二次創作小説(紙ほか)
- 120話「侵略開始」 ( No.367 )
- 日時: 2016/04/19 00:20
- 名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: Ak1jHfcH)
皆は困惑していた。
唐突にかけられた召集。定期外に招集がかけられること自体は珍しくないが、『鳳』と『フィストブロウ』の双方に、しかも同時に全体召集がかけられるなど、滅多なことではない。
加えて、召集をかけたのが『鳳』のリーダーであるという点が、『フィストブロウ』の面々に不安を募らせていた。
同盟を結んでいるとはいえ、まだ『鳳』は『鳳』、『フィストブロウ』は『フィストブロウ』と分離しているところが少なくない両者だ。片方のリーダーが召集をかけたからと言って、簡単に腰を上げたりはしない。まずは自分たちのリーダーの意見を仰ぐ。
しかし、当のリーダーがおらず、情報がなにもないとなれば、話は別だった。
「メラリー……どこへ行ってしまったんでしょう」
「さぁな。だが、あいつの姿が見えないこと含め、今回の招集……なにか臭いな」
「なにはともあれ、すべては『鳳』のリーダーの言葉次第かね。その中で、メラリーのこともなにか分かるだろう」
「しんよう、できるか?」
「それは私たちが考えることだよ。“一応”、私たちと彼らとは同盟を組んでいるからね。嘘八百は言わないだろう」
「あくまで、一応、だからな。嘘八百でないとはいえ、七百九十九の虚言には疑ってかかった方がいい。ケッ、情報がねぇと、信用できない奴でも信用しなきゃいけねぇのか。七面倒くせぇ」
『鳳』も、『フィストブロウ』も、大きな共同のホールへと整列する。
人型のクリーチャーが多いが、中には鳥獣のようなクリーチャーや、爬虫類や龍のような姿のクリーチャーも見られる。
整列したクリーチャーの多くが、『鳳』の構成員だった。元々、『フィストブロウ』より『鳳』の方が組織としての規模は大きい。それはひとえに、彼らの所業——生き様そのものが、己を肥大化させるものであるからだ。
他者を貪り、自らをさらに高める、侵略。
その力ゆえに、彼らは巨大化することを止めない。
否、止まらない、と言うべきか。
ホール正面の大きな壇から、音が聞こえてきた。
何者かの、足音だ。
「……来たな。『鳳』の総大将」
「奴さんの言葉をお聞かせ願う時だね。さて、なにが分かるかな?」
「メラリーは……?」
壇に上ったのは、一人だった。
この場にいる誰もが知る人物、『鳳』のリーダー。
音速を超えた、轟速を求める者。
そして、新たな“伝説”の一人だ。
「我らが同胞たち、よくぞ集まってくれた」
壇上に立った『鳳』のリーダーは、一組織のトップとしての威厳からか、いつもとは少しだけ違う口調で告げる。
「長い前置きは不要だ。手短に、素早く終わらせるぞ」
しかしその性質までもは変わらなかった。
「『鳳』の同志たちよ、そして、『フィストブロウ』の者どもよ。よく聞け」
露骨に両者を差別しながらも、だらだらと遅い喋りなどはせず、単刀直入に、言い放つ。
「——メラリヴレイムは死んだ」
ホールに衝撃が走る。
『フィストブロウ』のみならず、『鳳』の者たちも、困惑し、騒然としていた。
そこに、追い打ちをかけるように、続ける。
「『フィストブロウ』のリーダー、メラリヴレイムは、この手で討った」
「そんなこと!」
高い声がホールに響き渡る。
『フィストブロウ』の集団から、一人の女が、食らいつくように声を張り上げていた。
「メラリーが……あの人がそんな簡単に死ぬはずありません! 適当なことを言わないでください!」
「ならばなぜ、奴はこの場に現れない? お前たちも思っただろう。なぜ、自分たちのリーダーは召集をかけないのか、と。そしてメラリヴレイムの姿はどこにもない。だからお前たちは、この場に集まっているのだろう?」
「それは……」
女は言葉を失った。
それを好機と見て、さらに畳み掛ける。
「元々、メラリヴレイムとは——いや、『鳳』と『フィストブロウ』は、相容れない存在だった。お前たちも、それは感じていただろう? メラリヴレイムが死んだ理由はそれだ。奴は『鳳』のやり方に文句をつけてきた。だからこの手で討った。音速を超えた轟速の力で、轢き殺した」
同盟を組んだものの、両者の諍いは絶えなかった。
どちらも生きるために手段は選ばない集団だ。しかし、それでも結果的に手を取り合う『フィストブロウ』と、完全な利己主義に基づいて侵略を繰り返す『鳳』は、どうしても混じり切らなかった。
なによりも、『鳳』の度の過ぎた侵略行為を目に余している『フィストブロウ』の者は、少なくなかったのだ。
だからこそ、遂に両者に亀裂が走り、分断してしまったのだろう。
メラリヴレイムの——『フィストブロウ』のリーダーの、死をもって。
「さぁ、立て! 『鳳』の同胞たち!」
声高らかに叫ぶ。
燃え滾った炉に薪を放り込むように、燃え盛る炎をさらに燃え上がらせ、加速させる。
「今ここに宣言する! 我ら『鳳』は、『フィストブロウ』との同盟を破棄する!」
そして、
「『鳳』に属する者すべてに命じる! 『フィストブロウ』の者どもを——侵略しろ!」
侵略。
それは、『鳳』にとって、呼吸をするに等しいほど、当然である所業。
しかし同時に、それほど重要でもある。
彼らにとって生きることとは、侵略することに他ならない。
侵略の命が下されたということは、ただ一つの事実を意味する。
すべてを侵攻し、略奪し、根絶やしにする。
そのために『鳳』は、動き出す。
『フィストブロウ』の者たちは、周囲を取り囲む『鳳』の視線が、敵意と欲望に満ちたそれになっていることに気付く。
今にも、侵略されてしまいそうな気迫があった。
いや、違う。しまいそう、ではない。
実際に、侵略は始まったのだ。
『鳳』の魔の手が、『フィストブロウ』へと伸びる——
「——てめぇら逃げろ!」
突如、男の叫び声が轟く。
その声に困惑し、立ち止まる者がいれば、反射的に駆け出す者もいた。
侵略行為を受ける者、侵略から逃れる者。ホールは混乱の坩堝へと相成った。
「ルミス、ミリンさん、ウッディ! てめぇらは下っ端ども連れて逃げろ!」
男は近くにいた仲間にも叫んだ。
「ザキ、君はどうするんだい?」
「俺は連中を食い止める。大丈夫だ、死ぬつもりはない。メラリーの馬鹿と同じ轍は踏まねぇよ」
「で、でもザキさん……」
「いいからさっさと行けつってんだろうが! 分かってんのか! 今は非常事態なんだよ! てめぇらはともかく、雑魚どもがいると足手纏いだ!」
「ザキの言う通りだ。ここは彼に任せよう。行こう、ルミス、ウッディ」
「りょうかいだ」
「わ、わかりました……ザキさん、無事でいてくださいね」
「当然だ。俺を誰だと思ってる」
そんな応答を残して、男は仲間たちが消え去るところを、切れ目で見届ける。
その、直後だ。
エンジン音のような荒っぽい声が、鼓膜を震わせる。
「仲間を逃がして盾になるか。随分と余裕ぶっこいてんじゃねーの、ラーザキダルク」
「……『鳳』のリーダー様が、俺のとこに来るかよ。光栄じゃねぇか」
「本当に余裕だな。てめーまさか、『鳳』の侵略者に囲まれて、生きてこのサーキットから出れると思ってんのか?」
「そのまさかだ。あいつらが逃げられるだけの時間を稼いだら、俺も立ち退くつもりだ」
「舐めたことを……分かってんのか? ここにいる『鳳』幹部は、一人じゃないんだぜ?」
そう言われた、刹那。
男の左足を、なにかが貫いた。
「っ、狙撃……!?」
太腿から血が滲む。完全に貫通しているようだが、傷自体は小さい。この程度なら、走行にもそこまで支障はなさそうだった。
しかし、今度はなにかが足元に転がってきた。
サイコロだ。この騒乱の場に似つかわしくないものだが、男はこれがなにかを知っている。
この距離では避けるのは無理だ。ならばと、腕を顔の前で交差させる。
そして直後、サイコロが爆ぜた。
「ぐ……っ!」
それほど大きな爆発ではない。爆風を受けて吹き飛ばされそうになるも、堪えられた。
だが、彼らの侵略は、こんな程度で終わるはずがなかった。
「おらおら、ボサッとしてんじゃねーぞ!」
「ちぃ……!」
次は拳だ。一発一発が異常に速い正拳突きが連打される。
これも避けられず、腕を交差させたままで受ける。
「はぁ、はぁ……!」
「もう息があがってんじゃねーか! そんなんで持ちこたえられるのか!? あぁ!?」
ラッシュが終わると蹴り飛ばされた。
堪え切れずに吹っ飛ばされたが、なんとか空中で身を翻して、着地に成功する。
それでも間髪入れずに、矢が飛び、コインが爆発し、襲い掛かる。
『鳳』の侵略を耐え凌ぎながら、男は願うように、吐き捨てた。
ここから逃げ去った仲間へ向けて。
「絶対に死ぬんじゃねぇぞ、てめぇら……!」
この日が、『鳳』と『フィストブロウ』の決別の日だった。
生き残った『フィストブロウ』は皆バラバラとなり、『鳳』に狙われ、追われ、襲われる日々を過ごすことになる。
それでも彼らは、必死で生きようとしていた。
いつか必ず起こる、“革命”を夢見て——