二次創作小説(紙ほか)
- 122話「離散」 ( No.372 )
- 日時: 2016/04/25 01:02
- 名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: uB4no500)
「——うぅ」
「暁! 起きたか!」
「うんぅ……コルル……?」
こちらを覗き込む顔が飛び込んでくる。コルルだ。
いつもの彼がそこにいることに安心しつつ、暁は体を起こす。
「う、うーん……ここは……?」
「よく分かんないけど、火文明の領地みたいだ」
「あぁ、うん……」
「大丈夫か、暁? ボーっとしてるぞ? ずと気絶してたし、どこか打ったのか?」
「気絶……?」
そうか、自分は気絶していたのか。
「なんか最近、気絶すること多いな、私……って、そんなことよりも!」
ハッと思い出す。そして、辺りを見回した。
そこには、誰もいない。岩肌が剥き出しの地形だけが広がっている。
「みんなは!? 柚、恋! 部長、浬!」
「……暁が気絶してる間に少し見て回ったけど、誰もいなかったぞ」
「そ、そんな……」
仲間がいない。
いつもはいるはずも皆が、いない。
「なんで……どうして、みんないないの……?」
「転送中に、トラブルがあったんだと思う。ほら、めちゃくちゃ揺れただろ?」
「揺れたなんてもんじゃないよ。っていうかコルル、あの時いたの? いやそもそも、なんで今いるの?」
「なんでって、リュンがこっちに暁たちを送ってくるのと同時に、オレたちはデッキに入るようになってるんだ」
「あ、そうなんだ……いつも気付いたらいるから、どうなってるのかと思ったよ」
一つ謎が解けた。
しかし、解きたい謎ではなく、むしろどうでもいい謎が解けてしまったので、まったく嬉しくない。いや、仲間が一人でも増えたということに関しては喜ばしいことなのだが。
「よく分かんないけど、あの時の揺れ? が原因なのかな?」
「たぶんあれ、外から攻撃を受けたんだ。転送の仕組みはオレには分からないけど、あの時の衝撃は、そんな感じだった」
「攻撃を……それでみんな、バラバラになっちゃったの?」
「たぶんな」
あくまで予想でしかない。真実は分からない。
他の要素も合わせてより詳細に考えることもできそうだったが、暁にそれができるだけの頭はなかった。
それになによりも、今ここにいない仲間たちのことが気にかかる。
「みんな、大丈夫かな……」
沙弓と浬、そして一騎は心配いらないが、柚が特に心配だ。恋も放っておくと危なっかしいところがあるので、気にかかる。
もっとも、皆から一番心配されているのは、暁本人なのだろうが。
「……暁!」
「え、なにコルル? 急に大声なんて出して」
「なにか来るぞ! 遠くから、なんかやかましい音が聞こえないか!?」
「音? んー……」
コルルに言われて耳を澄ます。
すると確かに、ずっと遠くの方からなにか聞こえてくる。
空気を震わせるような、振動音。地を空を伝って、それは暁の耳に届く。
「なんだろ、この音。車? いや、違う、もっと激しい……バイク?」
バイク。
そのワードで、暁はハッとした。
脳裏によぎる赤い機体。
轟くような爆音を響かせ、音速を超える速さで駆け抜ける、侵略者の姿を想起する。
嫌な予感がした。しかしもう、逃げることはできない。
音が停止する。
音源は少し小高い崖の上だ。
眩しい太陽を背に、燃えるような赤いバイクと、ライダースーツの人物が、立っていた。
「——軽いツーリング気分で流してただけなんだが、まさか、また会うことになるとはな」
バイクを止め、フルフェイスのヘルメットを付けたまま、崖を滑り降りる。
「久し振り、というほどでもねーな」
くぐもった声が届く。しかしその姿から、とめどない威圧感が迸っていた。
「【フィストブロウ】の残党を狩るついでにしては、デカいボーナスだ」
「残党……? なに、どういうこと?」
「てめーにゃ関係ねーよ。他人の心配する前に、てめーの心配でもしてろ」
ザッ、と。
こちらに一歩、歩み寄ってくる。
「前に言ったこと、覚えてるか?」
「忘れた……けど、私をスカウトするとかなんとか……」
「覚えてんじゃねーか。その通りだ」
また一歩、近づきながら、言葉が放たれた。
「【鳳】として、音速隊のヘッドとして、お前の力には興味がある。語り手とやらもそうだが、お前自身のその眼は悪くない。前よりも、よりギラギラしてやがる。本質的な力を求めてるみてーにな。力や欲望の権化を目の当たりにでもしたか?」
「関係、ないよ……」
「ふんっ。まあ、お前が今までなにを経験してきたかなんて興味ねーがな。力は奪い取る、そのための力だ。そのための——侵略だ」
その瞬間だ。
じわりじわりと暁に突き刺さっていた威圧感が、一気に解き放たれる。
「う、ぐ……!」
なにもされていないはずなのに、体に痛みが走ったように、熱い。
思わず後ろに下がってしまう。本能が恐怖を刺激する。
暁がたじろいでいる間にも、向こうは少しずつ距離を詰めてくる。敵対心をまざまざと見せつけ、戦い、奪い取ることを表明するように、威圧感を放っている。
そっとデッキケースに触れる。しかし、安堵は訪れない。
(恋を3ターンで倒した相手……私に、勝てるのかな……)
超高速、超火力に特化した能力、侵略。
あの恋の防御網すらをも振り切って、3ターンで決着をつけてしまった力だ。
速さでも勝てない。防御力は恋と比べるべくもない。
それでも、戦わなければならないのか。
「おい、ボケッとしてんじゃねーぞ!」
「暁!」
「っ……!」
一歩一歩詰めてきた距離が、一気に縮まる。
その瞬間だ。
スピードに支配された神話空間が、開かれた。
「さぁ、侵略開始だ——!」
「《凶戦士ブレイズ・クロー》を召喚!」
始まってしまったデュエル。
ハンディキャップと称して暁は先攻を取ったが、1ターン目にできることなどない。相手は《ブレイズ・クロー》を早くも呼び出し、3ターンキルのための一歩を踏み出した。
「私のターン……マナチャージして、ターン終了だよ」
2ターン目。このターンも暁は、マナチャージだけで終える。
「ドロー——二週目! 《一撃奪取 トップギア》を召喚!」
「う、まずいよ……」
《ブレイズ・クロー》に続き、2ターン目の《トップギア》が呼び出され、順調に3ターンキルのルートを辿っている。
迫り来る脅威はもう目の前まで迫っているというのに、暁はまだ、なにもできていない。
「《ブレイズ・クロー》でシールドブレイクだ!」
「トリガーは……なしだよ」
「ターン終了だ」
シールドが一枚、削り取られた。
たった一枚、されど一枚。
この一枚のシールドの重みは、いつものシールド以上に重い。手札補充感覚で喰らう一撃とはまるで違う。
「マナチャージして、《コッコ・ルピア》を召喚するよ。ターン終了」
暁は3マナ溜まると、《コッコ・ルピア》を呼び出す。
手札には《ボルシャック・NEX》がいるので、次のターンには二体の《コッコ・ルピア》と《ボルシャック・NEX》で、質の高い攻撃と大量展開が見込める。
もっともそれは、次のターンがあればの話だが。
「ドロー——三週目!」
来たる3ターン目。
侵略者たちが、暴走する時が来た。
「さぁ、ファイナルラップだ——点火!」
マナにカードが置かれる。それは、走るためのガソリンだ。
《トップギア》が力を行使する。それは、駆動のためのオイルだ。
火の力を吸収し、轟速の彼方より、赤き侵略者がやって来る。
「ハンドルを握れ! クラッチを回せ! エンジンに火を点けろ! 《轟速 ザ・レッド》、発進!」
赤い機体に跨った、轟速の侵略者が、戦場へと現れた。
彼らにとっては、走るためのサーキットという、戦場に。
「しっかり味わってけよ。最高速度、最大出力! 伝説に名を連ねる赤き轟速の侵略者! これが、【鳳】の頂点に君臨する侵略だ——加速!」
《ザ・レッド》は爆走する。限界を超えてもなお、加速をやめない。
スピードの先にある伝説を求め、走り続ける。
「メーターを振り切れ! 限界を超えろ! 赤き領域よ、轟け! そして——侵略せよ!」
ギュンッ、と。
一段と《ザ・レッド》が加速する。音を張り裂き、風を切り裂き、危険域をも超えて、駆け抜ける。
そして彼は、到達した。
赤い轟速の伝説へと。
「突入——《轟く侵略 レッドゾーン》!」