二次創作小説(紙ほか)

121話「十二新話」 ( No.368 )
日時: 2016/04/24 18:57
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: uB4no500)

「今まで使えなかったものが使えるようになることって、あるのかな?」
 夏も終わりが近づく頃。遊戯部の面々は、烏ヶ森との合同合宿も終え、主な活動が夏休み明けにある文化祭のみとなった。
 そんな遊戯部の部室。四人の部員が集う中、暁は唐突に言い出した。
「どういうことですか?」
 真っ先に返したのは柚だった。沙弓と浬は、急にこいつはなにを言いだしたんだ、頭は大丈夫なのか、というようなことを思いつつ言葉を探していた。
 二人が適当な言葉を見つけるより前に、暁が続ける。
「昔、お兄ちゃんからもらったカードがあるんだけどね。今日、急に返せとか言ったんだよ」
「ゆーひさんが、ですか?」
「そうそう。お兄ちゃんにしては珍しいなー、とか思ってたんだけど、それ、すっごく強いカードで、もらった時はすごい嬉しかったんだ。だけど、それでデッキ組んで大会に出ようとしたら、出られなくって」
「使用に制限がかかってるカードだったのね」
「そうなんだよ! それで、だまされたー! って、その後ケンカして……思い出すだけでも腹立つよ」
 愚痴っぽく吐き捨てる暁。いつも能天気で明るいところを見せているだけあって、今のような不機嫌そうな言動は、些か珍しかった。
「要するに、使えないカードを押しつけられたんだな。だがそれを、今になって返却を求めるものか?」
「なんか使えるようになったとか、シークレットだから手に入らないとか、よく分かんないこと言ってたけど、ムカつくから返してあげなかった」
「あ、あきらちゃん……それは、ゆーひさんがかわいそうですよ……」
「どこが! だまされた私の方が可哀そうじゃない!? しかも今になって返せとかないよ。使えるとかどーとかもう関係ないね! お兄ちゃんには絶対返さない。デッキケースの空いたスペースにしまったから、もうお兄ちゃんの手には届かないし」
「変なところでムキになるわね、この子は」
 いや、というよりも。
 兄が絡むと、か。
「で、なんだったか。使えなかったものが使えるようになる、か?」
「うん。そーゆーのって、デュエマであるの?」
「デュエマで使えないカードって言うと、殿堂やプレミアム殿堂ね。要するに制限や禁止カードだけど、デュエマだとそれが解除される例はなかったわね」
 大抵の場合は、強すぎたために完全に封印されるか、調整版のカードが出て、リペアとされるパターンが多い。
「でも他のカードゲームなら、制限解除、禁止解除はあるわね。遊戯王とかしょっちゅうそんなことがあるから、常にチェックしてないと大変よ」
「おい、具体名を出すな」
 どこか慌てたように、沙弓を窘める浬。沙弓はあっけらかんとしている。
「まあ、デュエマで制限をかけられたカードが戻ってきても、手遅れなケースは多いでしょうけどね」
「なんでですか?」
「これはデュエマに限らず、カードゲーム全般としての性質なんだけど、カードゲームは常にインフレを続けているの」
「インフレ? 電気とかガスのこと?」
「それはインフラだ。インフレというのは、インフレーション(inflation)——持続的な上昇の意味だ。元々は経済学における用語で、物価が持続的に上昇することを指すが、カードゲームにおいてはエキスパンションが進むごとに、徐々にカードパワーが上がることを意味する。たとえば、デュエマ黎明期のカードと、覚醒編のカード。両者のエキスパンションに封入されているカードのスペックを見比べると、明らかに覚醒編のカードが優れる。これは商売上、古いカードよりも新しいカードが強くなければ経営が成り立たないために、すべてのトレーディングカードゲームの性質と言える。分かったか」
「ぜんぜん。なに言ってんの? れーめーきってなに?」
「……なんでもねぇよ」
 浬は説明を諦めた。
 暁に伝わらない説明をする浬に代わって、沙弓が出る。
「カイの説明は長ったらしくてくどいから分かりにくいでしょうけど、要するに、カードがたくさん出れば、新しいカードは強くなるってことよ。理由は、新しいカードが強ければ、欲しいと思われるから」
「おぉ! なるほど、部長の説明は分かりやすいよ!」
「そら良かったな……」
 目をキラキラと輝かせて沙弓を見つめる暁。浬はそれに対して、投げやりに呟くと、ギィッとパイプ椅子に体重を預けた。
「話を戻すわね。まず、制限がかかるカードは、今の目線から言えば古いカードでしょう? で、新しいカードは古いカードよりも強い。単純に考えて、古いカードを解禁しても、新しいカードの方が強いってこと」
「まあ勿論、制限されるようなカードは、当時から見てオーバースペックであることも少なくないから、解禁された頃のインフレで、ちょうどいいくらいになることもあるだろうけどな」
 さらに言えば、解禁してしまえば、今では昔以上にスペックがオーバーするカードもある。主にクリーチャーを踏み倒すようなカードに、そういった傾向は見られた。
 理由は単純明快で、踏み倒せるカードが増え、かつそれらのカードが昔よりもずっと強いからだ。インフレが起こっているということは、強いクリーチャーが増えるということ。踏み倒しカードは、踏み倒せるクリーチャーの種類が増えれば増えるほど強くなる。そして、踏み倒せるクリーチャーが強くなることでも、間接的に強くなると言える。
 エキスパンションが進み、カードプールが増え、その上で踏み倒し先のクリーチャーまでもが強くなれば、当時禁止になる強さは、今の時代ではぶっ壊れカードと安易に言われるレベルに達することが想像に難くない。
 ただし、その例に当てはまらないカードも当然あるわけで、
「例を挙げてみるけど、たとえば《パシフィック・チャンピオン》というカードがあるわね。プレミアムじゃない方の殿堂だけど、仮にこれが四枚フルに使えるようになったと仮定するわ。このクリーチャーは、進化クリーチャー以外には、攻撃もブロックもされない、2コストのマーフォーク進化クリーチャーなの」
「マーフォークって、聞いたことのない種族ですね」
「数ある種族の中でも、マイナーな部類だからな」
 柚が言い、浬が答えた。
 デュエマ自体は小学生の頃から見ていたが、実際にプレイヤーとなったのはつい最近の彼女にとって、古い種族のクリーチャーは、馴染みがないのだろう。
「確かにマーフォークはマイナーだけど、当時はこれが強かったのよ。1コストの進化元がいたし、他の進化クリーチャーもあまり強くなかった。トリガーみたいな除去、反撃カードの質も悪かったしね」
 進化クリーチャーの強さはさておき、トリガーの質は、今の方がずっといい。
 沙弓の使うカードを引き合いに出すと、今や《デーモン・ハンド》などほとんど使われず、範囲が狭まったがリアニメイトも可能な《地獄門デス・ゲート》、マナ武装で遥かに高いスペックを叩き出す《魔狼月下城の咆哮》などがよく使われる。
 暁が使う《スーパー炎獄スクラッパー》に関しては、もはや《地獄スクラッパー》の完全上位互換だ。
 そんなカードすらも、昔は貴重な除去トリガーだった。そんな時代ならば、《パシフィック・チャンピオン》もさぞ生き生きしていたことだろう。
「だけどこれが、進化クリーチャーが幅を利かせるようになった環境に放り込むと、どうかしら」
「進化クリーチャーに殴り返されて終わりだな。ついでに、時代が進めばトリガーや、その他の除去カードのスペックも高くなる。シングルブレイカーでちまちま殴ってるうちに、あっさりやられることも少なくないだろう。ガン積みしたところで、パンチが弱い。マーフォークも、種族としてはもうほとんど廃れているから、種族デッキにしても弱い」
 浬からの酷評の嵐が飛ぶ。
 結局、多くの制限されたカードは、その時の流行的な強さに基づいているのだ。
 時代が変われば流行は廃れる。
 現代の流行の前では、過去の廃れた流行は、価値を見出すことができない。
「他にも《雷鳴の守護者ミスト・リエス》《炎槍と水剣の裁》みたいな、今使っても昔ほど活躍しないだろうカードはたくさんある。だから、かつて使えなかったカードが使えるようになったとしても、劇的な変化が起こるとは限らないわ」
「むー……?」
 分かるような、分からないような、などと唸りながら首を傾げる暁。沙弓に言葉に、彼女の理解が追いついていない。
 それを見て沙弓は、さっくりとまとめた。
「つまり、使えるようになるかどうかよりも、それを使ってどうするかが大事ってことよ。ものの使い方はきちんと考えましょうね、暁」
「あ、うん。分かったよ」
「本当に分かってるのか、こいつは……?」
 浬が疑念に満ち満ちた疑惑的な視線を暁に向ける。
 その時だ。

 ガタンッ

 と、大きな物音がした。
 部室の棚が揺れる。倒れるかと思ったが、幸いにもそれは倒れなかった。
 そして、その棚のすぐ傍で、ほとんど倒れるようにしてへたり込む男の姿があった。
「リュン!」
「……やぁ」
 その男、リュンは、力なく片手を上げて応える。
 久し振りに彼を見た。
 実に、一週間ぶりの再会だ。