二次創作小説(紙ほか)

117話「太陽と萌芽」 ( No.362 )
日時: 2016/04/17 01:30
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: Ak1jHfcH)

 邪悪な龍が、再び現れる。
 数多の文明を飲み込み、支配する邪な龍が。
「《ドミティウス》の効果で、山札から五枚をめくります。そしてその五枚の中から、スピードアタッカーを……《ガイゲンスイ》を引ければ、わたしの勝ちです」
「引けるものなら、引いてみなよ。《ガイゲンスイ》は、応えてくれる」
 確信を持った眼で、暁は柚と向き合う。
 柚は《フォーエバー・プリンセス》が墓地に送られたことで、元から墓地にあったカードも、破壊されて墓地に行ったカードも、すべて山札に戻されている。
 そのため、《ドミティウス》で《ガイゲンスイ》が引ける可能性は、十分にある。
 それでも暁は、信じていた。
 自分の英雄を。
 《ガイゲンスイ》を。
「……おねがいします、《ドミティウス》!」
 柚の呼びかけに対して、《ドミティウス》が咆える。
 その雄叫びは、柚の山札を掘り起し、すべての文明を吸い尽くすように、クリーチャーを解き放つ。
「…………」
 捲られた五枚を眺める柚。しかし、そこには、淫靡な笑みを浮かべる彼女はいない。
 いつもの彼女でも、繕われたような彼女でもない。
 化けの皮を剥がされたように、空虚で混沌とした眼差しをしていた。
 柚は捲られたカードのうち四枚を掴み取ると、投げやりに放り投げる。
「……《音感の精霊龍 エメラルーダ》《龍素記号Xf クローチェ・フオーコ》《龍神ヘヴィ》《牙英雄 オトマ=クット》。この四体をバトルゾーンへだします」
 捲れたカードから現れたのは、四文明のクリーチャーたち。ほぼ自然単色のようなデッキ構築に見えたが、まさかそんなクリーチャーを隠しているとは思わなかった、と言いたくなるようなラインナップだ。
 しかし、そのなかにスピードアタッカーを持つ火文明のクリーチャーはいない。
 柚はこのターンで暁にとどめを刺すことはできないのだ。
「ほらね。《ガイゲンスイ》の熱さは、ゆずには似合わないんだよ」
「…………」
「《ガイゲンスイ》だけじゃない。《シール・ド・レイユ》は恋に、《ツミトバツ》は部長に、《デカルトQ》は浬に、……みんな、それぞれの持ち主と一緒にあるのが、一番似合うよ。 無理やりマナゾーンを五文明にして、武装を装うなんて、そんな偽物は通用しないよ!」
「でも、まだ終わりじゃありません。《イメン=ブーゴ》がいなくとも、《オトマ=クット》のマナ武装は発動します。マナゾーンのカードを七枚アンタップ。そしてこの7マナで、《龍覇 イメン=ブーゴ》を召喚です!」
 諭すように語りかける暁の言葉を払い除け、柚は欲望のままに、力を求め続ける。
 《イメン=ブーゴ》が現れたことで、超次元から一振りの武器が飛来する。
「きてくださいっ! 《邪帝斧 ボアロアックス》!」
 ザクリ、と大地に突き刺さった邪悪な戦斧を引き抜く《イメン=ブーゴ》。
 その斧で大地を割り、新たなクリーチャーを呼び起こす。
「《ボアロアックス》の能力で、マナゾーンから《次元流の豪力》をバトルゾーンに。さらに《次元流の豪力》の能力で、超次元ゾーンから《舞姫の覚醒者ユリア・マティーナ》をバトルゾーンに!」
 大地から這い上がる《次元流の豪力》は、再び超次元の門扉をこじ開け、覚醒した《ユリア・マティーナ》を引っ張り出す。
「ターン終了……する時に、《ボアロアックス》は龍解しますっ」
 柚の場には、《エメラルーダ》《クローチェ・フオーコ》《ヘヴィ》《オトマ=クット》《イメン=ブーゴ》《次元流の豪力》《ユリア・マティーナ》、七体のクリーチャーがいる。
 その合計コストは、5+5+5+7+5+6=33。
「2D龍解っ! 《邪帝遺跡 ボアロパゴス》!」
 邪悪な斧は遺跡へと姿を変え、柚の陣地へと鎮座する。
「これで次のターンには、《ヴェロキボアロス》に龍解します。そのときが、わたしの勝ちです」
「なら、その前に決めるだけだよ!」
 確かに盤面をすべてリセットされた直後にこれだけのクリーチャーを展開されてしまえば、流石に処理しきれない。
 しかし、こんなギリギリの状況だからこそ、暁の炎は明るく燃えるのだ。
「私のターン!」
 カードを引く暁。場に残っているのは《バトライ閣》一つ。
 その残された力を行使するために、彼は戻ってきた。
「……ゆずには応えてくれなかったみたいだけど、私には応えてくれたよ」
 そう言って暁は、7マナをタップする。
 炎を揺らめかせて。

「暁の先に立つ英雄、龍の力をその身に宿し、熱血の炎で武装せよ——《撃英雄 ガイゲンスイ》!」

 七つの火のマナを吸収し、それを身に纏い、武装する。
 敵陣から自陣へと帰還した、勝利を司る戦闘龍の元帥にして、英雄。
 《撃英雄 ガイゲンスイ》が、出陣した。
 《ガイゲンスイ》は地に立つと、刀を抜かず、思い吹けるように呟いた。
『……長く、悪い夢を見ていたような気分だ』
「大丈夫? 《ガイゲンスイ》」
『無論だ。だが、あの娘……儂を取り込んだ者と、だいぶ毛色が違うようだが』
「? どういうこと?」
『儂にも分からん。だが、あの娘が、禍々しい邪悪な闇を孕んでいることは確かだ。儂も一度は取り込まれた身、無関係ではない。かの闇を斬り捨てるぞ!』
「うん。頼んだよ、《ガイゲンスイ》!」
 燃え盛る炎を武装して、《ガイゲンスイ》は地面を蹴る。その勢いのまま抜刀し、刀の切っ先を柚へと向けた。
「《ガイゲンスイ》で攻撃! そして、《バトライ閣》の能力、発動!」
 《ゲイゲンスイ》の攻撃に合わせて、 《バトライ閣》から法螺貝の音が響き渡る。
 新たな仲間を呼ぶ声。一度は己の魂の権化を呼び戻した。
 そして今度は、さらなる力を得た自分自身の魂が、解放される。
「暁の先に、勝利を刻み込め——《熱血逆転 バトライオウDX》!」
 そして、このドラゴンの登場により、再び《バトライ閣》が揺れ動いた。
 内に秘めた龍の魂が鳴動し、解放される。

「暁の先に、3D龍解——《爆熱DX バトライ武神》!」

 再び《バトライ閣》が《バトライ武神》へと龍解する。
 一度は先んじられた3D龍解。しかし、リセットされた後は、フォートレスを残した暁が先に再龍解を決めた。
 《ボアロパゴス》を囲むように並ぶ各文明のクリーチャーたち。暁たちは《バトライ武神》を先頭に、彼女の布陣へと斬り込んでいく。
「《ガイゲンスイ》の攻撃続け! シールドブレイク!」
 まだ《ガイゲンスイ》の攻撃は続いている。《ガイゲンスイ》は抜いた刀を振るい、柚の一枚だけ増えたシールドを真っ二つに切り裂く。
 だがそれは、《エメラルーダ》で手札から置かれたシールドだ。
 罠が仕掛けられていないはずがなかった。
「S・トリガー……《瞬撃の大地 ザンヴァッカ》を召喚! 手札からクリーチャーを召喚したので、《ボアロパゴス》の効果発動! マナゾーンから《ナム=ダエッド》をバトルゾーンへ!」
 切り裂かれたシールドから、甲虫のような大地の化身、《ザンヴァッカ》が飛び出す。
 身を伏せて、《ザンヴァッカ》は暁の攻撃を誘導する。同時に《ボアロパゴス》も起動し、クリーチャーも増えた。
「《ザンヴァッカ》の効果で、あきらちゃんは《ザンヴァッカ》にしか攻撃できませんよ」
「だったら先に倒すだけだよ! 《バトライ武神》で攻撃!」
 そして再び、武神の力が解き放たれる。
 《バトライ武神》の刀の一振りで、爆風が巻き起こり、新たな仲間を呼ぶ。
 まだ小さな、二人の語り手を。
「任せたよ、二人とも——《太陽の語り手 コルル》! 《萌芽の語り手 プル》!」
「おう! 行くぜ、プル!」
「ルールー!」
 《バトライ武神》の応援に駆け付けたのは、語り手の二人だった。
 《コーヴァス》がやられても、今度は《コルル》として。神話継承していなくとも、今は《プル》という一人の戦士として。二人は戦場へと現れる。
「ついでにもういっちょ! 《真実の皇帝 アドレナリン・マックス》もバトルゾーンに! ドラゴンが三体出たから、みんなスピードアタッカーだよ! 《バトライ武神》でダイレクトアタック!」
「《ユリア・マティーナ》でブロックです! 《ユリア・マティーナ》がブロックしたことで、シールドを追加します!」
 《バトライ武神》の攻撃を、捨て身で防ぐ《ユリア・マティーナ》。彼女の亡骸はそのまま、柚の身を守る盾となる。
「まだまだ! 終わるまで止まらないよ! 《バトライオウDX》と《コルル》で《ザンヴァッカ》を攻撃!」
「《ナム=ダエッド》のガードマンで防御、《クローチェ・フオーコ》でブロックっ! 《コルル》さんには破壊されてもらいますっ!」
「させないよ! 《コルル》のバトルは《バトライオウDX》が引き受ける!」
 《クローチェ・フオーコ》に攻撃を阻まれた《コルル》だが、そのバトルは《バトライオウDX》が肩代わりし、《クローチェ・フオーコ》を斬り捨てる。
「続けて《アドレナリン・マックス》で攻撃! 初めて《アドレナリン・マックス》がタップしたから、私のドラゴンを全部アンタップ!」
 《アドレナリン・マックス》が、疲弊した仲間たちに力を注ぎ込む。
 まだ終わらない、最後まで成し遂げる。そういった強い思いが暁のクリーチャーすべてに伝わり、身体を起こす。そして、再び攻撃の意志を見せつける。
 力を注ぐと、《アドレナリン・マックス》が《ザンヴァッカ》へと飛び掛かる。
「《光牙忍ハヤブサマル》を召喚です! 《次元流の豪力》をブロッカーに! ニンジャ・ストライクも召喚なので、《ボアロパゴス》の能力発動! 《イメン=ブーゴ》ですべての文明となった、マナゾーンの《音感の精霊龍 エメラルーダ》をバトルゾーンに! 手札を一枚シールドに置いて、《次元流の豪力》でブロック!」
 《次元流の豪力》が《ザンヴァッカ》を《アドレナリン・マックス》から身を挺して守る。
 《ザンヴァッカ》を盾に、柚は暁の攻撃を必死で凌いでいた。
 残るはシールド二枚と、《ザンヴァッカ》に《エメラルーダ》二体。
「もう一度《バトライ武神》で攻撃! 山札を三枚捲るよ!」
 三度、刀を振るう《バトライ武神》。
 一度、二度とその斬撃を柚に耐え凌がれてきた暁だが、三度目の正直となるのか。
 剣を振るう圧力が暴風となり、爆ぜるように新風を巻き起こす。
「さぁ来て! 《ミツルギブースト》《バトクロス・バトル》をバトルゾーンに! 《ミツルギブースト》をマナに置いて、《ザンヴァッカ》を破壊! さらに《バトクロス・バトル》で《イメン=ブーゴ》とバトル! そして——」
 《ミツルギブースト》がマナに還り、炎の刃を飛ばして遂に《ザンヴァッカ》を破壊する。《バトクロス・バトル》は《バトライオウDX》と入れ替わり、《イメン=ブーゴ》を殴り倒す。
 そして、それら二体の龍に続き、彼女がやって来る。
 爆風と共に散る桜吹雪を背景にして——
「——《プル》を進化!」
 《萌芽の語り手 プル》が進化し、神話の力を継承する。
「暁の先に、咲き誇れ——」
 彼女の力を手に、暁は、花々を育む陽光として、輝きを放つ。
 そして、花は開いた。

「——《萌芽神花 メイプル》!」