二次創作小説(紙ほか)

115話「欲望——強欲」 ( No.360 )
日時: 2016/04/13 23:55
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: Ak1jHfcH)

 邪悪な遺跡が揺れ動く。
 遺跡の内部に秘められた、白、青、黒、赤、緑の五色——光、水、闇、火、自然の五文明のマナが、欲望を解き放つため、遺跡の核に働きかける。
 五つの力の根源が蠢動し、混ざり合い、混濁し、混沌となり、純粋にして邪な、原始的な欲望として、一体の怪物を生み出す。
 屹立し、湾曲する、緑色の長大な角。
 すべての文明の色に染まる、虹色で濁色の戦斧。
 あらゆる欲望を秘め、それらを解放した、“欲”の化身。
 それ即ち——《我臥牙 ヴェロキボアロス》が、顕現した。
「あ……ぅ……」
 出てしまった。出て来てしまった。
 呻き声をあげることしかできない暁。
 失敗した。このクリーチャーだけは呼び出させてはいけなかった。このクリーチャーの龍解だけは、なんとしてでも防ぐべきだった。
 悔やんでも仕方ないが、しかし攻め急いでしまったのかもしれないと思う。クリーチャーの除去を考えず、早く決着をつけようとしたばかりに、この邪悪な古代龍の登場を許してしまった。
 《ヴェロキボアロス》は、ギラギラと光る眼光で、こちらを睨みつけている。その瞳には、すべてを奪いたい、奪い尽くしたいという、力を求めるだけの、野蛮で原始的な欲のみが渦巻いていた。
 その恐ろしさに、身が竦みそうになる。

「支配します、邪龍様——《邪帝類五龍目 ドミティウス》」

 だが、恐ろしいのは《ヴェロキボアロス》だけではない。
 《ヴェロキボアロス》に続き、柚はさらに邪悪な龍を呼び出す。
 蜘蛛のように地を這いずり回り、五つの文明を取り込み、支配する古代龍、《ドミティウス》。彼は、山札を掘り起こし、取り込んだ文明の力を解放する。
「《ドミティウス》の効果で、山札の上から五枚をめくりますね。そして、その中にある光、水、闇、火、自然のコスト7以下のクリーチャーをそれぞれ一体ずつ、バトルゾーンにだします」
 刹那。
 柚の周囲から、五色の光が噴き出す。
 白、青、黒、赤、緑。
 彼女の髪をなびかせて、それぞれの光は花の姿を形成する。
 そして、一輪ずつ、丁寧に、穏やかに、嫋やかに、柚はそれを摘み取っていく。

「光は蒲公英、真の恋——《護英雄 シール・ド・レイユ》」
 白い花を摘み、聖域へと放る。
 それは聖歌の祈りを纏う、白き龍となった。

「水は紫陽花、冷たい智——《理英雄 デカルトQ》」
 青い花を摘み、源泉へと放る。
 それは知識と真理を纏う、青き龍となった。

「闇は黒百合、呪われた愛——《凶英雄 ツミトバツ》」
 黒い花を摘み、墓場へと放る。
 それは終わりなき殺意を纏う、黒き龍となった。

「火は鳳仙花、燃えるような心——《撃英雄 ガイゲンスイ》」
 赤い花を摘み、戦場へと放る。
 それは燃え滾る闘志を纏う、赤き龍となった。

「自然は茉莉花、しとやかな温和——《牙英雄 オトマ=クット》」
 緑の花を摘み、大地へと放る。
 それは原始からの命を纏う、緑の龍となった。

 五輪の花が咲き誇り、五文明の英雄が、出揃った。
 彼女の、そして自分たちの、力の象徴が、そこにある。
「っ……! で、でも、《フォーエバー・プリンセス》の効果発動だよ! 相手がコストを支払わずにクリーチャーを出したから、全部マナゾーンに!」
「はい、マナにかえっちゃいますね……でも」
 咲き乱れた花はすべて、土へと還される。
 だが、しっかりと根を張って、そこに咲いたという事実は存在すれば、それが咲いた影響は、残るのだ。
 つまり、いくら暁の場に《フォーエバー・プリンセス》が存在しようとも——
「——それよりも先に、“わたしの”クリーチャーの効果が発動します」
 五つの光が迸る。
 マナゾーンを彩る光。それぞれの英雄が武装する光。そして、柚の周囲に噴き出る、五輪の花の光。
 それらがすべて、暁へと放たれる。
「《護英雄 シール・ド・レイユ》の、白いマナ武装7——《グレンモルト「爆」》と《フォーエバー・プリンセス》を、シールドに閉じこめます」
 《シール・ド・レイユ》は白く武装する。聖歌の光は、暁のクリーチャーを盾の中に封じる。
「《理英雄 デカルトQ》の、青いマナ武装7——カードを五枚、ドローします」
 《デカルトQ》は青く武装する。真理の水は、柚に潤沢な知識を授ける。
「《凶英雄 ツミトバツ》の、黒いマナ武装7——相手クリーチャーのパワーを、すべて−7000します」
 《ツミトバツ》は黒く武装する。殺意の闇は、暁のクリーチャーに殺戮の業を為す。
「《撃英雄 ガイゲンスイ》の、赤いマナ武装7——わたしのクリーチャーのパワーをすべて+7000、さらにシールドを一枚多くブレイクします」
 《ガイゲンスイ》は赤く武装する。熱血の火は、柚のクリーチャーにさらなる力を与える。
「《牙英雄 オトマ=クット》の、緑のマナ武装7——わたしのマナゾーンのカードを七枚、アンタップします」
 《オトマ=クット》は緑に武装する。原始の自然は、柚の有するマナに再び活力を取り戻す。
 《フォーエバー・プリンセス》が除去されても、英雄たちがバトルゾーンに出た時の効果は既にトリガーしているため、先にそちらの効果が解決される。《フォーエバー・プリンセス》の効果は置換効果ではないため、相手の登場時の効果をトリガーさせてしまうのだ。
 その後、《フォーエバー・プリンセス》の効果が解決され、英雄たちはマナへと送り込まれていった。
 彼らはその力は遺憾なく発揮していった。柚は潤沢な手札とマナ、そして強大な戦力を残し、暁の場は完全に不毛の地となってしまっている。
「さらに、《ヴェロキボアロス》の効果発動です……わたしが、手札からクリーチャーをだしたので、マナゾーンから自然の好きなクリーチャーを呼び出します。《天真妖精オチャッピィ》をバトルゾーンに。さらに手札からも《オチャッピィ》を召喚。そして」
 結果的に《ドミティウス》を召喚しただけの柚は、英雄たちがマナゾーンに送られたのを見届けると、《ヴェロキボアロス》に目を向ける。
 一体目の《オチャッピィ》で、墓地のクリーチャーをマナに還元。二体目の《オチャッピィ》も同様に、マナにクリーチャーを送る。
 そして《ヴェロキボアロス》は、《オチャッピィ》の存在に反応した。二振りの戦斧で大地を割り、その中から一体のクリーチャーを引きずり出す。
 役目を終え、大地に眠ろうとする、英雄を。
「赤い英雄さん、でてきてください——《撃英雄 ガイゲンスイ》」
「《ガイゲンスイ》……!」
 《フォーエバー・プリンセス》でマナゾーンに還したはずの《ガイゲンスイ》が、戻ってきてしまった。
「また《ガイゲンスイ》が場にでたので、もう一度、マナ武装7が発動します」
「ってことは、これでゆずのクリーチャーは全部、パワー+14000で、シールドを二枚追加でブレイクできる、ってこと……!?」
 元々は自分のカード、彼の力は、暁もよく理解している。
 だが、マナゾーンを介して出し入れし、その効果を重ねがけるというプレイングは、とても真似できない。《フォーエバー・プリンセス》を利用された形だが、これは柚だからこそできた芸当だろう。
 いや、そもそも、普段の柚は、このような戦い方はしない。暁のカードをこれ見よがしに繰り出すような真似はしない。
 目の前にいる柚は、いつもの彼女ではない。
 そのことを、再び、はっきりと認識させられる。
 これは“今”の彼女であるがゆえの、行いであると。
「まだ、終わりませんよ。わたしの手札は、《デカルトQ》のおかげでたくさんあるんです。《ナム=ダエッド》を召喚です。マナをふやして、《ヴェロキボアロス》の効果発動」
 また、《ヴェロキボアロス》が雄叫びをあげ、大地を割る。
 次に引きずり出されたのも、英雄だった。
「白い英雄さん、でてきてください——《護英雄 シール・ド・レイユ》」
「今度は恋の……!」
「暁ちゃんの場にクリーチャーはいないので、出すだけですけどね。ねんのために、守りをかためさせてもらいます。さらに《鳴動するギガ・ホーン》を召喚。そしてまた、《ヴェロキボアロス》の効果を使います」
 またも大地を割り、新たな英雄が這い出てくる。
「緑の英雄さん、でてきてください——《牙英雄 オトマ=クット》」
 《オトマ=クット》が現れると、マナゾーンが三度活力を取り戻す。
 何度も何度も、搾り取られるたびに次々と新しい力を注がれた大地は、酷使され続ける。不毛の地となることなく、死という安息すらも得ることができず、大地はマナを生むことを強要される。
「《オトマ=クット》のマナ武装7で、マナを七枚アンタップです。さらに《ベニジシ・スパイダー》を召喚です……《ヴェロキボアロス》」
 柚が呼びかける。
 それにより、《ヴェロキボアロス》の力が行使される。
 大地を割って現れるのは、やはり英雄。
「青い英雄さん、でてきてください——《理英雄 デカルトQ》」
「今度は浬のか……!」
「カードを引いて、シールドも交換しましょう。守りも、もっとかためちゃいます。続けて《有毒類罠顎目 ドクゲーター》を召喚。そして」
 《ヴェロキボアロス》が、大地から英雄を引きずり出す。
「黒い英雄さん、でてきてください——《凶英雄 ツミトバツ》」
「最後は部長の……まずいよ」
 《フォーエバー・プリンセス》で戻した英雄が、すべて戻ってきてしまった。
 暁は、結果として《ドミティウス》を止めることもできていない。ただ、自分の場を壊滅させられただけだ。
 さらに、柚の場に並んだ、夥しい数のクリーチャー。このターン攻撃できるクリーチャーの数はさておいても、この圧倒的すぎる物量は、絶望を通り越して、虚無の心すら生み出す。
 むしろ、ここまでの軍勢を築き上げる存在を、崇拝すべきなのかもしれない。
 それほどに、今の戦力差は開きすぎている。
 《シール・ド・レイユ》によって、暁のシールドは七枚ある。だが、二枚増えた程度では、この物量に耐えられる気はしなかった。
「《我臥牙 ヴェロキボアロス》で攻撃……マナゾーンから《ナム=ダエッド》を場に出します。そして——」
 《ガイゲンスイ》の能力を重ね掛けした《ヴェロキボアロス》の破壊力は、言葉では表現できないほどに凄まじい。
「——シールドブレイクです」
 一撃で、五枚のシールドがまとめて吹き飛んだ。
「うぁ……っ!」
 割られたシールドのうち二枚は、《グレンモルト「爆」》と《フォーエバー・プリンセス》。トリガーでないことが確定しているシールドだ。
 残り三枚のシールド。
 柚の場でこのターン攻撃可能なアタッカーは、《ヴェロキボアロス》を除いて七体。
 《ナム=ダエッド》が二体、《ベニジシ・スパイダー》《ギガ・ホーン》《オトマ=クット》《イメン=ブーゴ》がそれぞれ一体ずつ。そして、スピードアタッカーの《ガイゲンスイ》だ。
 それらほぼすべてが《ガイゲンスイ》のマナ武装を重ねがけされ、Tブレイカー以上の打点を持っているため、《ヴェロキボアロス》と合わせて、たった二回の攻撃でシールドは壊滅する。
 トリガーが期待できるシールドは、七枚中五枚。
 そこには、まだ暁が諦めないだけの、希望が残っていた。
「S・トリガー! 《英雄奥義 バーニング・銀河》!」
 その一枚目。
 燃え盛る銀河の炎。英雄の力を凝縮した、彼らの奥義が解き放たれる。
(一騎さん、みんな、力を貸して……!)
 呪文として残されたその力が、暁のマナの力をも取り込み、行使された。
「まずは、コスト5の《ベニジシ・スパイダー》を破壊! さらに、マナ武装7、発動! コスト12以下の《イメン=ブーゴ》も破壊!」
 二つの銀河が、《ベニジシ・スパイダー》と《イメン=ブーゴ》を炎で包み込み、灰も残さず燃やし尽くす。
「もう一枚、S・トリガー! 《めった切り・スクラッパー》発動だよ! 《ナム=ダエッド》二体を破壊!」
 二枚目のシールドも、暁の命を繋ぐトリガーとなる。
 鋸のような刃が、ニ体の《ナム=ダエッド》をまとめて切り裂き、切断する。
 さらに三枚目のシールド。
「まだ終わらないよ! S・トリガー《イフリート・ハンド》! コスト9以下の《オトマ=クット》を破壊!」
 灼熱の魔手が《オトマ=クット》を握り潰し、燃やし尽くす。
 これで残るアタッカーは三体。
「……《ベニジシ・スパイダー》で、シールドブレイクです」
 《ベニジシ・スパイダー》が残った二枚のシールドを砕く。巨大な蜘蛛の一撃は、凄まじい重量を伴って、抉るように盾を粉砕した。
「……トリガーなしか」
 一枚目のシールドに、S・トリガーはない。
 残る一枚のシールドから、二体のアタッカーを処理しなくては、暁の負けだ。
「お願い、来て……!」
 最後のシールドが砕かれる。
 シールドゼロ。もう後がない。
 ここで引かなければやられるだけだ。
 正体の掴めない、邪悪な欲に。
「絶対に、負けたくない……!」
 暁には敵の正体なんて分からない。そんなものがあるのかどうかすら不明だし、それを推理するだけの力もない。
 分かっていることは、自分の親友は、仲間を傷つけるような真似は絶対にしないという、信頼だけ。
 しかし、暁はなにもかも失われた。戦友も、仲間たちも、そして、信頼する親友も、すべて。
 だが意気消沈している暇はない。諦めるわけにはいかない。
 引っ込み思案だった彼女に代わって、自分が我儘を通すのだ。
 なにがなんでも通したい思い。どれほど無理であろうとも、その道理を燃やし尽くしてでも、押し通す。
 それはある種、強欲とさえ言えた。
 我を通す強き思い。己を曲げない猛き意志。
 失われたものを取り戻すために、暁は手を伸ばす。
「S・トリガー——」
 指先が熱い。しかし、力強く、そして頼もしい熱さだ。
 燃え滾る炎は、果てしない銀河の如き熱を込め、解放される。

「——《英雄奥義 バーニング・銀河》!」

 そして、再び英雄の技が炸裂する。
「一発目! コスト5以下の《鳴動するギガ・ホーン》を破壊!」
 最後のトリガー。《ガイラオウ》が放つ、燃え盛る火球が銀河の如く連なり、爆ぜる。
 《ギガ・ホーン》を焼き払い、銀河はさらなる薪を放り込まれ、燃焼する。赤いマナを得て、さらに轟々と燃える。
 熱血の根源すらも飲み込むほどに、大きく、熱くなる。
「さらに、マナ武装7、発動! 二発目! コスト12以下のクリーチャーを破壊する!」
 《ガイギンガ》は放つ火球が、さらなる銀河として膨張し、爆発する。


「《撃英雄 ガイゲンスイ》を——破壊!」

  その爆炎は、赤き英雄すらも飲み込んだ。
「私のクリーチャー、返してもらうよ……!」
 これで、このターン柚の攻撃できるクリーチャーはいなくなった。
 柚の猛攻を、耐え凌いだのだ。
「……ターン、終了です」
 少しばかり不服そうにターンを終える柚。
 攻撃を耐えたと言っても、盤面は圧倒的に暁が不利なまま。一戦目の時と、ほとんど同じだ。
 しかし、あの時とは決定的に違う点が一つだけある。
「……《バトライ閣》、頼んだよ」
 暁は、物言わぬ城に語りかける。
 自陣にそびえ立つ城、《バトライ閣》。
 この龍の城が、暁に勝利を呼び込む光となる。
「もう一度お願い! 《フォーエバー・プリンセス》を召喚! そして、そのまま《フォーエバー・プリンセス》で攻撃! その時——《バトライ閣》、起動!」
 《フォーエバー・プリンセス》は火のドラゴン。そのため、彼女の攻撃に呼応して、《バトライ閣》が咆える。
 法螺貝の音が轟き、熱き城から、爆ぜるように、燃え盛る龍が飛び出す。

「暁の先に、勝利を刻め——《爆竜勝利 バトライオウ》!」

 《バトライ閣》の魂の権化とも言うべき龍が、戦場へと現れる。
 《バトライオウ》。スピードアタッカーも持たず、パワーも8000と、柚の従えるクリーチャーたちと渡り合うには力不足に見えるドラゴン。
 しかし暁にとっては、“ドラゴンをバトルゾーンに出すこと”が重要だった。
「これでこのターン、私がバトルゾーンに出したドラゴンは二体目! 《バトライ閣》の龍解条件成立だよ!」
「っ……!」
 《バトライ閣》の龍解条件は、ターン中に二体以上のドラゴンをバトルゾーンに出すこと。
 一体目は、手札から召喚された《フォーエバー・プリンセス》。
 二体目は、《バトライ閣》によって呼ばれた《バトライオウ》。
 戦場に立つ二体のドラゴンから力を受け取り、《バトライ閣》は、その真の姿を現す。
「暁の先に——3D龍解!」
 城壁は鎧となる。天守は刃となる。
 爆ぜるほどに熱い血と魂を持って、かの龍は戦場を駆け抜ける。
「勝利と共に、私たちの思い出を刻んで——」
 失われたものを取り戻すために、彼は己が刀で勝利を刻み付ける。
 戦場に立つ勇ましい姿、長大な刀を携える果敢な立ち振る舞い、そして、仲間たちの先頭に立つ輝かしい存在。
 その姿は龍であり、武神であった——

「——《爆熱DX バトライ武神》!」