二次創作小説(紙ほか)
- 117話「太陽と萌芽」 ( No.363 )
- 日時: 2016/04/17 16:15
- 名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: Ak1jHfcH)
明るい太陽の光を受け、桜色の蕾が花開く。
太陽によってもたらされた、神話と継承の萌芽の光に包まれて、《プル》は《メイプル》となる。
《コーヴァス》同様、彼女も自身の力で、《バトライ武神》の制約を抜けて戦場へと現れたのだった。
「Loo……」
蕾から目覚めた《メイプル》は、花弁のような羽を伸ばし、小さく声を発する。
そして、柚へと、静かに目を向けた。
「《メイプル》さん……」
「分かってるよね、ゆず。これは、君のクリーチャーだよ」
「…………」
姿を現す《メイプル》を、彼女の眼を見て、柚は口をつぐんだ。
そんな柚に、暁は畳み掛けるように、さらにまくしたてる。
「私はゆずが好き。友達だから。今までずっと一緒だった、親友だから」
小学校の頃、初めて出会い、話した時。
それから今までずっと一緒だった。
遊ぶ時も、帰る時も、勉強する時も、戦う時も、なにもかも。
「ゆずと友達になるまで、私はずっと男の子とばっかり遊んでたけど、ゆずがいてくれたから、女の子のいいところも分かるようになったし、ゆずみたいなおとなしい子も、いいなって思えるようになった。私の世界はゆずのおかげで、確かに広がったんだよ。そんなことがあったから、ゆずがいてくれて、本当によかったと思ってる」
暁が柚の閉鎖された扉をを開いたように、柚も、暁の世界をさらに広げていた。
お互いが、お互いにとって、かけがえない大事な存在だった。
一人のことは他人事ではない。彼女に起こったことは、自分に起こったことと同義。それが二人の関係だ。
一心二体。互いに通じ合い、通い合い、繋がっている。
二人は密接な関係だ。それゆえに、暁は、怒声を放つ。
「でも、だから。だからこそ! 私は君を許せない!」
「許せない……?」
「そうだよ! 浬も、部長も、恋も、みんなを傷つけるようなことをして、自分がだれかも分かってないみたいになってて、そんなのゆずじゃない!」
虚ろな眼の柚に向かって、暁は叫ぶ。
「何度も言ってますよ。わたしは、わたしです」
「いいや、違うね! 君はゆずじゃない!」
「……わたしが、わたしでないのに、わたしを許せないんですか? それは、矛盾、ですよね?」
「そんな難しい言葉は分かんないけど、それも違うよ! 私が許せないのはゆずじゃない、君だよ!」
そう言って暁は、びしりと柚を指差す。
いや、彼女からすれば、柚ではない柚へと、指差したのだろう。
暁には、もう分かっていた。勿論、頭ではない。感覚として、直感的に分かった。
自分が戦っている相手は、柚であり、柚でないことに。
「待ってて、ゆず。今、助けてあげるから……《メイプル》!」
『承知している』
短く、《メイプル》は答えた。
そして、続ける。
『柚……私がついていながら、そのような目に遭わせてしまったことを、詫びなければならないな……だが』
悔いるように、《メイプル》は胸を押さえて、悲しそうな声を発する。
しかし、ふっと顔を上げた。彼女の二つの瞳は、確かな光が灯っていた。
『それよりも先に、私たちには為すべきことがある』
「そうだよ。ゆずを元に戻さないで、謝るとかないしね!」
『その通りだ。では行こうか、暁!』
「任せてよ! 《ザンヴァッカ》がいなくなったから《バトライ武神》の攻撃はこれで中止だけど、《アドレナリン・マックス》で攻撃だよ!」
攻撃目標を失った《バトライ武神》の攻撃は終わってしまう。《ミツルギブースト》が《ザンヴァッカ》を破壊したからだが、これ以上《ザンヴァッカ》を守られて攻撃先を固定されると困る。
逆に言えばこれで、柚を守るものはブロッカーとシールドだけになったのだ。
そのシールドを突き破るために、《アドレナリン・マックス》が突貫する。
しかし暁たちの攻撃の前には、ブロッカーたちが立ちはだかる。
「《エメラルーダ》でブロックです!」
「次! 《バトライオウDX》でWブレイク!」
「それも、もう一体の《エメラルーダ》でブロック!」
「だったら、《ガイゲンスイ》でWブレイク!」
《アドレナリン・マックス》と《バトライオウ》が二体の《エメラルーダ》を蹴散らし、守り手がいなくなったところを《ガイゲンスイ》が一閃、二枚のシールドを叩き斬る。
だが、そのシールドは光の束となり、収束していく。
「S・トリガー! 《網斧の天秤》! パワー5000以下の《コルル》さんをマナゾーンへ送りますっ!」
『ぐ……っ!』
「コルル!」
柚の割られたシールドから、一振りの斧が飛来し、《コルル》の身を切り裂く。
緑の戦斧に傷つけられた《コルル》は、大自然の意志に導かれ、マナへと還ってしまった。
「コルルがやられちゃった……でも、私にはまだ《メイプル》がいるよ!」
「それでも……S・バック発動です! 《ナム=ダエッド》を捨てて、《天真妖精オチャッピィ》を召喚!」
最後に割られたシールドを捨て、柚は《オチャッピィ》を繰り出す。
死の間際で呼び出したそのクリーチャーには、柚の身を守る力はない。しかし、クリーチャーが召喚されること、それこそが柚にとっては大きな意味を持つ。
そう、《ボアロパゴス》だ。
欲望の遺跡が、動き始める。
「まだ、終わりません……! 《オチャッピィ》の効果で、墓地の《エメラルーダ》を——」
と、そこで柚の動きが止まる。
《オチャッピィ》の効果で《エメラルーダ》をマナに戻そうとしたところで、彼女は自分の場に視線を向ける。その後、指先は別のものを掴んだ。
「——《次元流の豪力》をマナゾーンへ戻します」
「私だって、少しくらいは考えてるんだから。その《オチャッピィ》は読めてるよ」
得意げに言う暁。
前の《バトクロス・バトル》で、ブロッカーではなく《イメン=ブーゴ》を破壊したことが生きてきた。《イメン=ブーゴ》が残っていると、マナのカードもすべての文明となるため、《エメラルーダ》でもなんでも、コスト5以下ならどんなクリーチャーも《ボアロパゴス》で引っ張り出されてしまう。
柚は《デカルトQ》で潤沢な手札がある。S・トリガーを複数抱えていても不思議はない。暁は《イメン=ブーゴ》を事前に破壊することで、それを差し止めたのだった。
「ですが、関係ありません。《オチャッピィ》を手札から召喚したので、《ボアロパゴス》の効果で、マナゾーンから《次元流の豪力》をバトルゾーンへ! きてください、《ユリア・マティーナ》!」
暁がこの状況を想定して《イメン=ブーゴ》を破壊したのと同じく、柚も保険をかけていたのだ。《ハヤブサマル》でブロッカー化し、ブロックして破壊させ、墓地に置いておいた《次元流の豪力》が、マナゾーンを介して蘇る。
またしても、《ユリア・マティーナ》を引き連れて。
「《ユリア・マティーナ》もブロッカーで、シールドを増やすことができます。あきらちゃんの攻撃は、もうとどきませんよ」
「それはどうかな。《メイプル》!」
『承った!』
暁の指示を受け、《メイプル》が飛ぶ。
薄桃色の花弁を散らしながら。
「これでとどめ! 《メイプル》で攻撃!」
「《ユリア・マティーナ》でブロック——」
『させんよ』
《メイプル》が、柚のブロック宣言を遮る。
攻撃進路には《ユリア・マティーナ》が待ち構えている。彼女に攻撃を止められてしまえば、それは柚の盾にもなってしまい、攻撃手が足りなくなってしまう。
しかし、柚は《メイプル》の攻撃を防ぐことはできない。
《ユリア・マティーナ》の足元から、蔦が伸びる。しゅるしゅると、その蔦は《ユリア・マティーナ》に絡み付き、縛り付ける。
「忘れたとは言わせないよ。《メイプル》が攻撃する時、相手クリーチャーを一体選んで——」
『——マナゾーンに送る。大地へと還り、超次元の彼方に戻れ、異次元の覚醒者よ!』
そんな《メイプル》の一声で、《ユリア・マティーナ》は大地に飲み込まれ、そのまま超次元の彼方へと飛ばされてしまった。
シールドも、ブロッカーも、守るものがすべてなくなった柚へと、《メイプル》が迫る。
「……まずい」
一瞬。眼を鋭く細め、小さく呟く。
華々しく戦場を飛び、駆け抜ける《メイプル》。
彼女は敵陣へと到達すると、両腕を大きく広げた。
『待たせたな、柚。もう……大丈夫だ』
優しく呼びかけるように、《メイプル》は包み込む。
小さな柚の身体を、静かに抱きしめる。
「あ……」
なにかが入り込んでくるような感覚。
同時に、ふっ、となにかが抜けていく。
身体の中で蠢いていたなにかが縮こまり、代わりに、暖かなもので満たされる。
とても、心地よかった。
その心地よさに浸りながら、彼女の声が聞こえてくる。
世界で一番安心できる、親友の声が。
「《萌芽神花 メイプル》で、ダイレクトアタック——」