形でもいい。伝えなきゃ、なにも進まねぇ』
拳を引くとマルスは、スッと目を閉じて、歌うように紡ぐ。
『命の生き様、戦の如し。軍略の如く思索を巡らせよ、刃の如く拳を振るえ、友を思うが如く伝えよ。さすれば、汝の心、かの者に届かん——』
「これは……?」
「……焦土隊軍則、第零条。焦土隊の基本理念だ。マルス隊長の言った通りだよ」
戦争はコミュニケーションだ。自分と敵の、意志疎通を図るための手段。
絶対に負けられないからこそ、最高の緊張感と昂揚感を味わえる、最大の“遊び”。
そして、軍神にとっての、生きる意味だ。
彼の意志は、彼の束ねる戦士たちに、受け継がれている。
『お前が考え、実行し、伝えようとすれば、その心は必ず相手に届く。それが、お前の“戦”だ』
「マルス……」
『さぁ、そろそろ時間だな。最後に、戦場へと赴く戦友に、手向けてやるか』
視線を一騎から外し、マルスはテインを見遣る。
『テイン。お前の枷を、外してやる』
パキン、と。
どこかで、何かが外れるような音が聞こえた気がした。
『行け、剣崎一騎、テイン。狼煙は上げられたぞ』
マルスは一騎とテインを戦場に送り出す。真っ赤な空間が、マルスと共に少しずつ綻び始めた。
消えゆく中でマルスは、二人に言葉を贈る。
『お前たちの“戦争”が、勝ち戦になることを祈ってるぜ』
最後に、マルスは微笑んだ。
燃える焦土の光を残して——
爆発が収まり、焼け野原となったバトルゾーンが視界に広がる。
《ガイグレン》の起こした爆発は収まったが、しかしシールドブレイクそのものは、まだ未解決だ。
弾け飛んだ刃の破片が、一騎の四枚目のシールドを貫く。
「……S・バック」
しかし、
「《爆師匠 フィディック》を捨てて、《爆襲 アイラ・ホップ》を召喚!」
砕かれたシールドを墓地に捨て、一騎の手札から《アイラ・ホップ》が飛び出す。
だが、クリーチャーが出たと言っても、《アイラ・ホップ》はパワー1000のクリーチャーでしかない。
構わず《ロイヤル・アイラ》が、一騎の最後のシールドを切り捨てるが。
「S・トリガー《天守閣 龍王武陣》! 山札の上から五枚を見て、《爆轟 マッカラン・ファイン》を選択! 《ロイヤル・アイラ》を破壊!」
《天守閣 龍王武陣》の砲撃が《ロイヤル・アイラ》を破壊する。
これで、暴龍のクリーチャーはゼロ。対する一騎の場には、《アイラ・ホップ》が一体。
「俺のターン! このターンの初めに、俺のクリーチャーの数が、相手クリーチャー数より多いから、《熱決闘場 バルク・アリーナ》の龍解条件成立! 《熱血龍 バリキレ・メガマッチョ》に3D龍解!」
《バルク・アリーナ》が鳴動し、内包する龍の魂を解放させ、《バリキレ・メガマッチョ》へと龍解する。
暴龍のシールドはまだ五枚。クリーチャーが一体や二体増えた程度では、まだまだ攻めきれない。
だが、一騎にはまだ見せていない刃がある。
「一騎!」
「あぁ、分かってるよ、テイン。俺のバトルゾーンには火のカードが三枚。ヒューマノイド爆の《アイラ・ホップ》、ガイアール・コマンド・ドラゴンの《バリキレ・メガマッチョ》、そしてドラグハート・フォートレスの《天守閣 龍王武陣 —闘魂モード—》……そのコスト合計は12」
戦場が燃え盛る炎に包まれる。
しかしそれは、暴龍のような怒りの炎ではない。
友のために戦い、己の意志を伝える、心を燃やす戦士の炎だ。
「進化——」
炎は刃となる。刃は新たな剣だ。
真にその刃を振るう者を見つけた時、かの剣はさらなる力を得る。
すべてを焦土に帰す爆炎の刃。
それが今、この戦場を駆け抜ける。
「——メソロギィ・ゼロ!」
硝煙が霧散する。
そこにあるのは、煌めく白刃。
戦士としての意志。
そして、戦を統べる、受け継がれた神話の力。
かの者は《焦土神話》の継承者。
かつての神話にはなかった己が刃を振るう友と共に、焦土の兵のとなりて、剣を握る。
そう、かの者こそは——
「——《焦土神剣 レーヴァテイン》!」