二次創作小説(紙ほか)

Another Mythology 11話「バニラビート」 ( No.36 )
日時: 2014/05/05 06:16
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: hF19FRKd)

 龍素を最も敏感に感じ取れるエリアスの案内で、この要塞に巣食っているらしきクリーチャーはすぐに見つかった。
 要塞の一角、広い講堂のような場所で、明らかに火文明でないクリーチャーが蔓延っていた。
「あれは……リキッド・ピープルか?」
「みたいね……」
「なんか、実験してる?」
「ように見えますけど……」
 荒れ果てた講堂の中には、ピコピコと光が点滅している機械が置かれていたり、カプセルのようなものが並んでいたり、試験管やビーカーらしきものが散乱していたりと、実験室か研究室の様相を呈している。
「もうすぐです! もうすぐこの龍程式が解けるのです! それまでに龍素を凝結し、安定化させ、反作用を起こさないように保存してください! 抽出した龍素と結合させます!」
 その即席実験室の中をリキッド・ピープルと思しきクリーチャーたちがパタパタと駆けまわっており、一番奥でホワイトボードに数式のようなものを連ねているクリーチャーが指揮をしていた。
「あれは《アクア・ティーチャー》です、ご主人様。どうやら龍程式を解いて新たな龍素を抽出し、元々あった龍素と結合させて新たなクリスタル・コマンド・ドラゴンを生み出そうとしているようです」
「それはまずいことなのか?」
「どうでしょう……あのクリーチャーたちがどのような手順を踏んで龍程式を解いているのかが分からないのでなんとも言えませんが、最悪、この要塞が吹き飛びかねないです」
 エリアスの一言で、全員が息を飲む。
「そ、それって、やばくない? 早く逃げた方がいいんじゃ……」
「も、もちろんそれは最悪のケースの一つですよ。でも、下手にクリスタル・コマンド・ドラゴンを生み出せば、クリーチャーの勢力バランスが崩れてしまいます」
「今のこの世界は不安定だし、そういう事態は好ましくないな……」
「それなら、私たちであのクリーチャーを止めましょうか。あのクリーチャーたちだけなら、それほど強そうじゃないし」
 沙弓の提案に、異を唱える者はいなかった。
 戦えない柚とリュンを残して、三人は行動の扉を蹴破り、突入する。
「お前たち、ここでなにをやっている!」
「!? 侵入者ですか……! 皆さん、侵入者です! ただちに排除にかかってください!」
 アクア・ティーチャーの号令で、他のリキッド・ピープルたちが一斉に襲い掛かってくる。
「うわっ。いっぱい来た!」
「これをちまちま倒すのは骨が折れそうね……カイ、あなたはあそこの先生を先に倒してきて。ここは私たちが引き受けるわ」
「……分かりました」
 恐らく、奥にいるアクア・ティーチャーがこのリキッド・ピープルたちのトップだ。なら、頭を先に潰してしまえば、統率力がなくなり、残るクリーチャーを蹴散らすのも容易になるだろう。
「エリアス、頼む」
「分かりました、ご主人様!」
 暁と沙弓から離れ、アクア・ティーチャーへと駆ける浬。
 そして、エリアスの展開した神話空間へと入るのだった。



「とんだ邪魔が入ってしまいました……あと少しで龍程式が解けるところだったというのに……」
「お前たちがなにをしでかそうとしているのかは知らないが、看過できることではなさそうだったからな。悪いが、止めさせてもらうぞ」
 浬とアクア・ティーチャーのデュエル。現在、シールドは浬が五枚、アクア・ティーチャーが四枚。
 浬の場には《アクア・ハルカス》《アクア・ジェスタールーペ》そして二体の《アクア・ガード》。
 アクア・ティーチャーの場には、自身である《アクア・ティーチャー》と《アクア・ガード》《アクア・スーパーエメラル》《アクア・ビークル》が二体。
「水単のバニラビートか……?」
 バニラビートとは、通称バニラクリーチャーと呼ばれる能力なしのクリーチャーを次々と展開し、物量作戦で押し切ってしまうビートダウンデッキのことだ。一般的には弱いとされるバニラクリーチャーだが、専用サポートカードの力を借りることで、今までにない戦略を手に入れることができた。
「ブロッカーが邪魔でいまいち攻め難いが……それは向こうも同じ。だったらこちらから攻めるか。《アクア・ソニックウェーブ》を召喚! その能力で、パワー4000以下の《アクア・スーパーエメラル》をバウンス! 続けて《アクア・ガード》を召喚! このターン、二度クリーチャーを出したので、《アクア・ジェスタールーペ》の能力で一枚ドロー。《アクア・ハルカス》でシールドをブレイク!」
『その攻撃は《アクア・ガード》でブロックですよ』
「相打ちか……ターン終了だ」
『では私のターン。《アクア戦闘員 ゾロル》を召喚。能力のないクリーチャーなので、私の能力で一枚ドロー』


アクア・ティーチャー 水文明 (1)
クリーチャー:リキッド・ピープル/ハンター 1000
ブロッカー
このクリーチャーは攻撃することができない。
カードに能力が書かれていないクリーチャーを召喚した時、カードを1枚引いてもよい。


 バニラビートの核となる《アクア・ティーチャー》の能力は、バニラを出すたびにカードを引けるというもの。この能力により、息切れを起こすことなく、次々とクリーチャーを展開していける。
「だが、俺の場には《アクア・ガード》が三体いる。一体や二体クリーチャーが増えた程度じゃあ突破できないぞ」
『それはどうでしょう。力なきものたちに知恵を授けるのが私の役目。それが彼らにとっての最善の戦い方です』
 しかし、と《アクア・ティーチャー》は続けた。
『弱いからと言って、いつまでも弱いままいるのが彼らではありません。三人寄れば文殊の知恵、という諺がありますが、私たちも同じです』
「なんでクリーチャーがそんな諺を知ってるんだ……」
 思わず突っ込んでしまった。だが、
「ご主人様!」
「どうした、エリアス」
「あのクリーチャーから、凄く強い龍素を感じます! 危険です!」
 エリアスから警笛を鳴らされる。どうやら、切り札級のカードが出て来るようだ。

『力なきものでも、三人寄れば龍となる! G・ゼロ! 《アクア・ビークル》二体と《アクア戦闘員 ゾロル》を進化GV! 《零次龍程式 トライグラマ》!』


零次龍程式(ゼロじりゅうていしき) トライグラマ 水文明 (5)
進化クリーチャー:クリスタル・コマンド・ドラゴン 12000
G・ゼロ—バトルゾーンに自分の、カードに能力が書かれていないクリーチャーが3体以上あれば、このクリーチャーをコストを支払わずに召喚してもよい。
進化GV—自分のリキッド・ピープル3体を重ねた上に置く。
T・ブレイカー
このクリーチャーが破壊される時、墓地に置くかわりに自分の手札に戻す。


「進化クリスタル・コマンド・ドラゴン……!」
 バニラクリーチャー三体に反応し、G・ゼロによってコストなしで召喚される大型クリーチャーだ。
『どうでしょう? これが力なき彼らの力です。弱者だと思って侮ってはいけませんよ』
「侮っているつもりはないが……どちらにせよ、俺の場には三体の《アクア・ガード》がいるんだ。いくらTブレイカーを持っていようと、お前の攻撃は通らない」
『はて、なにを仰っているのか分かりませんねぇ。私は《トライグラマ》で攻撃するなんて言ってませんよ?』
「……なに?」
 次の瞬間、《アクア・ティーチャー》は思いもよらない一手を繰り出した。
『呪文《ヒラメキ・プログラム》! 《トライグラマ》を破壊!』
「! なんだと……!」
 せっかく呼び出した《トライグラマ》を破壊して、《アクア・ティーチャー》は新たなクリーチャーを呼び出す。
『《トライグラマ》のコストは5。よって山札から、コスト6のクリーチャーをバトルゾーンへ呼び出します。さあさ、お出でなさい、一騎当千なる結晶の戦士よ!』
 《アクア・ティーチャー》の山札が捲られる。そしてその中から、狙い通りのクリーチャーが現れた。
『私を進化!』
 弱者に知識を与える教師は、新たな力を閃くことで、水晶の戦士となる——

『——《クリスタル・ランサー》!』