二次創作小説(紙ほか)

115話「欲望——強欲」 ( No.359 )
日時: 2016/04/12 23:32
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: Ak1jHfcH)

「《青銅の面 ナム=ダエッド》を召喚です。マナ武装3で、山札の上から一枚目をマナにおきます」
「《爆砕面 ジョニーウォーカー》を召喚! すぐに破壊してマナを増やすよ! 続けて呪文《フェアリーの火の子祭》! 山札の上から二枚を見て、《ジョニーウォーカー》をマナに置くよ。そして《フェアリーの火の子祭》を手札に!」
「《ベニジシ・スパイダー》を召喚です。山札の上から一枚目をマナに置きます」
「《フェアリーの火の小祭》! 《ミツルギブースト》をマナに置いて、《火の子祭》を手札に! さらにもう一度、《フェアリーの火の子祭》! 《バトクロス・バトル》をマナに置いて、《火の子祭》を手札に戻すよ!」
 暁と柚のデュエル。
 お互い、シールドは五枚。
 ゆっくりと場にクリーチャーを揃え、マナを伸ばしていく柚に対し、《フェアリーの火の子祭》を連打して、爆加速する暁。
 しかし、《ナム=ダエッド》《ベニジシ・スパイダー》の流れを作った柚は、これで7マナ溜まる。
 7マナ。それは、彼女の邪悪さが滲み出る時だ。
「わたしのターンです……《牙英雄 オトマ=クット》を召喚」
「っ、来た……!」
 すべての自然のマナを吸収し、太古の英雄が呼び出された。
「《オトマ=クット》のマナ武装7、発動です。わたしのマナゾーンのカードを七枚アンタップします。さらにこの7マナを使って——」
 自然のマナを武装して、《オトマ=クット》は原生林を繁茂させる。それにより、使われた柚のマナが、再び力を取り戻した。
 そして、

「——《龍覇 イメン=ブーゴ》を召喚です」

 欲望に目覚めしドラグナーが、現れる。
「《イメン=ブーゴ》の効果発動です、超次元ゾーンからコスト4以下の自然のドラグハートをバトルゾーンに。きてください——《邪帝斧 ボロアックス》」
 ザクリ、と大地に邪悪な戦斧が突き刺さる。
 それを引き抜くと、《イメン=ブーゴ》は衝動のままに斧を振り下ろし、大地を割り、地中に眠る命を引きずり起こす。
「《ボアロアックス》を《イメン=ブーゴ》に装備します。そして《ボアロアックス》の効果で、マナゾーンから《ベニジシ・スパイダー》をバトルゾーンへ。《ベニジシ・スパイダー》の効果でマナを一枚ふやしますね」
「やっぱり、そう来るよね……!」
 ぞわりと背筋に悪寒が走るのを感じる。
 邪悪な欲望が、さらなる力を得て、形を変える。その波動を、直で感じる。
 柚の場のクリーチャーのコスト合計は、3+5+7+7+5。合計27。
 合計コストは20を超えている。つまり、《ボアロアックス》の龍解条件を満たしている。
「これで見せるのは、二度目ですね、あきらちゃん……わたしのターンは終了。そのとき、《邪帝斧 ボアロアックス》の龍解条件が満たされます——2D龍解」
 《イメン=ブーゴ》は《ボアロアックス》を地面に叩きつけ、埋め込んだ。
 数多のクリーチャーの力を貪欲に吸い込み、取り込んで、《ボアロアックス》は姿を変える。

「——《邪帝遺跡 ボアロパゴス》」

 邪悪な戦斧は、邪悪な遺跡へと姿を変える。
 滾々と流れ落ちるマナの滝。すべての文明を吸い上げ、解き放つ、禍々しき太古の要塞。
 それが、暁の前にそびえ立つ。
「2D龍解は防げなかったか……でも、3D龍解はさせない! 私のターン! 《無双竜鬼ミツルギブースト》を召喚! 《ミツルギブースト》をマナに送って、《ベニジシ・スパイダー》を破壊するよ!」
 暁の呼び出した《ミツルギブースト》は、登場と同時に、すぐさまマナへと変換される。
 その時に発生した炎が刃となり、弾け飛ぶ。飛散する刃は柚の《ベニジシ・スパイダー》を燃やし、切り裂いた。
「さらに呪文《フェアリーの火の子祭》でマナを増やして、ターン終了!」
「わたしのターン……うーん、どうしましょうか」
 《ベニジシ・スパイダー》がやられたため、柚の場のクリーチャーの合計コストは22に減らされてしまった。《ボアロパゴス》が龍解するには、あと8コスト必要だ。
 柚のデッキは、マナカーブの維持と、《ボアロアックス》《ボアロパゴス》の効果でクリーチャーを出しやすくするために、多くが3、5、7コストのカードで構成されている。コスト8のクリーチャーは、デッキに入っているかすら怪しい。
「手札もありませんし……このドローに、おまかせします」
 クリーチャーを多く展開したツケだ。テンポよくクリーチャーを展開できたのはよかったものの、手札補充を怠っていた柚は、もう手札がない。
 一方《フェアリーの火の子祭》を何度も使い回していた暁は、まだ手札が残っている。このハンドアドバンテージの差は、決して小さくはない。
 しかし、柚には手札がなくともクリーチャーを生み出す術がある。
 一体のクリーチャーで龍解条件を満たすコストを埋められないならば、二体でコストを増せばいいだけの話。今の柚には、それができる。
「……《ナム=ダエッド》を召喚です。マナ武装3で、マナをふやします」
 柚が引いてきたのは《ナム=ダエッド》。強力なクリーチャーでもなく、これだけでは《ボアロパゴス》の龍解には届かない。
 だが、それだけではなかった。
「《ボアロパゴス》の効果発動です。マナゾーンから《鳴動するギガ・ホーン》をバトルゾーンにだします」
 クリーチャーを手札から召喚すれば、《ボアロパゴス》の効果が発動する。
 大地にその身を捧げたクリーチャーは、邪悪なる遺跡の力によって、マナの力を肉体へと再構築され、地中深くより目覚めさせられ、引きずり起こされる。
 遺跡の中より、マナとして安息の眠りを得ていた《ギガ・ホーン》が目覚めた。その咆哮が、さらなる仲間を呼ぶ。
「山札から《ドミティウス》を手札に加えて、ターン終了です」
「まずい、あのカードは……早く決着つけないと……」
 《邪帝類五龍目 ドミティウス》。一度に最大五体、各文明のクリーチャーを一体ずつバトルゾーンに呼び出す、大型ジュラシック・コマンド・ドラゴン。
 このクリーチャーの凶悪さは、暁自身、身を持って体感している。あのクリーチャーを呼ばれると、一気に戦況が柚へと傾くことは目に見えていた。どうにかしてあのクリーチャーの召喚を封じるか、その前に勝負をつけなくてはならない。
 選択肢は二つ。しかし、暁が選ぶのは、後者しかあり得なかった。
「《爆熱血 ロイヤル・アイラ》を召喚! マナ武装3で手札を一枚捨てて、二枚ドロー!」
 しかし、今の手札ではこのターンに決着をつけることはできない。逆転に繋がる一手が必要だ。なので、まずは《ロイヤル・アイラ》で手札を蓄える。
 マナのカードが赤く光り、捨てた手札を種火に新たな手札が引き寄せられた。
 そのカードを見て暁は、口元を緩ませる。
「来たよ、これで決める! 《龍覇 グレンモルト「爆」》を召喚! 効果でコスト5以下の火のドラグハートを呼ぶよ!」
 かくして暁は、一気に決着をつけるだけの手段を手に入れた。
 《ロイヤル・アイラ》から繋いだ《グレンモルト「爆」》。彼は超次元に熱血の闘志を注ぎ込み、爆ぜるように熱い、龍の城を呼び出す。
「来て——《爆熱天守 バトライ閣》!」
 超次元の裂け目から、それは現れる。
 《グレンモルト「爆」》の導きによって、法螺貝の音が鳴り響き、《バトライ閣》が築城された。
 砦は完成した。戦士も揃っている。あとは、攻めるだけだ。
「《グレンモルト「爆」》で攻撃! そしてこの時、《バトライ閣》の効果発動! 山札を捲って、ドラゴンかヒューマノイドならバトルゾーンに出すよ!」
 このターン、暁はまだドラゴンを召喚していないので、ここでドラゴンが捲れても、《バトライ閣》を龍解させることはできない。
 だが、《バトライ閣》で捲ったカード次第では——具体的に言えば、スピードアタッカーが捲れれば、そのまま連続攻撃でドラゴンを呼び出し、龍解条件を満たせる可能性がある。
 そうでなくても、上手く連続してスピードアタッカーのドラゴンやヒューマノイドを引き続けることができれば、強引に押し切ってしまうことすら可能だ。
 そして、暁は山札に手をかけた。
 《バトライ閣》から鳴り響く法螺貝の音色が援軍を呼び、その勢いに乗って、新たな戦士が戦場へと現れる。
「よしっ! 最高の一枚だよ。《悠久を統べる者 フォーエバー・プリンセス》をバトルゾーンに!」



悠久を統べる者 フォーエバー・プリンセス 火/自然文明 (8)
クリーチャー:レッド・コマンド・ドラゴン/ハンター/エイリアン 8000
マナゾーンに置く時、このカードはタップして置く。
スピードアタッカー
W・ブレイカー
相手がコストを支払わずにクリーチャーをバトルゾーンに出した時、そのクリーチャーを持ち主のマナゾーンに置く。
このクリーチャーがどこからでも自分の墓地に置かれる時、かわりにこのクリーチャーと自分の墓地を山札に加えてシャッフルする。



 現れたのは、ハンターとエイリアンの姫君。従者たる流星の龍の力も合わせ、悠久の時を統べる者となった、永久のクリーチャー、《フォーエバー・プリンセス》。
 単体でいくつかの能力を持ち合わせている《フォーエバー・プリンセス》だが、とりあえず彼女は暁が望んでいたスピードアタッカーだ。なのでこのターン、即座に攻撃し、再び《バトライ閣》の能力を使うことができる。
「攻めるよ! 《グレンモルト「爆」》で、シールドをWブレイク!」
 《グレンモルト「爆」》が振るう剣が、爆ぜるような勢いで柚のシールドを叩き斬る。
 二枚のシールドが破片となって飛び散り、柚の身にも降りかかった。
 だが、
「……S・トリガーですよ、あきらちゃん」
 砕かれたシールドの一枚は、光の束として収束した。
 直後、法螺貝の音を打ち消すかの如く、騒々しくも熱気溢れる、大歓声のような爆音が轟いた。
「呪文《チャケの応援》。このターン、プレイヤーへの攻撃は、もうできません」



チャケの応援(ケチャ) 自然文明 (3)
呪文
S・トリガー
このターン、クリーチャーはプレイヤーを攻撃できない。
このターン、バトルゾーンにある自分のクリーチャーすべてのパワーは+2000される。



 仮面を付けた大量の獣人が戦場へと駆けつけると、摩訶不思議な歓声と踊りによって、クリーチャーの攻撃を妨げる。
 その歓楽的で騒がしい様子とは正反対に、柚は静かに、その光景を見つめていた。
「止められちゃった……まずい」
 運任せとはいえ、暁としては、《バトライ閣》でドラゴンを連続で呼び出して押し切る手しかなく、またそれだけのことができるという自信もあった。この局面なら仲間たちも来てくれるという信頼もあった。
 だが、それはすべて止められてしまったのだ。
 このターンに決着をつけられなかった。それは、暁に二つの不幸をもたらす。
 一つは、先ほど手に入れた《ドミティウス》の存在。
 もう一つは、
「わたしのターン……このわたしのターンのはじめに、《ボアロパゴス》の龍解条件、成立です」
 バトルゾーンにある柚のクリーチャーのコスト合計は、3+5+7+7+3+5=30。
 《ボアロパゴス》の龍解に必要なコスト30を、ちょうど満たしている。
「わたしの欲望がうずまいて……わたしの牙にひれ伏して……邪悪なわたしはここにいます」
 ゴゴゴゴゴ、と《ボアロパゴス》が揺れ動く。大地とアクセスし、眠ったクリーチャーを呼び覚ますため、ではない。
 遺跡自身、その内部——心臓部に眠る、秘められた邪悪な龍の魂を、解放するためだ。
「《邪帝遺跡 ボアロパゴス》——3D龍解」
 そして今、自我の欲望を満たすべく、すべてを力でねじ臥せ、邪悪なる牙を突き立てる、古代龍が解き放たれる。
 力という力を突き詰めた、原始的な“欲望”の姿が、そこにはあった。

「あなたのすべてを、わたしにください——《我臥牙 ヴェロキボアロス》」